第37話 失われゆく記憶
読書堂から出て来た王妃は 平然とした態度で
王様はお疲れのようだから出直してはどうか…と
『中殿様が口出しすることではありません』
『……今何と?』
『お立場をわきまえるべきではありませんか
二度と交泰殿(キョテジョン)から出ないでいただきたい
またこのようなことがあれば この私が許しません!』
※交泰殿(キョテジョン):王妃の寝殿
しかし…
王世孫が来たと告げる内官の声に 英祖(ヨンジョ)王は答えない
王妃に対するサンの無礼な物言いに激怒していたのである
そして 王妃から告げられたことについて深く考え込んでいた
『今は誰にも会わぬ 日を改めよ』
力無い声が聞こえ ほくそ笑む貞純(チョンスン)王后
何かがおかしい 王妃が威勢を取り戻している
東宮殿で待っていれば いつか声がかかるだろう
そう言い捨て去って行く王妃
左承旨キム・ギジュが赦免されたという父ホン・ボンハンの報告に
あまりにも信じ難いことだと憤る恵嬪(ヘビン)ホン氏
しかも この王命を知るものは無く 王世孫すら知らされていなかったと…!
王世孫の暗殺を企てた者が こうも簡単に赦免されることなど有り得ない!
※恵嬪(ヘビン):亡き王世子の妃
そこへ尚宮が報告に来る
幽閉されている筈の王妃が王に会ったというのだ
そればかりか 王妃に会った後 王世孫の謁見を拒んだと…!
東宮殿では
これは明らかに老論(ノロン)派が策を巡らせたのだというホン・グギョン
チェ・ジェゴンも納得がいかないと憤る…!
するとグギョンが 最初からそのおつもりだったのでは?と言い出す
聞き捨てならぬ!とサンが詰め寄る
『死を以て償うべき大罪人の2人を早々に復権させたのです ですから…』
『言葉を慎め!!!』
王様はこれまで一度も判断を誤ったことは無いと!
自分が謁見して伺えば 必ず納得のいく説明をしてくださると…
しかしその謁見すら拒まれているサンであった
中殿を絶対に許さない!と言った英祖(ヨンジョ)王の言葉が思い出される
あの言葉に嘘があったとは どうしても思えない
しかし 勝ち誇ったあの王妃の表情もまた自信に満ちていたのだ
読書堂では
英祖(ヨンジョ)王が寝所に行かず ひとり考え込んでいた
王妃の言葉を何度も何度も思い返してみる
「王様は認知症なのです」
「なぜそなたが知っている!」
それは幽閉中の身の自分を 王様が何度も訪ねて来たからだと
王妃は涙ながらに話し始めた しかも訪ねて来たことをすぐに忘れてしまうと…!
高貴な王様の醜態を誰に見せられましょうか…と 泣き崩れた王妃
やっと謎が解けた…と英祖(ヨンジョ)王は呟く
あろうことか左承旨を赦免してしまうとは…!
「左承旨の赦免はそなたが仕向けたのか?」
「何を仰るのです! 兄のことは後で知って驚きました
むしろ私は 撤回するようお願いしようとしていたのです」
しかし王命を撤回すれば病気が知られてしまうと
だから出来なかったのだと 王妃は号泣して弁解する
それが真実かどうかも今となっては分からない
どれもこれもまったく記憶に無い英祖(ヨンジョ)王であった
直ちに病気を告白し 王世孫と相談して策を講じるという英祖(ヨンジョ)王
王妃は 朝廷が混乱し民が動揺すると言い激しく反対する
まずは病気を治療することが先決だと叫び
そのためにも傍に仕えさせてほしいと懇願した
読書堂の椅子に座ったまま 英祖(ヨンジョ)王は悩み抜く
それは 既にどうすべきか分かっていながらの苦悩であった
一方パク・タルホは 突然訪ねて来た女将に動揺していた
ソンヨンの快復の為に牛肉を持参した女将
既に絶縁している2人だが 何かと気になり尋ね合う
最近店に来るゴロツキに気をつけろというタルホ
『何よ!ゴロツキだってタマなしよりはマシでしょ!!!』
『何だと?!言ってくれるじゃないか!こら待て!!!』
言い合う2人の前に 突然キム尚宮が現れる
孝懿(ヒョイ)王后からの下賜品 薬と食べ物を持って来たのだ
命令で来ることは来たが キム尚宮は納得していないようだ
思いのほかソンヨンは元気そうだったという キム尚宮の報告に
孝懿(ヒョイ)王后は安堵の笑みを浮かべる
いっそ帰って来なければ…というキム尚宮を 厳しく叱りつける
でももし王世孫様がソンヨンを傍においたら…
これでは王后様の心配事が増えるだけだというキム尚宮
しかし孝懿(ヒョイ)王后は違う考えだった
恵嬪(ヘビン)様に配慮し 王世孫様はソンヨンを遠ざける筈だと
『でもそれは私の望むところではない
ソンヨンには 王世孫様の傍にいてもらう』
突拍子も無い嬪宮(ピングン)の言葉にキム尚宮は仰天する
しかし 孝懿(ヒョイ)王后の決意は固いようだ
大殿(テジョン)では
英祖(ヨンジョ)王が御医(オイ)に診察させ 自らの病状について聞く
御医(オイ)は怯えながらも 問われるままに答える
はじめは 最近の記憶や些細な記憶から失われ
次第に重要なことまで忘れていくと…そしてやがては人の顔も分からなくなると
さらに病状が進めば 体を動かすことすら困難になるというのだ
残された時間でやるべき事があるという英祖(ヨンジョ)王
御医(オイ)に 少しでも進行を遅らせる方法を考えてくれと命じ
それから間もなくして 王世孫を呼ぶ
顔色が優れないサンを気遣う英祖(ヨンジョ)王
突然に 王妃や左承旨が復権したのだから無理も無い
しかしその理由を 今は話すことが出来ないと
話せる時が来るまで待てとしか言えないという王に
サンは 絶望の色を隠せない
せっかく呼ばれたのに… 王は何に悩み何を待てというのか…
続いて英祖(ヨンジョ)王は史官を呼びつけ
これからの1ヶ月間 自らの行動と言動をすべて書き出し報告せよと命じた
既に王妃の手先となっている内官は この王命を直ちに報告する
王妃は その史官を買収し味方につけよと命じた
※史官:王の言動・政治の動き・社会の出来事などを記録する官吏
キム・ギジュは ファワンとチョン承旨の状況について報告する
老論(ノロン)派の重臣たちが 続々とギジュに取り入ろうと近づき
正に2人は孤立状態であると…
ファワン翁主(オンジュ)は フギョムの報告を心待ちにしていた
孤立した2人にとって フギョムが調べた事だけが情報源であった
※翁主(オンジュ):側室から生まれた王女 正室から生まれた王女は公主
交泰殿(キョテジョン)に密かに呼ばれた町医者
その人物こそが キム・ギジュの赦免に関わっていると推測するフギョム
多くの重臣たちは 足繁くギジュの屋敷に出入りしているという
直ちに会合を開き重臣たちに言い聞かせねば!と息巻くファワン
招集命令に動揺したホン・イナンは 慌ててチェ・ソクチュのもとへ!
ファワンが自ら開いた会合には 既に王妃が君臨していた
揃った重臣たちは 息を飲み凍りついている…!
『そなたには失望するばかりだ
指示を待てと命じたのに 無視して会合を開くとは…!』
兵士がファワンを連行して行く!
それを守ろうとするチョン・フギョム!
外に引き摺り出され喚き散らすファワンの前に キム・ギジュが現れる
ギジュは フギョムの側近とファワン付きの尚宮を捕えていた…!
中では重臣たちが命乞いの土下座をしている
ファワン翁主(オンジュ)の命令に逆らえなかっただけだと…!
外の母親を助けることも出来ず フギョムはその場に凍りつく
納屋に監禁されたファワンの前に 王妃が現れる
まさかこの場では殺さぬ
王妃である者が 王様の娘を簡単には殺せない
しかしこれ以上逆らうなら… 命は無いと!
無念の涙を流し ひれ伏すしかないファワンであった
それから数日経った図画署(トファソ)に ソンヨンが復帰した
さっそく別提パク・ヨンムンが タク・チスとソンヨンを呼ぶ
王様が京畿(キョンギ)の地図を探しているというのだ
読書堂の王のもとへ 地図を届ける2人
すると英祖(ヨンジョ)王が ソンヨンに気づく
梅花図を描いてくれた茶母(タモ)だと憶えていたのである
※茶母(タモ):各官庁に仕える下働き
タク・チスが地図を差し出し 下がろうとする2人
すると英祖(ヨンジョ)王が ソンヨンに残れと言う
英祖(ヨンジョ)王は ソンヨンを相手に山や川や村の名前を挙げ
合っているかどうか確認させたいのだと
何とも不思議な作業だが ソンヨンは言われるままに確認して行く
その様子を 立ち会う史官が書き留めていくのだった
気の重い作業であったが ソンヨンのおかげで気が紛れた
英祖(ヨンジョ)王は 時折り笑顔を見せながら作業を進めていく
夜になり チェ・ジェゴンが王世孫に不可解な報告をする
1日3回の御医(オイ)の診察に 王が人払いをするというのだ
そんな筈は無いと 王の診察には複数の医官が立ち会う筈だと
サンは激怒し 御医(オイ)を呼べ!と怒鳴る
するとそこへソンヨンが通りかかった
図画署(トファソ)の服を着ているソンヨンに もう働いているのかと驚く
『病み上がりなのに無理をしてはならぬ』
『こうしてお使いが出来る程に元気です』
『もう二度と心配はさせないと約束してくれ!』
『王世孫様…』
英祖(ヨンジョ)王は 御医(オイ)の勧めにより
毎日の鍼治療と暗記の練習を欠かさなかった
ソンヨンを相手に行った作業も 暗記の練習だったのだ
一方ホン・グギョンは テスたちに王妃の動きを探らせ報告を受けていた
密かに町医者を呼んだことは ここでも明らかになっていた
朝鮮最高の医者がいる宮殿に町医者を呼ぶとは 何ともおかしい話だ
また王命により 王の一挙一動を史官が記録し報告しているという
確かにそれが史官の仕事ではあるが 起床から就寝まで政務以外の王の行動を
何ひとつ漏らさず記録しているとは…あまりに度が過ぎている
グギョンはこれを受け 恐るべき推測をしなければならなかった
しかしまさか…という思いで決して口には出来ない
常に王に寄り添う史官は その記憶の食い違いに気づいていた
しかし既に王妃に丸め込まれている史官は
すべてが正しいと 王に対し虚偽の報告をする
その夜 英祖(ヨンジョ)王は夢を見る
謀反の疑いを持って 思悼(サド)王世子が居住する東宮殿を捜索した
決して謀反など企ててはいないと否定した我が息子
その時立ち会ったキム・ギジュが 証拠の品を差し出したのだ
平壌(ピョンヤン)からの書状を見せられ
英祖(ヨンジョ)王は我が息子の謀反を確信したのであった
思悼(サド)王世子は涙ながらに抗議した
口では信じていると言いながら 常に自分を疑っていたのだと…
それなければこんな仕打ちが出来る筈が無いと…!
「私の自白など必要無いのではありませんか?
謀反の証拠も証言も揃っているのに… 他に何が必要だと?!」
『こ奴め!!!』
最後の叫びは夢ではなかった
英祖(ヨンジョ)王は自分の声に驚き飛び起きる…!
同じ時 夜の闇の中を逃げるホン・グギョン
ゴロツキに襲われ追い詰められていた…!
その背後から現れたのはキム・ギジュだった!
知恵には長けても腕に覚えは無い
グギョンは容易く打ちのめされてしまう
お前のことは殺しても気が済まないと息巻くギジュ!
『ああ殺すがいい! 今殺さねば後で後悔することになる!』
激高したキム・ギジュは 生来の粗暴さをあらわにしグギョンを叩きのめす!
翌朝 出仕しないグギョンを心配しテスが家に向かう
大怪我を負っているグギョンは 歩くことさえままならない…!
『あの野郎!!! ただじゃおかない!』
『やめておけ 下手に動けば二の舞になるぞ 例の件は?』
痛みに耐えながらテスの報告を聞くグギョン
やはりキム・ギジュの執事が 史官と接触していたという
命令に従い調査しながら さっぱり分からないテス
王様の行動も不可解なことだらけだと…
『ソンヨンが言うには… 地図を見て地名を言い当てているとか
あんな極悪人を赦免しといて王世孫様を困らせたくせに
自分は呑気に地図を見て… ボケたわけでもあるまいに!』
腑に落ちた
グギョンは王世孫の言葉を思い出す
診察の時に人払いをし 病気をひた隠しにしていると…
これまでに得た情報を繋ぎ合わせれば もはや確信するしか無かった
宮殿では
王世孫イ・サンが政務報告を受けている
するとそこへ 英祖(ヨンジョ)王が現れ
なぜ無断で政務広告を受けている!と怒鳴った…!
チェ・ソクチュが… チョン・フギョムが…
すべての重臣たちが唖然として王を見つめる
驚き戸惑いながら 王世孫イ・サンが聞く
『恐れながら… 王命により政務報告を受けています』
『黙れ!言い訳をするのか! しかも実に呆れたことを話し合っている!
よくも私に黙って重臣を集めたな!!!』
政務報告の議題は 亡き思悼(サド)王世子の墓 永祐園の補修についてであった
しかし英祖(ヨンジョ)王は 罪人の墓を補修するとは!と更に激怒する
王世孫の側近も 老論(ノロン)派の重臣たちも戸惑うばかりである
取りつく島の無い王の怒りに 誰も口を挟めなかった
『どうかお怒りを鎮めてください王様!
“父上の”墓が長らく放置されていたので…』
この王世孫の言葉で 更に激高する英祖(ヨンジョ)王!
思悼(サド)王世子の死により その兄孝章(ヒョジャン)王世子の養子になったサン
その上で王世孫に冊封されたという経緯がある
『なぜ思悼(サド)王世子のことを“父”と呼ぶのだ! 罪人の息子は罪人となる!
思悼(サド)王世子を父と呼ぶなら そなたに王になる資格など無い!!!』
誰も予測し得なかった王の怒りである
そしてサンは 思いがけない問いの答えを迫られる…!
『さあ答えて見よ!そなたの父は誰だ? 一体誰の息子なのだ!!!』
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