⚔ 第1話 聖君の器 ⚔

 

使節団の野営地

偵察兵が 山中で謎の“即身仏”を発見する

同じ時 王宮では 光海(クァンヘ)君が 建設中の昌徳宮(チャンドックン)を視察していた

 

※昌徳宮(チャンドックン):1405年景福宮(キョンボックン)の離宮として太宗(テジョン)が創建

 

光海(クァンヘ)君は 父王宣祖(ソンジョ)のためにも完成を急ぐようにと命ずる

そこへ 明国へ赴いていた使節団が戻ったとの知らせが入る

王宮内では 貞明(ジョンミョン)公主の行方が知れず 尚宮たちが大騒ぎしていた

女官の知らせで 公主が大殿(テジョン)へ向かったと知り蒼褪める!

 

※大殿(テジョン):王が住む宮殿

 

大殿(テジョン)では 光海(クァンヘ)君が呼びつけられ 父王から叱責を受けている

王の傍には大殿尚宮キム・ゲシが 食事の毒見をしつつ給仕を務める

使節団によれば 今回もまた世子として認められることはなかった

怒りの矛先は 光海(クァンヘ)君が 足繫く昌徳宮(チャンドックン)を視察することに向く

 

16年もの長きに渡り 明国が世子と認めないのは

光海(クァンヘ)君が庶子であり しかも次男であるからだと…!

 

※庶子:嫡子(正室の子供)に対し 庶子は側室の子供を表す

 

『世子として認められてもいないのに 昌徳宮(チャンドックン)の主になろうと?!

身の程もわきまえず王座を狙おうと言うのか!!!』

 

宣祖(ソンジョ)の怒りを鎮めたのは 幼い公主の乱入だった

今日は小正月だから『暑さを買って』とせがむ公主

誰はばからず こんな無礼を許されるのは この貞明(ジョンミョン)公主だけである

 

※小正月:新年初の満月 この日“暑さを売る”ことで今夏は夏バテしないという風習

 

幼い貞明(ジョンミョン)を膝に抱き 愛おしそうに破顔する宣祖(ソンジョ)

暑さを売るのは庶民の風習であり 父王にそれをせがむ無礼も愛娘であればこそ

貞明(ジョンミョン)は 父王の膝の上から 兄光海(クァンヘ)の存在に気づく

 

『兄上! 兄上もこちらに?』

『公主! 何度言ったら分かるのです!』

 

遅れて現れた仁穆(インモク)王后が 厳しく公主をたしなめる

“兄上(オラボニ)”ではなく“世子様”と呼ぶようにと…!

 

退室した光海(クァンヘ)は 優しい兄の顔になり 幼い妹を庇う

 

『私は世子ですが 世子の前に大君(テグン)と公主の兄なのですから』

『それはそうですが 王室のしきたりは守りませんと!』

 

※大君(テグン):王の嫡子

 

好意的に接する光海(クァンヘ)に対し 仁穆(インモク)王后は頑なな態度だった

お仕置きを怖がる貞明(ジョンミョン)を呼び止め 大丈夫だとなだめる光海(クァンヘ)

叱責された直後からか 慣れない口調で“世子様…”と呼ぶ貞明(ジョンミョン)

 

『今は二人きりだから“兄上(オラボニ)”と呼びなさい』

『ほんとにいいのですか?』

 

幼い貞明(ジョンミョン)の顔に笑みが戻る

 

『おい貞明(ジョンミョン) 私の暑さを買ってくれ!』

『あ! もうっ! 兄上にしてやられました せっかく父上に売ったのに!』

『ハッハハハハ…!』

 

大殿尚宮キム・ゲシは 小箱の中から素早く薬を飲む

王様付きの尚宮様は気を使うから… と

“胃薬”が欠かせない上司の苦労を嘆く女官

 

一方 小正月のこの日 庶民の間でもまたお祭りが繰り広げられる

血気盛んな子供たちが争い 神輿の旗を奪い合っている

子供の遊びに大人たちも目をつぶりたいのだが 市場を荒らされ

とうとう捕盗庁(ポドチョン)の兵士と役人までもが出動することに…!

 

『一体お前ら どこの“若様”なんだ?!』

 

庶民の子をからかうつもりの役人たちだが 本物の“若様”が混じっているとは知らず…

 

『…おや? こっちの子はジュウォン様?』

『え? まさかそっちはイヌ様?』

 

出動した捕盗庁(ポドチョン)の兵士は 長官の息子ホン・ジュウォンを

漢城府(ハンソンブ)の役人は 判尹(パニュン)の息子カン・イヌを確認する

 

※捕盗庁(ポドチョン):警察業務を司る官庁

※漢城府(ハンソンブ):首都(現在のソウル) 首都を管轄する役所

※判尹(パニュン):最高責任者

 

ジュウォンの父ホン・ヨンは 2人を牢に入れると宣言した

子供とはいえ 市場の店をことごとく破壊し 多大なる損害を与えたのだと!

 

『これは不当な逮捕では?!』

『何だと?!』

 

『両班(ヤンバン)の若者が神輿の旗を争うのは風習ですよね

民だって楽しんでるのに! 法典では小正月は禁刑日! 風習は取り締まれません!』

 

※両班(ヤンバン):朝鮮時代の特権的階級

 

ホン・ジュウォンの訴えに目を丸くする大人たち カン・イヌも負けてはいない

自分たちを罰するなら “石合戦”をした者と“履物盗り”をした者も牢へ!と訴える

 

『そうなれば 都中の若者を投獄せねば!』

 

投獄せよとの命令を出したホン・ヨンに 負けを認めろと促したのはカン・ジュソンだ

お互い 息子たちに論破されたことは苦々しくもあり嬉しくもあった

息子たちが成長する頃には 朝廷が落ち着いてくれることを切に願う父親たちであった

 

『大殿(テジョン)はどうなんだ?』

『王様のお心が揺らいでいる』

『まさか世子様を…?! 大君(テグン)様はまだ幼過ぎる!』

『王様のお心は止められまい』

 

2人は小正月の宴に向かい 遅れてホン・ヨンの執務室に古い文書が届けられた

それは 即身仏の傍らにあった物だが ホン・ヨンがそれを読むのはまだ先のことだ

 

王宮では

 

小正月の宴が催され 官僚たちが 今年も世子様が認められなかったと噂している

さすがの漢陰(ハヌム)でも無理だったのかと…

 

※漢陰(ハヌム):イ・ドッキョンの雅号

※雅号:本名以外につける風雅な名

 

宣祖(ソンジョ)王の子供たちが一堂に会しているが 最も注目されているのはただ2人

仁穆(インモク)王后の産んだ子たち 貞明(ジョンミョン)公主と永昌(ヨンチャン)大君だ

 

貞慎(ジョンシン)翁主の挨拶に 敬語で答える貞明(ジョンミョン)

一瞬にして蒼褪め 敬語はおやめくださいと言う貞慎(ジョンシン)

どこで誰に聞かれ災いするか… 己の命にも関わる問題である

 

※翁主(オンジュ):王の庶女 側室の娘

 

幼い貞明(ジョンミョン)からすれば ずっと年上の貞慎(ジョンシン)だが…

ここでもまたしきたりだからと諭され 貞明(ジョンミョン)は幼いながらも威厳を示す

 

場をわきまえず深酒する臨海(イメ)君

それを 定遠(チョンウォン)君がたしなめる

 

『こんな私にそこまで頭を下げて 弟が即位したらどこまで頭が下がる?』

『臨海(イメ)兄上は時局を理解していないのでは?

あの尊い席になぜあの幼子たちが? その意味がお分かりに?』

『何が言いたのだ!!!』

 

ここで声を荒げても仕方ない

まさに定遠(チョンウォン)君が語るように…

世子である弟 光海(クァンヘ)より高みの席に 仁穆(インモク)母子が座っているのだ

 

いくら嫡子とはいえ なぜ世子である光海(クァンヘ)をないがしろにするのか

臨海(イメ)は 弟の立場がないと憤慨する!

 

『今に始まったことではありません兄上 そう興奮なさらず

それでも私は もう16年も世子のままですから 今すぐどうということではないでしょう』

 

当の本人に慰められても 臨海(イメ)には落ち着けない理由があった

今この時 別の場所で 王は高官らを招き宴を開いている

その席に呼ばれたのは  西人(ソイン)派と南人(ナミン)派ばかり

大北(テブク)派の高官は誰ひとり呼ばれていないのだ

 

※西人(ソイン)派:光海(クァンヘ)君に反する勢力

※南人(ナミン)派:超党派勢力

※大北(テブク)派:光海(クァンヘ)君を支持する勢力

 

一方 投獄されずに済んだホン・ジュウォンとカン・イヌは

大人が宴に興じている隙に 蔵書閣(チャンソガク)を探検しようと企んでいた

 

※蔵書閣(チャンソガク):史書を保管する機関

 

2人で蔵書閣(チャンソガク)を目指していると そこへ不穏な動きをする男が…!

気配に気づいた男が懐剣を手に近づいてくる!

男は 王が主催する宴を偵察するイ・イチョム 大北(テブク)派の領袖だ

絶体絶命の状況で 突然目の前に女の子が現れる! すばやく身を隠すイチョム

 

遠くの方で『公主様ーっ!』と叫ぶ声がする

またしても 尚宮たちに追いかけられている貞明(ジョンミョン)公主

貞明(ジョンミョン)は“両班(ヤンバン)の子たち”を巻き込み駆け出した!

すると どこからか父王の怒鳴り声が…

 

3人が逃げ回った先は 宣祖(ソンジョ)が高官たちと宴を開いている会場だった

順々に詩を披露する官僚たちだが 世子がまた明国に認められなかった今日という日を

左議政(チャイジョン)が“良き日”と謳い 宣祖(ソンジョ)の逆鱗に触れたのだ

 

『王朝の行く末が危ぶまれるという日を“良き日”だと? “明日も良き日に”と?』

 

イ・ウォニクが 『今日はお開きに…』と取り成すが

宣祖(ソンジョ)は どの官僚が何を言うか聞きたいものだと引き下がらず…

酔っているとはいえ あまりに度が過ぎると イ・ドッキョンが腰を上げかける!

それを無言で止めたのはイ・ウォニクだ 反論すれば命はないと

 

『余がお題を出すとしよう 何を問えばそなたたちの真意が聞けるかな?

そうだ “廃仮立真(ペガイプチン)”!』

 

※廃仮立真(ペガイプチン):偽物を廃し本物を立てるの意

 

『その昔 太祖(テジョ)大王は 昌(チャン)王を廃し恭譲(コンヤン)王を立てた!

そなたらに問う! これをどう思うか! それを成し遂げようと思うか!!!』

 

※太祖(テジョ):李成桂(イ・ソンゲ) 李氏朝鮮の始祖

 

16年の長きに渡り 明国が世子を認めないことはあまりにも屈辱的である

ならばどうするか? これは宣祖(ソンジョ)が官僚らに挑む問いであった…!

 

『一人残らず自分の考えを示すのだ! 今日こそそなたらの考えを聞こう!!!

誰が忠臣で誰が逆賊か! 今この場で見極めてくれようぞ!』

 

これまでにない父王の剣幕を目にした貞明(ジョンミョン)は 恐ろしさのあまり涙ぐむ

 

王の剣幕に 領議政(ヨンイジョン)ユ・ヨンギョンが立ち上がり 真っ先に詩を詠んだ

それは 分不相応な者を廃し嫡流の真の主に返還すべきという内容であった

 

※領議政(ヨンイジョン):議政府(ウイジョンブ)の最上級文官

 

王の真意がどこにあるのか… 領議政(ヨンイジョン)は命がけで詩を詠んだのだ

これを受け 東宮殿に兵を配置せよとの王命が下される…!

 

※東宮殿:世子が住む宮殿

 

光海(クァンヘ)君の正室の兄ユ・ヒブンは 直ちに討ち入りを!と息巻く

臨海(イメ)君も今こそ好機だと進言するが…! 光海(クァンヘ)の心は決まらない

 

『一体いつまで我慢なさるおつもりで?殺されるまでですか!!!

すでに退路は断たれたのです 永昌(ヨンチャン)を亡き者にし玉璽を奪い…!』

『なぜですか!世子はこの私だ なぜ奪う必要が?!』

 

あまりに煮え切らない光海(クァンヘ)君に 重鎮チョン・イノンが名乗りを上げる

なぜこうなるのか 王に直訴すると…!

 

別の場所

 

イ・ウォニクは もはや形勢を変えることは出来ないという

西人(ソイン)派と濁小北(タクソブク)派は すでに王の意を知っていたのだろうと

 

※濁小北(タクソブク)派:永昌(ヨンチャン)大君を支持する勢力

 

『世子様があまりにご聡明であるゆえ 王様は目の敵になさっている』

『捕盗大将(ポドテジャン)と漢城府判尹(ハンソンブパニュン)なら…

あの2人なら 儒学者らを動かせるはずです』

 

イ・ドッキョンは 嫡流の跡継ぎではなく あくまで“王の器を持つもの”を王にと考える

果たして光海(クァンヘ)君がその器にあると?

ウォニクの問いかけに ドッキョンは押し黙る

 

光海(クァンヘ)君は 大殿(テジョン)の前で座り込んでいた

重鎮チョン・イノンが宣祖(ソンジョ)王に謁見し直談判しているのである

 

『首を斬られたいのか!!!』

『国が滅びるのを見ずに済むなら!』

『な…何だと?!』

 

『すでに王様は孤立なさり やがて誰もいなくなるでしょう

聖君となるべき世子を廃そうとしているのですから!何とも嘆かわしい!!!』

 

『そうか 外で座り込む者に吹き込まれたのだろう!自分こそが王に相応しいと

それを廃そうとする余は 暗君で暴君だとな!!!』

 

『世子様を誤解なさらないでください! どうか非道な仕打ちをおやめください!

明国に認められないからという理由だけで 世子様を廃さないでください!』

 

『そうではない! 世子は嫡子でも長子でもないからだ! そもそも資格がないのだ!』

 

『その方を世子に立てたのは王様では?!世子様は民に慕われ崇められています!

敵国から国を守ったのは世子様では?!

王様が民を見捨ててお逃げになった時 民を守り抜いたのは世子様ですぞ!

まさに民が待ち望んでいた聖君になられるはず!!!』

 

チョン・イノンが世子を弁護すればするほど それは今の王を否定する言葉となる

それこそが逆心であり“廃する理由”だと言い放つ宣祖(ソンジョ)!

チョン・イノンの直訴は 宣祖(ソンジョ)を退くに引けない状況へ追い込む結果となった!

 

1592年 文禄の役により宣祖(ソンジョ)は首都漢城府(ハンソンブ)を追われた

民を捨て逃走した宣祖(ソンジョ)には罵声が浴びせられ石まで投げつけられた

当時の若き光海(クァンヘ)君が 面目を保ってくれたことを評価し世子に立てたのだが…

 

※漢城府(ハンソンブ):現在のソウル

 

側室仁嬪キム氏が 我が子信城(シンソン)君を世子にと訴える

宣祖(ソンジョ)は戦の真っただ中なのだとキム氏をなだめた

信城(シンソン)君を命の危険には晒せないのだと…

 

これを聞いた光海(クァンヘ)君は奮起し イ・ドッキョンの制止を振り切り自ら戦地に赴く

戦う度 民の称賛を受ける光海(クァンヘ)君の姿を忌々しく睨みつける宣祖(ソンジョ)

 

『新たに王妃を迎え入れようぞ!』

 

宣祖(ソンジョ)の決意には並々ならぬものがあった

先の正室との間に子はなく 宣祖(ソンジョ)の息子たちはみな庶子であった

ここで新たな正室仁穆(インモク)王后を迎え 貞明(ジョンミョン)が生まれた後

待望の嫡子となる永昌(ヨンチャン)大君が誕生したのである

 

この嫡子の誕生の一報を聞き 光海(クァンヘ)は如何なる思いに至ったか…

 

世子を廃する動きに 仁穆(インモク)王后はおやめくださいと嘆願する

しかし もしこのまま世子が王位を継げば…

貞明(ジョンミョン)と永昌(ヨンチャン)は殺されてしまうという宣祖(ソンジョ)

 

乳飲み子の永昌(ヨンチャン)は 母に抱かれスヤスヤと寝入っているが

貞明(ジョンミョン)は 父王にしがみつき恐怖に震え泣き出してしまう

 

『しかし まだ乳飲み子の大君(テグン)を世子にとは あまりに荷が重すぎます』

『だからこそ この可愛い娘が王子であったらと…!』

 

同じ時 イ・ドッキョンが捕盗庁(ポドチョン)の執務室に現れた

そこにホン・ヨンの姿はなく 机の上にあの古い文書が置かれている

風でめくれたのか あらわになった文面を目にしたドッキョンが驚愕する!

 

一方 大殿(テジョン)では

 

いつもの薬湯が運ばれ キム・ゲシが毒見している

宣祖(ソンジョ)は 世子に王位を譲るという遺言書を改めるという

 

『この王宮から昌徳宮(チャンドックン)に移る際 世子は嫡流の者でなければ!』

 

再び捕盗庁(ポドチョン)の執務室

古い文書が 即身仏の傍にあった物だと知ったイ・ドッキョンは 即身仏のもとへ!

そこでホン・ヨンと共に文書をじっくりと読む

 

“紫微星が永い闇に包まれ

欲するは光刺す道に立つ者

罪なき者が犠牲を払うため

多くの者が嘘の予言を信じ

王座の主に相応しいと叫ぶだろう”

 

※紫微星:北極星の別名

 

“光刺す道に立つ者”を解読すれば“昖” つまり王の名である

この時機に なぜこの文書を発見するに至ったか…

ドッキョンは即身仏の身元を明らかにせねばという

 

その時 ドッキョンは 即身仏の手首に見覚えのある腕輪を発見する!

 

ドッキョンが少年だった頃 ある預言者がこれと同じ腕輪をしていたことを思い出す

その預言者の名はナム・サゴ

慌てて文書の続きを読むドッキョン!

 

“死には死を

積屍星が血のごとく燃え上がる

だが暗闇は一瞬にして消え去る

そこには ただ1人運命の主がいる

火を支配する者 純血の者だけが主となる”

 

※積屍星:かに座(プレセペ星団) 死者の魂が天に昇る際 通過する場所とされる

 

貞明(ジョンミョン)公主は 恐ろしい夢にうなされ飛び起きた

見守るチェ尚宮が 何事かと公主の枕元に駆け付ける

 

『公主様 怖い夢でも?』

『チェ尚宮… 弟が…! 弟が火の中に!!!』

 

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