先日お会いしたママさんは、
ご実家近くの助産院へ、毎日毎日通い、
助産師からこんなアドバイスを受けていたと話してくれました。
「母乳がたくさん出すぎるから、水分は少なめに」
「スイカとメロンと梨はダメよ、水分が多いから」
「卵は乳質を悪くするから食べないように」
「青い魚は脂が多いから食べたらダメ」
「お肉も乳質を悪くするからダメ」
「(土用の丑の日に)ウナギは脂が多いからダメ」
「ヨーグルト・牛乳など乳製品は一切ダメ」…
(すべて、ママのお話をメモした内容です)
ダメダメ尽くしで窮屈そう。
「何を食べていたんですか?」と尋ねると
「毎日、白身魚を煮ていました」とのこと。
このママさんは、
けなげに食事の制約を守り、
退院してから二週間、毎日毎日せっせと助産院へ通い、
一生懸命に母乳育児を頑張って、
そして…
生後2週間たったころに…
乳腺炎で、切開…( ノД`)
それも、
ご家族から「毎日通っていてもよくならないなら、乳腺外科へ行ったら?」と提案されて受診したところ、切開に…。
聞いているほうが苦しくなります。
「乳腺炎にならないように和食を中心に、脂っぽい食事や甘い物を避ける」という指導が広がった背景として、1980年代に発売された「桶谷式乳房管理法」の書籍や、1990年ごろに始まった「日本母乳の会」の考え方の影響があるように思います。
このころに出版された書籍の中には、「乳質※」という表現が使われて、食事の具体的なアドバイスが書かれています。
※1 「桶谷そとみの母乳育児の本」1987年 主婦の友社
「乳質」が悪いおっぱいだと赤ちゃんがぐずりやすかったり、脂漏性湿疹がひどくなります。「乳質」をよくするためには和食を中心とし「米7.野菜3、魚を少し」が理想的です。
※2「新 母乳育児なんでもQ&A」2002年 婦人生活社
あなたの食べ物にも注意してください。おっぱいには牛乳がいいとばかり、毎日数本飲んでいた方がいましたが、よくつまります。牛乳をやめてみたらあまりつまらないとのこと。乳脂肪など動物性脂肪は乳腺のつまりを起こしやすくします。 魚、植物性脂肪を中心にした食生活を心がけてください。
このころの社会背景として、自宅出産から病院出産が増えて、大家族から核家族へと社会が変わったこともあり、母乳の食事について書かれた本は注目されました。そして次第に、母乳育児中の食事についての指導が広まったようです。
しかし書籍には、「○○は理想的です」「心がけてください」と書かれているものの、「○○はダメ」とは書かれていません。具体的に「○グラム食べたら」とか「つまる人は○%」とも書かれていません。
そして、母乳育児の栄養指導への疑問視も増え、2008年「ABM臨床指針第4号 乳腺炎 The Academy of Breastfeeding Medicine Protocol Committee」の中で、
特定の食事内容がヒトにおける乳腺炎のリスク因子となるエビデンスは存在しない
とされ、「乳腺炎になった場合、特定の食事との因果関係はない」という考え方が一般的となりつついます。
私は、「母乳育児中の食事内容が、乳腺炎の原因と全く関係ないとは言いきれない」と思うものの、「ダメダメ」「べきべき」の授乳指導は好きではありません。
「チョコレートを食べたら吹き出物が出る」人が全員ではなく、「かき氷を食べると下痢をする」人が全員ではないように、体感的な症状には個人差があるはず。画一的な「○○はダメ」指導には根拠があるとは思えないものもあります。
ただでさえ慣れない赤ちゃんとの生活。面倒くさいことやストレスとなることは減らしてほしい。
「食べたいものを常識的な範囲でたくさん食べる」「おいしいと感じながら食べる」ことを大切にして、幸せな母乳育児をしてほしいなと思っています。