善徳女王 第16話 啓示 

天明(チョンミョン)の執務室からの帰り
徳曼(トンマン)は宮殿内の騒ぎを聞き 発作的に物陰に隠れた
何だろう…と思っていると何かにぶつかる 見上げると…
そこにいたのは柒宿(チルスク)だった…!

あの日 砂漠の街で柒宿(チルスク)に追い詰められ 剣を突き付けられた
その時の恐怖が 一瞬にして徳曼(トンマン)を吞み込んでしまう
ブルブル震えながらも 憎悪を燃え上がらせ腰の剣を抜く
今にも柒宿(チルスク)に襲いかかろうとしたその時!

神殿の侍女たちが駆け付け柒宿(チルスク)を発見した
徳曼(トンマン)に挨拶し 侍女たちから逃れるように立ち去る柒宿(チルスク)
何かが変だ
確かに柒宿(チルスク)なのに まったく殺気が感じられない
しかも よたよたとぶつかりながら歩いて行くその姿…

『目が… 見えないのか?!』

柒宿(チルスク)より先に見つかったのは 昭火(ソファ)だった
上天官(サンチョングァン)誓理(ソリ)が 厳しくたしなめる

※上天官(サンチョングァン):祭儀を司る総責任者

ほどなくして 柒宿(チルスク)の前に誓理(ソリ)が現れる
ホッと安堵の溜息をつく柒宿(チルスク)
姿が見えなくなった昭火(ソファ)を心配して
柒宿(チルスク)は ほとんど視力の無い目で外へ出たのだった

誓理(ソリ)と共に神殿に入って行く柒宿(チルスク)をはっきりと確認する
なぜ柒宿(チルスク)が神殿にいるのか…
するとそこへ神殿の護衛兵と巫女が…!

『誰だ!』

見つかってしまった徳曼(トンマン)は 郎徒(ナンド)だと答える
騒ぎを聞きつけて気になって駆け付けたのだと

※郎徒(ナンド):花郎(ファラン)である主に仕える構成員

宿所に戻ることも出来ず ひとり考え込む徳曼(トンマン)
(柒宿(チルスク)は生きていた 戻って来て私の本を美室(ミシル)に渡したんだ
柒宿(チルスク)を差し向けたのは やはり美室(ミシル)だったのだ!
でも… 何のために?)

母である昭火(ソファ)を忘れることは無かったが
柒宿(チルスク)のことは 頭の中の片隅に閉じ込めていた日々だった
またあの恐怖に怯える日が来るなんて… そう思うとポロポロ涙がこぼれた


翌朝
徳曼(トンマン)は 天明(チョンミョン)の執務室を訪ね神妙な面持ちで一礼する
今この時だけは 友として話したいと
そして あの柒宿(チルスク)が戻って来ていると伝えた

『そんな筈はない! 柒宿(チルスク)は任務遂行中に失踪したの
花祠堂(ファサダン)に位牌もあるわ』

※花祠堂(ファサダン):大功を立てた花郎(ファラン)の位牌を納める所

昔 柒宿(チルスク)は 赤子と侍女を捜していると言っていた
その理由を調べれば 自分が何者かが分かる筈だと

徳曼(トンマン)は  昭火(ソファ)の肖像が描かれたタイルとソヨプ刀を見せる
自分を守ろうとして命を落とした母親…
なぜ自分たちが美室(ミシル)に狙われたのか…
なぜ柒宿(チルスク)に殺せと命じたのか! 美室(ミシル)の口から聞くのだと!

徳曼(トンマン)の話に 思わず涙ぐむ天明(チョンミョン)

王女と神官しか入れない筈の神殿に なぜ男である柒宿(チルスク)が?
神殿内に秘密の場所があるとしたら…
それを探れるのは天明(チョンミョン)しかいないのだ

天明(チョンミョン)は ふと ソヨプ刀に目を止める
母の肖像を見せるつもりで ソヨプ刀のことは意識していなかった
この時は まさかこのソヨプ刀に 2人を結びつける意味があることなど
知る筈も無い天明(チョンミョン)と徳曼(トンマン)だった

便殿では…
真平(チンピョン)王 美室(ミシル)
そして大臣たちの前で 誓理(ソリ)が上奏している
五行の動きが不穏で水星が昂を侵したと
神国に災いが降りかからぬよう慰天祭(いてんさい)を行う必要があると

※神国:新羅(シルラ)の別称
※慰天祭(いてんさい):天を慰める祭儀

城下では 慰天祭を行うという噂でもちきりになった
慰天祭の度に奇妙なことが起きると…
摩耶(マヤ)王妃と万明(マンミョン)夫人
天明(チョンミョン)王女も驚きを隠せない
昔のことに詳しい万明(マンミョン)夫人は…

『真興(チヌン)大帝の時代には毎年行われていた祭儀です
でも璽主(セジュ)の時代になると 璽主(セジュ)が望む年だけ
おそらく… 何かの啓示だと言い要求するものがある筈です』

※璽主(セジュ):王様の印鑑(玉璽)を管理する立場の役職

怯える摩耶(マヤ)王妃
慰天祭の記憶は どれもぞっとするものばかりだった

美室(ミシル)の執務室でも
夏宗(ハジョン)が 薛原(ソルォン)と宝宗(ポジョン)に詰め寄っている
母親が今度は何をしようとしているのか 知りたくてたまらないのだ


『一体母上は 今度は何を手に入れるおつもりで?』
『口をお慎みください!祭儀がまやかしだとでも?!』

龍春(ヨンチュン)公も警戒の意識を強くし
乙祭(ウルチェ)大臣 金舒玄(キム・ソヒョン)と相談する

『そなたのお父上が土地を没収され 世宗(セジョン)が上代等(サンデドゥン)に
いずれも祭儀による美室(ミシル)の啓示によるものだった
啓示に背けば災いが起こると言われたら応じるしかない』

※上代等(サンデドゥン):現在の国務総理

宮中のことに疎い舒玄(ソヒョン)に 過去の経緯を教える2人
祭儀による啓示 日照りや洪水 火災など 全てが当たっている
だからこそ 不当な要求とも取れる啓示も拒めない

『そんな… では本当に天の啓示を受けていると?』
『それは分かりませんが…確かなことは
美室(ミシル)が天と通じていると 民が信じてしまうことなのです』

美生(ミセン)と誓理(ソリ)は ウォルチョン大師のもとを訪れていた
大明暦を三国の地形に合わせて計算し 修正してくれる大事な存在だ

※大明暦:宋(南朝)の大明6年に作られた暦本

大師が退席すると 美生(ミセン)が誓理(ソリ)に

新しく考えた仕掛けの説明を始める
仏像が浮かび上がる仕掛けに目を見張る誓理(ソリ)
美室(ミシル)は報告を受け 直ちに決裁していく
大師の計算に従い 4日後に慰天祭を行うと…!

そこへ 美室(ミシル)を訪ね徳曼(トンマン)が現れる
美室(ミシル)は 執務室ではなく別室へ招き入れた
そこは 美室(ミシル)の趣味の部屋のようだった
描きかけの絵の中には虎がいた
さらに見渡そうとしたその時 美室(ミシル)が入って来た
元々は徳曼(トンマン)の愛読書とも知らず 本を放り投げた
命じられるまま 朗読する徳曼(トンマン)

 

“ある日 街に出た王に 1人の老婆が進みより苦境を訴えるが
王は 時間が無いと言って冷たくあしらった
民の声を聞く暇がなかった王は やがて暴君となり国も滅びた”

この話に聞き入った美室(ミシル)は
自分についての評判はどうかと尋ねた
徳曼(トンマン)は ためらわず恐れられていると答える
花祠堂(ファサダン)に祭られているサダハム公や柒宿(チルスク)公の忠義
璽主(セジュ)には 人に尽くさせる何かがあるのだと…

徳曼(トンマン)の口から 思いがけない2人の名前が飛び出し
驚きの表情になる美室(ミシル)
特に 柒宿(チルスク)への密命について
あれは 天を恐れて命じたことだったと語り始める

北斗の七つ星が八つになった日…
一瞬だけ険しい表情になる徳曼(トンマン)だったが
あくまでも無知を装い 無邪気なまでに不躾な質問を放つ

千年昔も今も そして千年後も 苦しい民の暮らしは変わらないのだと
民とはそういうものなのだと話す美室(ミシル)

『でも! 王が聞く耳を持てば民の暮らしは変わります!』
『それは違う ひとたび耳を傾ければ 民の要求は切りが無くなるのだ
どんなに善政を尽くそうと 民の要求を満たすことは出来ぬ
そして無知な民は この美室(ミシル)をたちまち悪人だと罵るのだ!』

『悪人と思われるのは… 不本意ですか?』

この不躾な質問に 思わず笑い出す美室(ミシル)
不本意も何も その噂を広めたのはこの美室(ミシル)本人なのだと…!

慰天祭を前に 天明(チョンミョン)王女が
作法を身につけたいので 共に祭儀を司りたいと申し出る
これを断る理由も無く 承諾する美室(ミシル)
挑むような表情で 祭郎(チェラン)を選定したいと切り出す王女
しかし 王女の次の言葉を待たず美室(ミシル)が言い放つ
祭郎(チェラン)には 宝宗(ポジョン)郎と庾信(ユシン)郎を推薦すると!

※祭郎(チェラン):祭儀を手伝う花郎(ファラン)

不敵な笑みを浮かべる美室(ミシル)に
返す言葉も無い天明(チョンミョン)だった

やがて2人が退席すると
花郎(ファラン)たちは 庾信(ユシン)への敵意を剥き出しにする
まさか徐羅伐(ソラボル)に来て間もない庾信(ユシン)が…!
羨望と嫉妬 恨み節のような言葉を吐き捨て立ち去って行く中
閼川(アルチョン)だけが残り 言葉をかける

※花郎(ファラン):美しく文武両道に秀でた青年の精鋭集団
※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)
 

皆が祭郎(チェラン)になりたがるが そんなに甘いものではないと話す
そこへ宝宗(ポジョン)が現れ 美室(ミシル)が呼んでいると

執務室を訪ねると
美室(ミシル)が祭儀について話し 庾信(ユシン)は淡々と答えた

『伽耶の人々は今も弾圧を受けていますが 当然のことです
徐羅伐(ソラボル)にとって 優秀過ぎる彼らは脅威でしかない』

※伽耶(カヤ):6世紀半ばに滅亡 朝鮮半島南部にあった国

『庾信(ユシン)郎も備えるべきでは?』
『…愚かな私には お言葉の意味が分かりません』
『この美室(ミシル)の“脅威”になるなと言っているのです!』

言い換えれば “美室(ミシル)の味方になれ”と誘っているのだ
どんな庾信(ユシン)の表情も見逃さないとばかりに じっと見つめている

『璽主(セジュ)が私を得る方法はただ1つ
私を殺し その遺体を持ち帰るしかありません』

ギラギラした眼差しで 庾信(ユシン)を睨みつけ
満足そうに 不敵な笑みを浮かべる美室(ミシル)

『聞けば これまでも私の父を懐柔しようとし
王女様をずっと脅してこられたとか』

『無礼な!!!』

『愚かな私は他に言い方を知りません
ひたすら義理を尽くすしか能の無い人間です
他に話が無ければこれで失礼します!』

言葉を荒げながらも 感服したような表情の美室(ミシル)
去り際に振り返り 捨て台詞のように言い放つ庾信(ユシン)

『今後二度と 王女様と父を脅さないでいただきたい
この庾信(ユシン)の敵になるなということです!』

退席する庾信(ユシン)と入れ違いに 宝宗(ポジョン)が入って来る
我が事のように激怒する宝宗(ポジョン)だが
美室(ミシル)は 意外にも微笑んでいる

『大したものだ この私を少しも恐れなかった
金庾信(キム・ユシン)に徳曼(トンマン)…
どうやら天明(チョンミョン)には 天授の徳があるようだ』

金庾信(キム・ユシン)は徳曼(トンマン)に
祭郎(チェラン)に選ばれたことで 神殿に入れることになったと話す

きっと神殿内には 美室(ミシル)だけが知り得る秘密がある筈
必ず突き止めてほしいと詰め寄る徳曼(トンマン)

『王女様が与えて下さった機会を無駄にはしない
お前も 必ずサダハムの梅の手掛かりを掴むのだ!』

慰天祭は7日間 日の出から日没まで行われる
日没になると 慰天祭の期間中であっても
美室(ミシル)は徳曼(トンマン)を呼びつけた
柒宿(チルスク)が持ち帰った異国の書物を読ませるために…

徳曼(トンマン)に朗読させながら
描きかけの虎の絵を仕上げていく美室(ミシル)
一方 神殿から戻った庾信(ユシン)は王女のもとへ…

神殿内の秘密は そうたやすく見つかるものではない
祭儀が終わる7日後までは 神殿の隅から隅まで
それこそ 上天官(サンチョングァン)の指先の動きに至るまで
必ず探ってみせると誓う庾信(ユシン)だった

そこへ 侍女がお茶を持って入って来る
庾信(ユシン)はふと 香の煙りの流れに視線を移す
そして 何か閃いた様子で退室するのだった

祭郎(チェラン)として神殿にいる間
徹底的にロウソクの炎の揺らぎと 香の煙りの流れを追う

そしてついに 香の煙りが吸い込まれていく先を突き止める…!

一方 徳曼(トンマン)は
美室(ミシル)の執務室で 異国の書物を読む日が続いていた

書物の中の“天の意志により…”という一文に
まるでデタラメだと吐き捨てるように言う美室(ミシル)

『そんな… 璽主(セジュ)が雨乞いをすれば雨が降り
預言をすれば見事に的中すると聞きました それなのに嘘だと?』

『よいか? 他言しないと誓うなら教えてやろう
この世に“天の意志”など存在しない
もしも明日何かが起きるとしたら…
それは天の意志ではなく この美室(ミシル)の意志なのだ!』
 

息がかかるほど近くで 美室(ミシル)の囁きを聞いた徳曼(トンマン)
美室(ミシル)は満足げな表情で その考え込む様子を楽しんでいるかのようだ
最終日 いよいよ美室(ミシル)から“天の意志”が告げられる

東市(トンシ)にある籮井(ナジョン)に天の意志があると…!

※東市(トンシ):徐羅伐(ソラボル)の東にある市場
※籮井(ナジョン):新羅始祖王の誕生説話が伝わる井戸

天意を受け 東市(トンシ)は大騒ぎになる
日没の時 籮井(ナジョン)の前には人だかりが…!
そこへ 大勢の巫女や侍女を従え 美室(ミシル)と王女が現れる
後ろには祭郎(チェラン)である宝宗(ポジョン)と庾信(ユシン)
美室(ミシル)の横には誓理(ソリ)が並び補佐している

その時!
突然に爆発音が鳴り響き 煙りが立ち込め視界を遮る
動転して恐れおののく民たちが地面にひれ伏した
地割れと共に 煙りの中から巨大な仏像が姿を現すと悲鳴が上がった
仏像の胸に刻まれた文字を 高らかに読み上げる美室(ミシル)

“人 力 口 逐 必ずや人力口を逐(お)う”

啓示だけでは まったく意味不明である
人力口を“追放”するとはどういう意味なのか…
これを分かりやすく紐解き 民に伝えるのが美室(ミシル)である
そして真平(チンピョン)王に説明するため 紙と筆を用意させるのだった

祭郎(チェラン)から解放された庾信(ユシン)は 急ぎ父のもとへ!

『美室(ミシル)は伽耶人を…我々を追い出す気です!』
『何だと? それはどういうことだ!!!』

人力口… それは伽の文字を表す
美室(ミシル)は合字で伽耶を指し 追放することを天意としたのだった

説明を受けた真平(チンピョン)王は 今一つ理解出来ないでいる
人力口が伽耶を指すとしても なぜ追放せねばならぬのか…

『陛下 徐羅伐(ソラボル)の南にある伽耶人の集落を
10里ほど 徐羅伐(ソラボル)の外へ遠ざけていただきますよう…
さもなくば 3日以内に月が光を失い 24日以内に大飢饉が起こり
民は苦しみのどん底に喘ぐことになりましょう』

一同の動揺を楽しむかのような美室(ミシル)
しかしあくまでも 低姿勢に事を進めていく

城下では 人々が口々に不安を訴える
大飢饉が起きるなんて… みるみる恐怖が広がっていく
伽耶人であることを隠し暮らしている者もいた

『まさかお前…伽耶人じゃないだろうな!』
『何を言う!もし啓示が本当なら3日以内に月が光を失うさ!』

美室(ミシル)の執務室でも 議論が始まっていた
世宗(セジョン)が あらためて美室(ミシル)に問う
薛原(ソルォン)までもが この啓示による影響について考える
 

『啓示が外れたら… 月食が起こらなければ
民の怒りの矛先は宮主(クンジュ)に向かいます!』
『その時は… 私の真心が足りなかったということでしょう』

郎徒(ナンド)たちの間にも 動揺が広がっていた
無知な者同士が言い争っている
聞いてられない!という表情で舌打ちする徳曼(トンマン)

『月食には時期があるんだ 計算出来たら当てられる
誰かが念じて起こせるようなものじゃない!』
『そういえば… 日官(イルグァン)たちが1カ月後だって言ってた』

※日官(イルグァン):天文と気候を担当する官吏

『それがなんだ!宮主(クンジュ)様は半神なんだぞ!』
『時期が違うと言ってるんだ!いくら宮主(クンジュ)でも当たるもんか!』

言い合いながら月を見に出て行く郎徒(ナンド)たち
徳曼(トンマン)だけは 納得がいかない表情で宿所に残るが
どうにも落ち着かず 金庾信(キム・ユシン)のもとへ

『僕は暦本を読んだことがあるけど 月食の時機は計算出来るんです
天の意志だなんて…あまりにもバカげてる!
庾信(ユシン)郎も伽耶の人たちも大丈夫です』

『何を怖がってるんだ? 本当に起きそうで怖いのか?』

図星を指され 徳曼(トンマン)は庾信(ユシン)の隣に座り込んだ
怖いとすれば月食のことじゃない
月食さえ操る敵とどうやって戦うのか… たとえ絡繰りだとしても
そんなことを考える敵と どうやって対峙すれば?

徳曼(トンマン)は庾信(ユシン)と別れ 独りになれる場所で月を見上げた
するとその時… 月が欠け始めた
起こる筈が無いと確信していた月が みるみる欠けていく…!
徳曼(トンマン)は激しく動揺し怯えた
そして 美室(ミシル)の言葉を思い出す

「この世に“天の意志”など存在しない
もしも明日何かが起きるとしたら…
それは天の意志ではなく この美室(ミシル)の意志なのだ!」

徳曼(トンマン)のような動揺ではなかったが
金庾信(キム・ユシン)もまた 空を見上げて愕然としていた

(本当に美室(ミシル)は半神なのか?)

天明(チョンミョン)は 美室(ミシル)に言われた言葉を思い返す

「逃げなさい… お逃げ」

徳曼(トンマン)は 美室(ミシル)の部屋を訪ねる
その気配を感じつつ 虎の絵を描き続けている
ほぼ完成しているその絵には 虎と対峙する若者の姿があった

美室(ミシル)は 月食についての民の反応を聞く
民の反応は知らないが 自分は怖いと答える徳曼(トンマン)
月食に込められた人間の意志が怖いと…
徳曼(トンマン)の答えに 筆を置き振り返る

『サダハムの梅の正体が… やっと分かったのだな?
お前が密偵であると 気づかないとでも思ったか?』

同じ時 神殿の天明(チョンミョン)は 天に向かって語りかけていた
天は誠に美室(ミシル)の味方なのかと…
ならば自分への天意とは?北斗の7つ星と開陽星の意味は?!

※開陽星:北斗七星の第6星

全てを見抜かれた徳曼(トンマン)は ただ黙り込んでいた
そんな徳曼(トンマン)に 自ら秘密を明かしていく美室(ミシル)

サダハムの梅とは 暦本だと
現存するものの中で最も正確な暦本なのだと!

『帰って天明(チョンミョン)に話すがよい
だが…それを知ったところで お前たちに何が出来るというのだ?
数十年もの長きにわたり 準備に準備を重ね多くの犠牲を払った!
そうやって今日の月食に辿り着いたのだ!これがサダハムの梅なのだ!』

徳曼(トンマン)は涙ぐみ ただ震えていた

『この美室(ミシル)は 天を利用するがこれを恐れない!
世の世情を知るが これに頭を下げない!
民を治めるが これに頼らない!
お前たちはどうだ?何が出来る?
どうだこれが美室(ミシル)なのだ!!!』

ひと言も言い返せず 震えおののく徳曼(トンマン)
美室(ミシル)は その両手を静かに握りしめる

『怖いのか? 恐怖に打ち勝つには方法が2つある
逃げ出すか… 憤るかだ!』


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