「というわけで、それから通ってきているのさ。もう半年になるかねぇ。
まぁ、源佐といえばわしらにとっても、神様みたいな人だったからな。
その孫ともなれば、女とはいえ親方も育ててみたくなったわけだ」
「それで、ものになりそうなんですか」
兵衛は芹乃の仕事ぶりを覗き込むように見ていた。
「まだ海のものとも山のものとも。ただやめるなら、もうとっくにやめているだろうから、根性はありそうですがね」
兵衛はじっと芹乃を見続けた。
不思議といつまで見ていても飽きなかった。
日が暮れて一日の仕事が終わり、芹乃は挨拶して外に出た。
今日も一日汗をかいた。体を拭きたい。早く家に帰りたいと芹乃は思っていた。
その時目の前の暗がりで、ゆらりと影が揺れた。芹乃は驚いて足を止めた。
「驚かせてすまない。
今日太刀の打ち直しを頼んだのだが、ずっと仕事ぶりを見せてもらっていた。
女の刀鍛冶というのが珍しくて、つい話してみたくなって」
影はひとりの男になった。
「まるで女を口説く、安い誘い文句のようだな」
芹乃が吐き捨てるように言った。
「そうだな。芹乃殿の言うとおりだ。何をしているのだろう、わたしは」
男は恥じるようにうつむいた。
「名前まで聞いたのか」
「いや、刀鍛冶になったいきさつも」
「人のことを勝手に。
・・・まぁ良いわ。こちらのことだけ知られるのでは割に合わん。
そっちも名を名乗ったらどうだ」
男はきまり悪そうに首を上げると
「わたしは兵衛と申します。町外れに父と・・・妹と三人で住んでいます」
兵衛は葵のことを妹と言った。
なぜか、芹乃に妻がいるとは言いたくなかった。
「妹は十六で、わたしとは一つ違いで」
「妹御は十六か。私と同い年だ」
芹乃が言うと、兵衛は葵を妹と言ったことに後ろめたさを感じた。
まさか同い年とは考えてもいなかった。
だが、その後ろめたさは葵に対してなのか、芹乃に対してなのか、今の兵衛にはわからなかった。
続く
ありがとうございましたm(__)m
※鍛冶の里といえば、「鬼滅の刃」ですね。この作品は2001年に書かれていることと、戦闘をメインに書いてないので、ここでの戦闘が華々しく長く書かれていないのは、今ドキではないですねぇ※
※相関図、写真が下手で、曲がってて、すみません。2001年作成。
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そして、またどこかの時代で