犬とオオカミの時間 第1話 ![]()
波止場のカーチェイス!
追われている男の助手席では 女性が怯えている
男は 女性に拳銃を突きつけ 降りろと命令し 再び走り出した
そこへ 駆け付けた別の男が車を降り 放心する女性を支えた
『ジウ!』
『スヒョン… スヒョンを見たわ… 間違いない 見たのよ…』
スヒョンと呼ばれた男は カーチェイスの末 車ごと海に放り出された
沈んでいくスヒョンの懐から 木彫りの象がこぼれ落ちる
海面に向かって浮きあがっていく象に 手を差し伸べるが
スヒョンは 海の底へと沈んでいく…
場面は変わり ここはタイ中心部 過去に遡る
スクールバスに乗り込む子供たちの中に混じる 韓国人の男の子スヒョン
スヒョンは 流暢なタイ語で現地の子供たちと楽しそうに遊んでいる
そこへ乗り込んできた女生徒の中に 同じく韓国人の女の子がいた
タイ語で挨拶をしながら 揺れてバランスを崩したのを支えてやると
女の子は 韓国語でお礼を言った
やがてスヒョンたちが降り 女の子はスヒョンが座っていた席に座った
友人が 財布を拾ったと騒いでいる
取り上げて見てみると さっきの女の子の顔写真が…
ハングル文字で名前が書かれている
『アリ?』
スヒョンの母ユ・ギョンファは タイ検察庁で働くキャリアウーマンだ
ギョンファは バリバリ働く有能な女性検事だが そそっかしい
今日は スヒョンと待ち合わせて寺院でお祈りをする日だ
『今日が何の日か忘れてた?』
『仕事で遅れただけよ ごめんね』
『僕よりお父さんに謝ってよ』
どうやら 息子の方がしっかりしているようだ
母と息子は 屋台で夕食を取る
ギョンファは 最近成績が落ちた息子に 母親として説教を…
『最近 下町の子たちと遊んでるんだって?』
『悪い子たちじゃないよ』
『そんなこと言ってないわ 親から苦情を言われそうで心配なの
いつも夕方まで一緒に遊び回ってるでしょう?』
『家に早く帰ってもつまんないよ お母さんは遅くまで帰って来ないし』
『この事件が終わるまでよ』
『またそれだ 去年だって1回も遊びに行かなかった』
『そうだっけ?』
上手にエビの殻を向いて 母親に食べさせるスヒョン
『あんたは 父さんにそっくりよ』
『やめてよ』
『本当よ 顔から行動まで瓜二つよ』
『…そう?』
『お父さんの顔を憶えてない?』
『写真を見てると思い出しそうだけど…』
同じ時 ある豪邸の中で 男が その家の主の妻と話している
『チャン会長が港に現れた 一体どれだけ事を大きくするつもりなのか』
『あなたにそんな仕事は似合わないわ』
『その日暮らしでもいい 罪を犯さず堂々と生きたい 君やアリと一緒にね』
そこへ アリが大喜びで現れる
父親の片腕として働くこの男ソ・ヨンギルに アリはすっかりなついている
『お父さんが買ってくれた財布をなくしちゃった
ママ お父さんはいつ帰る?』
『…まだ帰れないみたい』
『アリ おじさんが可愛い財布を買ってやろう』
とある昼下がり タクシーが客待ちもせずにサボっている
運転手は韓国人のピョン・ドンソク
そのボンネットを乱暴に叩く男 韓国から出張でやって来たカン・ジュンホだ
2人は 古くからの知り合いだった
今のバンコクは以前と違うとぼやくドンソク
『昔からの組織が全部やられたからな』
『チョンバンの仕業か?』
『あいつらは凄いからな 動くたびに大きい組織をすべて傘下に入れるんだ
商売も1つや2つじゃない 麻薬 密輸 売春 金になることは全部だ
韓国系の奴らが実権を握ってもっとひどくなった
タイばかりか 東南アジア一帯に手を出してる
ヤクザとはいえ 金の動きは大企業にも劣らない
この世界は 要領のいい奴が勝つのさ』
『まだ盗聴をやってるのか?』
『それしか能がないからやるしかないさ』
『戻るつもりは?』
『……戻りたいと言ったら戻れます?
先輩が決められることじゃないよな
ハハ… おれはこんな生き方が楽でいいんだ
死ぬ気で国家に忠誠を誓っても カン先輩のようにこき使われるか
イ先輩みたいに野垂れ死にするだけだ』
カン・ジュンホが訪ねて来たのは スヒョンの母ギョンファの職場だった
互いに同い年の息子がいる2人は 子育ての話で盛り上がる
『先週は ドンジョさんの命日だったんです』
『…知ってるよ』
『あれからもう10年 時の流れは速いものですね もう子供が小学生だもの』
チョンバンという組織を調べているギョンファ
ジュンホは 介入工作をするため タイに入国したのだ
スヒョンとアリは いつの間にか仲良くなっていた
アリの財布を届けたことがきっかけだった
父親の不在が多いアリは 驚くほどどこにも行ったことがない
自分も友達と出かけているだけだ というスヒョン
『あなたのお父さんも忙しいの?』と聞くアリ
スヒョンは なぜだか父親がいないことを言い出せなかった
その頃ジュンホは ギョンファを ソ・ヨンギルに会わせていた
情報をくれれば あとは検察が対処すると…
『チョンバンを分かってない』
『君は組織から抜けたいんだろう?』
『裏取引をしていた奴が この前 殺られたんだ』
決心さえしてくれれば 出国を手伝うと言うジュンホ
ヨンギルは アリとその母親を連れて逃げたかったが
命懸けになることは間違いなかった
1日中 アリと遊んで家まで送って来たスヒョン
屋敷の近くまで行くと 突然車が停まり アリが大喜びで駆け寄っていく
『パパ!』
『アリ 会いたかったぞ!』
アリの父親だという男マオ・リラットは 金髪にサングラスの怖そうな顔だ
友人だと紹介され 近づいてきたマオは スヒョンの頭を小突く
顔の前に拳を突き出されても スヒョンは身動きひとつしなかった
『なかなかだな 目に力がある 男同士はこうやって握手するんだ
よし!アリと仲良くしてくれよ』
父親を知らないスヒョンにとって それは衝撃的な出来事だった
アリを肩車して屋敷に入ると 妻の横にソ・ヨンギルが座っている
慌てて立ち上がる2人
アリが なつき過ぎていることに 不機嫌になるマオ・リラット
一方 帰宅したスヒョンは “男同士の握手”が気に入り
使用人相手に 何度も握手をしてみせる
それを見咎めるギョンファ
『やめなさい ヤクザのやり方よ!』
『違うよ!』
『下町の子たちと遊ぶのはやめなさい』
『嫌だ!僕の勝手だよ!』
『スヒョン!怒られたいの?!』
スヒョンが まさか本物のヤクザと会ったなどと思いもしないギョンファだった
日々成長していく息子は だんだん母親の手に負えなくなってくる
カン・ジュンホは 仕事を抱え込み過ぎだと諭す
しかしギョンファは この事件の解決は亡き夫の悲願だったと話すのだった
酔っぱらって帰ると スヒョンが外で待っている
一緒に食べようと買って来た フルーツの袋を落としてしまうギョンファ
泣き出す母親を座らせ フルーツを拾うスヒョン
一方 ソ・ヨンギルを交え 4人で食事をするマオ
アリの隣で 父親のように世話をするヨンギル
休暇はオーストラリアに行きたいとせがむアリは おじさんも一緒にと…
食べ終わったアリが 水族館を見に行くと言って席を立ち
しらじらしい会話を続ける2人に マオが声を荒げる
『2人とも この辺でやめるんだな』
『何のことだ?』
『それ以上ほざいたら この場で殺す!
死にたくないならここで終わりにしろ!これ以上我慢できん』
立ち去ろうとするマオに 妻へソンがつぶやいた
『いっそ殺して あなたなんて嫌いよ ぞっとするわ!
もうこんな生活は嫌よ!うんざりなの! もうあなたとは別れるわ!』
戻って来たアリの前で暴力はふるえない マオはだまって去って行く
これで済むわけがない ヨンギルは決断するしかなかった
チョンバンの情報と引き換えに カン・ジュンホから
3人分の偽造旅券と身分証 チケットを受け取った
『フェリーで香港へ行き 飛行機に乗換えだ
韓国についたら こちらの要員が待ってる』
翌日 今日もアリと遊ぶはずのスヒョン
しかし 待ち合わせの場所に アリは来ない
ソ・ヨンギルは 会社の私物を整理し 取り急ぎ脱出するための準備をした
へソンは いつになく屋敷の警備が厳重なことで焦っている
旅行だと説明したが アリは荷物を詰めようとしなかった
『旅行じゃないでしょ どこに行くの?』
『お母さんは… お父さんと別れるの』
『……どうして?』
『一緒にいると 一生幸せになれない!
あなたまで不幸になるかもしれない だから今 別れるの』
父親のことも大好きだったが 子供のアリに選択権はないようだ
スヒョンは アリの屋敷までやって来た
こっそりとアリを連れ出し 寺院に行くと アリは突然泣き出した
今日 タイを離れるという…
落ち着きを取り戻したアリは 帰っていく
そんなアリを引き止めて スヒョンは木彫りの象を渡した
まだ未完成だったが とっさにあげれるものは それしかなかったのだ
『こうなると分かってたら 急いで作ったのに』
『今度会ったら 完成させてね』
アリは戻って スヒョンの頬にキスをした
驚くスヒョン
長い階段の上と下で 2人はタイ式の別れのあいさつを交わした
ピョン・ドンソクの情報により タイ検察庁が動く
麻薬取引が行われる船を 検察の船が取り囲み 空にはヘリが!
せっかく犯人を捕らえながら 証拠となる麻薬は海に消えた
女性ながら果敢に戦うギョンファを マオが双眼鏡で確認している
長い時間をかけて準備したのに… と落胆するギョンファ
それでも 大きな取引をつぶしたんだからと慰めるジュンホ
ギョンファは チョンバンという組織そのものをつぶしたいと言うのだった
同じ時 へソンとアリを連れ ソ・ヨンギルは 香港へ向かう船上にいた
アリの手には しっかりと木彫りの象が握られている
韓国に帰るカン・ジュンホを ピョン・ドンソクがタクシーで空港へ送る
『しばらくタイに来ない方がいい
苦労が無駄になった上に 他国の機関員がうろついたら
ハハハ… タイの警察も頭にくる』
『着いたらブツを海に捨ててたんだ 誰かが密告したのかも』
『…俺を疑ってるのか?』
『疑ってはいけない理由でもあるか?』
『先輩!俺は裏でブローカーをやってるが マナーは心得てる!
情報を漏らす奴に見えるか?!こう見えても 元安全部要員だ!!!』
『盗聴で不名誉退職だがな』
笑い出すジュンホ
とにもかくにも 大きな仕事は終わった
祭りの夜 ギョンファは 息子との楽しい一夜を過ごす
屋台ではなくて 今夜はもう少し高級なレストラン
しかし スヒョンはアリと別れて元気がない
そんな息子にギョンファは…
『よかったのかもしれない
将来 もっと素敵な姿で会うために別れたのかも こんな言葉があるわ
“前世で3千回会わなければ 現世ですれ違うことも出来ない”
すれ違うのも難しいのに 友達にまでなったなら きっとまた出会えるわ
そういうのを “縁” というの』
ギョンファは スヒョンの前に腕時計を置く
『お父さんのよ いつか渡すつもりだったの
時計を見て 時針はゆっくりで 分針は速く動くでしょう?
でも ある時になると必ず重なるの 縁も同じよ
別れた人にも いつかはまた会えるはずよ』
『じゃあ父さんは 僕たちと縁がなかったの?』
『お父さんのこと 気になる? どんな仕事をしてると思ってた?』
『領事館で働いてたよね?』
スヒョンの腕に 時計をはめてやる
『でも 外交官ではなかったわ
少し危険だけど 意味のある仕事よ』
『どんな仕事?』
はめたつもりの時計が スヒョンの腕から滑り落ちる
拾おうと テーブルの下にもぐり込むスヒョン
その時!祭りの仮面を付けた男が目の前に立った
殺気を感じたギョンファが 鍋をひっくり返したと同時に
男の拳銃が火を噴く!!!
ぐったりと動かなくなった母親を見て スヒョンは仮面の男を見た
さらに 母親の頭を狙う銃口に スヒョンは怯えながら手をかざす
その小さな手が 必死に母親を守ろうとして…!
男は去って行ったが 母親が顔を上げることはなかった
レストランを出た男は 仮面を外す
その男は アリの父マオ・リラットだった
友達だと紹介された男の子の母親を撃ったのだと マオは気づいていた
必死に抵抗する子供を 撃つことが出来なかった
「韓国から来たスヒョンよ」
愛娘のアリが紹介してくれた子供が
マオの脳裏に焼きついた
ギョンファの死を知らされ 再びタイに戻ったカン・ジュンホは
憔悴しきったスヒョンを 韓国に連れ帰った
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