第70話 王族と認められて
捕盗庁(ポドチョン)の前に押しかけた清国の兵士らが
ついに武力行使に出たとの報告が入る!
自ら勅書を書くと豪語していたチャン・ウォンウィ大使の表情が曇る
鎮圧の過程で宿衛官(スグィグァン)らがケガをし治療を受けているという
朝鮮側の兵士らは峰打ちで応戦したため 清国の兵士には被害が出ていない
それだけでも幸いなことであった
※捕盗庁(ポドチョン):治安維持を担当する警察のような機関
※宿衛官(スグィグァン):どの部署にも属さない王の特別護衛官
『先方はこのまま黙ってはいないでしょう』
『武力行使が行われた以上 最悪の事態も予想されます』
テウは 都に到着する前に事件を知った大使がわざと仕組んだことだという
話し合いの結果を待たずして武力行使に出たことも すべて計算ずくであると…!
これにはチョン・ヤギョンも同じ意見であった
しかし正祖(チョンジョ)王には どうしても解せないことがある
自国の兵士らの武力行使を知りチャン大使は驚きの表情を見せていたのだ
『彼らは何か隠している 罪人の釈放が目的にしてはやり方が無謀過ぎる』
正祖(チョンジョ)王はヤギョンに裏事情を調べるようにと命じた
そしてチャン大使の言う“致命的な事態”とは何を意味するのかと考えるのだった
その頃 宣嬪(ウィビン)は ヤン尚宮に清国の礼部司を連れてくるよう命じていたが
慕華館(モファグァン)は警備が厳しく まったく取り合ってもらえなかったという
どうしても宮外に出る許しをもらえず この方法しか無かったのに
もはや宣嬪(ウィビン)に出来ることは何も無かった
※慕華館(モファグァン):中国の使臣を応接する施設
するとそこへ イ尚宮が来て恵慶宮(ヘギョングン)が呼んでいると告げる
武力衝突があったと聞き宣嬪(ウィビン)の言葉を信じる気になったようだ
『そなたが解決の糸口を見つけられるのか』
『断言は出来ませんが 解決に向け最善を尽くします』
慕華館(モファグァン)では
大使であるチャン・ウォンウィは蚊帳の外であった
大使を補佐する筈の側近が伝令と何やら相談している
その伝令が向かった船着き場に パク・テスとチョン・ヤギョンが現れる…!
『清国の伝令なので江華(カンファ)に向かうでしょう』
『そうとも限りません』
同じ時 宣嬪(ウィビン)は慕華館(モファグァン)の前にいた
いかに宣嬪(ウィビン)であろうと 中に入れることは出来ないという礼部司
大使の補佐が 朝鮮人は中に入れないと冷たく言い捨てる!
『その無礼な態度も上からの指示なのか! 私を一般の民と同じく扱うとは
王室の者が丁重に頼んでいるのに取次さえしないとは…!』
まだ側室と認められていない宣嬪(ウィビン)ではあるが
今回は 恵慶宮(ヘギョングン)の許しを得て 王様を助けるよう命じられている
宣嬪(ウィビン)は朝鮮の王室を代表する意気込みで 威厳をもって振る舞った
するとそこへチャン大使が現れ 宣嬪(ウィビン)を丁重に中へ招き入れようとする
大使補佐が反対すると チャン大使はそれを厳しく制した!
『私が招いた! 宣嬪(ウィビン)様とは旧知の仲
久々にお会いして話をしたいだけだ 分かったか!』
とはいえ チャン大使は厳しく監視されているようだ
こうして向き合っても 手放しですべてを話せる状況ではないらしい
『私から伺うべきなのに失礼しました わざわざご足労をおかけしましたな』
『どうかお気になさらず…実は閣下にお聞きしたいことがあります』
宣嬪(ウィビン)は チャン大使の置かれている状況に気づいていない
『閣下は絵においても礼と掟を重んじられました 非礼を犯す方ではありません
今回の事態にはきっと理由があると思います
なぜ摩擦が起きたか教えていただけますか』
『ハハ…私の趣向まで覚えておられましたか
明国の画風が好きなので礼風を重んじるのです
宣嬪(ウィビン)様は今も絵を描いておられますか』
『そういう意味ではなく…』
『それ以外の話なら しない方が良さそうです
今日は積もる話を語るだけにしましょう 他の目的があるなら日を改めてください』
何も分からないまま 宣嬪(ウィビン)は慕華館(モファグァン)を出る
チャン大使の表情は優しい笑みに溢れていたが 結局は何も聞けなかった
宮殿に戻ろうとする宣嬪(ウィビン)に礼部司が声をかけ 非礼を詫びる
そしてチャン大使からという絵を渡すのであった
『後宮入りを祝う贈り物だとか 祝詩も書かれたそうです』
夜になり
ヤギョンが息せき切って宮殿に戻り 清国の不穏な動きを報告する
戦をすべく 清国が朝鮮に兵を送ろうとしているというのだ…!
穏やかではない話に 正祖(チョンジョ)王の表情も険しくなる
『そう思う根拠は何だ』
『清国では新しい皇帝が即位して以来 内乱が続いています
数万人が命を失い 鎮圧に莫大な金が投入されました
民心の動揺を他国との戦争で紛らわせるつもりです…!』
ヤギョンがそう推測するのは 清国の伝令が向かった先にある
そのまま清国に行くなら江華(カンファ)に向かう筈なのに
伝令が向かったのは広津(クァンシン)だと聞き正祖(チョンジョ)王はハッとする!
『広津(クァンシン)と繋がる海の先は清国軍が駐屯している大連だ!』
『その通りです!すべて彼らの計画だったのです
国庫が底を突き国内の不満が高まる今
民の目を外に向けるべく朝鮮を攻めようと…!』
緊迫した雰囲気に包まれる一同!
そこへナム・サチョが 至急 執務室へ戻られるようにと告げに来る
何事かと行ってみると そこで待っていたのは宣嬪(ウィビン)だった
正祖(チョンジョ)王は宣嬪(ウィビン)の行動を知らない
しかし今は 大使から預かったという絵を見ることが先決だった
絵に添えられた詩句 “風凋扇樹林 孤意一繁園”
『“冷たい風に森が揺れ 孤立した私の意は伝わらない”
杜甫の「秋興」ではないか』
『そうです 私に贈る祝詩だそうですが 祝いの言葉にはそぐわぬ内容です
何か別の意図があるのではないでしょうか
そう思い 急いでお持ちしたのです
僭越ながら 恐らくこれは大使様からの伝言ではないかと』
自分が知るチャン大使は非道をする方ではないと断言する宣嬪(ウィビン)
本当の思いを伝えられずにいるのかもしれない…と言うのである
『どうか大使様のお心を探ってください
そうすれば事態の解決策が見つかるかもしれません』
翌朝 正祖(チョンジョ)王は
慕華館(モファグァン)に兵士を送り包囲させた
朝鮮の行動は 清国の皇室に対する反逆だという大使補佐!
これでそなたたちの願い通りだろうと言うチャン大使
『どういう意味ですか?!』
『紛争の火種は出来た!あとは本国からの派兵を待つだけだ』
『閣下 このまま人質になってはいられません!策を講じてください!』
大使補佐は すべてを知られたと知り
あくまでも表舞台にチャン大使を立て 責任を取らせるつもりであった
チャン大使は 交渉に乗り出したチェ・ジェゴンに対し
使節団が宮殿に出向くと言うが ジェゴンはそれを受け入れない…!
『王様はこれ以上の慈悲は施せないと仰せです!
妥協案を断り 事を深刻にした使節団とは対話の余地が無いそうです!
ですが最後に伝えたいことがあるなら 皇帝に対する礼儀として
閣下のみ謁見を認めるそうです!お話があるならお1人でお越しください』
正祖(チョンジョ)王は宣嬪(ウィビン)の申し入れを受けチャン大使と2人きりで会う
やはりヤギョンの推測通り 清国の強硬派が朝鮮侵略を主張しているのだという
『それは根本的な解決にならないだけでなく
両国に更なる被害をもたらしかねない』
『私もそう思います 経済的な危機を侵略戦争で解決するのは正しくありません
ですが強硬派に立ち向かえるほど 私には力が無いのです』
『いや そんなことはない 朝鮮と力を合わせれば道は開ける
私の温めて来た施策を試してみないか 双方に得になる道だ
互いの志を貫くために 手を組もうではないか』
正祖(チョンジョ)王はヤギョンとパク・チェガらに命じ ある物を調達させた
内資寺(ネジャシ)と済用監(チェヨンガム)から供出させ
不足分は各地方の役所から徴収するという
使節団に提示する方案を準備し 戸曹(ホジョ)に試行を命じた
※戸曹(ホジョ):国家財政に関する部門を担当する官庁
『御前会議は?』
『既に重臣たちが集まっております』
『今度は彼らを説得する番だな』
同じ時 チャン大使は側近の説得にあたっていた
朝鮮王が人参の売買を自由化すると聞き 戸惑う側近
『これまでは密貿易の売り買いで 清の商人も皇室も損失を被って来た
分量も少なく 常に品不足だった
だが自由に取引が出来れば物量が増え値段も下がる
我々としては年に数万両の利益だ 朝鮮にとっても都合がいい』
御前会議でも正祖(チョンジョ)王は 自由貿易には3つの利点があると説明する
先ずは人参の栽培が奨励され農民の収入が増える
ということは 販売する商人の利益も増えるということだ
これにより 国は確実な税収入が得られ財政が潤うことになる
密貿易のみで売買されていた人参を貿易品目に加えることは
正祖(チョンジョ)王がずっと心に留めていたことなのだ
『現在の案にも詰めるべき点があるが それは後々補うことにしよう』
領議政(ヨンイジョン)チャン・テウをはじめ重臣たちは 清国の反応を気にする
しかし清国の侵略戦争も 財政を立て直したいという目的からであり
国益を上げられるのなら何も戦をする必要は無くなるのだ
※領議政(ヨンイジョン):議政府(ウイジョンブ)の最高官職
朝廷の意見は統一されたが 問題は清国の側近たちである
侵略戦争へと一直線に突き進んでいた側近たちは 迷っていた
『そなたたちが意志を曲げないのなら
皇帝陛下にすべての状況を報告するしかない よく考えるがいい
戦争と経済的な利益のどちらを皇帝がお望みか』
ヤギョンとチェガは 必死に人参をかき集めて船に積み込んでいた
清国側が納得し あとは望み通りの量の人参を積み込むだけである
『200斤足りない!』
『水原(スウォン)と広州(クァンジュ)から150斤が届く!』
『50斤は明日の朝 揚州(ヤンジュ)から到着します!』
人身売買の罪で捕えた清国の商人は 朝鮮で裁くことになったが
その処断については清国と相談の上で決めることとなった
『どうか善処をお願いする次第です』
『裁きは公正に行うつもりだ 私を信じて待ってくれ』
『もちろん信じております この度は王様の慧眼に深い感銘を受けました
王様がおられる限り朝鮮の未来は明るいでしょう』
天が誰かに力を与えるのは その者が弱者を助けることを願ってのことだと
強大国である清国の役割も同じだという正祖(チョンジョ)王であった
こうして清国の使節団は無事に出発した
恵慶宮(ヘギョングン)付きのイ尚宮は 宣嬪(ウィビン)様のお手柄だと進言し
両国の懸け橋になった功績は大きいという
今回だけは これを否定することは出来ない恵慶宮(ヘギョングン)であった
宣嬪(ウィビン)の功績を大いに褒め称えたのは王妃であった
交泰殿(キョテジョン)から帰る途中
宣嬪(ウィビン)は恵慶宮(ヘギョングン)の行列に遭遇する
しかし恵慶宮(ヘギョングン)からは特に何の言葉も無い
『ご苦労さま』のひと言があってもいいのに!と悔しがるヤン尚宮
宣嬪(ウィビン)は厳しく諫めるが 寂しい気持ちなのは事実であった
翌日の官報には
チョン・ヤギョンが抄啓文臣の試験に合格したと報じられた
しかも科挙に続き 今回も首席合格だという
※抄啓文臣制度:官吏への特別教育制度
『賞品の「国朝宝鑑」目当てに私も挑戦したが…』
『チョン検書官は賞品をもらいに行ったか?』
『今頃 弓引き場で罰を受けている筈だ』
訓練場では テスが呆れ顔でヤギョンの弓引きを見ている
何度射ても的にすら届かない矢が もう何本も地面に落ちていた
『こんなに下手な人は初めてです!何日も練習してこの出来ですか?!』
やるだけ無駄だと いくら言っても聞かないヤギョン
それでも王命なのだから途中でやめるわけにはいかないと…!
そもそも腕力を使わずに射ているので体力も使っていない
頭に来たテスは 桶に水を入れて持たせ腕力を鍛えることから始めさせるが
遠目に見れば 宿衛官が検書官をイジメているような光景にも見える
そこへ正祖(チョンジョ)王が現れ 楽しそうに近づいて行く
『どうかお助け下さい!武芸の修練以外なら何でもやりますので!』
『ダメだ 自分を収められない者に国が治められるか!弓を取れ』
『王様…!』
的にすら矢が届かない罰として
ヤギョンを流刑に処すると言い出す正祖(チョンジョ)王
その流刑先は 宮中の庭園の池にある小島だった
『あの島が流刑地だ あそこでたるみ切った精神を入れ替えろ!』
流刑に処されたヤギョンは嬉しそうに笑い テスたちも笑顔になる
そして正祖(チョンジョ)王は 流刑となるヤギョンに課題を出した
『数千人が一度に漢江(ハンガン)を渡る方法だ』
『なぜ数千人が一度に川を渡るのです?』
『それは方法が見つかったら教えよう』
ヤギョンは職務から解放され 王から与えられた課題だけを考えることとなる
続いて正祖(チョンジョ)王は 新たに科挙試験を行うと発表した
図画署(トファソ)では
別提パク・ヨンムンが 来たる武科では2千人が採用になり
いつにも増して規模の大きい科挙だと発表する
※図画署(トファソ):絵画制作を担う国の機関
この大規模な採用に関して ナム・サチョがパク・タルホに耳打ちしている
2千人が充員されたら軍営の改編が行われる
テスは新しい軍営で 高い職位に就く予定だと…!
公式発表までは決して口外出来ない内容ではあるが
テスの親代わりであるタルホにサチョが気を利かせたのだ
王権の基盤を固めようとする王の動きに 大妃(テビ)は敏感に反応する
即位して数年が経ち 威勢が強まる一方の王に対し
大妃(テビ)は 先王が遺したという遺言の内容さえ掴めていない
チェ・ソクチュが必ずや自分が明らかにして見せるという
一方 ミン・ジュシクは
自分が育てている私兵を今度の科挙で武科に合格させようと目論んでいた
2千人の充員の中に1人でも多く間者を送り込む好機なのだ…!
その頃 宣嬪(ウィビン)の居所には
御医(オイ)と医女が来て診脈していた
今度こそ懐妊かどうか 尺脈の有無を確認するためであった
※御医(オイ):王の主治医 侍医(シウィ)ともいう
そして 懐妊の事実が御医(オイ)から王妃に伝えられ
王妃の口から聞いた正祖(チョンジョ)王は
一目散に宣嬪(ウィビン)の居室へと向かう…!
『ソンヨン!私の生涯で最も嬉しい贈り物だ!ありがとう!』
『王様…』
その後 王と王妃から祝いの品が届きヤン尚宮が喜々として采配している
その様子を遠目に見ていた側室和嬪(ファビン)が宣嬪(ウィビン)を訪問する
このわざわざの訪問を 宣嬪(ウィビン)は丁重に出迎えた
『王室の慶事なのだ 祝いに来るのは当然であろう
恵慶宮(ヘギョングン)様は何と言われた?』
微笑みながら聞かれ 宣嬪(ウィビン)の表情が曇る
『待ちに待ったお世継ぎだ さぞお喜びになられたであろう?』
『…まだお会いしていません』
卑しい身分の宣嬪(ウィビン)を嫌い その腹から生まれる世継ぎを嫌い
恵慶宮(ヘギョングン)が入宮させたのが 側室和嬪(ファビン)なのだ
和嬪(ファビン)自身も そのことはよく承知していた
『それはどういうことだ?
懐妊の知らせが届いたのにお祝いの言葉も無いのか?』
何か言われるたびに宣嬪(ウィビン)は暗い表情になっていく
その頃 恵慶宮(ヘギョングン)は深く考え込んでいた
王室の権威を固める上で世継ぎの誕生は必須である
こんなに喜ぶべきことは無いというのに…まだ心を決められない
姑となる恵慶宮(ヘギョングン)が祝辞も送らない状況について
正祖(チョンジョ)王がサチョから報告を受け 憮然として会いに行く
『私を説得しに来たのですか
懐妊を理由に宣嬪(ウィビン)を側室として認めろと そう言いたいのですか』
『そんなつもりはありません 宣嬪(ウィビン)が宮殿に来てもう1年です
あの者の人となりも お分かりになったでしょう母上…』
そこへ宣嬪(ウィビン)が来たとの知らせがあり
いつもは突っぱねる恵慶軍(ヘギョングン)が 通せという
入室した宣嬪(ウィビン)は 王が同席していることに驚きの表情を見せた
『話があって呼んだのです 王様も一緒に聞いてください』
そう言うと 恵慶宮(ヘギョングン)は宣嬪(ウィビン)に宣旨を渡した
それは内命婦(ネミョンブ)から宣嬪(ウィビン)に下された宣旨であった…!
※内命婦(ネミョンブ):王妃を中心とした宮廷内の宮女組織
『宣嬪(ウィビン)に…
正三品昭容(ソヨン)の位階を与えます 王様もそのおつもりで』
『母上…』
恵慶宮(ヘギョングン)は淡々として宣嬪(ウィビン)に伝えていく
『正式な宣旨も下ったことだ そなたを王族として認める
今後は私のことを義母と思うがよい よいな』
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