1464:[ガン治療]ビタミンDが腸内細菌を変えてガンを抑える！免疫系との驚きの関係が明らかに

■ [ガン治療]ビタミンDが腸内細菌を変えてガンを抑える！免疫系との驚きの関係が明らかに

●マウス実験で判明、仕組みの解明とヒトでの確認に期待

体内でガンが増えるのを抑えたいとき、私たちの免疫系は最大の味方になってくれますが、そのためには少しばかり後押しが必要な場合があります。今年4月25日付で学術誌「Science」に発表された論文によりますと、腸の組織に含まれるビタミンDが、ある腸内細菌を増やし、それがリンパ球の一種であるT細胞を刺激してガン細胞を攻撃させている可能性があるといいます。

ガン治療の効き方に患者の腸内細菌叢（マイクロバイオーム）が関係しているらしいことは、2018年に発表された一連の研究で示されていました。T細胞のブレーキを外し、ガンへの攻撃力を高める「チェックポイント阻害薬」が効く人とそうでない人では、腸内でよく見られる細菌に一貫した違いがあることが明らかになったのです。

また2021年には、チェックポイント阻害薬の効果が見られた人の便から採取された細菌を、効果がなかった人の腸に移植したところ、治療効果に改善が見られたという2つの研究が発表されました。

そしてビタミンDにも、ガン予防での役割を示す証拠は以前からありましたが、今回のマウスを使った研究で明らかになった、腸内細菌を通じたビタミンDと免疫系のつながりは驚きです。ビタミンDは脂肪分の多い魚や卵の黄身などから取れるほか、太陽の光を浴びることで皮膚内で作られ、代謝や骨、筋肉、神経、免疫系の健康に重要な役割を果たします。

英フランシス・クリック研究所の免疫学者で論文の責任著者であるカエターノ・レイス・エ・ソウザ氏は、同じメカニズムが人間でも働くのかを知るにはさらに慎重な研究を重ねる必要がありますが、調べてみる価値はあると話します。

「ビタミンDは、数百もの遺伝子の活動に影響を与えているので、複雑なのです」。しかし、いくつかのデータセットを分析してみると、ビタミンD活性が高い患者は様々なタイプのガンの生存率が高く、免疫治療への反応も良いことがわかりました。

さらに、ビタミンDの生成を助ける太陽光が比較的少ないデンマークで、ビタミンD不足を指摘された人は、その後10年以内にガンを発症するリスクが高いことが、詳細な健康記録によって示されています。しかしレイス・エ・ソウザ氏は、実際のリスクはもっと高いだろうと考えています。

「ビタミンD不足を知らされてサプリメントを取り始めた人もいると思いますから」

この研究に関してポーランド科学アカデミーの生化学者カールステン・カールベルク氏は、日光や食事でビタミンDを得る重要性を再認識させるものだとしながらも、マウスでの研究結果から性急にヒトに関する結論を引き出すのは賢明ではないとも警告します。「マウスとヒトは7500万年間も別々に進化してきましたから」。カールベルク氏はビタミンDの役割について長年研究していますが、今回の研究には関わっていません。

●ガン細胞の増殖を抑える

レイス・エ・ソウザ氏は長年の間、免疫系のガン細胞への攻撃力に影響する遺伝子に興味を持ってきました。これらの遺伝子を特定するために、氏の研究室は、ガン細胞の増殖または抑制に関わっていると思われる遺伝子のスイッチをオフにしたマウスを使って研究を行っています。

論文の筆頭著者で現在は英キャンサーリサーチUKマンチェスター研究所に所属するエバンゲロス・ジャンパゾリアス氏が、「ビタミンD結合タンパク質」という、その名の通りビタミンDに結びつくタンパク質を作るよう指示する遺伝子のスイッチをオフにすると、マウスの皮膚がん細胞の増殖が抑えられることを発見しました。レイス・エ・ソウザ氏はそれに興味をひかれました。

しかし本当に驚いたのは、その次の実験でした。

研究室環境の何らかの異常が結果に影響を与えていないことを確認するため、研究チームは、遺伝子操作したマウスとそうでない普通のマウスを同じケージに入れて飼育しました。

すると驚いたことに、一緒にケージに入っていたマウスの腫瘍も同じように、成長のスピードが緩やかになりました。ガンへの抵抗力が強いマウスの近くにいるだけで、普通のマウスの腫瘍の増殖まで抑えられるのはどういうわけなのでしょうか。

●フンの中の細菌にヒントが

間もなく、ジャンパゾリアス氏とレイス・エ・ソウザ氏は、マウスがお互いのフンを食べているせいではないかと気づきました。遺伝子のスイッチをオフにしたマウスのフンに含まれる何かが、同じケージにいた普通のマウスの体内に取り込まれたに違いありません。

普通のマウスで見られた効果が、遺伝子操作されたマウスの腸内細菌叢と関係しているのかどうかを調べるため、今度は遺伝子操作されたマウスに抗生物質を与えてみました。すると、ガンへの抵抗力が失われ、ケージの仲間にその力が共有されることもなくなりました。これで、マウスのフンの中にある腸内細菌が何らかの形で腫瘍の成長を遅らせていたとはっきりしました。

ビタミンD結合タンパク質は、ビタミンDの多くを血液中に留めていると、レイス・エ・ソウザ氏は説明します。「そのため、腸の内壁を含め、体の様々な組織に届くビタミンDの量が減ります」

ビタミンD結合タンパク質を作るよう指示する遺伝子が無効にされると、腸の組織で使えるビタミンDの量が増え、その結果、腸内細菌叢で「バクテロイデス・フラジリス」という細菌が増えました。この細菌は人間の腸内にも常在しており、レイス・エ・ソウザ氏は、これが免疫系を刺激している可能性があると説明します。

この遺伝子のスイッチをオフにする、遺伝子操作されていないマウスの餌に含まれるビタミンDの量を増やす、マウスの腸のバクテロイデス・フラジリスを増やすといった操作は、すべて同じ効果をもたらしました。つまり、より多くのT細胞が腫瘍を攻撃し、腫瘍の成長が抑えられたのです。

ビタミンDの量が増えた結果、マウスは免疫治療にもより良い反応を示すようになりました。

「細菌がどのように働いているのかはわかりませんが、効果は目に見えて明らかです」と、レイス・エ・ソウザ氏は言います。

●サプリメントと日光浴の注意点

とはいえ、自分がビタミンD不足だとわかったとしても、サプリメントを飲み始める前にはまずかかりつけ医に相談することを、レイス・エ・ソウザ氏は勧めます。ビタミンDのサプリメントがガンのリスクやその他の健康面に与える影響についてはまだ完全に解明されていません。「自己免疫疾患のリスクなど、まだ知られていない悪影響があるかもしれません」

また、春になったからといってビタミンDを増やそうと、太陽の光に当たりすぎるのも良くないといいます。

「日光に当たる時間を増やすのはお勧めしません。皮膚がんのリスクが高まってしまっては元も子もありませんから。ビタミンDのためにわざわざ日光浴をする必要はなく、少し散歩するだけで十分だと思います」

※現在、末期癌と闘っておられる方にとっては緊急を要するので、サプリメントでビタミンＤを積極的に摂取する意味はあると思います。