胸が張り裂けそうになる知床遊覧船の沈没事故。

 

被害者26名と人数で知るだけより、

ひとりひとりがどんな方だったかを知ると、さらに苦しい。

 

ひとりひとりの人生を想像してしまう。

 

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3歳の女の子は、

「おふねにのる」ことを楽しみにしていたのだろうな、と。

 

1歳2歳のときには、コロナで遠出を控えていたのかもしれない。

そんなコロナの規制がなくなり、ご両親は大自然を見せたいと思ったのだろうな…と。

 

東京から飛行機に乗り、長時間車に乗り、

「もうすぐおふねにのれるよ」「くまさんにあえるかな」と、絵本を読んだり写真を見たりして、

わくわくしながらリュックに荷物を詰めていたんだろう…と。

 

船が傾いた時、どれほど怖かったことだろうか。

 

そのときにご両親は、

怖くて泣き叫ぶ女の子を抱きしめて、どんな思いでいたのだろうか。

自分の命に代えても守りたいと、守り抜こうとしたはず…。

 

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プロポーズをしようと思っていた男性。

 

きっとこの男性は、

彼女の誕生日にプロポーズをすると決めるまで、

どんなプロポーズをしよう、どこにしようかと、考えに考えていたんだろうと思う。

 

手紙を書き、ペンダントを買い、

彼女の笑顔が見たくて、ワクワクしながら。

 

きれいな景色を見ながら、笑顔の彼女を抱きしめて、将来を語り合うつもりで。

 

沈没するときも、きっと最後まで彼女を守り抜こうとしたはず…。

 

本当なら、笑顔で船を降りて、

一生忘れられないプロポーズの日になったはずなのに。

未来の夢や希望に満ち満ちていたはずなのに。

 

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福島の28歳男性。

地元の宝といわれていた人。

 

東京の大学で学び、イギリスへ留学し、

結婚が決まり、家業を継ぐ準備を進めていた矢先の北海道出張。

たまたま時間ができたからと乗った遊覧船。

 

船に乗ることを家族へは話していたのだろうか。

「きれいな景色を撮ってくるね、帰ったら見せるね」と言いながら。

 

船から見た景色をお土産話にするはずが…。

 

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両親と弟さんへプレゼントした北海道旅行での事故。

 

きっと「こんなプランを喜ぶかな、いやこっちの景色も見せてあげたい」と。

ご両親と弟さんが喜ぶ顔を想像して、旅行の計画を立てたんだろうな。

 

プレゼントされたご両親も、

「あの子も大きくなったね」「こんなプレゼントしてくれるなんて」

わくわく楽しみにして、長い休暇を取って出かけたことだろう…。

 

ご両親と弟さんを同時に失うなんて。

喜んでもらいたいと企画した旅行で…。

 

 

26人のひとりひとりに大切な家族や仲間がいて、

未来があって、守りたい人がいた。

 

かけがえのない人生があった。

 

100%安全だと確信して乗った船。

 

どれほど怖かっただろう。

どれほど冷たかっただろう。

どれほど悔しかっただろう。


何度も、そんなことを思いながら

知っている人が乗船していたわけではないけれど、苦しくてたまらなくなる。

 

どうしても、26人の人生を想像してしまう。

 

 

命は長い長い時間をかけて育つのに、

一瞬で消えてしまうことがある

 

そう、改めて思う。

 

毎日のように、助産院で会うママたち。

 

おっぱいを上手に飲めたとか

お尻かぶれしたとか

あせもができたとか

一喜一憂して、


おすわりできた日

初めて立った日

ひとりで歩いた日

成長の瞬間を喜んで、


まるで気が遠くなるような、

一日も欠かすことのない愛の中で、

いのちは育まれていく。


この長い長い年月の愛が


たまたま申し込んだツアーで

たまたま4月23日を選んでしまったことで

たまたまその観光船に乗ってしまったことで

 

二度と話すことも

笑顔を見ることも

 

未来を楽しみにすることも

「あぶない」と教えることも

案じることさえも

できなくなってしまう

 

タイムマシンがあったら戻してほしい。

「その船に乗ったらだめだ」と、教えたい。

 

ご家族は、そう悔やんでいることだろう。

時間を戻したいと。
 

命は、気が遠くなるほどの時間をかけて育つのに、消えてしまうときは「一瞬」なんだ。

 

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そして、4月23日は、

私の大切な人の命が消えた命日。

 

30歳の命が、たったの3分で消えてしまった日。

 

一生忘れられない慟哭の日。

 

命は一瞬で消えてしまうと目の当たりにした日。

 

そんな4月23日の事故だからか、一層悲しい。

 

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いのちを丁寧に伝えたくて書いた本です。