赤王冠 15話 皇太子は暴力亭主?! 赤王冠

 

皇太子イ・シンは 捜し出したチェギョンを宮廷の外へ連れ出す
行き先も告げられないまま チェギョンは助手席で無言だった

 

車を停めると あんな写真のことは気にするなと切り出す

 

『あんな写真? あんたには思いやりの欠片もないのね
少なくとも ヒョリンには真剣に接してるのかと思ってた
そうやって誰とでも接してきたんでしょ?』

 

『本気で言ってるのか?少なくともお前には…』

 

『2人の間を邪魔して悪かったわね 宮廷で頼る人が欲しかったの
いくらあんたに冷たくされても そばにいてくれて
時には幸せだったし 慰められることもあった でももう違う』

 

2年か3年先 望み通り離婚しようというチェギョン
それまではどんなにヒョリンの所へ行きたくても 妻に対し最低限の礼儀は守ってと

 

『そうじゃないと ひょっとしたら…
一緒に暮らしてきた事実さえも消したくなるかもしれない』

 

『そんなに離婚したいならしてやるよ』
『最初に離婚の話をしたのはあんたの方でしょ!』
『その時はお前が嫌いだったから!』
『え?』

 

思いがけないシンの言葉に チェギョンは動揺する
シンは チェギョンに対し ようやく本心を話し始める

 

『見知らぬ女が突然 俺の人生に割って入ってきて
目を丸く見開いて あれこれ聞いてきやがった
お前の話を聞いてると 俺の人生を否定されたような気がしたんだ
今まで信じてきたものすべてを 一瞬にして否定されたような気がしたんだ』

 

それが最近 こう思うことがあると シンは 真剣な表情で語る
“お前がいなくても 生きていけるだろうか”と

 

『お前がいなくても 生きてはいけるだろう
人間は 与えられた環境に慣れる動物だからな』

 

シンの言葉に またしても期待するところだったと チェギョンは苛立つ
ただシンは 表現が下手なだけなのだ 今は必死に思いを伝えようとしている

 

『けど 懐かしいだろうな
お前とケンカしたり 仲直りするのが習慣になってるからな
今まであったことが急になくなると 寂しくなるだろ?』

 

チェギョンは 習慣なら直せばいいと冷たく突き放す
もう期待して失望するのはウンザリだった

 

『どうやって直せばいい?教えてくれよ』
『知らないわよ 自分で考えれば?
この思いやりなんて微塵もない冷徹男!!!』

 

行こうとするチェギョンを 後ろから抱きしめるシン
少しの間でいいから こうしていてほしいと…

 

宮廷では 皇太子と皇太子妃が外出していることも知らず
太皇太后が 小さな小さなベビー服を大事そうに保管箱から取り出している
それは シンが誕生した時のものだった
こんなにも小さかった子が 合房するまで成長したのだと
1年もすれば これを着る孫が誕生するという

自分から渡すより 皇后から若夫婦に渡す方がいいという太皇太后

 

皇后は まさか孫のベビー服をこんなにも大事にしていてくれたとは思わず
その心遣いに感銘し また恐縮するのだった

 

夜が更けてもまだ シンとチェギョンは帰らなかった
夜空の星を眺めながら 2人の時間を楽しんでいる
互いの心を認め合っても 他愛なく口げんかしてふざけ合う関係は変わらなかった

 

翌日 宮中はふたたび大騒ぎとなる

 

皇太子イ・シンが 義聖(ウィソン)大君ユルを殴ったという事実だけが問題視され
激怒した皇太后が 太皇太后と皇后を呼びつけたのである…!

 

王世孫として生まれ 孝烈皇太子が崩御さえしなければ
今は皇太子となっていた身のユルが 一介の王子だから殴られるのかと怒鳴られ

皇后は ただただひれ伏して謝罪するしかなかった

 

皇太后は 激怒のあまり この事実をネット上に流した
それが皇帝の知るところとなり 皇帝は またしても息子が問題をと嘆く

 

宮廷内で起きた昨晩の出来事が ネット上に流れるなんて
母親がやったとしか思えないユルだった

 

『私じゃないわよ どこかの翊衛士(イギサ)がやったことでしょう』

 

皇室が公式発表しない限り 情報は憶測の域を出ないから ユルに被害はない
しかし偉大なる皇太子が暴力を揮ったことは 大きく世間を騒がせるという皇太后

 

『すでに皇太子の性格は問題視され ゴシップ欄には不仲説まで出てるのよ
廃位の話が出るのも 時間の問題だわ』

 

翌日 ユルは学校を欠席した
チェギョンは ユルが心配で授業にも集中出来なかった
放課後 ユルの居所を訪ねるが カク尚宮によれば 皇太后にさえ会っていないという

 

この暴力行為について心配した皇帝が 療養先から戻っていた
皇帝が呼んでいると知らせに来た侍従長に シンは あの書庫について聞く

 

『明善堂って 何のための場所なんですか?』

 

侍従長は 唐突な質問に明らかに動揺している
その場所に義聖(ウィソン)大君が頻繁に出入りしていると聞き さらに動揺する
そして 詳しく説明することは避け 皇帝が待っていると促した

 

皇帝は シンの軽率な行動を厳しく諫める
シンも言い訳はせず 全ては自分の責任だと言うにとどめ理由は語ろうとしない
理由に触れれば 皇太子妃であるチェギョンに話が及ぶからだった

 

『お前は一国の皇帝になる人間だぞ あれだけ行動を慎めと言ったじゃないか!
なぜ軽率な行動ばかりするんだ…!

 

“手に負えないならず者”とまで言われ シンは放心する
こんなことで皇太子の資格はあるのかと言われ ついに我慢できなくなるシン…!

 

『お父様は 僕に対しては 前からご不満をお持ちでしたね 心配いりませんよ
皇位を継ぐ人間は 僕以外にもたくさんいます …失礼します』

 

シンが出て行ってしまい 皇帝の怒りの矛先は皇后に向けられた
常に皇太子をかばい 甘やかすからこうなったのだと…!
ただの反抗期で済ませられる問題ではないと答える皇后

 

『悪縁によりもたらされる悲劇は 我々の代で終わりにしましょう』
『どういう意味ですか?!』

 

皇后の言葉を それ以上追及しない皇帝にも 思い当たるところがある
しかし今は 暴力行為について“皇太子廃止論”まで出ている現実を
どうにか解決しなければならないという皇帝

 

『立憲君主制であれば どの国も抱えている問題です』
『そうですね 現代社会に 王朝が存在すること自体が矛盾なのかもしれません
これからは君臨するのではなく 時代と共に歩む皇室にならなければなりません
国民は 民主的な皇室を望んでいるのですから』

 

ネットに流れた皇太子の暴力行為は 宮廷内の防犯カメラに残された映像が
そのまま使われていて それはどんな文章よりも明らかな証拠となった

 

これを見たチェギョンの家族は とても信じられない思いだった
夫婦で泊まりに来た時は とてもそんな人物には思えなかったのだ
しかし 本性がそうだとしたら… と思うと 娘の身が心配になるのだった
……というのも一瞬のことだった チェギョンなら黙ってやられてるはずがない
その点では 絶対的に娘の強さを信じている両親だった

 

皇太子の件で 宮廷に戻った皇帝は 久々に太皇太后に会う
太皇太后は ただただ皇帝の体調だけを按ずるのだった
世間では 皇太子について様々な意見がささやかれている
皇帝は 公式会見を開いてはどうかと切り出す
するとヘミョン姫が…

 

『お父さん 道がなければ戻るのです
釈明するよりも 普段通り公式的な場に 出席するのが良いかと思います』
『そこには記者たちも来る』
『皇室側で何もなかったように振る舞えば すぐに忘れるかもしれません』

 

皇后は フランス大使が皇太子夫婦を正式に招待しているという
しかし皇帝は 謹慎の身の皇太子を出席させられないと反対する
それでもヘミョン姫は まだ世間の注目が集中していないからこそ
普段のようにする方が目立たないと主張し 太皇太后も後押しするのだった

 

それからのシンとチェギョンは 夫婦で公式行事に参加した
すっかり心を通い合わせた2人は これまでのように不機嫌な様子ではない
2人を取り囲んだ記者たちは 面と向かって暴力行為について聞いてくる
シンは平然として 男同士の友情表現だと答えた

 

『では 不仲説については?』
『僕たちは新婚です 不仲も何もありませんよ』

 

それを証明するポーズを!と要求され シンはためらいもなく
チェギョンの頬にキスをした…!

 

このスクープ写真が掲載された朝刊を読み 大笑いする太皇太后
太子としての対面と品位を全く守っていないと言って さらに笑い転げた
皇后は とても解決したとは言い難いと不機嫌だった

 

『皇后 これを見て分かりませんか? 合房の効果が表れ始めているのですよ』

 

ヘミョン姫も 大勢の記者たちの前で愛情表現をした弟を絶賛し
さらに太皇太后は これを機会に 2人の部屋を1つにしてはどうかと提案する

 

シンは ちょっとしたパフォーマンスで 記者の望みをかなえてやることも必要だという
税金で皇室を維持する以上は 俳優のような演技をすることもあると
こんなことで簡単に国民の不安を取り除くことが出来ると…

 

『それはあんたの考えでしょ 国民を侮辱しないでほしいわ
私たちは心から皇室を愛し 心から皇帝陛下を尊敬し
心から未来の国王であるあんたを 誇らしく思ってるんだから』

 

チェギョンは そんな友人たちを持っている
だからこそ彼女たちの思いを代弁し 夫を諫めるのだった

 

皇太子夫婦のキス報道で ヒョリンとのキス写真の出番はなくなった
これで皇太子を廃位に追い込めるかもしれないと思っていたのに…

 

皇太后ヘジョン宮は 過去の自分を振り返っていた

 

実は 皇太子である夫の死だけで 宮廷を追い出されたのではなかった
純然たる皇室の法度により その座を退いたわけでもなかった
ヘジョン宮は 聖祖皇帝陛下の前にひざまずき 厳しく罵倒されたのだった

 

「ユルを連れて遠くへ行ってしまえ!
そして宮廷には二度と戻って来るな!今後一切 私の前に姿を現すな!」

 

皇帝に寵愛されていたと自負するヘジョン宮は 涙ながらに許しを請う

 

「お前が 孝烈太子と孝誠大君の間で
我が国と皇室を籠絡しているのはお見通しだ!!!
外見から悪意を読み取るのは難しい 無から生じたものは無に終わるものを…」

 

つまり ユルの父親とシンの父親を二股掛けて翻弄していたのだ
それを知った皇帝が ヘジョン宮を追い出したのが真相だった

 

これに立ち合い 宮廷から出ていく際 皇帝の意を伝えたのが侍従長だった
皇室は 一切の経済援助はしない ただ外国へ行くのであれば支援すると…!
生きていく術がなかったヘジョン宮は 外国へ行くしか生きる道がなかったのだ

 

待ち合わせていたヒョリンが現れ ヘジョン宮に 心の苦しみを訴える
ヘジョン宮は 魂の次に大切なものは愛だという

どんなに貧しくても愛に溢れていれば 億万長者も羨ましくない
逆に どんなに巨万の富を得ても 愛がなければつらく寂しい人生だと…

 

ヒョリンには ヘジョン宮が何を言いたいのかが分からない

 

『私は愛を守るために 多くの代価を払ったわ』
『それで?』
『自分の愛を操れるようになった それは誰にもできることじゃないでしょう?』

 

ユルは 部屋に引きこもり誰にも会おうとしないという
そんな孫を心配する太皇太后のために ヘミョン姫は食事会を提案する
チェギョンが入宮し 皇太后と義聖(ウィソン)大君が加わって 初めての食事会だった

 

和やかに宴が進む中 そろそろ義聖(ウィソン)大君にも縁談をという話題になる
ユルは 結婚するなら愛する人としたいと答え もう好きな人もいると言い出す

 

その時 チェギョンが舌を噛んでしまい 血が出たと大騒ぎする
薬を取って来ると言って立ち上がるシン…!
しかしそれより早く ユルが行動した
ナプキンに氷を包み 冷やせば止血できると チェギョンに差し出したのだ

 

その場の全員が ユルの思い人がチェギョンであると気づいてしまった…!
皇太后は 息子の行動に激しく動揺する

 

やがて食後のデザートが運ばれ 一同はお茶を楽しむ
太皇太后は 先日の済州島でのひとときは 本当に楽しかったと話し
ヘミョン姫が そんなに行動的なのに よく宮廷生活に耐えられたと笑う

 

今度生まれ変わったら 宮廷からもっとも遠い場所で暮らしたいと笑う
そんな太皇太后に ユルが… 皇室が変わればいいのだと言い出す

 

『皇室は君臨すれども統治せず
立憲君主制の基本精神ではありますが 言葉を変えれば
皇室は有名無実な存在とも言えます』

 

皇太后が 息子の発言を止めようとするが 皆が続きを聞きたがった

 

『皇室は 国民の退屈を慰めるための高価な人形に過ぎないのです』
『何てことを言うのですか!』

 

諫めようとする皇后を 皇帝が止めた
ユルの発言は止まらない

 

『いつまでも国民の税金で贅沢をし 幸せなフリをしている
人形の集団でいてはダメだと思うのです』

 

世界を回り 開けた考えのヘミョン姫さえ 動揺を隠せない

 

『大韓民国皇室の名に恥じない権威を握るため
今よりもっと強い力を持つべきです』

 

『いい考えだと思うが 少し過激すぎないか?
実質的権限がないとはいえ 皇室はすべての国民の尊敬の対象だと思う
皇室は実質的な権力より 伝統の守護者であり また
国民統合の求心点としての役割が 大きいと思うけどな』

 

『お互いの意見に相違があるようだな
どうせ存在するなら無力でいるより 強力な皇室でいる方が 国民のためだと思う』

 

2人の王子の議論に 皇帝が割って入った
ユルの考えを認めつつも その過激さをやんわりと諫めた
家族の揃う場で 考えを述べただけだと ユルは それ以上の主張はしなかった

 

茶会も終わり チェギョンは久々にテラスでユルと語らう
あの書庫でユルが殴られ チェギョンがシンに連れ去られて以来だった
いつものように笑顔で 何事もなかったように チェギョンは務めていた
話題を避けるのではなく 単なる誤解だったという認識で ユルを心配した

 

『一応は心配してくれたんだな』
『友達だから こう見えても義理と人情に厚いシン・チェギョンよ』
『友達か…』

 

チェギョンはそう思っても ユルはそうではなかった
食事会の時もそうだったように 夢の中ではいつも一緒だと言い出す
するとそこに シンが立っている
会話の内容に怒る様子もなく 妻を返してもらうと言ってチェギョンを促す

 

『斬新な皇室改革論だったよ
次からはもっと 現実的な代案を持ってこい そしたらまともに話し合ってやるよ』

 

1人になったユルは 小さくつぶやく
これからがスタートだと…

 

また別の場所では 皇帝が皇太后と語らっている
その中に割って入れず 皇后は 2人の会話を見守るしかなかった
自分には高圧的なのに 皇帝にすがるようにする皇太后が 皇后には許せない
兄に代わって 義聖(ウィソン)大君を守ると約束する夫の言葉に 皇后は傷ついていた

 

寂しく座っているユルの傍に座る皇后

 

『せっかく入宮したのに あなたには窮屈な思いをさせてしまって
今まで何もしてあげられず 恨んでいるでしょう?』

 

皇太子妃との外出の件でも 叱り過ぎたと謝罪する皇后
そして皇后は 世の中には思い通りにいかないことがあると切り出す
因縁というものは たとえ努力しても掴めないし
たとえ掴んでも 簡単には持続できないものだと

 

『縁のないものを欲張って得ようとすると 必ずその代価を払うことになる』

 

先ほどの食事会で 皇后も ユルの気持ちに気づいたのだ
それを何とか ユルに悟らせようと 言葉を選んで話している

 

『男女間のことは 理性ではどうにもならないと言うけれど
すべては人の心次第だと思うの なぜこんな話をするのかというと
昔にも そういう因縁を見たことがあるからよ
ずい分昔のことだけれど 宮廷内にも そういう因縁があったの
同じことを繰り返したくないならば 私の話を肝に銘じてちょうだい』

 

太皇太后の希望通り それから記念撮影が行われた
それぞれの思いを抱えた皇族たちが それぞれの表情で写っていた
チェギョンは 家族以外と記念写真を撮るのは初めてで 不思議な感覚を覚える

 

一体いつまで この新しい家族と一緒にいられるのか…
チェギョンのつぶやきに どういう意味かと訊ねるシン

 

『何でもないの 明日は明日の陽が昇るって言うもんね
今日は何も考えるのやめようっと』

 

思いがけなく 映画の名台詞を引用した妻に 感心するシン

 

『それ“風と共に去りぬ”の名台詞じゃないか』
『え?風が去るの?何それ?』

 

分かってなかった… 感心して損したと呆れるシン
しかし怒っている様子はない チェギョンに 朝陽が昇るとこ見たいか?と聞く
そして電話を掛けた

 

〈侍従長ですか? 詳しいことは聞かないでください
少しの間 皇太子妃とここを去ります
誰かに聞かれたら“風と共に去った”と伝えてください〉

 

どっか行くの?と 嬉しそうなチェギョン

 

『そのアホな脳みそから 名台詞が出てきたことを記念して
太陽が昇るとこを見に行こうかと思ってな』
『マジ?本当に?! やった~』

 

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