第21話 俺のそばに 
近衛隊の兵舎
隊長室の中に 隊長チェ・ヨンと医仙が2人切り!
隊員たちは面白がって中の様子を窺っている
『野次馬たちめ 散れ!!!』
そう部下を叱りつける副隊長ペ・チュンソクも 実は中が気になっている
女の身で 医仙の立場で 兵士になって隊長室に住むというウンスに
チェ・ヨンがどう対処するか そして2人の仲はどうなるのか…!
『なぜです?半月もすれば天界へ帰る方が なぜ俺の部屋に?』
王様が ここが一番安全だとおっしゃった…
そんな言葉に騙されるチェ・ヨンではない
ウンスは 自分からお願いしたのだと白状する
笑ったり怒ったり 何を考えているのかも分からない時がある
でもただ1つ分かっているのは ウンスがいつもチェ・ヨンを按じているということ
『俺のために泣き 笑う 俺を守ろうとする
今回 戻ったのも俺のためですね 俺が皇宮を気にしていたから』
叱られるだろうと肩をすくめているウンス
チェ・ヨンはそばに寄り添い その手を取った
そして まずは解毒薬を見つけようという
『薬を見つけ 天界へ行かずとも助かるなら その時 言います 残ってほしいと
天界には あなたの帰りを待つ人がいる それでも聞きます
一生守るから 俺のそばにいてくれないかと』
『私のお守りは凄く大変よ』
『承知の上です』
『一生よ』
『そばにいてくれるなら 死ぬまで離しません 生きている限りずっと』
これまでに ずっと聞きたくてたまらなかったチェ・ヨンの心
ウンスは 望み通りの言葉が聞けて あまりの嬉しさに涙ぐむ
『その時に俺が聞いたら 返事を… くれますか?』
倖せそうなウンスより さらに喜んでいるのは隊員たちである
厳しい表情で出てきたチェ・ヨンの前では 姿勢を正しているが
皆 デレデレと笑いたくてしょうがない
チェ・ヨンは 王に呼ばれ 戻るつもりはないかと切り出された
今回のことと 自分が隊長の座を辞すということは別問題なのだが…
『医仙に 国医大使の位を考えていた
高い位に就けば それだけ安全だと思うた だが近衛隊に入ると言い出した』
その返事をする前に 決着をつけたいことがあるというチェ・ヨン
王妃をさらい 医仙に毒を盛った徳興君(トックングン)を斬る許可が欲しいと…!
王族である徳興君(トックングン)を チェ・ヨンが独断で斬ることは出来ない
『公にしづらければ 私が内密に』
『…王命にて罰そう』
一応は隊員になったウンス
隊員であれば 当然訓練にも参加する
誰もウンスに武術を修行しろとは考えないし またウンスも観戦気分で熱中する
チェ・ヨンが戻り ウンスに目くばせ…! 雰囲気は一変する
格闘技観戦に興じていたウンスは 不満顔でチェ・ヨンの後に続く
危険から避難して近衛隊の中にいるのに なぜ外の訓練場に…?!
怒りの表情のチェ・ヨンに ウンスは みんな近衛兵なのに… と反論する
『今日 典医寺(チョニシ)に行くから 許可をいただくため隊長を待っておりました
…典医寺(チョニシ)で薬をもらうの! 解毒薬も研究中だし… 許可をください』
※典医寺(チョニシ):高麗(コリョ)後期 宮中で治療を担った官庁
危機管理がなさすぎるウンスに チェ・ヨンは 怒りが収まらない
『単独行動は慎み4人1組で!』
『承知しました!』
『戻ったら部屋で 研究とやらを続けること!』
『はい 隊長!』
答えながら ウンスは笑顔になっていく
その笑顔に 厳しい表情を崩せないながらも チェ・ヨンは理性を失いかける
次第に近づいていく2人の時間を 副隊長ペ・チュンソクが台無しにした…!
気まずい表情で出ていくチェ・ヨン
ウンスは そっと自分の額に手を当て 脈も測った
康安(カンアン)殿に もう何度もキ・チョルが来ている
是非とも医仙に会わせてほしいと 必死に嘆願するキ・チョル
一方的に 天界の存在を否定され 医仙ではないとされた
キ・チョルは 天界への思いをまだ捨て切れずにいるのだった
会わせてくれぬなら自ら捜すまで!!!
火手引(ファスイン)と千音子(チョヌムジャ)が 典医寺(チョニシ)を襲撃する…!
次々と医官たちが惨殺されていく中 トギは身を潜めて気配を消した
ウンスは 典医寺(チョニシ)に起こった事態も知らず 兵士たちと歩いている
楽しそうに雑談しながら歩いているところへ トギが…!
聾唖のトギは言葉で伝えられず 必死にウンスを引っ張っていく!
典医寺(チョニシ)の惨状を目にしたウンスは 言葉を失う
近衛兵たちは 咄嗟にウンスを囲み その身を守る
いくつもの遺体が転がる中を 侍医チャン・ビンがいる奥へと進む…!
しかし もはやチャン・ビンを救う手立てはなかった
激しく動揺するウンスを 一刻も早く安全な場所に移さねばと 隊員たちは動く!
医仙ユ・ウンスを捜すキ・チョル
そして キ・チョルがかくまう徳興君(トックングン)を 王が捜していた
※徳興君(トックングン):後の恭譲(コンヤン)王
『征東行省にいれば 王も手出しできませぬ
…妙な真似はなさいますな! 策は私にお任せを』
『そなたに従おう』
※征東行省:元が高麗(コリョ)に設置した内政を干渉する機関
徳興君(トックングン)が身を隠した直後 チェ・ヨンが現れる
キ・チョルが会いたいのは医仙ユ・ウンス
しかし 天界から医仙を連れてきた張本人は このチェ・ヨンだと気づく
そんな問いに答える気などない
チェ・ヨンは 王から賜った権限で屋敷を家宅捜索すると告げる…!
いつの間に 医仙はただの医官になったのか
皆で口裏を合わせ 天界の存在すら無になった
引き続き無視し 王妃誘拐の容疑で徳興君(トックングン)を捜しているというチェ・ヨン
『馬車が裏門から出ました 追っています!!!』
『逃がすな 行き先は征東行省だ!』
キ・チョルの策など チェ・ヨンにはお見通しだった
『幇助したとなれば 府院君(プウォングン)様も地位が危うい よくお考えを!』
しかし キ・チョルの方こそ そんなことは眼中にない
ウンスに会い 天界の真相を確かめることだけしか頭にないのだ
『どこだ?! 決して殺しはせぬ! ただ…聞きたいのだ』
『今度は何をなさる気で?今までの仕打ちを思えば会わせられませぬ!』
逃走した徳興君(トックングン)は 近衛隊によってすぐに捕えられた
その旨を報告するが 恭愍(コンミン)王はそれどころではないようだ
典医寺(チョニシ)が襲撃され 侍医チャン・ビンが殺されたのだ
この事態について さっそく重臣たちと協議しなければならない
王から チャン・ビンの訃報を聞くチェ・ヨン
医仙ウンスにとって この世界でただ1人 医療の話が通じる相手であった
師匠であり 唯一の友を失った医仙の衝撃を気遣う 恭愍(コンミン)王だった
隊員から 手裏房(スリバン)も標的になっていると報告が入る
火手引(ファスイン)と千音子(チョヌムジャ)が動いているなら 被害は甚大だ
『目的は医仙!手裏房(スリバン)には拷問された者も!』
ウンスは 隊長室で薬草を刻んでいる
平静を保とうとして その肩は小刻みに震えている
『見て 私の解毒薬! チャン先生が命懸けで守ってくれた
1つだけ反応が出たの まだ経過を見ないと何とも言えないけど
これを守るために亡くなった… 隠すように持ってたらしいの だからチャン先生は…
私を狙う人たちに… 私のせいよ 私さえいなければ…!
私が… 殺したんだわ! 私が殺したの!』
とめどなく話し続けるウンス
自分の言葉で自らを追い詰め 傷つけていく
チェ・ヨンは 慰めの言葉も 否定の言葉も口にしない
ウンスの言っていることは ある意味で真実なのだ
ただ今は眠る方がいいと 鎧を外し 横になるように促す
その横に座り 語り始めるチェ・ヨン
『16歳の時 初めて人を殺めました 倭寇でした
周りは褒めてくれました 度胸がある 斬り口も鮮やかだ いい一太刀だと
嬉しくて胸も踊り 誇らしく思った でも… その晩は一睡もできず
寒くて身が震え凍えるほど 寒い季節でもないのに』
殺した日付も 相手の顔も すべて覚えているというチェ・ヨン
ウンスは 自分の悲しみを忘れ その話に聞き入る
『次も?』
『いいえ その次からはこうなりました 1人斬りまた1人 また1人と…
ゆえに 自分が殺したなどと言わないでください いいですか?』
『…分かったわ』
翌朝
ゆっくり眠ったウンスは チェ・ヨンの気配を感じる
自分が目覚めたとは まだ気づいていない
(私はここにいるわ 3つ数えるうちに振り向いて …1 …2 …3!)
『…キャ!』
『寝坊したら朝飯抜きですよ』
目を開けると チェ・ヨンの顔がすぐそばにあった
悪戯っぽく笑い 行ってしまう
(…1 …2 …3!)
チェ・ヨンはまた振り向いた
ん?という表情に ウンスは微笑む
こんな些細な偶然に微笑み合うことが幸せだった
今日は 徳興君(トックングン)を尋問する日である
獄中から尋問の場へ護送しようとするチェ・ヨンの前に 元の使臣が現れる
たとえ元の使臣でも 高麗(コリョ)の獄へ立ち入ることはあり得ないが…
『護軍(ホグン)チェ・ヨン!
徳興君(トックングン)は征東行省の平章政事(ピョンジャンジョンサ)です
罪を犯したとて 身柄の拘束及び処罰は
高麗(コリョ)ではなく 元に属する征東行省で行います』
徳興君(トックングン)は 不敵な笑みで元の使臣の方へ歩く
チェ・ヨンは ずっとこの使臣に聞きたかったことがある
『医仙を… なぜ処刑なさる?
元でも有名な方を皇帝にお見せせず なぜ処刑を望むのです?』
『医仙とかいう女人に 私が直接話しましょう』
『それになぜ 私の名をご存じなのか
一介の護軍であり 近頃は王のお側も離れ』
この使臣にとって 恐ろしいのは高麗(コリョ)王ではなく チェ・ヨンなのだ
この者さえ排除すれば 王はおとなしく元の飼い猫のようになると…!
徳興君(トックングン)に協力するのは その力を認めているのではなく
この国を元に従属させるためには その方が簡単に事が進むからである
『王をねじ伏せるのが目的ですか』
『決めかねております どちらをねじ伏せるか』
使臣が去って行くのを確認し チェ・ヨンは康安(カンアン)殿へ向かう
『ご指示通り 元に引き渡しました』
『よくやった』
『徳興君(トックングン)が 元に連れ去られたとなれば 重臣は団結すると?』
『余が1つにする』
チェ・ヨンは 王が征東行省の実態を理解しているのか不安になる
キ・チョルが私物化している機関であり 親元派の拠点なのである
『あの者たちは徳興君(トックングン)を擁立し 王様を討ちましょう!
指揮権を下されば 私が征東行省を討ちます』
一刻を争う決断をすべき時に 王は 重臣らの許可が要るという
手段を選ばぬ敵に立ち向かう今 重臣らの許可とは…! チェ・ヨンは苛立つ
『向こうは私兵を使うが 余には民しかおらぬ 時間が要る』
征東行省では 保護した徳興君(トックングン)と元の使臣 そしてキ・チョルが
親元派の重臣らを招集し 軍議を開いている
恭愍(コンミン)王もまた 側近と近衛隊を招集しているが 軍議にも及ばない
『権門勢家の私兵を含めれば 兵力は我らの数倍
そうなれば抑えるのは困難です!』
『あの者たちがいる限り 改革は進まぬ!』
※権門勢家:権勢のある門閥や家柄
王は 元と戦う意思を示しているが
実際には 徳成府院君(トクソンプウォングン)キ・チョルとの戦いである
この国を従属させようとする元も許せないし 王妃をさらった者をかくまう元も許せない
決して屈することのできない恭愍(コンミン)王なのだ
『こちらには名分がある 機を逸するな』
キ・チョルも 決して屈することは出来ない
公然と王を替えると宣言し 徳興君(トックングン)こそが王に相応しいと言い放つ!
近衛隊の軍議の場に 恭愍(コンミン)王が現れる
迷っている重臣が多く 今から1人1人の説得に当たるという
圧倒的に兵の数が少ない現状に 奇襲でしか勝ち目はない
機を逸すれば無になるのに 今から説得とは…!
『だが 重臣らの同意なく強行は出来ぬ!』
チェ・ヨンは 小さくため息をつき王を追いかけた
『徳興君(トックングン)は征東行省に討ち入る“餌”ゆえ 指一本触れるなと』
『確かに申した 余とて心穏やかではない』
『“餌”だけですか? “釣り竿”はどこです?!』
チェ・ヨンが苛立っていることは 王も承知している
しかし 王命には大義名分が要るのだ
剣と血で解決するチェ・ヨンには歯痒いことだが 王にも思いがあった
王を守るという使命を全うするチェ・ヨン
ならば王である自分は?いつまでチェ・ヨンの背中に隠れていればいいのか…!
『余は何としても 無血で府院君を倒したい
そうしてこそ北の領土を取り戻せる 余を見守ってくれ』
恭愍(コンミン)王は チェ・ヨンに別の王命を出した
侍医チャン・ビンを殺めたのは キ・チョルの配下である
これを殺さず 生かしたままで捕えよと…!
退室しようとしてチェ・ヨンが 剣を落とす
一瞬の間があり 王も副隊長も怪訝な表情…
何事もなかったように剣を拾い上げるチェ・ヨンだった
一方 ウンスは坤成(コンソン)殿で 王妃を診察している
侍医チャン・ビンが殺され 薬官も皆殺しにされた
今はトギが薬を作り ウンスが診察するしかないのだ
『脈も正常で感染の心配もありません トギの薬を必ず飲んでください』
流産してから 王妃はずっと気にかかっていることがあった
以前 医仙ウンスが 自分と王の未来を語ったことがあったのだ
それによれば 自分は王より先に死ぬようだ
自分亡き後の王は? 2人の間に子は?
ウンスが天界から来たという事実は 元の使臣の手前 嘘だということになった
しかし王妃は どうしてもウンスから未来の話が聞きたかったのだ
そこへ チェ尚宮が危急の知らせがあると ウンスを呼び出す
元の使臣から ウンス宛てに書状が届いているという 必ず本人が読むようにと
漢字は読めないのに… と書状を開くウンス
その瞬間 凍りつく…!!!
自分を処刑しようとした 最も危険な元の使臣のもとへ!
ウンスは 厳しい表情で使臣に畳みかける!!!
『これはあなたが書いたの?!』
『そうです』
『…この文字の意味を知ってて?!』
書状を出せば ウンスは自分の方からやって来る
捜さなくても 捕えなくても こうして現れると 元の使臣は知っていたようだ
『意味をご存知ですか?』
同じ時 火手引(ファスイン)と千音子(チョヌムジャ)は
手裏房(スリバン)を追跡して 民家に入り込んでいた
中に入った途端 すべての扉が封鎖され 2人は閉じ込められてしまう
火功と音功の使い手に何と幼稚な…!
しかし 千音子(チョヌムジャ)が 家の中の異様な臭いに気づく
油がまかれた屋内で 火手引(ファスイン)が火功を使えば命取りだ…!!!
千音子(チョヌムジャ)が扉を蹴破り外へ出ると 近衛隊が包囲している!
音功を使おうとする千音子(チョヌムジャ)に 容赦なく矢が飛ぶ
笛は吹き飛ばされ もはや音功を使うことは出来ない
チェ・ヨンは 火手引(ファスイン)の体に油を振りかける!
剣を突き付け 生け捕りにしようとするチェ・ヨン
その剣を持つ手が 小刻みに震え始める…!
何なの?という表情の火手引(ファスイン)
『連行しろ!』
チェ・ヨンは 部下に命じた後 表情を曇らせる
自分の中に起こっている変化に気づいてはいたが 認めたくなかった
ウンスは…
『この文字が読めるのですね?』
『あなたも読めるの?』
『文字が分かるからこそ こうして来られた 処刑せんとする私のもとまで』
互いの質問には答えず 問うばかりの2人
その問いこそが答えになっている
『文字を知っていたら公開処刑となる 妖魔として そう?』
『それでは答えにならぬでしょう』
そんな単純な話ではないようだ
ここでの話は 席を立ったら忘れるようにと言われ ウンスも同意する
使臣は 書状に書いた文字は読めなかった
高祖父が残した日誌に刻まれた 未知の文字を真似て書いただけだという
その文字とは ハングル語で“ウンス”
『日誌の片隅に書かれていました 高祖父も何かから書き写したのでは
日誌には 天の道具と地上の薬を使う 女人の話が記されていました
女人の治療で 死ぬべき子の命も救ったとあり』
『死ぬべきだなんて…』
『助けられた者が 後に山賊を率い
故郷に戻り村人を皆殺しにしたとしても 過ちではないと?』
元の使臣は 皇帝の命令ではなく 高祖父の遺言で動いていたのだ
後に 天の医院と称する者が現れたら 即刻処刑し世を救えと…!
ウンスは何も言えなかった
自分がこの世界に来て起きた出来事を振り返る
来たくて来たわけではないにしても 多くの命を 何も考えずに救ってきたのだ
『どうですか? 生かさずともよい者を救いましたか?』
『私は医者よ 見殺しにすべき命などないわ!』
『あらためて聞きます 天人なのですか?』
『…いいえ』
ここが過去の世界だとしても やはり救えるべき命を見捨てられない
そんなウンスに あらためて文字の意味を聞く使臣
『“何のために生きてるの?” そう書いてある』
チェ・ヨンは 手裏房(スリバン)のマンボ兄妹を訪ね 解毒薬について聞く
薬売りの兄妹は あらゆる解毒薬を扱うが “飛び虫の解毒薬”だけはないという
『じゃあ 発症や痛みを抑える薬はあるか?』
痛み止めの薬はあるが 飛び虫に効く保証はない
それでもそれを持って チェ・ヨンはウンスのもとへ急ぐ…!
ウンスは 疲労回復の薬草を煎じ 隊員たちに飲ませていた
今日ウンスがどこへ行っていたかも知らず チェ・ヨンは率先して煎じ薬を飲む
隊長の笑顔に 隊員たちも笑い出し 兵舎は久々に和やかな雰囲気に包まれた
ひとりになると ウンスは 使臣の言葉を思い返す
何も助けず 何も殺さず この世の中に触れることなく生きられるかと問う使臣
天界から来た天人なのかどうかが重要なのではない
ウンスがこの世の害になるのなら それを排除するのも自分の役目だというのだ
「私は世間には疎いけど 人体には詳しいわ
少し害のあるものが入ってこそ体は丈夫になる 抵抗力がつき免疫もつくわ
聞きますけど
先を憂いて何もせず生きることが正しいの?世の中が変わるのは私のせい?
どこから来たかより 今 この場所が大事!」
話しながら ウンスは苛立って来た
「何よ 殺すなら殺せば?!
好きにすればいい!必死に生き抜くから!!!」
使臣との会話を振り払うように ウンスは髪をほどいた
それに気づいて櫛を渡そうとするチェ・ヨン
軽くて小さな櫛が チェ・ヨンの手から滑り落ちる…!
何度拾い上げようとしてもうまくいかず たまりかねてウンスが拾う
寝不足で疲れているせいだと ウンスの心配を遮るチェ・ヨン
並んで床につきながら 手を差し出すと ウンスはためらいなくその手を握る
自分の体の変化に 不安を覚えるチェ・ヨンだった
翌朝
恭愍(コンミン)王のもとに公文書が届く
徳興君(トックングン)への尋問を 征東行省が行うので
高麗(コリョ)王に 丞相として立ち合ってほしいという…!
この要請に 王は必ずやって来るとほくそ笑むキ・チョル
自分なら絶対に断るのに という徳興君(トックングン)
『徳興君(トックングン)様は御身大事なお方 王は対面が大事なお方です』
『私は政(まつりごと)に無関心ゆえ』
政事をしたくて王になりたいのではない
徳興君(トックングン)は その玉座だけを欲しているのだ
その座に就けるなら 誰が政事を行おうが知ったことではない
それでこそ 玉座に関心はないが 国が欲しいキ・チョルとうまくいくのだ
『なぜ対面を気にするのか理解できぬ』
『王位に就くまでは 対面も大事にしてください
今日の尋問には 元の使臣も同席するはず 決して逆らわぬよう』
キ・チョルは 王が現れたら人質に取り 軍を掌握するつもりでいる
王とはまったく違う意味で“無血の新王誕生劇”を画策していた
『血流の場は別に用意いたします』
恭愍(コンミン)王は キ・チョルの策を見抜いたうえで 言うままに動こうという
自らが囮になると言い出し 耳を疑うチェ・ヨン
『釣りは分からぬ』
『別の策を!』
『余が動けば 重臣らも重い腰を上げよう』
王がそう言うなら チェ・ヨンは従うのみ
全軍を出せば 敵も全軍で待ち構えるだろう
あくまで禁軍(クムグン)の待機を気取られず 近衛隊のみで王を守るのだ
※禁軍(クムグン):王を護衛する王直属の部隊
『12名で王を守り 残りは表で待機せよ!』
近衛隊の精鋭が チェ・ヨンと共に征東行省へ出向く
皇宮に残せるのは新人隊員だけとなり ウンスを守ることが出来ない
自分はまもなく王妃のもとへ診察に行き その後はじっとしているというウンス
『手の具合はどう? 少しでも違和感があれば主治医まで!』
チェ・ヨンの身支度を整えながら 母親のような口ぶりのウンス
身を任せながら 満足そうに微笑むチェ・ヨン
『返事は?』
『新人とは思えぬ生意気な口ぶり』
その時 背中でウンスが動かなくなった
必死に感情を殺し 笑顔を取り戻すと 元気にチェ・ヨンを送り出すのだった
約束通り ウンスは 解毒薬の研究に没頭し時を過ごす
その皇宮に 黒笠の人物が忍び寄る
完全に気配を消した侵入者に 新人隊員たちは全く気づかない…!!!
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