盾02 第46話 仁粋大妃(インステビ)の還宮 盾02

真夜中に 昌徳宮(チャンドックン)を訪れた成宗(ソンジョン)は

母の給仕で 美味しそうに夜食を頬張っている

それを 微笑ましく見守るチョン尚宮

そこには チョン内官とパク尚宮の姿もある

実に久々の 仁粋大妃(インステビ)の笑顔であった

これを知った王妃ユン氏は 逆上して喚き散らす!

母と子の和解など 決してあってはならぬことであった

そして 今すぐ息子を連れ 自分もその場に行くと言い出す

チェ尚宮は どう説き伏せたらいいのか途方に暮れる

夜食を終えた成宗(ソンジョン)は 母の酌で酒を飲む

何も語らず ただ見つめ合い 微笑みあう母と息子であった

扉の外で チョン内官は感涙する

生きているうちに こんな光景に立ち会えるとは 思ってもいなかった

酒を注ぐばかりの母親に 盃を渡す成宗(ソンジョン)

『私を恨みましたか』

『恨むだなんて…』

注がれた盃を手に 黙り込む母

仁粋大妃(インステビ)は やはりまた 亡き夫を思い出してしまったのだ

あまりに酒が弱く 婚礼の固めの盃だけで酔ってしまい 動けなくなった夫

『父上を思い出したのですね』


『お父様は 20歳を迎えずして早世されました

だから私の中では お父様は永遠に若いままです

王のお姿と お父様が重なり… 胸が締め付けられます』

『母上…』

『だめね 湿っぽくなったわ 忘れましょう

王よ どちらが強いか勝負しませんか』

『はい 母上!』

『覚悟してください 私は底なしですよ』

『私も負けません』

そう言いながら 成宗(ソンジョン)の盃を酒で満たす

『私が どれほど会いたかったかご存知ですか 王様!

二度と母を捨ててはなりません』

『はい!』

泣きそうな母の顔を見つめ 涙を流したのは息子の方であった

その頃 チェ尚宮は 全身全霊で王妃を止めていた

ぐっすり眠っている王子を起こし 夜風にあたらせることなど

到底できることではなかった

それに こんな時間に押しかけたら 仁粋大妃(インステビ)の逆鱗に触れ

王妃の未来に暗雲が立ち込めるのは明らかである

どんなに王妃の命令でも これだけは聞くことが出来ない

『一体 誰の味方なの?!!!』

『今 大妃(テビ)殿に行けば 王妃様は一生 血の涙をお流しになります』

自分を 極貧のどん底から救い出してくれた 恩人ともいえるチェ尚宮を

ユン氏は殴りつけ 蹴り倒した

そして内官を呼びつけ 今すぐチェ尚宮を拷問しろと命じる!

『棒で叩いて白状させて!

一体 誰の差し金で私の邪魔をするのか 全部吐かせるわ!!!』

大妃(テビ)殿では


母と息子が布団を並べて眠りにつこうとしていた

まだまだ話が尽きず 酔いと睡魔に抗いながら 語り合う

『何度も 母上に会いたくなりました

伺いたいことが たくさんあったからです

良い政事とは何なのか 忠臣と奸臣は どう見分けるのか

それを我慢するのに 本当に苦労しました

自分で解決しよう 自分1人で悩み抜いて

それでもだめなら母上に尋ねようと

大人になった私を お見せしたかったのです

王としての 堂々とたくましい姿を… お見せしたかったのです』

『私が怖かったのですね

私は ただただ弱い女です

王のために 強がっていただけなのです』

起き上がり 面白い話を聞かせると言い出す仁粋大妃(インステビ)

成宗(ソンジョン)も 涙を拭って気分を変える

昔 懿敬(ウィギョン)世子と結婚する気がなく

わざと婚姻前に会いたいと無理を言って 縁談を壊そうとした

実は 他に心を寄せる人がいるのだと…

息子としては 母親の恋の話に驚き 続きが気になってくる

しかし会ってみると その心を寄せる方こそが 縁談の相手

懿敬(ウィギョン)世子だったというのだ

『それで どうしたのです?』

『決まっています 舅に会うまでは婚姻しないと駄々をこねました』

母と息子の笑い声が 外にまで聞こえてくる

やはり 語り明かすおつもりなのだと笑う チョン内官とパク尚宮

そこへ 女官ヒャンイが息せき切って走ってきた!

内官に捕えられる前のチェ尚宮が 伝言を託したのだ

事情を聞いたパク尚宮は 王妃を止めることはないと言い出す

自ら墓穴を掘って 大妃(テビ)の逆鱗に触れればいいのだと!!!

しかし チョン内官は それではだめだと走り出す!

何よりも 笑い合う母と息子の時間を 壊したくなかったのかもしれない

王妃の輿の前に 身を挺して立ちはだかり 涙ながらに諌めるチョン内官

ユン氏の中に わずかに残った理性が これに応え思い留まる

『王様… あんなに愛してくださったのに… 私が疎ましくなったのですか!』

王が大妃(テビ)殿に泊ったことは すぐに知れ渡る

和解したことを喜ぶ仁恵(イネ)大妃に対し

大王大妃(テワンテビ)は いつまで乳離れできないのかと怒鳴る

そこへ 仁粋大妃(インステビ)が挨拶に来たと 告げられた

現れた嫁は 晴れ晴れとした笑顔で それがまた癇に障る!

するとあろうことか 仁粋大妃(インステビ)は 宮殿に戻ると言い出した

それも 王の強い要請で戻ると言われれば 返す言葉もないのであった

王妃ユン氏は 大殿(テジョン)に乗り込む!

引き止める内官の頬を打ち 取り次ぎもせずに飛び込んでいく

※大殿(テジョン):王が住む宮殿

成宗(ソンジョン)王は 政務中であった

明らかにこれまでとは違う冷たい態度で 王妃を諌める成宗(ソンジョン)

『何の用だ!』

『昨夜から 王子に微熱があって…』

『それなら医官に話せ』

会話はたったそれだけであった

交泰殿(キョテジョン)に戻ったユン氏は 激怒してチェ尚宮を呼ぶ

内官と女官が どう答えていいのか戸惑う

※交泰殿(キョテジョン):王妃の寝殿

『王妃様のご命令で 昨夜… 叩きの刑に処しました』

ハッとする王妃ユン氏

逆上していて記憶が曖昧だが そう言われれば…と記憶を辿る

『死んだの?』

『まだ生きてはいますが おそらくは…』

パク尚宮が チェ尚宮を見舞う

一時は尚宮の栄華を極めたとしても 結局はこうなってしまったと

瀕死のチェ尚宮を見つめ ため息をつくのであった

兄サフンを呼び 叱りつける大王大妃(テワンテビ)

なぜ 大妃(テビ)が宮殿に戻ることに反対しなかったのかと!!!

しかし 親孝行と言われれば 王の意向を止めることはできないのだ

『王妃様の力を借りて…』

『王妃何ができますか!!!』

このままでは 大妃(テビ)が政事に関与してしまう

そうなれば きっと粛清が始まると 焦る大王大妃(テワンテビ)であった

一方 王妃ユン氏は 母親と兄を呼びつけ すぐに人を集めろと命じる

しかし そんな力も仁徳もない母と兄である

仁粋大妃(インステビ)が宮殿に戻った時点で 王妃に従う者などいない

『王様と和解した大妃(テビ)が 私をかわいがると思う?

勝たなければ…! 私の息子を王にするために!!!』

成宗(ソンジョン)王は 自ら選んだ重臣たちにも態度を一変させた

大妃(テビ)の 政事への関与を危惧する重臣たちを怒鳴りつける

『母上を侮辱する者と話をする気はない!!!』


仁粋大妃(インステビ)が宮殿に戻る日

4人の側室が 揃ってこれを出迎えた

ずいぶんお腹が大きくなった貴人(キイン)チョン氏

仁粋大妃(インステビ)は 丈夫な子を産むようにと声をかける

そして みんなも子が授かるようにと…

そこで 淑儀(スギ)クォン氏が そんな機会はないと切り出した

王様に会おうにも 王妃が邪魔をして会わせてくれないと口々に言い出す

ただ淑儀(スギ)ユン氏だけが 王妃をかばうような発言をした

『覚えておいて 私の目の黒いうちは 嫉妬は禁物よ!

たとえ王妃と言えども容赦しないわ!!!』

その夜 王妃ユン氏は 燕山(ヨンサン)君を抱いて途方に暮れる

『私は貧しく育ったけれど あなたはこの上なく高貴な生まれなの

何が何でも 王様の後を継いで 国の主になるのよ いいわね』

仁粋大妃(インステビ)と王妃の間で 見えない火花が激しく飛び散っていた

一方は王の母 もう一方は王の妻

表に出るはずのない宮殿の奥の出来事は 後に歴史に刻まれる

女の闘いの幕は こうして切って落とされた

翌朝

仁粋大妃(インステビ)のもとへ 月山(ウォルサン)大君夫人が呼ばれた

その胸には 燕山(ヨンサン)君が抱かれている

燕山(ヨンサン)君は 静養という名目で私邸で暮らすことになったのだ

『高貴なお顔ですね』

『王に似て幸いだわ 月山(ウォルサン)大君はどう?』

『平穏な毎日です』

『何か仕事をさせないと…』

王妃ユン氏は 半狂乱で大殿(テジョン)に乗り込む!

事情を聞けば無理もないことだが 場をわきまえず喚き散らし

感情を剥き出しにする姿は 王妃としての品性の欠片もない

徳がないという母の言葉が思い出され 成宗(ソンジョン)は辟易する

『王様の指示ではないと?!!!』

『…私の指示だ 忘れていた』

『嘘です!!!』

『場をわきまえて穏やかに話せ!』

『どうせ私は無学です!!!』

『王妃!!!』

ユン氏は 泣き叫びながら宮中を捜し回り 大妃(テビ)殿にも現れた

取り次ぎもせず飛び込んできて 半狂乱に泣き喚く!

仁粋大妃(インステビ)は 王子には静養が必要だとだけ告げた

『心配しないで 3年ほど静養させれば丈夫になる』

『3年?!!!』

『もっとかかるかも』

昭容(ソヨン)オム氏と淑儀(スギ)クォン氏が

貴人(キイン)チョン氏の部屋を訪れ いい気味だと笑い合う

そしてこの機会に 王子を殺してしまおうと言い出すのだった

宮外にいるのであれば いくらでもその機会はあると…!

王妃ユン氏は 飲食を断ち 王の訪問を待ち続けたが

それでも 成宗(ソンジョン)が ユン氏の前に現れることはなかった

成宗(ソンジョン)は 母の説得を試みたが 無理だった

躾のためだと言われれば無理もない

腹に据えかねる王妃の行動は 目に余るものであり 納得せざるを得ない

それでも困り果て 仁恵(イネ)大妃を訪ねる

一時は義母であったその人に どうしたものかと相談する

王妃が謹慎さえすれば 母上の怒りも収まるというが

それが最も難しいことだと ため息をつく成宗(ソンジョン)

『王は口を出さず知らぬふりをしてください 嫁と姑の問題ですから』

飲食を断ち抗議する王妃の行動は 反抗にしか見えない

仁粋大妃(インステビ)の怒りは 増幅する一方だった

王妃ユン氏の憎しみは 側室たちへと向かう

貴人(キイン)チョン氏が懐妊したから 王様の心が遠ざかったと…!

もう殺してしまうしかないと言い出し 毒薬を用意しろと命じられた母親は

我が娘の恐ろしさに怯えだすのだった

あの女を殺せば お腹の中の子も死に 王様の心が戻ると…

王妃ユン氏は もはや正気ではなかった

大王大妃(テワンテビ)が 宮殿の仁粋大妃(インステビ)を訪ね

宮殿の女主人は誰かと声を荒げる!

王子を静養に出した件で それを決める権限は王妃にあると諌めた

『孟子の母は 子のために転居を重ねました』

『“孟母三遷”ね! 無学な私でも知っているわ!』

『王妃様は徳が足りません』

『そうかしら!』

『王妃は いわば国の母です 徳のない女には務まりません!

かといって廃位することも出来ません

だから教育して 徳を積ませるのです!』

これまで 常に言動を控えてきた嫁が 今は一歩も引こうとしない

『王が政務に専念する上で 家内安全は基本です

王妃や側室が互いに嫉妬すれば 波風が立つばかりです

すべて私にお任せを!

大王大妃(テワンテビ)様は すべてを忘れて平穏な余生をお送りください』

『ありがたいわ! ふんっ!』

『司憲府(サホンブ)の話によると 朝廷はユン氏ばかりとか!

皆が大王大妃(テワンテビ)様の親戚ではないにしても…』

※司憲府(サホンブ):不正の摘発・法的処置を行う法権を持つ官庁

『何が言いたいの!生意気な!!! 
いっそ垂簾聴政を行いなさい!

どうせなら 王を膝に乗せて政務を執るがいいわ!!!』

何を言おうと 大王大妃(テワンテビ)の出る幕ではなかった

今や実権は 仁粋大妃(インステビ)のものである

愚にもならない罵倒しかできないことが それを証明していた

仁粋大妃(インステビ)は ユン・ジャミョンの前に名簿を差し出し

その一人一人について 詳しく調査するよう命じた

『本人だけでなく 使用人まで詳しく調べるのよ』


護衛武士を経て 今は禁府都事に就いているジャミョンは

ユン氏だらけの名簿を見て 驚きを隠せない

※禁府都事:義禁府(ウイグンブ)に属する官職


ハン・チヒョンは すべて捕えれば大事になると進言する

『いつかはぶつかる壁よ

ユン氏一族を追放しない限り 正しい政事を行えません

ハン殿はいません だから私1人でも闘わなければ…!』

その夜

チェ尚宮が 危篤状態に陥った

うわ言で王妃を呼ぶチェ尚宮のために ひと目でも王妃に会わせたいと

女官が交泰殿(キョテジョン)に呼びに行くが…

王妃の頭の中は いかにして側室たちを殺すかでいっぱいだった

そしてとうとう チェ尚宮は 王妃を呼び続けて息を引き取った

翌朝 チェ尚宮の死が 仁粋大妃(インステビ)の知るところとなる

王妃の命令による叩きの刑で チェ尚宮が死に至ったことは

仁粋大妃(インステビ)の逆鱗に触れ 収拾は不可能であった

『チェ尚宮に何の罪が?!!!

大殿(テジョン)に行くわ 支度して!!!』

嫁いだ頃から 常に使用人を大事にしてきた仁粋大妃(インステビ)は

厳格に見えても情に厚く このような非道を決して許せないのだ

その頃 正気を取り戻した王妃ユン氏は チェ尚宮の部屋にいた

しかし遺体は すでに宮外へ運び出されていた

『真夜中に… 宮外へ運び出したの?』

『しきたりですので…宮殿で死んだ女官は すぐさま宮外へ運び出すのです』

『そんな薄情なしきたりもあるの?

チョン内官は 今更ながら現れた王妃に しきたりの説明をし

パク尚宮は 深いため息をつくばかりである

ぽろぽろと涙を流し 『お母様…』と呼び 後悔の念に泣き出すユン氏だが

すでに すべてが遅すぎた

仁粋大妃(インステビ)は 大殿(テジョン)に乗り込み

成宗(ソンジョン)王に対し 怒りの抗議をする!!!

『王妃を廃して 宮殿から追放しなさい!!!

徳のない王妃は国を滅ぼします!!!』


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