王冠 第22話 2つの王座 王冠

『なぜ勝手に摂政を称する!

大王の勅書で命じられた摂政は この私だけだ!!!

大胆にも 王座を狙っているのか?』

『廃妃 お前がでっち上げた偽りの勅書では 王子を王座に就けられぬ!

お前もまた 摂政にはなれぬだろう』

目の前に広げられた血書を見ても スンマン王妃は怯まない

そんなものは燃やしてしまえばいいことだと…!

『生き仏と崇められる円光(ウォングァン)法師の前で 血を見たくはない

大王の血書さえ渡せば おとなしく帰ろう』

あくまでも毅然とした態度で 血書を渡す気などない徳曼(トンマン)王女

直ちに総攻撃を仕掛け 皇龍(ファンニュン)寺を焼き払えと命じる王妃

閼川(アルチョン)が 法師と徳曼(トンマン)王女を避難させようとするが

王女は 微動だにしない…!

『その必要はない 逆徒が私に手を出す前に

廃妃が先に ユシンの矢を受け倒れる』

『何?!』

スンマン王妃が 慌てて辺りを見回すと

到着した花郎徒(ファランド)たちの先頭で ユシンが弓を構えていた!

※花郎徒(ファランド):花郎(ファラン)に使える貴人の子弟

『王女様に危害を加えたら この矢で廃妃が死ぬ!!!』

しかし そう言いながらも ユシンは矢を射ようとしない

早く矢を射よと叫ぶスクルチョン!

『王女様 早くユシンに命じてください!』

『ユシンが廃妃を射れば… ピヒョン郎の矢が私の心臓を貫く』

『えっ?!』

これで引き分けだと言い捨て スンマン王妃は去っていく

それを合図に ユシンとピヒョンは 構えていた弓を下した

取りあえずは難を逃れた徳曼(トンマン)王女

円光(ウォングァン)法師は 廃妃に慈悲を施すつもりはないかと聞く

王室と朝廷の和合のためには それも1つの方法だというのだ

しかし徳曼(トンマン)王女は 決して許すことはできないと宣言する

王宮に戻ったスンマン王女は 全ての怒りをピヒョンにぶつける

説得できなければ殺せと命じたのに ユシンを生かしておくからだと…!

『ユシンは 1人でも数千人が守る鉄壁の城を落とせる総帥です

王子様が王座に就けば 何より大義名分を大事にするユシンは

王の権威に刃向かえぬはずです』

『ユシンが 即位に反対したらどうする』

『天地神明に誓って ユシンをこの手で殺します

王妃様は 即位式の準備を進めてください』

沙梁(サリャン)宮では

ユシンが 今夜にも王宮を総攻撃するという

まだ傷が癒えないチュンチュは 自分も行くと言い張るが…

命に別状はないものの 起き上がることさえままならないのであった

出陣を控えたユシンを按じ チュンチュが無理をして激励に現れる

そして ピヒョンに出くわしたら迷わず斬れと…!

『私は ユシンを失いそうで怖い』

『心配するな 必ず生きて戻る』

一方 チャビは ピヒョンの前にひざまずき 死を以て償うと言い出す

なぜ王女を逃がしたのか その理由を問うピヒョン

『鬼門の外で 人間扱いしてくれたのは 王女様が初めてでした

どうしても 斬れませんでした』

※鬼門:骨品制度に属さない野人の集団

次に会っても また王女を逃がすのかと聞かれ 苦悩するチャビ

一体 主君の目的は何なのかと ピヒョンに詰め寄る…!

『王座に就くというのなら これほど混乱しません!』

『お前の父親は 王室の寺を建てるという労役に行き

採石場が崩れて死んだ

母親は 官吏らの慰み者となり生涯を終えた

お前の両親を殺したのは王室なのに

私情にとらわれ親の敵を忘れたのか!』

チャビを斬ろうとするピヒョンを止めたのは ボヒの叫びだった…!

しかし 構わずに剣を振り下ろすピヒョン!

その剣は峰討ちで チャビは気を失っただけであった

立ち去るピヒョンを追いかけるボヒ

『ピヒョン郎が 忠臣でも逆徒の頭目でも構いません

私にとっては… ただ愛するお方です』

『俺がユシンを斬っても 愛せるのか?』

ボヒにとって これ以上残酷な質問はなかった

はらはらと涙を流すボヒ

『ピヒョン郎を とても恨むでしょう ですが…

兄を斬った敵を 愛するしかない自分自身を もっと恨むはずです』

なぜ 臣僚の家族を捕えた王妃に味方するのかと訴えるボヒ

それほどまでに 鬼門の兵を殺された恨みは深いのかと…

『何?家族を捕えた?!』

ピヒョンは知らなかったのだ

チュンチュとユシン そして花郎(ファラン)の家族らが

幼子に至るまでも投獄されていることを…!

夜になり スンマン王妃が獄舎に現れた

チュンチュの母 天明(チョンミョン)が なぜこんなことを!と絶叫する

『お前の息子は王命に背き 反逆を企てた

九族を滅しても許せぬのに 何が無念なのだ!』

泣きはらす天明(チョンミョン)夫人に対し

ユシンの母 マンミョン夫人は 何を言っても無駄だと笑う

王妃側から見れば 自分たちは反逆罪人に過ぎないと

『お前の父スクルチョンは 風見鶏のごとく立場を変え私と王子を裏切った

そして息子のユシンも チュンチュの反逆に加担したゆえ

お前も生き残れぬだろう!!!』

そこでムニが 怒りを込めて叫ぶ!

『民に嘱望されている夫と兄を侮辱しないでください!!!

忠臣を非難することは許されません!』

ムニは 牢の外へ引きずり出された

娘のコタソが 母上を助けてと泣き叫ぶ…!

スンマン王妃に睨みつけられ 死を前にしても 決して怯まないムニ

『私は夫と兄が 王妃様のような暴君に屈しないことを誇りに思います!』

『これで舌を焼かれても たわ言を申すか!!!』

目の前に焼き鏝をちらつかせ 威嚇するスンマン王妃

ムニは それでも怯まない…!!!

今にもムニの口元に 焼き鏝が押し付けられようとする時

チルスクが飛び込んできて ユシンの軍勢が攻めてきたと報告する!

『廃妃がいたぞ! 廃妃の首を斬れーーーっ!!!』

ユシン率いる花郎(ファラン)の猛攻に 王妃の兵が倒れていく…!

スンマン王妃は ユシンの屋敷の奴婢を 見せしめに殺した

兵を1人殺すたびに 人質を1人ずつ殺していくというのだ

※花郎(ファラン):美しく文武両道に秀でた青年の精鋭集団

『廃妃 こうも卑劣なことをするとは…!

戦場でも民は殺さぬのが道理なのに なぜ非力な女子供を殺す!!!』

『王室の権威は 血を流さねば守れぬことを知らぬのか!』

捕らわれているのは チュンチュとユシンの家族だけではない

花郎徒(ファランド)の家族たちが 次々に殺されていく

家族の死を見せつけられ 一気に士気が下がっていく…!

ユシンは 退却するしかなかった

おびただしい女子供と老人の死体が転がる場所へ ピヒョンが現れる

ボヒは これが思い描く夢かと 賤奴が主になる世なのかと問う

ピヒョンは 王妃のもとへ行き なぜ人質を惨殺したのかと詰め寄る

民が背を向ければ 王子が即位しても王座を長く保つことはできないと…!

『ならば 私がユシンに斬られた方がよかったと?!

これからも 王座を守るためなら 数千…いや数万の人質を盾にしてやる!』

王妃にこれ以上蛮行を行わせない為に ピヒョンは自分が総帥になるという

決して反逆行為をさせはしないから 人質を殺さないでくれというのだった

そしてピヒョンは 王妃の前で血の誓いを立てると誓った

マンファ王子は 病の床で臥せっている

その前で 血の誓いを立てるピヒョン

『私はこの瞬間から 鬼門の首長ではなく 神国の総帥になります

この身や骨が朽ち果て 血が枯れるまで

王子様に忠誠を尽くすことを誓います』

スンマン王妃は 誇り高いピヒョンがひざまずく姿を見つめる

これを重く受け止め あらためてピヒョンを深く信頼するのだった

総帥となったピヒョンを ミョランとモチョクは快く思わない

何か魂胆があるはずだと 疑いを捨てきれないのだ

『お前の兄 金ギツネが夢見ていた 賤奴が主になる世を築くためだ』

兄キルダルと共に反旗を翻して以来

ミョランとモチョクは 初めてピヒョンの前にひざまずいた

王子を王位に就け 賤奴の世を築くという目的のために…!

『我らは 王妃ではなく 王子様の兵になる

王子様の障害になる者は 王妃でも始末せねばならぬ!』

ピヒョンの言葉に含みがあるようで シノは じっと見つめるのであった

それから ピヒョンの立場が公に告示された

“鬼門の首長ピヒョン郎は 王子様の忠臣となり

王妃様と王子様を狙う逆徒に立ち向かい 王室を守る”

たかが逆徒の頭目が 王子様に忠誠を誓ったところで

何が問題なのだというスクルチョン

これまで 王妃の味方となって民を顧みなかったスクルチョンには

世情が見えていないのだ

それを皮肉るようにたしなめる閼川(アルチョン)

ピヒョンの 民からの信望は絶大なものであった

そのピヒョンが 王妃側につくということは…

徳曼(トンマン)王女から 民心が離れることを意味しているのだ

キム・チュンチュは 神妙な面持ちで徳曼(トンマン)王女に決断を迫る!

『人質が皆殺しにされる覚悟で王宮を攻撃するか

王子の即位を認めるか 二者択一です!』

王子の病が回復の兆しを見せ 即位式の日も間近いという王妃

領袖キム・フジクとイムジョが 恐る恐る訊ねる

聖骨(ソンゴル)である王女と花郎徒(ファランド)が不在のまま

即位式が成立するものかと…

※聖骨(ソンゴル):父母共に王族に属する者

『王子が即位したら 王命で 王女の反乱を鎮圧し

花郎徒(ファランド)は廃止する!』

新羅(シルラ)の王室を 根底から覆そうとするスンマン王妃

そこへ キム・チュンチュが謁見を求めて現れた

王命に従い 和平を請いに来たというチュンチュ

何が“王命”かと憤慨する王妃

血書などより 譲位の勅書が優先なのだと豪語する!

『まだ王子様は即位しておられぬゆえ

大王陛下が王女様に命じた勅書が優先では?』

理路整然とした正論であった

ただちにチュンチュの首を斬れと激怒する王妃!

剣を向ける兵士を跳ね除け チュンチュはさらに言葉を続ける

『王女様は 王子様の即位を認められました

即位を認めるという 王女様の親書です』

親書を受け取った王妃は 偽りではないと知り 心を落ち着かせていく

『王女様は 徐羅伐(ソラボル)が 2つの王座と朝廷に分かれ

新羅(シルラ)の栄光が失われるのを お望みではない

即位式を通じて 王室と朝廷が和合することを望んでおられます』

スンマン王妃が気になるのは 王子の即位に伴い

自分が摂政することを 王女が認めるかどうかであった

しかしチュンチュは 慎重に言葉を選んだ

“王子様の即位を認める”

その言葉以外は賜っていないことを強調する

もし 大王の血書が唐の皇帝に渡れば 王子の即位は無効になってしまう

それは 新羅(シルラ)王室そのものが消滅することを意味する

『私が王女様に代わり 王子様をお見舞いしてもよろしいでしょうか』

スンマン王妃は 承諾するしかなかった

今ここでチュンチュを斬れば血書が唐に渡ると 脅されているも同然だった

一方 ピヒョンは 総帥として真平(チンピョン)王に謁見していた

その手で殺してくれという王に まだ早いというピヒョン

『大王が廃位させた先王は こんな苦しみを3年も味わわれた

この手で王子を王座に就け 王室と朝廷を一掃するのを見届けるまで

生きておらねばならぬ!』

むせび泣く真平(チンピョン)王

幼き日 真平(チンピョン)王もまた 自らの意思とは関係なく

思道(サド)大后によって 王座に就かされただけのことであった

『足かせを外せ

遠くへ行くことも出来ないのに 足かせなど必要ない』

そこへ ミョランが飛び込んでくる

チュンチュが王子に謁見するとは どう考えてもおかしいと察し

ただちに駆けつけるピヒョン…!

王妃の忠犬になり 王子に忠誠を誓ったピヒョンに

チュンチュは 死んでいった鬼門の兵に恥ずかしくないのかと怒鳴る!

カッとして剣を抜こうとするピヒョンに 剣を突きつけるユシン!

『チュンチュを害す者は この私が許さない!』

『縁を切る時が来たようだな』

じっとユシンを見つめるピヒョン

若き日 自分の行く末を見失い苦しんでいたユシンを

鬼門のもとで成長させたのは ほかでもないピヒョンだった

その恩人に剣を向けざるを得ないユシンもまた 苦しみの表情である

『大義が違えば 共には生きられぬ 次に会ったら俺を斬れ!

さもなくば 俺がお前を斬る!』

去っていくピヒョンを見送るユシン

チュンチュは その目に光る涙を じっと見つめる

沙梁(サリャン)宮に戻ったチュンチュは 謁見の様子を報告する

即位を認めたことで当面の間 王と人質の安全は守れた

回復が完全ではない王子の様子から 摂政が必要なことも確認できた

『王女様 直ちに和白(ファベク)会議の招集を命じてください

誰が摂政になるか 和伯(ファベク)会議を通じて決めねば』

※和白(ファベク)会議:新羅(シルラ)の貴族会議

王妃が自ら摂政になろうとしていることは明白である

だからこそ 対策が必要だと考えるチュンチュだった

しかし 聖骨(ソンゴル)を無視し花郎徒(ファランド)を廃するという王妃が

それに従うとは 到底考えられないことであった

そんなスンマン王妃が宮廷内を歩いていると ヨナが目の前に現れる

追い払ったはずの卑しい子供がなぜここに?!

ヨナは 王妃の姿にギョッとして逃げようとする

その腰もとで光る物に気づいた王妃がハッとする…!

まさか…

我が目を疑い ヨナを捕えろと叫ぶ王妃!

そこへ 王女が和白(ファベク)会議を招集したとの知らせが届く

『王子様が即位した後の 摂政を決めるそうです』

これに憤慨する王妃に対し 受け入れるようにというピヒョン

和白(ファベク)会議を受け入れてこそ 王子は臣僚らに祝福され

無事に即位することが出来るという

『ピヒョン郎 王女が摂政になり 神国の道が崩れてもよいのか?!』

『神国の道を侮っているのは 王妃様です』

思いがけないピヒョンの言葉に どういう意味だ!と目をむく王妃

『王子様は大王の子ではなく

王妃様がすり替えた賎民の子ではないですか』

『なぜお前が…!』

誰も知るはずのない事実を なぜピヒョンが知っているのか…!

ワナワナと震えだす王妃の肩をひっつかみ 詰め寄るピヒョン!!!

『なぜ俺が 王子に忠誠を誓ったか分かるか?

賤民の子が王座に就いてこそ 骨品の貴賤で民を苦しめ血涙を絞り取る

この汚い王室と朝廷を一掃できるからだ!!!

骨の髄まで賤しい者が王になってこそ!

賤奴も人間らしく生きられる世が訪れる!!!』

スンマン王妃は 隠し持った小刀でピヒョンを突き刺す!

しかし そんな傷に怯むピヒョンではなかった

約束通り 王子を王座に就けてやると言い捨て 去っていくピヒョン

スンマン王妃は 眠っているマンファ王子のもとへ行く

『どんな思いでここまで来たか… 腹を痛めた我が子まで捨てた!

決して 王女ごときに摂政の座を渡しはせぬ!!!』

目覚めたマンファ王子は 母親の恐ろしい形相に驚く…!

スンマン王妃は ただちに人質を皆殺しにし 神宮を焼き払えと命じた!

人質が城外へ連行され 侍衛府(シウィブ)の兵が神宮に向かう

この報告を受けたチュンチュとユシンは 神宮に駆け付ける!

※侍衛府(シウィブ):近衛隊

神宮には 人の気配がない

幽閉されているはずの 真平(チンピョン)王の姿も消えている…!

『ひと足遅かったな』

そこへ現れたのは ピヒョンだ

『大王陛下はどこだ!』

『大王はこの世を去り 天に召された』

『何だと?お前が大王陛下を殺めたのか!!!』

不敵に笑うピヒョン

チュンチュは怒りに震え ピヒョンに向かって剣を抜く!

『お前の首を斬り 大王を殺めた大逆の罪を問う!!!』



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