クリップ 宮廷女官 若曦 第1話 時空を超えて クリップ

張暁(チョウ・ショウ)は 額に痛みを感じながら意識を取り戻した
朦朧とした意識の中 ぼんやりとした光景が見えてくる
(ここは病院?)

それにしても看護師の制服が変だし 部屋の中も病院という雰囲気ではない

何かが変だと感じつつ 再び意識が遠のいていく張暁(チョウ・ショウ)
次に目覚めた時
頭痛を感じながらも起き上がった張暁(チョウ・ショウ)は…

着ている服も履物も 寝ている寝具も何もかもが変だと気づく
寝台から立ち上がると 見慣れない家具の方へ歩き 骨董品のような鏡を覗き込む
鉢巻のような包帯 額には血が滲んでいる
この顔は… 髪型も服も何もかもが自分じゃない…
まるで時代劇映画のセットのような部屋を眺め回す

『お嬢様…!?』

突然に現れた女性が なぜかお嬢様と呼び近づいて来る!
恐る恐る今の状況を聞くと 女性は怪訝な表情のまま答えてくれた
ここは貝勒(ペイレ)府にある “お嬢様”の部屋だと

※貝勒(ペイレ):清の時代の爵位

貝勒(ペイレ)…といえば清の時代
そんなことあるはずが無い!と息巻き ドッキリだと騒ぎ出す張暁(チョウ・ショウ)!
混乱している張暁(チョウ・ショウ)より さらに混乱しているこの女性は巧慧(コウケイ)
その巧慧(コウケイ)が言うには 今の皇帝は康熙帝だと…
“お嬢様”の名前は馬爾泰若曦(バジタイ・ジャクギ)だと言うからますます混乱する

そこへ清楚な感じの女性が 医師を連れて現れる
巧慧(コウケイ)は 助かった!とばかりに駆け寄った

『若曦(ジャクギ) 落ち着いて 私はあなたの姉 若蘭(ジャクラン)よ』

医師は 強い衝撃により記憶が混乱していると診断した
自分は若曦(ジャクギ)… この女性は姉の若蘭(ジャクラン)…
医師について行ったのは 若蘭(ジャクラン)に仕える侍女の巧慧(コウケイ)だと

ドッキリでも何でもなくて ここまでをどうにか受け入れる張暁(チョウ・ショウ)
姉によれば 階段から落ちて意識を失い丸1日が過ぎたのだという

(…いいえ 階段じゃない 私は車と衝突したのよ)

張暁(チョウ・ショウ)は 二股した彼氏にキレて口論になっていた
工事現場の男が 危険なケーブルを踏んでるぞ!と怒鳴る

『ケンカは他でやってくれ!』
『関係ないでしょ!』
『何だよ八つ当たりか? 浮気されるわけだ!』
『ちょっと!!!』

怒りに任せて投げつけたペットボトルから水がこぼれ 高圧線に…!
張暁(チョウ・ショウ)は 暴れ狂う高圧線を避けようとして車にはねられたのだ
弾き飛ばされ 看板に叩きつけられ感電した

(まさかあの衝撃で… タイムスリップしたの?!)

階段から転げ落ちる 若曦(ジャクギ)としての記憶が少しずつ蘇ってくる
階段の上に 立ち去って行く女性の姿が朧げに見えた…

それから10日が過ぎた

清の時代 第8皇子の側室の妹として過ごしているが 何の変化も無い
一体いつになったら現代に戻ることが出来るのか…!
唯一頼れる筈の姉は 第8皇子が訪れることも無く ひたすら読経する毎日だ

(このまま現代に戻れないとしたら 姉に頼るしか無いけど…
第8皇子の末路を思うと あんまり期待出来ないかも)

※第8皇子は 後継者争いに敗れ幽閉された挙句 病死する

巧慧(コウケイ)は姉の侍女だが 常に若曦(ジャクギ)の傍にいて世話をしてくれる
これも全て姉の配慮なのか… 姉に全てを話すべきかどうか迷う張暁(チョウ・ショウ)

(本当は自分は未来の人間で 妹の若曦(ジャクギ)ではなく張暁(チョウ・ショウ)だ
…なんて言ったら気が触れたと思われちゃう)

頭を打って記憶が曖昧なことを利用し
若曦(ジャクギ)は 姉から過去のことを聞き出す
自分はどんな妹でいつここへ来たのか

『お母さまが亡くなってしまって 問題ばかり起こすあなたが手に負えないと
3か月前に いちばん懐いていた私のもとへよこされたのよ』

そんなお転婆な若曦(ジャクギ)が 姉のもとへ送られたのも
いずれ妃として皇宮に… という意図があるのだという
時代劇を観て 皇宮の争いや陰謀で命を落とすことも珍しくないと知っている
張暁(チョウ・ショウ)は 何とかして現代に戻る方法は無いものかと考え込む

考えに考えた末 あの階段からもう一度落ちてみようと思いつく
巧慧(コウケイ)に止められ どうにか思いとどまるが 帰りたい思いは募るばかり
そこへ 2人の皇子が現れる

非道と言われる第9皇子 そして無能と言われる第10皇子
歴史上の人物として知っている2人は やはりそんな感じの2人だった
2人の皇子のおかげで気分も変わり 街に繰り出す若曦(ジャクギ)
“お嬢様”が自由に外を出歩くなんて… 巧慧(コウケイ)の苦労は尽きない

市場の店をあちこち見て回り 巧慧(コウケイ)が説明を

『ここが都のCBDなのね』
『シー… 何です?』
『いちばん華やかな場所のことよ』
『それはもう 大柵欄(ダイサクラン)ですからね』
『よく行ったなあ そういえば街並みに面影が残ってるわ』

※CBD:北京のビジネス街
※大柵欄:北京の地名 多くの老舗が立ち並ぶ

都に来てまだ3か月の若曦(ジャクギ)がなぜ? と訝し気な巧慧(コウケイ)
噂を聞いただけ と誤魔化す若曦(ジャクギ)

すると突然 兵士たちが大声で『道を開けろ!』と怒鳴り走ってくる!
陛下が帰京されるのをお迎えするのだと説明する巧慧(コウケイ)

大勢の兵士の中に あの工事現場の男とそっくりな兵士を見つけ
あの男のせいで…!と 怒りに任せて走り出す若曦(ジャクギ)
兵士に追いつき道の真ん中で揉めていると 1頭の馬が駆け抜けていく
危うく若曦(ジャクギ)を轢きそうになった馬を操っていたのは第4皇子
皇子の行く手を阻むとは…! 兵士たちが恐れおののきひれ伏す!
突っ立ったままの若曦(ジャクギ)を 慌ててひざまずかせる巧慧(コウケイ)

『第4皇子! 貝勒(ペイレ)府の者です!』
(あれが第4皇子… 後の雍正帝なのね)

※雍正帝(ようせいてい):清朝第5代皇帝

ようやく戻った2人は 使用人が板で打ち据えられているところに遭遇!
聞けば 若曦(ジャクギ)を止められなかったことで罰せられているという

『何て酷いことをするの!やめさせて!』
『お嬢様 彼らも命じられているのです 止めたら彼らも…』

姉に抗議するしかない! 走り出す若曦(ジャクギ)
しかし 姉は厳しく若曦(ジャクギ)を制した

『嫡福晋(ちゃくふくしん)にご挨拶を!』

※嫡福晋:清の時代の正室を指す ここでは明慧のこと

自分はただ 無実の使用人に対する残酷な罰をやめさせたいだけと話す若曦(ジャクギ)
妹の無礼を深く詫びる若蘭(ジャクラン)

『王府にはいろいろと決まりがあるのです 使用人に落ち度があれば罰するまで
それが主人の落ち度であれば 罪はもっと重いものになるでしょう
勝手に出歩き この私に反抗した これはどんな罪に?』

罰ならば自分が… と進み出る若蘭(ジャクラン)
妹の罪は姉の罪 それが側室なら…とほくそ笑む明慧(メイケイ)
すると若曦(ジャクギ)が

『主人に罪があるんですよね だったら姉の罪は正室のあなたの罪では?!
正室なら 側室よりずっと罪は重い!』
『…なんと生意気なっ!!!』

妹を殴ろうとする明慧(メイケイ)!
それを全身で庇う若蘭(ジャクラン)!
殴られそうになる姉を 必死に庇おうとする若曦(ジャクギ)!
3人は激しくもみ合いになり とうとう明慧(メイケイ)が負傷してしまう

そもそも自分が原因で起こった騒動だが どうにも納得出来ない若曦(ジャクギ)
なぜ姉はこんなにも虐げられ側室に甘んじているのか
女性だって能力さえあればどんな風にも生きられるのに… と!

『自分の立場を理解している?!』

若蘭(ジャクラン)は 西域で育った妹に理解を示しながらもここでは難しいと話す
巧慧(コウケイ)もまた あまりに突飛な若曦(ジャクギ)の考えに戸惑う

『あのね… あのね姉さん 目の前の若曦(ジャクギ)は前とは違うの』
『そうね 本当に大人になって分別がつくようになった』

(魂が別人だなんて 未来から来たなんて理解されるわけがない
でもこれじゃ まるで騙してる気分だわ どうしたらいいの)

翌日 久々に第8皇子が夕食を食べに来るという
若蘭(ジャクラン)は落ち着いているが 使用人たちは慌ただしく動き回っている
若曦(ジャクギ)は 初めて第8皇子に会うことになる

『非礼は絶対に許されない たとえ内輪の食事であっても
若曦(ジャクギ)にはきちんと正装を!』

この時代の正装とはどんなものか… 張暁(チョウ・ショウ)は知らない
重ね着に次ぐ重ね着を繰り返しながら 第8皇子に思いを馳せる

(兄弟の権力争いには敗れたけど あの雍正帝を追い詰めた切れ者よ
きっと相当な曲者に違いないわ!)

※九皇奪嫡:皇子による康熙帝の後継者争い 勝者は第4皇子

あまりの暑さに耐えられず 外に出てみる張暁(チョウ・ショウ)
そもそもこの時代の化粧品って“防水”なの?
流れる汗を袖口で拭いていると 目の前に手巾が差し出される

※手巾:ハンカチ

どうやら泣いていると勘違いされたようだ
目の前に現れたのは…
第8皇子だ

(あぁ! まずは挨拶しないと!)
不慣れな昔風の挨拶をし あまりのごこちなさに失笑されてしまう

第8皇子は 既に若曦(ジャクギ)が階段から落ちたことを知っていた
大丈夫なのか?と気さくに話しかけられ 緊張がほどけていく
やがて 第9皇子 第10皇子と共に食事の会が始まった
側室である姉に優しく語りかける第8皇子
若蘭(ジャクラン)は 卒なく受け答えするだけで視線を合わせることは無い

張暁(チョウ・ショウ)が 歴史上の人物として知っている第8皇子は
裏で陰謀を企てる腹黒なイメージだが それとは程遠い優し気な人物に見える
それにしてもこの第8皇子と姉の関係は…
巧慧(コウケイ)は 使用人の身分では詳しく話せないとしながらも
お2人は あまり会う機会が無く 皇子が訪れても長居はしないとのこと

『嫡福晋にはお子様も生まれておいでなのに…』
『別にそれでもいいんじゃ?』

(第8皇子の末路を思えば 思いが強くないのはいい事だわ
それにしても 未来を知ってるからって 何か良い事があるわけでもないのね)

翌日 張暁(チョウ・ショウ)は再び無断で外出する
いつまでも この時代の“若曦(ジャクギ)”でいるわけにはいかない!
現代に戻って“張暁(チョウ・ショウ)”として生きるのよ!
というわけで 何か大きな“衝撃”を受けなければと考え 市場の大通りに来たのだ

現代に戻れるか… 或いは死んでしまうのか… それとも不自由な体に?
馬の蹄の音が聞こえ 通りの真ん中に立ち“その瞬間”を待つ張暁(チョウ・ショウ)!

現れた馬は2頭 張暁(チョウ・ショウ)は 寸前で轢かれずに済み命拾いした
咄嗟に馬を降り 転んだ張暁(チョウ・ショウ)に声をかける青年
馬上から睨みつけているのは あの第4皇子

(またこの人?! ……ということはこの人も?)
『第13皇子だ』

若曦(ジャクギ)は 第8皇子の屋敷の者だと自己紹介する
第13皇子は 規律の厳しい8王府の者とは思えない!と驚く
身分ある女性が自由に出歩くなど この時代ではかなり非常識なのだ
足をくじいてしまった若曦(ジャクギ)を 王府まで送ると言う第13皇子
有難く受け入れながら しっかりと口止めも忘れない若曦(ジャクギ)

帰宅すると “庭で”散歩中に足をくじいた と姉に言い訳する若曦(ジャクギ)
偶然にも 訪ねて来た2人の皇子に助けられたと…
第13皇子は勿論 第4皇子も黙っていてくれた

若蘭(ジャクラン)は どうぞ奥へと招き入れるが
第4皇子は 若蘭(ジャクギ)と話したい と申し出る

『さっきはなぜ わざと馬に轢かれようとしたのだ 死にたいのか?』
『いいえ ただの偶然です』
『先日はそうだった でも今回は違う 死にたいのなら3度目は止めないぞ』
『生きたいのです…! このまま死ねない…』


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