第32話 花郎徒の危機
玉門谷への出征軍は ホリム公の遺体を引き 罪人となったキム・ユシンを護送し
鎮痛の面持ちで 徐羅伐(ソラボル)に帰還した
※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)
和親を控えながら なぜ百済(ペクチェ)兵を殺さなければならなかったのかと
善徳(ソンドク)女王は 無念の表情で問う
そして なぜユシンを捕えたのかと…!
閼川(アルチョン)は ユシンが敵将と密会し その理由も明らかにしないと報告する
そして厳しく追及し ホリム公殺害との関わりも明かすべきだと…!
『ユシンの件は 余が熟慮の上で処決する
ホリム公の葬儀を 花郎徒(ファランド)首長の礼遇で行う
出征で戦死した者たちも 戦功によって遺族に褒賞を贈り慰労する』
※花郎徒(ファランド):花郎(ファラン)に仕える貴人の子弟
キム・ヨンチュンは ユシンが 善徳(ソンドク)女王の密命で動いたことを知る
ユシンがそれを明かさないのは 王室の権威を守るためであろうと
『余が今 国王の権威で朝廷の意思をくじかねば
これからも 朝廷にへつらう非力な君主にしかなれぬ!』
牢獄のユシンのもとに ピダムが現れる
『いっそ百済(ペクチェ)軍と手を結び 陛下の命を狙ったと自白しろ!
感づいたホリム公を殺したと 白状して罪を請え!』
『私が殺していないことは よく知っているはずだ
私に罪を着せるのは構わぬが ホリム公の件はむやみに口にするな』
ピダムの手には ユシンがウィジャ太子に渡した女王の親書があった…!
なぜそれを ピダムが持っているのか…?!
『ユシン公 陛下の権威を守るために 濡れ衣を着たまま処刑されてもいいのか?
ユシン公の忠誠心が どれほど大きいか見届けよう
あるいは命を惜しんで 陛下の権威を失墜させるのか… ウワッハッハ…!』
ホリム公が殺され キム・チュンチュもいない
ユシンも捕えられたとなれば 花郎徒(ファランド)はどうなるのか…!
ヤムジョンとフムスンが 陛下に直訴すると騒ぐ!
『父上 ユシンを助けられるのは父上だけです!!!』
万明(マンミョン)夫人の訴えに スクルチョンは深く考え込む
下手に騒ぎ立てれば 善徳(ソンドク)女王の権威に傷がつくのだ
『家紋を継ぐべき大事な孫を 獄中に置いてはおけぬ!』
一方 ピダムは 王の親書を閼川(アルチョン)に見せていた
これを知りながら なぜ黙っていたのかという閼川(アルチョン)…!
『陛下の意思をくじく 絶好の機会だと思ったのです』
『何と不忠なことを言う!』
激怒するウルチェ
善徳(ソンドク)女王は 玉門谷に敵がいると知りながら 夢を口実に出兵させた
臣下を戦わせておいて 自分は敵将と和親を結んだのだと ピダムは訴える
『すべては朝廷の気勢をそぐためでしょう!
今 大王をくじかねば 王座の周りは花郎徒(ファランド)出身者と
百済(ペクチェ)和親派で満たされ 陛下の慧眼を曇らせるでしょう!』
ピダムは 閼川(アルチョン)を自分の側だと信じている
そしてまた 先王の真平(チンピョン)王依頼 王を掌中で操るのが朝廷だと信じていた
大王が寵愛する花郎徒(ファランド)と 百済(ペクチェ)和親派を追い出し
朝廷を刷新して国を強固にすべきだと…!
この考えこそが謀反ともいえるのだが 閼川(アルチョン)は考え込んでしまった
牢獄のユシンのもとに チャビが現れる
ホリム公が殺害される直前 ピダムが兵を率いて陣営を出たと…!
『ピダムがホリム公を殺害した証拠を 何としても探しだせ!!!』
スクルチョンが 謹んで善徳(ソンドク)女王の前に立ち
徐羅伐(ソラボル)の貴族代表として また先王に仕えた領袖として忠言する
善徳(ソンドク)女王は 王室の権威を高めようと
内政では朝廷との和合を図り 外交では百済(ペクチェ)との和親を図っている
しかしながら 女王を王位に就かせた功績を振りかざす朝廷が
王室の権威に挑み 百済(ペクチェ)との和親に反対している
そればかりか 国一番の忠臣であるキム・ユシンに濡れ衣を着せ
大逆罪人にしようとしていると…!
この国の王は 善徳(ソンドク)女王ただ1人であり その権威は決して揺るがない
どうか威厳をもって采配を揮ってほしいと 嘆願するスクルチョンだった
善徳(ソンドク)女王は スクルチョンの言葉に勇気をもらい
百済(ペクチェ)との和親を進めたいと切り出す
しかし 玉門谷で兵を惨殺された百済(ペクチェ)が 応じるはずがないという重臣たち
善徳(ソンドク)女王は 党項(タンハン)城の航路を開いてでも
再び百済(ペクチェ)の信頼を得る覚悟だという
閼川(アルチョン)をはじめとする重臣たちは 陛下の決心に従うと答え
ひとりピダムだけが 青ざめている
和親のための条件には おそらく使臣を惨殺した自分の処刑も入るだろうと…!
『王命で キム・ユシンを赦免する』
『百済(ペクチェ)と内通した嫌疑が晴れていません!!!』
取り乱すピダムに 善徳(ソンドク)女王は 山ほどの嘆願書を見せる
赦免の王命を出すには 相応の理由があるのだと
放免になったユシンを 家族が出迎える
ユシンは チュンチュの長男ボムミンの功を褒めた
玉門谷に兵を送るため ボムミンが女王に協力したのだった
『立派だ 父上が戻られたら誇りに思われるはずだ』
最も頼れるユシンを放免し 善徳(ソンドク)女王はつらい思いをさせたと詫びる
ユシンは ウィジャ太子が和親を望んでいたと報告する
多くの誤解が重なり 訣別の形になったが きっと和親は成就すると進言する
謁見を終えたユシンの前に ピダムが現れる
和親交渉のため 今後も尽力するというユシンに 常に注視していると言い放つ
『私もピダム公から目を離さぬ
ホリム公を殺し 和親を妨害した犯人の正体を暴いてみせる
そ奴の首を斬り 百済(ペクチェ)との和親のための捧げものにする!』
今や ピダムの同士となった閼川(アルチョン)は 和親を阻止する名分がないという
先王の時代 スクルチョンとやり合っていた頃は こうなるとは思ってもいなかった
閼川(アルチョン)もまた 王室の権威を容認できない朝廷の人間だったのだ
一方 スクルチョンは 自分の説得で孫を救い出せたと しきりに自慢している
この祖父と孫もまた 対立した長い年月を経て分かり合ったのであった
こんな関係になれるとは夢にも思わず 憎しみ合った時代があったのだ
そこへ ムニが泣きながら駆け込んできた
ボムミンが 刑部(ヒョンブ)に連行されてしまったと…!
ピダムは ボムミンが 友人らと玉門池でカエルの鳴き真似をしたという事実に
誰の差し金で 何の魂胆でそんなことをしたのかと尋問する
ただのイタズラが罪になるのかと 果敢に言い返すボムミン…!
『大王陛下のお心を乱し 民心を離反させた大逆罪だ!
黒幕の名を吐かねば その子らがお前の代わりに罰を受ける!』
キム・チュンチュの息子であれば たとえ幼くとも 罰を受けて死ぬと言うだろう
しかし 代わりに友人が罰を受けるとなれば話は違う
『実に厚かましい 平然と偽りを言うとは 父親にそっくりだ!』
『父上を侮辱するな!!!』
感情に任せて子供をいたぶっているのではない
ピダムは 父親譲りのボムミンの心を 自在に操っているのだ
そこへ ユシンとフムスンが駆け込んでくる…!
ボムミンはチュンチュの息子だが 2人にとっては妹が生んだ可愛い甥である
ピダムが 王命でボムミンが動いたと 知りながら捕えたことは承知している
『将帥ともあろう者が 幼い子供で恨みを晴らそうとは…! 実に卑劣だな!』
『卑劣なのはお前だ!!!』
名声を笠に着て 甥の罪を無いものにしようとは…!
国法の前には罪の有無があるのみだと言い放つピダム
ボムミンは 伯父ユシンに 堂々と取り調べを受け無罪を訴えるという
『ボムミン 耐えられるか?』
『ご心配なく ピダムごときに負けません!』
そうは言ったものの 縛り上げて吊るされ したたかに打たれた脛は腫れ上がっている
朦朧とする意識の中で 父親の声が聞こえてくる気がした
(ボムミン 頑張れ! 大義を守るには脅迫に屈してはならぬ
将来 三韓一統の大業を遂げるには より大きな試練と苦痛に耐えねばならぬ!)
※三韓一統:新羅(シルラ)・高句麗(コグリョ)・百済(ペクチェ)の三国統一
刑場に 善徳(ソンドク)女王が現れた
ピダムは 国法の権威を示すためにも たとえ幼子でも罪は問わねばという
『私に 非力で幼い子供たちに権威を誇示する君主になれと?!
王命に背くというのなら お前の罪を先に問う! 直ちに放さぬか!!!』
善徳(ソンドク)女王は 縄を解かれたボムミンと子供たちのそばに駆け寄る…!
『大王陛下…!』
『お前に何の罪がある 二度と 非力で貧しい民が不条理な罰を受けぬようにする!』
ボムミンも子供らも 最後まで女王の名を口にはしなかった
命惜しさに 衷情の心を売るようなことはしなかったのである
ピダムは あらためて善徳(ソンドク)女王の前で進言する
王座の権威を示さねば 民の信望と尊敬は得られないと…!
『百済(ペクチェ)や高句麗(コグリョ)の挑発に
決して負けぬ強い君主であると示してこそ 朝廷の臣僚や辺境の将帥も
心から忠誠を捧げます…!』
『ピダム… 王座に就きたいのか?』
思いがけない女王の言葉に ピダムは動揺する
今は 決して逆心を疑われるべきではない
『余は そなたらの推挙で王座に就いたが
すべての民を守るべき 新羅(シルラ)の国王だ!
余を 意のままに動かそうとするな!』
『陛下 誤解です!!!』
『ボムミンに カエルの鳴き声を真似させたのも
ユシンを太子に会わせたのも すべて余の命令だ! よく知っておろう!!!
それなのにそちは 和親を阻止するためユシンを大逆罪に問い
百済(ペクチェ)軍を全滅させた! その上ボムミンまで罪人にする気か!!!
王座の権威を示せと言いながら なぜ余に逆らう!
まこと忠臣なら 余の意思をくじくな!
王命に背くなら そち首を斬り 王の威厳を天下に示す!!!
分かったら下がれ!』
泗沘(サビ)城では
玉門谷に散っていった兵の魂を慰めるには 新羅(シルラ)王の首を撥ねるしかないと
ウィジャ太子が 憎しみをあらたにしていた
しかし今度は 武(ム)王の方が和親を受け入れると主張する
戦死した兵士の無念は分かるが 堂項(タンハン)城の航路を開くとなれば話は別だ
国益のためには 和親を受け入れることの方が重要なのである
『お前に 使臣らの接待を任せる
接待に手落ちがないよう 万全を期せ!』
武(ム)王は 広く国全体を見据え 民の飢えをなくすことで戦死者に報いようと考える
しかし 若きウィジャ太子には それが理不尽であるとしか思えないのだ
太子より先に王位に就いた善徳(ソンドク)女王もまた 民を思う一心である
同じく三韓の平和を願いつつも 互いの思いはすれ違うばかりだった
将軍ユンチュンは ウィジャ太子の腹心として どんな命にも従うと誓う
父王の意思とは別に どうしても持論を曲げられないウィジャ太子であった
スクルチョンが 再び使臣として泗沘(サビ)城へ向かおうとしていた
善徳(ソンドク)女王は 無事帰還するまで皇龍寺で祈りを捧げるという
再び朝廷を牛耳りたいという野心はあるものの スクルチョンの忠臣は本物だった
そして この大役を果たしてこそ 可愛い孫たちの未来も明るくなるだろうと
『どうかご無事で』
『ああ 任せておけ!』
祖父を激励して別れたユシンのもとへ ナンスンとチャビが現れる
ピダムの兵士が酒場で良い ホリム公を斬ったと話したという
これを捕えて締め上げれば すぐに口を割るだろうというチャビ
すぐにもピダムを斬り ホリム公の霊前に捧げると息巻くフムスン
ユシンは そんな弟を厳しく叱りつけた
確証がないまま軽挙に走れば 花郎徒(ファランド)が危機に陥ると…!
『ピダムを放っておくのか?!!!』
『今は時機ではない』
まずは 百済(ペクチェ)との和親が先決であった
それこそが大王陛下の悲願であり 三韓一統への道なのである
善徳(ソンドク)女王は 皇龍寺で祈りを捧げながら
重臣らを呼び 新たな寺の建立をするとの考えを示した
寺を建立することによって道が整備され 洪水が多い土地で暮らす民を救えると
しかし閼川(アルチョン)は ようやく民心が落ち着いたのに
財物と多くの人出が必要になると 賛同しない考えを示した
今や ことごとく王の考えに反意を示す代表のようになっている
『陛下の志がいくら立派でも 寺の建立で負担が増すのを喜ぶ者はおらぬ!』
まずは王の意を理解し それを叶えるための策を講じるということがない
所詮は 度重なる内乱により 後継者がないまま不本意ながら女王が決まった
心からの忠誠を誓うという構図になっていないのだ
国の創始者でもない限りは 受け継ぐ者への不満はついて回るものである
ピダムのもとに 百済(ペクチェ)の刺客が徐羅伐(ソラボル)に入ったと知らせが届く
将軍ユンチュンが ウィジャ太子の命を受け 善徳(ソンドク)女王を討ちに来たのだ!
ピダムは 一体誰が本物の忠臣か見せてやると息巻く…!!!
まずは ユシンのもとへ行くピダム
そしてウィジャ太子が 使臣スクルチョンを国境付近で殺害しようとしているという
百済(ペクチェ)王が和親を承諾しているのに なぜ太子が…!
それを言うなら 自分も王命に背き使臣を斬ったというピダム
何度も欺かれたピダムを信じてもいいのかどうか…
しかし 信じずに無視して祖父が殺されては一大事である
その夜
皇龍寺に火が放たれ 避難しようとする善徳(ソンドク)女王の前に賊が現れる…!
事前にこれを知っていたピダムは 容易くこれを撃退し女王を救った
ウィジャ太子が刺客を送ったという事実は 女王を激しく混乱させる
そして 表では和親を承諾しながら 裏では刺客を送る百済(ペクチェ)とは
決して和親を進めることは出来なという閼川(アルチョン)
ピダムは押し黙っている
あとは口うるさい朝廷に任せておけばいいのだ
自分は またしても女王を救った英雄だと…!
『陛下を守るべき花郎徒(ファランド)は何をしていたのだ!!!』
ウルチェの叫びに 花郎徒(ファランド)への怒りが沸き上がる
ピダムの情報で ユシンは花郎徒(ファランド)を率いて国境に向かっていたのだ
ユシンとフムスンが 祖父スクルチョンの行列に追いついたその時
敵の矢がスクルチョンをかすめた
それは ウィジャ太子が放った矢であった…!
『キム・ユシン!徐羅伐(ソラボル)に戻り女王に伝えよ!
私が太子でいる限り 両国が和親を結ぶことはないとな!!!
百済(ペクチェ)は 新羅(シルラ)の奴らとは 決して同じ空の下では生きられぬ!
いずれ新羅(シルラ)を征伐し 新羅(シルラ)王室を根絶やしにしてやる!!!』
凍りついたウィジャ太子の心と同じように
善徳(ソンドク)女王の心も 完全に凍りついてしまった
喜んだのは 閼川(アルチョン)をはじめとする朝廷の臣僚たちである
ピダムは 花郎徒(ファランド)たちを次々に捕えていく…!
何という非道なことを!と激怒するユシン
しかしこれは皆 王命によるものだと ピダムは平然と言い放つ
『王室を守るべき花郎徒(ファランド)が 刺客侵入の報告を受けながら
大王陛下の護衛を放棄し 家長を救うために都を離れた罪だ!!!』
いかにも その情報をくれたのはピダムなのに… ユシンは唖然とする
『花郎徒(ファランド)を 王室を守る任務から外し
王室と神宮の祭礼だけを担当させる
花郎徒(ファランド)の軍事訓練も禁ずる!』
『そうはいかぬ! いかなる者も花郎徒(ファランド)の護国精神を奪えぬ!!!』
『ユシン公 大王陛下の命令に背くつもりか!!!』
『たとえ大逆罪人として死のうとも 花郎徒(ファランド)を守り抜く!!!』
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