[ガン治療]ガンはもはや種類ではなく遺伝子情報で治療する時代へ?「がんゲノム治療」とは

 

 

■[ガン治療]ガンはもはや種類ではなく遺伝子情報で治療する時代へ?「がんゲノム治療」とは

 

ガン治療において新たな潮流となっているのが、ガンの「種類」ではなく「遺伝子情報」に基づいて個別に治療を選択していく「がんゲノム治療」である。従来の治療法とは何が異なるのか、そしてどのような人がその治療法の対象になるか、知っておいて損はないはずです。ガン研究の最新書籍『「がん」はどうやって治すのか 科学に基づく「最良の治療」を知る(講談社ブルーバックス)』より一部抜粋し、ガン治療の最前線をリポートします。

 

 

●「ガンの遺伝子情報」に基づいた個別化医療

 

ガン遺伝子パネル検査(後述)が2018年に薬事承認され、翌年に保険適用となったことで、がんゲノム医療が本格的に動き出しました。がんゲノム医療は、個別化医療(または精密医療)の代表例です。

個別化医療とは、一人ひとりの遺伝情報や、体質、生活環境、ライフスタイルの違いを考慮して、病気の予防や治療を行うことを言います。ガン治療においては、従来の臓器別・組織別の「ガンの種類」に加え、「ガンの遺伝子情報」に基づいた個別化医療が新たな潮流となっています(図8-1)。

その背景には、ガンに対する理解が徐々に深まってきたことがあります。たとえば、同じ〝肺がん〞でも、ある薬が患者によっては非常に効いたり、まったく効かなかったり、強い副作用が現れたり、それほど現れなかったりということが起こりえます。

抗がん剤への感受性をはじめ、ガンという疾患の〝多様さ〞は長い間、治療の大きな壁となってきました。この問題に対し、ヒトの遺伝的な多様性や、ガンにおけるゲノム異常の起こり方の多様性が、ガンという疾患の多様さに結びついていることが明らかになってきました。

臓器や組織を超えて、遺伝子変異という横串でガンの姿が見えてきた一つの例に融合遺伝子の存在があります。たとえば、ALKという遺伝子。正常であれば、この遺伝子からつくられるALKタンパク質は神経システムの発達に関わる受容体として機能します。しかし、このALK遺伝子の一部が他の遺伝子と融合すると、異常な遺伝子となって腫瘍の形成に関わってしまうのです。

 

(図8-1)がんの治療戦略は、遺伝子診断の結果を加味する時代に

*2019年「第1回がんゲノム医療に関する基礎メディアセミナー」資料をもとに作成

 

さらに、どの「ガン」なのかによって、融合遺伝子のパートナー(融合相手となる遺伝子)の頻度が異なることが報告されています。たとえば肺がんであれば、融合パートナーとしてEML4の頻度が高く、また、肺がんに特異的と知られています。

具体的には、EML4遺伝子と融合したEML4-ALK融合遺伝子は肺がん(ALK陽性肺がん)、NPM遺伝子と融合したものは悪性リンパ腫、VCL遺伝子と融合したものは小児の腎臓がんで、それぞれ見つかっています。今までは別の種類のガンに見えていたものが、遺伝子の視点から眺めると共通性があったのです。

そのことから、ALK阻害薬はこれらのガンの共通の武器として浮かび上がってきました。他にも、神経細胞の分化や維持に関わるTRKタンパク質を作り出すNTRK遺伝子が、他の遺伝子と融合することが知られています。

大腸がん、肺がん、卵巣がん、神経や乳腺など、さまざまな固形がんでNTRK融合遺伝子が見つかっています。そこからTRK融合タンパク質が作られると、必要のないときにも細胞が増殖し、ガンが発生しやすくなると考えられています。そのためTRKの働きを抑える分子標的薬が有効です。

このように、臓器によらず、まれに起こる遺伝子の異常が関わるガンの場合などは、とくにがんゲノム医療が力を発揮すると考えられています。ガン遺伝子パネル検査でその原因となる遺伝子変異が特定できれば、より適した薬が見つかる可能性も高まります。しかし、現在のところ保険診療では、ガン遺伝子パネル検査は、誰でもいつでも受けられるというものではありません。次のような目的に応じて、従来のガン遺伝子検査と使い分けられています。

 

 

●「自分に合う薬があるか」を探す検査

 

現在、ガン治療で行われる遺伝子検査は遺ガン遺伝子検査ガン遺伝子パネル検査に大別されます。前者のガン遺伝子検査は、コンパニオン診断のことです。EGFR遺伝子やBRAF遺伝子などを対象に、一つから数個のガンに関連する遺伝子の変異を調べる検査です。分子標的薬とセットで使われることから〝コンパニオン(伴侶)〞と呼ばれるように、この検査の目的は分子標的薬の使用の可否判断にあります(図8-2)。

しかし、ガンによっては複数の遺伝子の変異が関わることもあります。たとえば、肺がんの原因としては、ALK融合遺伝子、EGFR遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF遺伝子など、複数の遺伝子の変異が知られています。

そして、すでに各々に対応した分子標的薬が登場しています。肺がんの治療方針を決めるうえでは、複数の遺伝子検査を行うことが推奨されますが、一つひとつ調べていくのには時間を要します。今後さらに研究が進むと、さらに多くの遺伝子変異を調べる必要性も出てくるかもしれません。

2019年に臨床に登場した「ガン遺伝子パネル検査」は一度の検査でガンに関する数十から数百もの遺伝子を同時に調べることができます(図8-2)。

非小細胞肺がんの患者を対象に、EGFR遺伝子変異、ALK遺伝子融合、ROS1遺伝子融合、BRAF遺伝子変異の有無を調べ、それぞれに対応する分子標的薬の可否を判断するマルチプレックスコンパニオン診断薬(製品名「オンコマイン Dx Target Test マルチ CDxシステム」)がありますが、これは、コンパニオン診断の効率化に重きを置いています。

(図8-2)「ガン遺伝子検査」と「ガン遺伝子パネル検査」の違い
*国立がん研究センター「がん情報サービス」をもとに作成

 

一方、同じガン遺伝子パネル検査システムでも、特定の薬剤の使用適否判断ではなく広く適切な治療選択のために用いる場合をがんゲノムプロファイリング検査と呼びます。実際には、コンパニオン診断とプロファイリングの両機能を兼ね備えたパネル製品もありますが、ここでは「ガン遺伝子パネル検査」というときには「がんゲノムプロファイリング検査」を指すものとして用いていきます。

では、どのような場合が「プロファイリング」になるのでしょうか。まず、コンパニオン診断では、調べる遺伝子に対応した既存薬があることが前提となります。

該当する変異が見つかれば、その薬の使用を検討できます。しかし、プロファイル(=情報の集約)を目的としたガン遺伝子パネル検査の場合、何らかの遺伝子の変異が見つかったとしても、それに対応した治療薬が確立しているとは限りません。

もし、開発段階の治験薬に、検査で見つかった遺伝子変異に対して効果が期待できるものがあれば、臨床試験等でその薬の使用を検討することが可能となります。つまり、コンパニオン診断は「特定の薬が自分に合うかどうか」を見極めるためのもので、ガン遺伝子パネル検査は「自分に合う薬があるかどうかを探す」ため、という区別です。

これまでの国内外のガン遺伝子パネル検査の研究データから、全体で治療と関連する遺伝子の変化が見つかる可能性は5割程度と言われていますが、実際にその結果に基づいた治療が実施された患者は全体の1〜2割です。ガン遺伝子パネル検査を受けても、必ずしも治療法が見つかるわけではない点に注意が必要です。

 

 

●ガン遺伝子パネル検査の特徴

 

では技術面では、従来のガン遺伝子検査とどのような違いがあるのでしょうか。一言で言うと、それは「どういった遺伝子の変化を検出するか(できるか)」という点にあります。

遺伝子の「変異」には、狭義の変化と、広義の変化があります。まず、狭義で「変異」と言ったときにも、その変化には5つのパターンがあります(図8-3上)。⑴ある塩基が別の塩基に入れ替わる置換、⑵ある部分の配列が繰り返される重複、⑶ある部分に余分な塩基が入る挿入、⑷ある部分の塩基が抜け落ちる欠失、⑸挿入と欠失の組み合わせです。こうした遺伝子の変化はバリアントと総称されています。

 

(図8-3)ガン遺伝子パネル検査で判別可能な5つのバリアント(上)と、遺伝子異常の例(下)
*図上:『CancerBoardSquareVol.5No.2』(医学書院/2019年7月)をもとに作成

 

これらに加え、さらに広義で遺伝子の変異を捉えたときには、遺伝子のコピー数変化遺伝子再構成が含まれます(図8-3下)。まず、コピー数変化ですが、一般にヒトの遺伝子は父母それぞれのゲノムに由来するものを1組ずつ、あわせて2組受け継ぎます。

つまり、遺伝子のコピー数は基本的に2コピーとなりますが、1コピー以下になる欠失、あるいは3コピー以上に増幅することをコピー数変化と言います。また、遺伝子再構成は、前述の遺伝子融合のように、遺伝子の構造上の変化が起こることです。

たとえば、EGFR遺伝子の特定の領域で起こる欠失変異にも、どの部分で、何個の塩基が失われるのかによって、多くのバリアントがあります。コンパニオン診断では、主に頻度の高いバリアントのみを検出します。

いくつのバリアントを検出するかは、コンパニオン診断薬のメーカーによっても異なりますが、ガン遺伝子検査として行われる検査では、確認しようとしていないバリアントが見出されることはありません。

一方、ガン遺伝子パネル検査の場合は、遺伝子の配列を取得して、そこからバリアントを見出していくので、上記5パターンすべてのバリアントが判定されます。そのなかには、現時点では実際に遺伝子の機能に変化をもたらすかがわからない「意義不明のバリアント」と呼ばれるものが含まれている可能性もあります。

 

(図8-4)ガン遺伝子パネル検査とがんゲノム医療の概念病的意義が不明なものも含めて、
解析対象となる遺伝子、ゲノム領域のすべてにおける遺伝子の変異や増幅などを検出する
*国立がん研究センター「がん情報サービス」をもとに作成

 

ガン遺伝子パネル検査の結果の解釈には専門的な知識を要します。そこで開かれるのがエキスパートパネルと呼ばれる会議です。エキスパートパネルには、各分野の専門家(主治医、腫瘍内科医、検体を見極める病理医、ゲノムの専門家である臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーなど)が参加し、最新の科学的エビデンスに基づいた医学的な解釈と、治療法の検討を行います。

保険診療としてガン遺伝子パネル検査を行う場合は、このエキスパートパネルにおける解析結果の意義づけが必須の要件となっています。

 

 

●がんゲノム医療の流れ

 

ガン遺伝子パネル検査は、①患者の同意取得(インフォームドコンセント)、②検査用の検体作製、③遺伝子解析、④エキスパートパネルによる解析結果の検討、という流れで進められます。その後、検査結果は主治医を通じて患者に説明されます(図8-5)。

 

(図8-5)ガン遺伝子パネル検査に基づく医療の流れ
* 国立がん研究センター中央病院
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/genome/080/index.htmlをもとに作成

 

②の検体については、過去の手術や検査でガン組織を採取していれば、それを使用できることもあります。③の解析は外部の検査機関へ委託されます。④のエキスパートパネルを経て、結果が届くまでの時間はおよそ4週間から6週間ほどが見込まれます。

ガン遺伝子パネル検査では、患者のゲノム配列のすべてを解析するのではなく、ガンに関係する数十〜数百の遺伝子をピックアップしています。その対象として選ばれた遺伝子のセットが「パネル」です。

すでに保険診療で用いられるガン遺伝子パネルは「OncoGuide™NCCオンコパネルシステム」(以下、NCCオンコパネル)と「FoundationOne®CDxがんゲノムプロファイル」(F1CDx)、「FoundationOne®LiquidCDxがんゲノムプロファイル」(F1L)といったものがあり、今後も追加される予定です。NCCオンコパネルとF1CDxはガン組織由来のゲノムDNAを、F1Lは血中循環腫瘍DNA(ctDNA)を用いる「DNAパネル」です。また、今後の臨床実装が予定されているガン遺伝子パネル検査には、融合遺伝子の検出に有利な「RNAパネル」を搭載したものもあります。

NCCオンコパネルは、国立がん研究センターが日本人のがんゲノム変異の特徴を踏まえた遺伝子パネル検査としてシスメックス社と共同開発したものです。対象となる124遺伝子は日本人のガンで多く変異が見られるもので、小児がんを含むさまざまな固形がんに起きている遺伝子の変異です。

F1CDx、F1Lは、中外製薬が販売を手掛けるもので、ガンに関連した324遺伝子の変異について調べることができます。3つのパネルは基本的に、目的の遺伝子が対象になっているかどうかで使い分けられています。ただ、対象となる遺伝子の数には倍以上の差がありますが、そこから治療選択につながり得るエビデンスの高い遺伝子に絞ると、実質的な差がないものとみられています。

3つのパネルの特徴(使い分け)については次節(書籍をご覧下さい)で紹介しますが、いずれも以下に示す条件を満たした場合のみ、保険診療としての実施が可能となります(保険診療ではなく、先進医療等の枠組みでガン遺伝子パネル検査を受ける場合については、最後の節で触れます)。

 

 

●保険診療で受ける場合

 

対象となる患者

保険診療の対象となるのは「標準治療がない、または、局所進行もしくは転移が認められ標準治療が終了(終了見込み)となった固形がんの患者」です。

どの段階で標準治療が終了(終了見込み)なのか、患者の全身状態が検査を受けられる状態かなどを担当医が見極めたうえで、ガン遺伝子パネル検査を受けられるかどうか判断されます。なお、標準治療実施前の場合や血液がんの場合、全身状態が思わしくない場合は検査を受けることができません。

 

 

 

■書籍:「がん」はどうやって治すのか 科学に基づく「最良の治療」を知る(講談社)

国立がん研究センター

 

 

2023年12月14日

1,320円

328ページ

ISBN:978-4065340394

 

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