16話 悲しみの新婚旅行
チェギョンを連れ出し 朝陽を見に行くと言ったシン
2人は海辺で思いっ切り駆け回り 幼い子供のように遊ぶ
遊び疲れて車内で寝転ぶと チェギョンが唐突に『おめでとう』と言う
シンには 何の意味の『おめでとう』か分からない
『宮廷に閉じ込められたイ・シンじゃなく
風を感じられる 本物の人間になれたことよ』
シンは チェギョンを 皇室の避暑地に連れてきた
皇族たちが夏季休暇を楽しむ行宮(あんぐう)である
ようやく落ち着くと そういえば何も食べてないことに気づく2人
チェギョンは ボウイスカウト出身のシンに 何か作ってとせがみ
2人は近くのスーパーへ買い物に出かける
何をしても シンには楽しいことばかりだった
悪戦苦闘で作った食事は 思いのほか美味しかった
ここでチェギョンが 本当に朝陽を見せるために連れてきたのかと聞く
シンが慣れないことをするのには 何か理由がある気がしたのだ
『もしかしてこれが 最後の旅行?』
『何でそう思うんだ?』
『この前 そういう話をしたでしょ? それにヒョリンのことも…』
『もうヒョリンのことは気にするな 最後の旅行なんかじゃない』
シンが変わったことと言えば こうしてはっきりと言葉にしてくれることだった
2人で共白髪はどうだ?と言われ チェギョンはご飯を吹き出してしまう…!
若者が使う言葉ではないのに シンは それでも結構真面目に言ったのだ
『自由にしてやりたい気もするけど
死ぬほどそばにいてほしいと思うこともあるんだ
自由にするって決心がつかないなら 共白髪もいいかと思ってな』
『退屈だから?』
『違うよ 一緒にいると楽しいんだ』
ここ最近は チェギョンの方が素直な気持ちになれず
シンの方がストレートに気持ちを表していた
その夜
合房の時のように 2人はひとつの布団で眠る
寝入っているチェギョンを引き寄せるシン
チェギョンは 無意識のままシンの胸に顔をうずめた
宮殿に戻った2人は シンの部屋の大画面で撮って来た画像を鑑賞する
本当に楽しそうな2人の様子に つき合わされた侍従長も満面の笑顔
そんなチェギョンの携帯に 父親から着信が!
今や保険の外交員で 稼ぎに稼いでいる母親が資金を出し 車を買うという
太皇太后様の車を大破させた娘が 肩身を狭くしている娘への贈り物だと!
一方 療養先から戻った皇帝は そのまま激務を続けていた
皇帝不在の時にも 立派に代役を務めていた皇太子に任せては?という皇后だが
『最近の皇太子は信用できません』
『陛下 太子はまだ幼いのですよ
こういう時ほど 太子に手を差し伸べるべきでしょう』
『この前の事件以来 太子の性格が取りざたされています
皇室は 歴史と伝統の象徴であり 国民たちの精神的支柱です
皇室が今まで存続しているのは 皇室を守ってくれた国民たちの努力のおかげです
こういう時ほど 太子の役割が重要なのに…』
先日 シンと言い合ったことが わだかまりになっていたのだ
そこへ 義聖大君ユルが謁見に訪れたと知らせが入る
あらたまって話があるとの申し出に 皇后は気遣って席を外した
『海外に 不法に持ち出された文化財の件について お話をしに参りました』
『感心だな 本来 太子がすべき事を君がしてくれるとは』
立ち去り際に聞いた2人の会話に 皇后は不快感を覚える
息子の 太子としての地位が盤石ではないことを思い知らされるのだった
その頃ヒョリンは 思い出の駅舎にひとり来ていた
そこは シンと初めて出会った場所だった
「君も家出か?」
一瞬で心が通じ合った2人は 記念に電車のチケットを土に埋めた
目印に置いた大きな石もそのままに 2人の過去は変わらずにそこにあった
学校で ヒョリンは相変わらず嫌われ者だった
シンとチェギョンのキスの報道がされ 夫婦仲がうまくいっていると認知されたことで
ヒョリンには 皇太子を誘惑した悪女のレッテルが色濃く貼られたのだ
(わざとタイに行ったらしいよ)
(恥ずかしくないのかな?)
(皇太子をバカにしないでほしいわ!)
(最低な女!)
そんな聞こえよがしのバッシングから逃げる場所
そこには いつものようにシンが立っている
『昔のままね 高1の時からみんなに隠れて よくここで会ってたよね』
『……』
『タイでのこと 覚えてる? シンにとってはどうか分からないけど
私にとっては幸せな時間だった 一緒にトゥクトゥクに乗ったことも
パパラッチから逃げてゲストハウスに入ったことも みんな忘れられない
私はいつも影の存在だった でもあの時だけは 私でいられた気がするの』
ヒョリンの時は止まったままだ
でも シンの心は違う
『あの子のこと 本気で好きなの?』
『…好きになったみたいだ』
シンの言葉は衝撃だった
その心が自分にあると信じるからこそ バッシングも耐えられたのに…
あの日 なぜシンのプロポーズを受けなかったのか ヒョリンは悔やむ
「結婚しないか?」
「…何?」
「聞こえなかったのか?プロポーズしてるんだ
顔も知らない女と結婚するよりいいだろ?
俺たちは お互いのことよく知ってるしな」
シンとチェギョンは 校内でも仲が良かった
明るくてイタズラ好きなチェギョンに感化され シンも負けてはいない
睦まじくふざけ合う2人に 友人たちが慌てふためいて知らせに来る
ヒョリンがトイレで 薬を飲んで倒れていると…!!!
この自殺未遂騒ぎで 2人の仲は一気に気まずくなる
当然 ヒョリンのもとへ駆けつけたいだろうと シンを気遣うチェギョンだが
そんなことが出来るはずもなく シンは部屋に引きこもってしまう
ヒョリンを病院に運んだのは ずっと見守って来たカン・インだった
叔父の病院の特別室で 献身的にヒョリンを看病する
『すぐに病室を移して うちにはこんな余裕はないの』
『心配いらないよ 入院費のことは全部俺に任せろ』
カン・インは ヒョリンがお嬢様ではないと知っているようだ
『いつから知ってたの?』
『最初からさ』
『……』
『もうやめろよ 傷つくのはお前だぞ
シンは お前のもとに戻って来ない!待ってても無駄だよ
こうなったのは誰のせいだ?あいつは見舞いにも来ないじゃないか!』
チェギョンはすっかり落ち込んでいた
自分もこれまで苦しんできたのに ヒョリンのことが自分のせいに思えて仕方ない
そして何より 落ち込んでいるシンの姿を見るのがつらかった
直接シンに話しかけられなくて チェギョンはユルに思いをぶつける
『2人の間に私がいなければ あんなことしなかったかもしれない
そんなに苦しかったのかな?』
『僕には ヒョリンの気持ちが分かるよ
頭では分かってるんだ 諦めなきゃならないって
でも思えば思うほど 心は反発するんだ』
『だからって あそこまでしなくても…』
ヒョリンはシンを ユルはチェギョンを思っている
この ままならない思いを解決するために
シンをヒョリンに返してやってほしいというユル…!
『最初から ヒョリンのものだったんだ
シンが皇太子でいる間は 君と離婚できない だから君から離れてくれ』
『でも シンだって私を…』
『シンは君に心を開いたかもしれないけど ヒョリンに対する思いの方がずっと深かった
シンは結局 ヒョリンのもとへ戻るんだ』
『でも シンは私と結婚したのよ 離婚したらもっとシンを苦しめるかも』
『それはシンが判断する問題だ
ヒョリンは 愛し合った記憶にしがみついて苦しんでる
もとの場所に戻る時期がやって来たのかもしれない 最初にあった場所に…』
ユルが言う“最初にあった場所”とは
チェギョンと自分の関係も指していた
最初は自分が世継ぎだった
最初はチェギョンが自分の婚約者だったと ユルは言いたいのだ
皇后は 皇太后ヘジョン宮の身辺を調査していた
調査結果を報告する侍従長
最近 ヘジョン宮が親しくしている ひとりの人物が浮かび上がる
『孝烈太子様のご友人の 新聞社の編集局長でございます
皇太后様が入宮された時から 頻繁に会われているようです
私が思うに 皇太后様の奉仕活動がマスコミに報道されるのも
この方の力によるものなのではないかと』
『では タイのゴシップ記事も この人が関わってる可能性があるわね』
皇后の調査の矛先は ヒョリンにも向けられる
皇太后とヒョリンが どういう関係にあるかが重要だった
『人の心は分からないものね
自分の欲望を満たすためなら 何でもするとは…』
チェギョンは 自分の教育係であるチェ尚宮に恋の相談をする
自分ではなく 友達のヒスンの話だと嘘をついて 今の状況を説明し
好きな人を 元カノに譲るべきかと…
しかし チェ尚宮には それがチェギョン自身のことだとすぐに分かった
『皇太子妃様 ご自分のお気持ちを信じてください
心から思っているのなら その思いは必ず相手に伝わるでしょう
もしかしたらすでに 皇太子妃様のお気持ちが伝わっているかもしれません』
チェギョンが思い悩んでいる同じ時
シンは ヒョリンの病室を訪ねた
『そんなに俺が憎いのか?こんなことまでして』
『ロミオの初恋の相手を知ってる?
初恋の相手はジュリエットじゃなくて ロザラインなのよ
ロミオはロザラインに片思いをして とても苦しんでた
でもある日 パーティーで出会ったジュリエットにひと目惚れして
ロザラインのことは忘れてしまうの 彼女のことを知ってる人は少ないわ
彼女はエキストラなの 過ぎ去った初恋であり忘れられた昔の恋よ』
ヒョリンは シンを “ロミオ”と呼んだ
そんなにも自分を愛する心は軽いものだったのかと…
『ごめん』と言うだけが精いっぱいで シンはその場から逃げ去った
ユルは 母親に ヒョリンが可哀想だと訴える
だから一緒にお見舞いに行こうというヘジョン宮
『いつまでもカードを握っていたら 逆襲されてしまう
カードを切る時がやって来たわ』
『誰かにとって切実なことが
他の誰かにとっては何でもないことだって思うと… 恐ろしいよ
もっと早く出会ってれば ヒョリンもこんなことにならなかった
出会うのが遅すぎて… みんな不幸になってしまった!
今は とてもお見舞いに行く気分になれません』
ヒョリンの病室の前に チェギョンの姿があった
思わず『元気?』と声をかけてしまうチェギョン
自殺を図った人間が 元気なはずもないのに
ヒョリンには この無神経さがどうしても許せなかった
不器用で とても繊細とは言い難いチェギョン
ヒョリンの自殺の原因が自分にあるとしても それでも訪ねてしまう思いがある
それが到底 ヒョリンには理解されないとしても
ヒョリンの自殺未遂の報告を受け 驚いたのはヘミョン姫だった
なぜヘミョンがヒョリンという子を知っているのか… 怪訝そうな皇后
『シンの昔の彼女です 実はとても可哀想な子なんです
貧しい家庭に育っても 夢を忘れずバレエに励み
今は 世間に注目されるバレリーナにまで昇り詰めた子です
自殺を図っただなんて… シンのことでそれほど傷ついてたのね
そんなに弱い子じゃないはずなのに』
皇后は衝撃を受ける…!
ヒョリンの自殺の原因が皇太子となれば またしてもスキャンダルになる!
どうしてこうも次から次へと問題が起きるのか…
『お母さん これは深刻な事態です』
ヘジョン宮は ヒョリンを見舞い 最近の皇室の状況をそれとなく話題にする
まもなく廃位されるであろうイ・シンに すべてを失って頼れる者はいないと
ただ皇室を維持しようと 夫婦関係を円満に見せているだけで
皇太子妃との間に 深い絆などはないと言って聞かせる
『皇太子の廃位は 前例がないの だからシンも傷つくと思うわ
そんな混乱に陥ったシンを あのお転婆な娘が救えると思う?
あなたのもとへ 戻って来るわ』
天国へ行く最も確実な方法は 地獄への道を知ることだというヘジョン宮
これは 天国へ行くために避けられない 地獄への道だと
『耐えるのよ これを耐えれば あなたの望むものが手に入るわ』
まもなく ヒョリンの自殺未遂の報道が新聞を賑わした
皇太子に捨てられた女学生が 自殺を図ったという事実は反響を呼ぶ
『相手が折れるまで攻撃し続けるのよ チャンスは一度しかないの!』
母親の執拗なまでの行動を 呆然として見守るユル
自分の中の 抑えきれない思いと
そして母親の中の 恐ろしいまでの執念が交差する…
報道を知った皇帝は 厳しくシンを叱りつけ 太子の資格はあるのかと問う
これはきっと 誰かが意図的に仕組み大袈裟に報道したものだというヘミョン姫
しかしそんな取り成しにも 耳を貸そうとしない皇帝
何の弁明もしない息子が腹立たしかった
これは事実無根だと 心外な報道だと言えない シンの本心が見えるのだ
『皇室に 拭えない恥辱を与えてくれたな!
お前に 皇帝になる資格があると思うか?! 出て行け…』
力なく出てきたシンを チェギョンが待っていた
今回の件に関し シンは徹底的にチェギョンを拒絶している
自分は見舞いに行きながら チェギョンには なぜ行ったのかと怒りを見せた
追いかけようとするチェギョンを ユルが止める
『これは シンとヒョリンが2人で解決すべき問題だ』
『シン君のあんな表情 初めて見た 今ひとりにしたら… 私がつらい』
『行ったらまた シンに傷つけられるぞ!
こんな状況で 他人を思いやれる奴じゃない』
チェギョンには それが自分を思っての言葉だと分かっている
でも今 チェギョンは 傷つけられてもいいと思っていた
『シン君は いつもひとりで苦しんでるの だからひとりにしておけない』
自分だって いつもひとりで苦しんでいるのだと ユルは思う
なのになぜ… チェギョンはシンを追いかけるのか
『…僕はどうなる? 僕のことはどうだっていいのか?!』
チェギョンが引き留めても思いとどまることなく シンは車で出て行ってしまう
もうすべてが終わったのだと言い残して…
太皇太后は 皇太后ヘジョン宮の挨拶を受けようとしない
皇后は ヒョリンの行方を皇太后に問う
『とてもいいお嬢さんに見えますが
太子はなぜ彼女を捨てて 皇太子妃と結婚したのでしょう?
ひょっとしたら 太子も後悔しているのではないですか?』
『私も一度 彼女に会ってみるつもりです 会えば分かるでしょう』
ヒョリンは 昔の自分の姿だ
なぜ現皇帝は 自分を選ばず今の皇后と結婚したのか…
チェギョンは 帰ってこないシンを心配し 結局はユルを頼ってしまう
死のうとしたヒョリンに 悪いと思う気持ちと
そんなことをしてもシンを苦しめるだけなのに… という思いもあった
『手に入れたいのに 手に入らないからあんなことしたのかも』
『ああやってシンを苦しめれば 自分のものになるの?』
『君だって シンを振り向かせたいだろ?』
『そうだけど… あんなことまでして振り向かせたいとは思わない
それは単なる我がままよ』
怒ってても そばにいてくれた方がいいと涙をこぼすチェギョン
シンのために泣いている姿が ユルにはつらかった
ヒョリンが 病院を出て姿を消したことは ヘジョン宮も知らないことだった
いかにも自分がかくまったと思われながら 実は行方を把握できずに焦っていた…!
『地球をひっくり返してでもすぐに捜し出しなさい!!!』
シンを待ち続けるチェギョン
届かぬ思いに心を痛めるユル
あてもなく車を走らせるシン
ヒョリンが引きこもるホテルの部屋のドアが開く
そこには 行き場を失ったシンが立っていた
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