「もとよりこの日が来るのは覚悟の上。まずは朱欄に行くのだな」
「兄上、行っていただけるのですね」
菊之介が身を乗り出すと
「当然だろう。新城や涼原のことはともかく、わたしも母を助けたい。
一目なりともお会いしたいのは同じ気持ちだ。
しかし桐紗殿の病状のこともあり、おまえ達がいつ言い出すか、待っていたのだ」
兵衛は手を出した。その手に大悟、菊之介の手が重ねられた。
「我ら兄弟の旅立ちぞ」
兵衛が力強く言った。
三人の若者は、それぞれに別れを告げ、いよいよ出発の朝、粛清の町から南燕山に向かう山道で落ち合った。
兵衛は洸綱より涼原家伝来の太刀が譲られ、大悟は芹乃の親方が作った鋼の弓矢を、菊之介は桔梗の太刀を携えていた。
山道を少し入ったところで、ひとりの女が待っていたように現れた。
桐紗だった。
「菊之介、私もこの旅、連れて行ってください」
兵衛と大悟は顔を見合わせた。
「義姉上、何度も申し上げたではありませぬか。
この旅は、義姉上の父君を討つための旅。
そんな旅に、連れて行けるわけがないではありませぬか」
「もう、父とは思わぬと、丈之介様の家でも言うたではありませぬか。それに、あなた方には私の力が必要です」
菊之介も兄達も不思議そうにしていたが、桐紗は横を向くと、山道脇の岩めがけて手をかざした。
そして、なにやら小さくつぶやくと、その手から火の玉が飛び出し、岩を燃え上がらせた。
「これでおわかりいただけたでしょうか」
菊之介も大悟も、かつての妖怪たちとの闘いを思い出していた。
黒龍を燃え上がらせた火の玉、白龍を凍らせた吹雪、そして龍車に落ちた落雷、すべては桐紗の妖術だったのだ。
「私は三つ口定継の娘、妖怪を操る男の娘です。ですから、このような力があっても不思議ではありません。
しかし、私は父とは違います。力と恐怖で人を人を押さえる父のやり方は納得がいきません。
父をいさめるのも娘の役目かと存じます。
いえ、娘なればこそ、ほかの者には任せておけないのです」
兵衛は桐紗に近づいた。
「桐紗殿、あなたを信用するに足るものが、何かおありですか」
続く
ありがとうございましたm(__)m
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弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ