第31話 壊れた和平
ユシンの槍術にかなう者はいない
このままでは太子の命が危ないと察した将軍ユンチュンは
ウィジャ太子を説得し 撤退していく
玉門谷の陣を奪い取った新羅(シルラ)軍は
閼川(アルチョン)を中心に戦列を立て直し ウィジャ太子を追跡すると息巻く…!
ユシンは 深追いは禁物だと進言した
ウィジャ太子の側近がどれほど精鋭か その強さを熟知しているのだ
それでなくとも閼川(アルチョン)は負傷している
徐羅伐(ソラボル)に援軍を要請し それを待つべきだとキム・ヨンチュンも促すが
老体とはいえ血気盛んな閼川(アルチョン)は 決して納得しない
※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)
ユシンは 潜伏させていた鬼門のナンスンを呼び寄せ 敵の居場所を聞く
ウィジャ太子は このままでは泗沘(サビ)城に帰れないという
敵が油断した隙を突き 必ずや起死回生を狙うというのだ
将軍ユンチュンは 圧倒的に兵が足りな過ぎると進言する
このままでは全滅も免れないと…!!!
『ユンチュン 泗沘(サビ)城へ行き 父上に援軍を請うてこい!』
玉門谷は起伏が激しく 戦略を講じれば少ない兵でも勝利できる
ウィジャ太子は 援軍を待ちながら敵を攻略するという
まもなくして 百済(ペクチェ)軍の潜伏先にユシンが兵を率いて現れる…!
しかしすでに 敵は移動していた
ユシンは ヨムジャンの軍勢を僅かに残し ウィジャ太子を追跡する!
敵の足跡を辿って行くと なぜかさっき別れたヨムジャンと遭遇する
ユシンたちが辿った足跡は 偽物だったのだ!
『だまされた!陣営に戻ろう!!!』
ウィジャ太子は 追跡してきたユシンを迎え討つのではなく
兵が少ない新羅(シルラ)の陣営を奇襲したのである…!!!
ユシンが戻ると 兵糧には火が放たれ 蜂の巣を突いたような大騒ぎになっていた!
軍馬もすべて殺され 身動きが取れない事態になっている
この様子を確認したウィジャ太子は 陣営に戻っていく
あとは ユンチュンが援軍を率いて戻るのを待つだけであった
この報告を受けたピダムは すぐに玉門谷に向かうという…!
玉門谷には兄ユシンがいるのに!というフムスン
しかしピダムは ユシンなど信用していないと言い放つ
敵の太子と通じている者など 信じられないと…!
『風月主(プンウォルチュ)も 疑われたくなければ私の命令に黙って従え』
※風月主(プンウォルチュ):花郎(ファラン)の首長
百済(ペクチェ)の援軍が到着する前に 太子を討伐できなければ
両国は全面戦争になっていく
ピダムの判断は 賢明だと言わざるを得ないのだ
我が息子の奮闘を知った百済(ペクチェ)の武(ム)王は
自ら出陣し 援軍の兵を差し向けるという…!
一方 新羅(シルラ)の王宮では
スクルチョンが 善徳(ソンドク)女王に呼ばれていた
『泗沘(サビ)城へ行き 百済(ペクチェ)王に和親を請うてほしい
玉門谷での戦いが火種になり 戦争が起きてはならぬ!
余は 戦乱で民が苦しむ姿を見たくない 百済(ペクチェ)王に余の意思を伝えてほしい』
スクルチョンは いまだにこのような重責を任せてくれるとは… と感激する
命に代えても 必ず使命をやり遂げると誓うのだった
万明(マンミョン)夫人は 使臣を殺害され恨みを抱いている百済(ペクチェ)王に
老いた父親が殺されはしないかと心配する
『按ずることはない 太子が玉門谷で包囲されている状況ゆえ
私には手を出せまい 見ておれ このまま隠居でいるよりは
この機会を活かし 再びこの手で朝廷を牛耳ってやる! ハッハッハ…!』
その頃 玉門谷の陣営にピダムが到着していた
しかし善徳(ソンドク)女王が 百済(ペクチェ)に和親を請う使臣を送ったと聞き
まったくあり得ないことだと激怒する!!!
戦争を避けたいという善徳(ソンドク)女王の考えとは まったく違う思考のピダム
極寒の地で臣下が戦っているのに!と怒りをあらわにする
『和親前に 太子の首を撥ねるべきです!!!』
和親の交渉が成されている場合 互いの兵は攻撃を控えるべきである
そういうキム・ヨンチュンの考えにも ピダムは納得できないのであった
『ピダム公!なぜ大王陛下の意思に逆らう!それが不忠だと分からぬか!!!』
『忠臣が国を憂いて嘆くことが なぜ不忠なのだ!!!
ユシン公のように 偽りの足跡を辿り 敵にたぶらかされるのが忠義なのか!!!』
『やめよ!!!』
この討伐隊の大将は閼川(アルチョン)である
閼川(アルチョン)は2人に 何としても太子を始末せよと命じた
和親が成立するまでは 大王陛下の命令に背いたことにはならぬと!
泗沘(サビ)城では
ようやく到着したスクルチョンが 善徳(ソンドク)女王の意思を伝えていた
使臣を殺めた件についても 大変遺憾であると…
『私がお前の首を斬って帰しても 新羅(シルラ)王はそう言うだろうか』
『我が王は また別の使臣を送り 和平を請うことでしょう
ですが 賢明な大王陛下は 老い先の短いこの年寄りの首と
百済(ペクチェ)の王位を継がれる太子様の命を 引き換えにはなさらぬと信じます』
老齢なスクルチョンの交渉術が 百済(ペクチェ)王の心を軟化させた
国書が届くまでは 太子の安全を確保してほしいと…!
今まさに 和親を打ち砕く太子討伐へと 新羅(シルラ)の軍勢は動いていた…!!!
一刻も早く この返答を持ち帰ろうと 帰途を急ぐスクルチョンの前に
ピダムが兵を率いて現れ 百済(ペクチェ)王がどう返答したのかと聞く
まずは陛下に伝えるべきことを なぜこの場で言えようか!スクルチョンは激怒する
仲間のイムジョン公とフジク公が なぜ死んだのかと 不敵に詰め寄るピダム
『私を脅すつもりか!!!』
『スクルチョン公の遺体に 百済(ペクチェ)軍の矢を刺しておけば
百済(ペクチェ)の仕業と思うはず そうなれば両国の和親も消える それをお望みで?』
この場で死ぬわけにはいかない
スクルチョンは 忌々しく思いながらも ピダムが欲する情報を与え 先を急ぐ
善徳(ソンドク)女王に 朗報を伝え ピダムを警戒すべきだと告げる
兵権を持つピダムは 和平を望んでいないと…!
『国書が届く前に 事態を悪化させる恐れがあります
そうなれば 両国の間に埋められぬ溝が出来ることでしょう』
同じ時 将軍ユンチュンが 和親の話し合いが成されたことを報告し
援軍が来ないと知ったウィジャ太子は 愕然としていた
敵に囲まれている状況で 援軍が来なければ もはや助かる道はない…!
『太子様 取り敢えず泗沘(サビ)城に戻り 後日を期すべきかと』
善徳(ソンドク)女王は 国書が届く前に ピダムがウィジャ王子を殺めれば
すべてが無になり 両国は戦争状態に陥ってしまうと憂える
そんな大王陛下に 幼いボムミンが 出征軍に撤退の命令を下しては?という
『ボムミン いくら国王でも 朝廷の意思を無視して王命は下せぬ
そうなれば国王の権威を失い 誰も王命に従わぬようになるか
民心の分からぬ暴君になり 王座を守れなくなる』
善徳(ソンドク)女王は ムニに 兄ユシンへの伝令が出来るかと聞く
ムニは 鬼門のチャビに伝令を託すことに
ピダムは 三韓の和平など断じて許すことは出来ぬと激怒する
国が戦乱にあってこそ 朝廷を牛耳ることが出来るのだと…!!!
世の中が平和に戻れば 自分はまたしても辺境に戻らねばならない
そのことが ピダムを戦争へと駆り立てていた
『精鋭兵100人を選抜しておけ この手で和親を阻止してやる…!』
キム・ユシンは 敵ではなく ピダムがどう動くかということを警戒していた
これに対し キム・ヨンチュンも同感の意を示す
和親が成立すれば 使臣を殺めたピダムは処罰せざるを得ない
その意味も含め ピダムの行き過ぎた動向を警戒すべきだと…!
ホリム公が兵を率い ピダムの兵を阻止することとなった
そこへ チャビが現れ 大王陛下の書信をユシンに渡す
太子を無事に泗沘(サビ)城へ帰すことこそが 和親の条件となる
女王が危惧しているのは まさにユシンと同じであった
そして ユシンだけが 善徳(ソンドク)女王の意思を
ウィジャ太子に伝えることが出来ると信じていた
ユシンは 直ちにウィジャ太子のもとへ向かう
使臣が殺されたことは ウィジャ太子の心を頑なにしていた
使臣は ユシンとも親交のあった精鋭の将軍だったのである
新羅(シルラ)王が信じられないなら この場で自分の首を斬ってくれというユシン
しかし 太子に 三韓の和平を願う大義が残っているなら
今すぐ百済(ペクチェ)に戻ってほしいと…!
『今度こそ 三韓の和平を成せる最後の機会です!』
ユシンの行動は ピダムに筒抜けだった
陣営を離れたなら それは太子に会いに行ったことを意味する
ピダムは 今こそが好機だと 準備させた100人の精鋭を動かすのだった…!
ウィジャ太子討伐に向かうピダムの精鋭兵と ホリム公の軍勢が遭遇する
ピダムは 和親を口にして 新羅(シルラ)の将帥を殺す百済(ペクチェ)との和平など
絶対にあり得ないのだと言い放つ…!
何を言っているのだ? ホリム公には言っている意味が分からない
『ホリム公には… 和親を阻止するための生贄になってもらう』
『何だと?!!!』
花郎徒(ファランド)首長の名誉に懸けても ピダムの逆心は許せない!
両軍の兵が 一斉に戦闘態勢に入る…!!!
※花郎徒(ファランド):花郎(ファラン)に仕える貴人の子弟
勇猛なる将帥ホリムであったが ピダムも辺境で鍛え上げた猛将である
兵士が次々にホリムを攻撃し 弱ったところにピダムがとどめを…!!!
『大王陛下は… お前の逆心を… 決して許されぬだろう…!』
ホリムの遺体は ピダムによって陣営に運ばれた
百済(ペクチェ)軍に殺されたという報告に ユシンだけはあり得ないと否定する
しかし 無断で陣営を離れたユシンを 閼川(アルチョン)が追及する…!
ユシンは敵の太子に会って来たのだと 平然と言ってのけるピダム
そしてユシンが 王命だとは決して口に出来ないと
また嘘がつけないユシンの性格を 充分に知っているピダムだった
討伐すべき敵の太子との密会など 考えられない行為である
謀議をしたと見られても やむを得ないことであった
これもまた 実直過ぎる閼川(アルチョン)の性格を利用した ピダムの策だった
『会ったのは事実ですが 理由は話せません!』
『何?!!! ユシン公を信じていたのに…!』
ピダムは笑うしかない
何ともバカげた 実直な者同士の姿は滑稽でしかなく すべて思い通りに転がっていく
『軍令に背き 敵将と密会したユシンの罪を厳しく問う!!!』
キム・ヨンチュンもヤムジョンも 何か訳があるはずだと進言する
兵に信望の厚いユシンを捕えれば 一気に士気が下がるというが
戦闘中に敵将と密会したという一点で 閼川(アルチョン)は激高し取り合わない
戦場で功を立ててきた閼川(アルチョン)には そういう意味で熟慮がないのだ
『百済(ペクチェ)の太子を捕え ユシン公と何の謀議をしたか問うべきです』
ピダムは平然と言ってのけた
ホリム公を殺めた敵を放っておくのかと 閼川(アルチョン)を煽るのだった
ユシンは 獄中からナンスンに指令を出す
ホリム公を殺したのは百済(ペクチェ)軍ではなく 必ず真犯人がいると…!
ナンスンが立ち去ると ピダムが牢に近づく
『百済(ペクチェ)との和親はない
百済(ペクチェ)と内通したお前の大逆罪を 太子を殺した後に追及してやる!』
ピダムは 花郎(ファラン)を従え 帰還途中のウィジャ太子を包囲する
新羅(シルラ)王の親書を差し出し 道を開けよというウィジャ王子
※花郎(ファラン):美しく文武両道に秀でた青年の精鋭集団
『百済(ペクチェ)の太子ともあろう者が 偽りの親書をでっち上げ
命乞いをして逃げる気か!!!』
ピダムは 親書を差し出した百済(ペクチェ)兵を斬り殺した!
『私は 百済(ペクチェ)の太子と兵を皆殺しにせよと王命を受けた!惨殺せよ!』
将軍ユンチュンは 戦線を離脱して逃げるべきだという
ウィジャ太子は 次々と死んでいく兵士を見捨てられないと…!
しかし ここで討ち死にすれば その死さえも無駄になるというユンチュン!
後日を期してこそ恨みも晴らせると!!!
(今日のことは決して忘れぬ!
新羅(シルラ)の奴らとの和平は決してない!!!)
ウィジャ太子を取り逃がしはしたが ピダムの策は成功したと言えよう
少なくとも 両国の和平交渉は壊れたのだから
『天に誓う! この手で新羅(シルラ)王室を倒す!!!』
『追手が来ます 先を急ぎましょう!』
馬を駆るウィジャ太子とユンチュンを 遠くから見つめるのはキム・チュンチュ…!
(どうしても 三韓の戦乱は避けられぬのか…)
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