まじかるクラウン 第63話 世継ぎの擁立 まじかるクラウン

 

ソン・ソンヨンは 正祖(チョンジョ)王の側室になり宣嬪(ウィビン)となった
これから側室としての教育を受けることとなる
教育に関しても 飲み込みが早いと評判になる程であった
これには王妃も大変喜び満足していた

『賢い子だから 宮中の掟もすぐ覚えることだろう』

宣嬪(ウィビン)の居室では3人の尚宮が婦人の位階について講義している
それぞれの位階について 言い淀むことなく答えていく宣嬪(ウィビン)

『正一品は貞敬夫人(チョンギョンブイン)
正二品は貞夫人(チョンブイン)
正三品は淑夫人(スッブイン)
従三品は淑人(スギン)
正四品は恭人(コンイン)
正五品は宣人(イイン) です』

『王族の親族である 宗親(チョンチン)の位階を』
『縣禄 興禄 昭徳 崇憲 中義 明善 彰善 宣徽
奉成は 大夫をつけて呼びます
その下は 通直郎 謹節郎 執順郎です』

見事な解答ぶりに 尚宮たちは顔を見合わせて感嘆する
しかし これで良しとするわけにはいかない 次の尚宮が質問していく

『大妃(テビ)様が3代に渡りご存命の場合は?』
『宮中に入られた順に 大王大妃(テワンテビ)様
王大妃(ワンテビ)様 大妃(テビ)様です』

宣嬪(ウィビン)の答えは すべてが完璧なのだが
思わぬところに 何度注意されてもなかなか守れないことがあった

『我々下の者には敬語を使われませんように!』
『…分かった 今後は注意しよう』

何といっても 先日まで図画署(トファソ)の茶母(タモ)だったのである
宮中の者であれば 女官さえ目上の存在だったのだ
知識は瞬く間に吸収していくことが出来ても これだけはなかなか直せない

※図画署(トファソ):絵画制作を担う国の機関
※茶母(タモ):各官庁に仕える下働き

そこへ 正祖(チョンジョ)王が訪れた
講義は中断され 2人は庭園を散策する

『今日も尚宮に 敬語を使ってしまったのか』
『はい王様 年上の尚宮を見下すような言い方は申し訳ない気がして…』
『焦らなくていい いずれ慣れるだろう
私もそなたに威厳をもって話さねば もう友達ではないからな
“もっと王らしく振舞おうぞ!” どうだ? ハハハ…』

婚姻して以来 正祖(チョンジョ)王にとっては夢のような日々が過ぎていく
幼い日 宮中を抜け出して2人で宮外を冒険してから
こうして宮中の庭園を散策する日が来ようとは 思ってもいなかった

正祖(チョンジョ)王は まだ母上に拒絶されているのかと気遣う
恵慶宮(ヘギョングン)は ようやく宣嬪(ウィビン)の夜の挨拶を受け入れたという
婚礼の儀式に出なかったことを思えば 大きな進歩であった

宣嬪(ウィビン)は どんなに追い返されようと毎朝の挨拶を続けていた
それは 宣嬪(ウィビン)付きのヤン尚宮が気の毒に思う程であった
恵慶宮(ヘギョングン)付きのイ尚宮が 気の毒そうに迎え今は外出中であると
もう10日も同じ理由で追い返している

『お戻りになるまで ここで待ってもよいか』
『それは困ります!いつになるか分からないのでお引き取り下さい』

小さく舌打ちをしたヤン尚宮に対し イ尚宮が激怒する
当然のことながら 恵慶宮(ヘギョングン)付きのイ尚宮は
提調尚宮であり 尚宮の位階の中でも別格なのだ
宣嬪(ウィビン)は思わず自分付きのヤン尚宮を庇って口を挟む

『この者も私もまだ宮中に慣れぬのだ どうか許しておくれ』
『そうはいきません!』
『何を騒いでいる!』

そこへ現れた恵慶宮(ヘギョングン)がギロリと睨み付け
宮中で騒ぎを起こすなと宣嬪(ウィビン)を叱りつける…!
そしてそのまま無視し部屋に入ろうとする
宣嬪(ウィビン)は思わず前に進み出た…!

『恵慶宮(ヘギョングン)様!ご挨拶しに参りました』
『結構だ!私はそなたを側室と認めた覚えはない
嫁などと思いたくもない 馴れ馴れしく私の名を呼ばぬように!』

正祖(チョンジョ)王を安心させるため 進歩が見られると報告したものの
恵慶宮(ヘギョングン)の激しい拒絶は酷くなる一方であった
ヤン尚宮は 中殿様に相談すべきでは?と進言する

『これしきのことで 中殿様にご心配はかけられない
噂が広まらぬよう気をつけておくれ お願いだヤン尚宮…!』

噂が正祖(チョンジョ)王の耳に入ることを恐れ
宣嬪(ウィビン)は固く口止めした

正祖(チョンジョ)王の執務室では
視察の準備が整ったと ホン・グギョンが報告に来ていた
玉体の安全を考え視察先に兵を配置したというグギョン

テスたちと自由気ままに歩きたい正祖(チョンジョ)王だったが
これだけは決して譲らないグギョンであった
しかしこれも忠誠心からと思えば それに従う正祖(チョンジョ)王である

『急ごう やるべきことが山ほどある』

正祖(チョンジョ)王の両脇に ナム・サチョとホン・グギョンが立ち
後方には ソ・ジャンボ カン・ソッキ パク・テスが続く
視察先は事前に決められ 見えない位置に兵が待機している

『雲従街(ウンジョンガ)だけでも 百以上の違法商店がある』
『千にのぼる地域もあります 専売商人による商権の独占は撤廃すべきかと』

その時!
正祖(チョンジョ)王の目の前で騒ぎが起こる
専売商人が 違法商店の店を破壊しているのだ
ゴロツキを雇い 違法商店を襲わせている…!

『テス! そなたたちに頼みたいことがある』

違法商店の代表が専売商人に対し 何とか見逃してくれと掛け合うが
到底 聞いてもらえる筈もない
今にも殴られようとする瞬間 テスたちが割って入る…!
剣など使わずとも ゴロツキを追い払うなど素手で十分だった
専売商人たちは とても敵わないと退散していく…!

『ただではおかないぞ!!!』

いきなり現れた凄腕の3人が たちまちのうちにゴロツキを追い払ってしまい
何が何やら分からない違法商店の代表が どこのどなたなのか?と問う
代表と何人かの違法商店の店主らが テスたちに案内されて行くと
そこには正祖(チョンジョ)王が…!

『お…王様!』
『久しぶりだな』

一斉にひれ伏す違法商人たち
今度こそ専売商人への特権を撤廃しそなたたちとの約束を守る!と切り出す
それは正祖(チョンジョ)王が 王世孫時代に交わした約束であった
今と同じ志で 専売商人の特権を撤廃しようと試みたがあっけなく失敗し
大きな志を掲げながら 約束を守れなかったことを詫びるのであった

自らの未熟さで叶えられなかった約束を
いつかきっと実現させると 正祖(チョンジョ)王は心に誓っていたのだ
月日が流れ 違法商人たちがすっかり忘れてしまっていても
正祖(チョンジョ)王の中には しっかりと息づいていた約束であった

翌日
約束通りの公布が成されたが 文字の読めない民が多く
字を読める者の口から伝えられ次第に噂が広まっていった
半信半疑の民に向かって役人が説明していく

『今後は 申請すれば誰でも店が開ける
よって専売商人に与えられていた 違法商店取り締まりの権限も消失する!』

貧しい民たちが喜ぶ一方で 専売商人たちの間には怒りの波紋が広がっていく
こんな決定には断じて従えないと 抗議が殺到した

『国の経済を支えてきたのは 我々専売商人だ!』
『そのとおりだ!直談判しようじゃないか!』

暴動にもなりかねない騒ぎに テスたちが出動する…!
しかしここでまた流血騒ぎにでもなれば 以前と同じ結果になってしまう
カン・ソッキは なるべく穏便にと皆に指示を出した

権限を奪われた旧専売商人らはすべての取引を中断し 市場は混乱する
反発は収まらない状況にあり 朝廷でも問題視されることは必至となった

パク・チェガらの調査によれば この2日間で物価が高騰しているという
正祖(チョンジョ)王は 宮殿の備蓄物資を放出せよと命じた
宮殿より配給された物資で 新たに商売を始める者たちが行列を作る
その様子を視察する正祖(チョンジョ)王

『配給価格は?』
『米は1俵で4両 麦と豆は2両 塩は6両 薪は1両5文です』
『京江(キョンガン)からの品物はいつ都に入る?』
『5日後と思われます』

正祖(チョンジョ)王を護衛するテスが 怪しい気配を感じ辺りを偵察する
幸いにも勘違いのようであったが グギョンは何が起きても不思議ではないと
大妃(テビ)から言われた言葉を思い出す

「専売商人はこの国の経済を握っている
つまりそれは全てが思いのままということだ
必要とあれば 王の首さえ挿げ替えようとする」

宮殿では
王妃が恵慶宮(ヘギョングン)の居所に呼ばれていた
新たな側室選びについて準備が進んでいるという言い渡しであった

『恵慶宮(ヘギョングン)様!』
『私の意向は伝えた筈 25日に決まりましたからそのつもりで!
今回の側室選びは私が指揮します あなたの意見を聞くつもりはありません!』

王妃は直ちに宣嬪(ウィビン)のもとへ向かう
宣嬪(ウィビン)は恵慶宮(ヘギョングン)の誕生祝に使う糸を染めていた
女官任せにせず心を込めて用意したいのだと…

今も挨拶を拒まれていると知り なぜ相談してくれぬのかと
そう言って責めながら 泣きついてくる筈も無いのだと
宣嬪(ウィビン)の性格を 十分過ぎる程に分かっている王妃であった

『どうかこのことは 王様にはご内密に
宮殿の内外が騒がしい今 ご心配をかけたくありません』

誠意を尽くせば いつかきっと分かってもらえるという宣嬪(ウィビン)に
新たな側室選びの話など 出来る筈もなかった
良家から入宮した側室であっても 宮中の暮らしは辛いものである
ましてや卑しい身分の宣嬪(ウィビン)であれば 尚更のことであった

王様にも内密にし王妃にも泣きつけない孤独な宣嬪(ウィビン)のため
王妃は何とかしてあげようと キム尚宮に命じていく

図画署(トファソ)では
翌日の恵慶宮(ヘギョングン)の誕生祝いの宴に向け準備に追われていた
絵が完成しない者は宴に出られないと 檄を飛ばすタク・チス…!

『宴に出られないとソンヨン… いや宣嬪(ウィビン)様に会えない!』
『遠くからでも姿を見たいわ!』

茶母(タモ)たちから 次々と不満の声が上がる
だったら急げ!と声を荒げるイ・チョン
そういう自分は終わったのかと 呆れ顔で笑うタク・チス
するとそこへ 別提パク・ヨンムンが
中宮殿の尚宮が来るので 茶母(タモ)は集まるようにと言う
チョビが やっぱり噂通りだと言い出す
妹が中宮殿の女官になり 相変わらず確かな情報を掴んでいるようだ

『中殿様がソンヨン… いえ宣嬪(ウィビン)様お付きの尚宮を捜してるって』
『図画署(トファソ)の茶母(タモ)からお付きの尚宮を選ぶと?!』
『本当か?!少なくとも従6品の地位になるぞ!』

この話に チョビが黙っているわけがない
さっそくキム尚宮に取り入ろうと画策する!
キム尚宮の通り道に偶然を装い現れて ひと目宣嬪(ウィビン)様を見たいと…

『あの方とは姉妹同然の間柄でして…』と取り入り
先輩のイジメからずっと守って来たのは自分なのだと強調する!
率先してイジメていたのはチョビなのに
いつの間にか姉妹同然の イジメから守った親友になったようだ

『宣嬪(ウィビン)様は茶母(タモ)時代 誰よりも私のことを頼りにしてました!』
『…名前は何だ?』
『ヤン・チョビです!!!』

一方 正祖(チョンジョ)王の政策は
旧専売商人の抵抗により どれだけ宮殿から物資を供給しても
経済は麻痺寸前の危機に陥っていた
内需司(ネスサ)の物資だけでは10日も持たず 民に被害が及びかねない
正祖(チョンジョ)王は次の段階の政策を示す宣旨(せんじ)をジェゴンに渡す
商売の自由化に同意し取引を再開すれば 国役と貢納を免除すると…!

※内需司(ネスサ):王室の財産を管理する役所
※宣旨(せんじ):王の命令を伝達する文書

『それでも取引再開を拒むなら
この帳簿を証拠とし 組合の長チョン・テヨンらを捕えよ
弱みを握られたと知れば動揺する筈だ
それでも反抗するとあれば最後の手を使うしかない』

いつになく強行姿勢の正祖(チョンジョ)王に
チェ・ジェゴンとグギョンは戸惑いを隠せない

『時機が来れば話すが なるべくなら使いたくない手だ』

そこへ 慌てふためいてナム・サチョが入って来る!
礼曹(イェジョ)から連絡があり 恵慶宮(ヘギョングン)の誕生祝の宴に
本人が参加しない意向を表明したというのだ…!

※礼曹(イェジョ):儀礼や祭事・外交などを担当する官庁

どういうことだと聞くまでもない
この母親の抵抗を説得出来るのは 正祖(チョンジョ)王しかいないようだ
しかしサチョは 王妃様が説得に当たっているから暫しお待ちを…と


側室になった宣嬪(ウィビン)を認めないということと
親孝行したいという王様の気持ちは 別のことだと説得する王妃
それを言われては 参加しないわけにはいかなかった
恵慶宮(ヘギョングン)は あくまでも王室の対面のために参加するという
宴の準備をする場に尚門パク・タルホが顔を見せる
イ・チョンは 宮殿にいながらなぜソンヨンに会っていないのかと責める

『宮殿は広いんですよ! 簡単に会えるものですか!』

 

すると遠くの方へ歩いて行くソンヨンの姿に 茶母(タモ)たちが気づく!
思わず『ソンヨン!』と名を叫ぶが 簡単に近づけるものではない

『遠くから見守るしかないとは…!』

宮殿で働くタルホさえ こうして見かけることは稀であった
姪も同然のソンヨンだが 本当に遠い存在になってしまった

宴の会場に向かう宣嬪(ウィビン)は
同じく向かう途中の恵慶宮(ヘギョングン)に出くわす…!

『中殿 なぜこの者がここにいるのです!
この者も宴に出るというのですか?! すぐに帰らせなさい!!!』

その騒ぎに 向こうから歩いてきた正祖(チョンジョ)王が気づく
この者が出るなら自分は部屋に戻る!と言い出す恵慶宮(ヘギョングン)

 

『母上!!!』

夜の挨拶だけは許されたと聞いていた
少しずつでも進歩していると安堵していた正祖(チョンジョ)王
しかし 事実は違うようだ
なぜ宣嬪(ウィビン)の参加を拒むのかと詰め寄るが
後宮のことに口出しすることは たとえ王でも許されないことであった

『王室の行事に出られるのは 私が認めた側室だけです!』
『母上!!!』

 

『王様…』
 

宣嬪(ウィビン)は正祖(チョンジョ)王に向かって必死に目配せし訴える
今にも宴が始まろうとする今 事を荒立てることは出来ないと…!

『失礼いたしました 宮中の掟に疎い私の落ち度です
部屋に戻りますのでどうかお許しを』

王の護衛として居合わせたパク・テスは
思わぬ形でソンヨンの厳しい環境を見せつけられ
正祖(チョンジョ)王以上に苦渋の表情になる

『お誕生日 おめでとうございます』

それだけを言い 宣嬪(ウィビン)は居所へと戻って行く
その打ちひしがれた後姿を ただ見送るしかない正祖(チョンジョ)王であった


身分の違いを押し切り ソンヨンを側室に迎え入れた正祖(チョンジョ)王
きっと守るからと約束し辛い決断をさせた
一緒に庭園を散策し 夢のようだと喜ぶばかりで
ソンヨンが置かれた過酷な環境に気づいてやれなかったのだ

華やかな宴の響きを遠くに聞きながら 心が折れそうになる宣嬪(ウィビン)
宴に参加する正祖(チョンジョ)王もまた 実に寂し気な表情である
後方で記録画作成の補助をする茶母(タモ)たちは
ソンヨンが出席していないことに気づく…!
テスは カン・ソッキに暫し持ち場を離れたいと願い出て
盛大な宴から締め出され たった1人で耐え忍ぶソンヨンのもとへ…!

『テス…』

もう ソンヨンと呼ぶことは出来ない
側室になったソンヨンに対し 深々と頭を下げ礼を尽くす

『本当に久しぶりだわ さっきはごめんね
せっかく会えたのに挨拶も出来なくて
元気だった? 叔父さんと叔母さんは?
図画署(トファソ)のみんなも元気にしてる?』

 

明るく話そうとして その目には涙が滲んでいる
テスは 出来ることなら駆け寄って力いっぱいソンヨンを抱き締めたかった

『宣嬪(ウィビン)様も… お元気でしたか?
心安らかに… お過ごしですか?』

 

テスもやはり ソンヨンとは呼んでくれない
そう思った瞬間 笑顔が消える宣嬪(ウィビン)

『宣嬪(ウィビン)様だなんて… そんなふうに呼ばないでよ』

無理なことであった
今や宿衛官(スグィグァン)のテスより はるかに身分が上の宣嬪(ウィビン)
側室を昔の名前で呼び捨てにすれば テスは大罪に問われてしまうのだ
ソンヨンを心配して駆けつけたのに
テスの 掟に則った態度は逆に悲しませることとなった

『そう… そうなのね もう私たちは…
以前のような間柄ではなくなってしまったのね
でもあなたとだけは…! 今まで通り友達でいたい
お願い…! せめてあなたとは心を許せる仲でいたいの!』

盛大な宴が終わった…

やはり 宣嬪(ウィビン)が宴への参加を許されなかったことは
宮殿中に噂となって広まった
タルホは ソンヨンがどんな辛い目に遭っているのかと塞ぎ込む
話を聞いた女将は やっぱり身分違いで苦労しているのだと憤慨する…!

そこへ帰宅したテスが タルホに時々ソンヨンに会ってほしいと頼む
王の護衛に当たるテスは ソンヨンの居所には簡単に近づけないのだ
しかし尚門という低い地位のタルホとて同じことである

宮殿では
執務室で 正祖(チョンジョ)王と王妃が向かい合う
宣嬪(ウィビン)を守り切れなかったと詫びる王妃に
すべては自分のせいだという正祖(チョンジョ)王であった

 

宣嬪(ウィビン)は 辛さを忘れるように夢中で絵を描いている
そこへ訪れた正祖(チョンジョ)王が まだ途中の絵を眺める

『長い間休んだせいでうまく描けません 画員だったのが嘘のようです』
『犠牲を強いてしまった 好きな絵を思う存分描かせてやれず
本当にすまない 今日のことは…』

もう何とも思っていないと 明るく笑って見せる宣嬪(ウィビン)
こうして ずっと傍にいられるようになったのに
それを思えば どんな困難も乗り越えられるというのだ

ソンヨンの様子を見て ひとまず安心し
正祖(チョンジョ)王は恵慶宮(ヘギョングン)の居所へ向かう
昼間のことを責める気なら 取り合わないという母親に
そのことではなく…と 側室選びについて切り出す
それも取り下げる気はないと恵慶宮(ヘギョングン)は突っ撥ねた

『いいえ母上 その件はどうぞご自由に どんな決定にも従います』

代わりにソンヨンを認めてほしいと 正祖(チョンジョ)王は談判しに来たのだ
他のことは何でも言う通りに従うから 宣嬪(ウィビン)を認めてほしいと…!

『王様がそうしたように 私も独断で側室を決めさせていただきます
あの者の話をするおつもりなら もう来ないでください!』

こうした恵慶宮(ヘギョングン)の動向は 大妃(テビ)にも報告されていた
早くも次の側室選びを命じたということに なかば呆れる大妃(テビ)
側室が身分の卑しい宣嬪(ウィビン)だけなら どうにでもなるものを…
チェ・ソクチュは この点を重く見ている

『側室として認められなければ 子供が出来ても世継ぎにはなれません』
『まだホン承旨から返事はないのか 完豊(ワンプン)君の件について』
『未だ迷っているようです』
『頭は切れるが決断力に欠ける男だ だがいずれ…
燃え上がる野心を抑えられなくなるだろう』

一方 旧専売商人たちは
今後の対策について 真夜中に会合を開いていた
一刻も早く何とかしなければ懐柔策のせいで団結力も失われていく…!

『王世孫の時に始末していれば こんな目に遭わずに済んだのだ!』
『愚かな両班(ヤンバン)に金を貢ぎ任せた結果がこの有様です!』
『取引を停止してひと月になるのに 朝廷は慌てた様子もありません!』

国を支えて来たという自負がある旧専売商人たちは
断じてこのままにはしないと闘志を燃やすのだった…!

それからしばらくして 市場に動きがあった
雲従街(ウンジョンガ)で殆どの旧専売商人が取引を再開したのだ
ジェゴンとグギョンは とても理解出来ない行動だという
暴動をも起こしかねない事態だったのに これはあまりにも不自然過ぎる

そこへナム・サチョが来て
市場の責任者キム・スンファが 謁見を求めているという
キム・スンファは わざわざ宮殿まで来て
正祖(チョンジョ)王に市場の巡察を願い出た

『皆を説得し商売を再開させましたが 根本的な解決にはなりません
王様直々に 改革についてのご説明をしていただき
現場の意見も聞いていただきたいのです』

民を苦しめる気はないと 誠意を見せるキム・スンファ
正祖(チョンジョ)王は この要望を快く引き受ける
しかしホン・グギョンは この巡察に猛反対する…!
狙撃事件があったばかりなのに 改革に反対する者たちの中に出向くなど
自ら命を捨てに行く行為と言えるのだ

誠意には誠意をもって答えねばという正祖(チョンジョ)王
彼らの望む日に 彼らの望む場所で話を聞くという

 

『そなたは口を挟まぬように!』
 

グギョンの意のままにするようであっても
正祖(チョンジョ)王は 時に頑固な一面を見せる
いかに信頼されているホン・グギョンであっても こうなるとどうにもならない
グギョンはテスたちに キム・スンファと側近らの動向を調べさせる
大事に至る前に 一刻も早い対策が必要だった
そしてジャンボだけを呼び止め 大妃(テビ)への伝言を頼む

『え?大妃(テビ)様にですか?』
『例の計画を進めてほしいと』
『…分かりました』

その上で グギョンは大妃(テビ)に会う
計画を進めるのに 一番の問題はチャン・テウだというグギョン

『周囲を扇動し 猛反対する筈です!』
『あの男の処理はそなたに任せる
行方不明になったミン・ジュシクは 最近までテウ殿と接触していたそうだ
あの男の屋敷くらい宿衛大将の権限で捜索出来るだろう』

チャン・テウは 大妃(テビ)側の策を知り憮然としていた

 

『明日の御前会議で 吏曹判書(イジョパンソ)の提言に同意しろとのことです』
『ホン・グギョンめ!国を手中に収めようというのか!!!』

※吏曹判書(イジョパンソ):任官や人事考課などを行う官庁の長官

するとそこへ夜分にもかかわらずホン・グギョンが兵を率いて現れた…!
何の罪状かを示すことなく チャン・テウに縄をかけさせるグギョン
捜索が終われば おのずと理由は明らかになると…!

『承旨様 ありました!』
『ミン・ジュシクの筆跡に 間違いありません!』

逃亡中のミン・ジュシクの書状が出たとあれば 大罪人を庇ったことになる
なぜそのようなものが屋敷にあるのか…! テウは有り得ない!と叫ぶ

『こんな卑劣な手を使っても…!そなたの思う通りにはならんぞ!!!』
『何をしている さっさと連行しろ!!!』

これで最も目障りなチャン・テウを排除出来た
ホン・グギョンは 自らの野望に向かって手段を選ばず突き進む…!
連行されるチャン・テウを 遠目から見送るミン・ジュシク
冷たく自分を見限った主君を 陥れた張本人である

『悔やんでも無駄ですぞ これこそ自業自得です…!
部下を見捨てた報いを お受けください』

 

一方 遠くに完豊(ワンプン)君を見かけた王妃は
茶菓を用意し交泰殿(キョテジョン)に呼ぶようにと命じる
亡き元嬪(ウォンビン)の養子となり 王子になって以来会うことはなかった

※交泰殿(キョテジョン):王妃の寝殿

『ホン承旨を意識するあまり 敬遠して来たが
王子になった以上 私が目をかけてやらねば』

幼くして宮殿で暮らすことになった完豊(ワンプン)君は実に利発であった
それに感心し 優しく微笑みかける王妃

『王様の跡を継ぐためには
広い心と威厳ある態度を兼ね備えるよう教わりました』

王妃の顔から笑顔が消える

『王様の跡を継ぐだと? 誰に言われたのだ』
『……』

完豊(ワンプン)君の表情も変化する
すぐに教えた者の名を口にしないのは
そういう教育もされているということか…!

そしていよいよ 御前会議が始まった

 

『王世子の座を空けておけないだと?』
『王様が即位され 数年経った今も王世子の座は空いたままです
王室と王権の安泰のため 一刻も早く王世子をお定めくださいませ!』

吏曹判書(イジョパンソ)チェ・ソクチュが進言するのを
ホン・グギョンは ただ黙して聞いている
完豊(ワンプン)君の伯父として ここは口を挟むべきではない
これに異を唱えるべき人物は 昨夜のうちに捕えられていた…!

『なぜ急に そんな話を持ち出すのだ まだ世継ぎもいないのに…』
『完豊(ワンプン)君様がおられます!
元嬪(ウォンビン)様の養子である完豊(ワンプン)君様です!』

 

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