十字架 犬とオオカミの時間 第2話 十字架

カン・ジュンホは スヒョンを韓国の自宅に連れ帰った

同僚だったスヒョンの父親はすでに亡くなり 母親も殺された

身寄りのないスヒョンを放ってはおけなかったのだ

しかし ジュンホの妻は歓迎しなかった

息子のミンギも 同い年のスヒョンに戸惑う

スヒョンは 夜になると泣いてばかりいた

昼間も 学校をさぼって川原で泣いた

向けられた銃口の 手首の刺青が頭から離れない

血をしたたらせ動かなくなった母親…

タイで生まれ育ったスヒョンにとって

韓国は異国の地でしかなかった

いつまでも心を開かないスヒョンに 夫婦はケンカが耐えず

息子のミンギはたまらなくなって スヒョンと話す

意固地になって殻に閉じこもるスヒョンに腹を立て

とうとう 取っ組み合いのケンカに…!

学校でケンカになった2人を ジュンホは体罰で叱る

『お前たちは兄弟だ

お互いに助け合い 守り合うべきだろう』

そんなジュンホに反発するスヒョン

なぜ兄弟なのか

勝手に連れて来たくせに

死のうと生きようと放っておけばよかったのにと

『もう一度言ってみろ!!!』

ムチでスヒョンのすねを打つジュンホ

それをかばったのは 妻ミョンエだった

泣きじゃくるスヒョンを抱きしめ 夫の体罰から必死に守る

『ここがお前の家で 私たちが家族だ!!!』

ジュンホは “2人の息子”に 同じように罰を与えた

門の前に正座させられる2人

ミンギがお仕置きされるのは有名なようで 道行く人が声をかける

スヒョンのことを聞かれると ミンギは迷わず“弟”だと答えた

スヒョンはミンギを 川原の草むらに連れていく

カバンを枕に寝転び 空を見上げる2人

ケンカをして殴り合い 一緒に叱られて すっかり仲良くなった

スヒョンは 韓国に来て初めて笑顔を見せた


それから 歳月が流れ…


国際空港で 国家情報院の捜査訓練が行われている

積極的に動き 容疑者を特定していくのはイ・スヒョン

適当に参加しながら 目についた女性を追いかけているカン・ミンギ

ミンギが声をかけた女性が 冷たい視線を向ける

『そんな口説き方で落とせるの?』

『10人中7人は』

『私は3人の中の1人ね』

ミンギのナンパ失敗と同時に 訓練が終了した

課長オ・スンジュの総評と檄が飛ぶ

『スヒョンが容疑者を逮捕し 非常事態は免れたが

実際の状況では 数十 数百のパターンを考え対応するのよ!

ん?!カン・ミンギは?!』

『ここです!!!』

女が共犯者だと思い 追跡したと 見え透いた言い訳をするミンギ

『なぜ女が共犯者だと?』

『液体爆弾の偽装には 化粧品や香水が有利です!』

一方 ミンギをふった女性は 同僚の出迎えで会社に戻る途中だった

アートディレクターをしているソ・ジウ

ニューヨークの出張から帰国したばかりなのに もう仕事に駆り出されるようだ

同じ駐車場から スヒョンとミンギの車が出る

『ふられたのか?』

『何?』

『共犯だなんて口実だろ?ナンパに失敗か?』

『こいつ…』

『10人中3人か』

『お前は俺を知り過ぎてる!危険だな』

『13年も一緒に住んでるんだ』

『情報は国力なのに 国家安保のためにも死ぬべきだ ハハハ…』

家族で囲む夕食

現場を離れたカン・ジュンホは 穏やかな日々を送っている

2人の息子は 同じ職場で あの日のジュンホのように飛び回っていた

母ミョンエは そんな2人の息子を心から可愛がって育ててきたのだった

国家情報院のエージェントが 家業のようだと笑う

『今日は研修の最終日だったろ?』

養父ジュンホに答えるのはスヒョン

そんなスヒョンを愛おしく見守る養母ミョンエ

『今週 評価が終わり次第 部署が決まります』

『スヒョンは心配ないけど ミンギはそそっかしいから』

『一体 誰の息子だよ』

『私の息子だから問題なのよ』

『組織生活では 要領の良さも必要さ

スヒョンは最初から目立ち過ぎなんだよ』

『口だけは達者ね』

分け隔てなく育ててきた

ミンギは奔放に育ち スヒョンは真面目で素直に育った

少しも反抗しないのは やはり 育ててもらったという感謝の心からか…

ミョンエが晩酌は?というと 男3人が一斉に手を上げた

スヒョンの部屋には 成長の順番に写真が飾ってある

どの写真にも 養父ジュンホが写っていた

そこへ ジュンホが入ってくる

立派に育ったスヒョンに満足げだ

『考えていました 父さんと韓国に戻っていなかったら…

毎晩 悪夢を見てた僕に ミンギや父さん 母さんがいなかったら

今の僕はなかった 僕が憎む奴らのようになっていたかも』

『亡くなったお前のご両親も お前を誇りに思うだろう』

一方 ようやく仕事が終わったソ・ジウを 父親が迎えに来ていた

13年前 タイを脱出したソ・ヨンギルだ

“ジウ”とは 幼い日のアリだったのだ

いい人はいないのかと 娘の結婚を促すヨンギル

『私に会いたくないの?そんなに嫁にやりたい?』

『早くいい人を見つけて お父さんを忘れるほど幸せに暮らす姿が見たい』

『いざそうなったら寂しがるくせに』

『寂しくても仕方ない 亡くなったお母さんも喜ぶ』

『……』

『お前を立派に育てると約束したんだ』

タイを脱出して間もなく 母へソンは病に倒れた

死期を悟った母親の願いは ただアリの幸せと 残されるヨンギルのこと

「お母さんが死んだ後 お父さんはこの世にたった1人よ

どういう意味か 分かるわよね?」

母にそう言われた日 実の父への思いを ジウは封印したのだった

やがて 国家情報院エージェントとしての 2人の初日が始まり

ミンギは「情報分析課」 スヒョンは「海外1課」に配属が決まった

職場での父ジュンホは 2人にとっては上司である

室長として通り過ぎるだけで 2人に声をかけることはない

その夜 ジュンホは タイ料理店に足を運ぶ

タイから帰国したピョン・ドンソクが開いた店だ

『デスクワークはどうです?現場に出たくてうずうずしてるんじゃ?』

『体がついていかない 机にかじりつくしか』

『まだ東南アジアの統括を?』

『作戦計画を聞きたいか?どこに売るつもりだ?』

『とんでもない 足を洗いましたよ』

帰るジュンホに お代は要らないと言うドンソク

仕事柄 接待は受けられないと言うジュンホ

たとえ水一杯でも不正だと…

『先輩が上司だったら 俺も辞めずに済んだ』

ある日 ミンギがスヒョンを絵画の個展に誘った

らしくないと言いながら つき合うスヒョン

絵画鑑賞もそこそこに ミンギは“ターゲット”に近づき

本人ではなく 会話の相手の画家に話しかける 知り合いのようだ

『「犬とオオカミの時間」か ニューヨークでの展示会以来ですね

夕暮れ時 すべてが赤く染まり 丘の向こうから近づくシルエットが

飼っていた犬なのか 危険なオオカミなのか 見分けられない時間』

すると 画家と話していた女性が…

『あの もしかして… 以前空港で…』

『空港?…ああ またお会いするなんて奇遇ですね 美術関係のお仕事を?』

こうなればもう 画家はどうでもいい

どんどん画家から離れ 2人きりの空間を作るミンギ

呆れ顔で それを見ているスヒョン

そこへ スヒョンに呼び出しのメールが入る

国内の組織コミ派が 日本のヤクザと取引をするという情報が入った

あらかじめ ホテルの一室には隠しカメラと盗聴器が仕込まれている

取り引きは不成立に終わったが それなりの収穫は得られた

なぜ 海外の組織と取引を?という疑問に スヒョンが…

『世界的な取り締まりで 麻薬が不足してるはずです

国内に流通網はあるが 供給が止まってる

コミ派は 海外と手を握るしかない

組織が使っていた地下金融資金が すべて株式市場に移ったとの情報も』

その分析に 満足そうな課長オ・スンジュ

『このまま引き下がるわけがないわ

中国や香港との連携を狙っているのかも 状況を注視して 撤収!』

数日して ソ・ジウの方からミンギに連絡が入る

大喜びのミンギ 作戦成功といったところだ

ジウが手がける絵画を手に入れたいと言ったのがよかった

すぐにも会社に資料を届けると言うジウに

平凡な会社員だと名乗ったミンギは 焦って言い訳を…

すぐに取りに行くと言って出ようとするが

情報分析課に外出の理由などない

資料の山に埋もれるミンギは 仕方なくスヒョンに頼む

『受け取ればいいのか?』

『持つべきものは兄弟だ!』

急に降り出した雨の中 スヒョンは待ち合わせのカフェに行く

スヒョンを見たジウは どこか見覚えのあるその顔を見つめた

『あの… 前にお会いしたことはありませんか?』

勇気を出して聞いたジウに スヒョンは素っ気ない

受け取る物だけ受け取って さっさと帰ろうとする

勘定をしようとレジに行くと ジウが追いかけてくる

自分で払うと言うジウが出した財布には タイ語で “アリ” と刻まれている

懐かしい文字と懐かしい名前に ハッとするスヒョンは ジウを追いかけた

今度は スヒョンがジウを見つめる

やみそうもない雨に 傘を差し出すスヒョン

戸惑いながら応じるジウ
駅に着き 走り出すジウの背中に スヒョンが叫ぶ

『アリ!!!』

ジウに駆け寄り タイ式の挨拶をするスヒョン

再会の感動で目を潤ませながら ジウも同じ挨拶を…

2人は カフェに戻る

『IT会社? あなたが会社勤めとはね』

『君は画家だと思ってた』

子供の頃 いつも絵を描いていたジウだった


『趣味と仕事は違うものね 専攻を変えて美術史を勉強したの

留学もした あなたを思い出す度に想像したわ

どう変わっただろうか 腕白だったからスポーツ選手になってるかも』

『がっかりした?』

『いいえ 少し驚いただけ 素敵になったわ

もう10年も経つなんて 本当に早いわね』

そこへ ミンギが現れた

自分がナンパした女性が スヒョンと楽しそうに話している

驚くミンギが入り込む隙間はないようだ

ジウを見送ると ミンギは 2人の関係をしつこく聞く

引き下がる気はないらしい

『今まで口説いた女とジウは違う』

スヒョンは 保護者気取りでジウをもったいぶる

ふざけ合いながらも ミンギの目は真剣だった

帰宅したジウは 久しぶりに会ったスヒョンの話で盛り上がる

スヒョンの話題から タイでの思い出に触れると ヨンギルの表情が曇った

『実の父親に会いたいか?』

『……』

『血筋だから当然だろう

お前が会いたいなら 私に止める資格はない』

『お父さん 余計な心配をしないで お父さんはひとりだけよ』

部屋に戻ると ジウは タイの思い出が詰まった小箱を開ける

突然 逃げるように出て来たから 本当に僅かな思い出の品だ

別れ際 スヒョンがくれた未完成の木彫りの象

その時持っていた財布は スヒョンが拾ってくれたものであり

実の父から買ってもらったものだ

財布の中には 実の父マオの写真が入っていた

父と 母と 幼い自分が写った写真…

国家情報院では 部長チョン・ハクスから タイの情報収拾の指令が下された

分析チームの定例報告では タイ組織が韓国の麻薬市場開拓に乗り出すと…

情報分析課のチーフによれば この情報をもたらしたのはカン・ミンギ

アメリカの投機資本と タイの闇市場の関係について

特異な分析を根拠にした指示だが 無視するには気がかりな部分があると…

『やはり父親譲りか カン室長 頼もしいな』

そんなミンギは ジウのことばかり考えていた

幼なじみのスヒョンと再会したジウは スヒョンをどう思っているのか

自分とうまくいく可能性が…?

ドンソクのタイ料理の店で 3人は 懐かしいタイ料理を囲む

イタリアンが好きなミンギが “行きつけ”だという不自然さを指摘するスヒョン

父親のコネで 明らかにジウを意識した店のチョイスだ

『パクチーは食べられる?くせがあるから苦手な人も多いのよ』

『パ…パクチーを食べずにタイ料理は語れない!』

口に入れるなり トイレに走るミンギ

2人きりになると ジウは タイの思い出話をする

そんなジウを じっと見つめるスヒョン

『不思議だな また会えるなんて思ってもいなかった』

『私は思ってた 別れる時 寺院に行ったこと憶えてる?

あの時 心から祈ったの また会えるように』

トイレから戻ったミンギは 2人の会話に 入り込めない雰囲気を感じる

それ以来 ミンギはスヒョンに対し素直になれない

変化を感じるスヒョン

思い直すように 話しかけるミンギ

『勉強でも何でも お前の方が優秀だった 全校1位に首席入局

お前と比較されても平気だった むしろ誇らしかった』

『急にどうしたんだ』

『でも… 最近は勝負したいと思うんだ』

『何の勝負?』

空港勤務の当番になり スヒョンは入国ゲートに待機する

すると 見覚えのある男が…

係員がパスポートをチェックし 異常なしと認められ入国する男

出迎えゲートでは コミ派のペ・サンシクが 部下にプラカードを持たせ

顔も知らない タイからの客が出て来るのを待っている

スヒョンは 注目した男を尾行する

男はマオ・リラット ジウの実の父親だ

マオは スヒョンの尾行に気づき 部下に命じる

『止まるな 機関員がいる』

 
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