§ 第52話 誤解 §

『朝鮮王朝の根元を揺るがす不当な処置でございます!』

『チャングムを 従七品の直長に命じる!』

『殿下!不可能な処置です!』

『チャングムを 従六品の主簿に命じる!』

もはや何も言うことは出来なかった

否定すれば否定するだけ チャングムの地位は上がってしまうのだ

『同副承旨(トンブスンジ)は教旨を作成せよ!』

同副承旨(トンブスンジ)ミン・ジョンホに非難が集中する

かつて良き理解者であった上司 右議政(ウイジョン)までもが責め立てる

『王だからといって万世不変の経国大典に従わなくていいのか!』

『いくら殿下でも それに逆らうのは黙認できん!』

『命令を取り下げるよう頼むのだ!』

ミン・ジョンホは 神妙にこの抗議に対し拒絶した

『経国大典は いかなる者も守り従うべきです

しかし 人材を適時に使うことも その趣旨です

経国大典の文句より 趣旨の方が大切かと』

世宗(セジョン)大王の時代

芸文館(イェムングァン)のクォン・ホグンは奴婢に官位を与えることに賛成し

配流されてしまった 王命を実行したのではなく 意見を述べただけで…

しかし今 ミン・ジョンホは王命を奉り実行しようとしているのだ

正義に生きようとするジョンホの真っ直ぐさを 右議政(ウイジョン)は諌める

『私が出仕したのは 権力に媚びず 在野に追い出された人材を登用し

国を復興させることです』

『女性はまた別だ』

『女性と賎民の違いは何ですか?』

『個人的感情で登用するのか?!』

『個人的感情でなら 連れて逃げていました』

『よかろう 万世に残る“奸臣”の教旨を書きたまえ 私とは終わりだ!

この私が貴様を配流してやる!!!』

シン・イクピルはチャングムの師であるが 心からチャングムを認めた

ひとりの医員として このような人物のそばにいられることは幸いだと…

一方 中宗(チュンジョン)王の母である貞顕(チョンヒョン)王后は

突然 席藁待罪(ソッコデジェ)を始めてしまう

驚いた中宗(チュンジョン)王と文定(ムンジョン)王后が駆け付ける

※席藁待罪(ソッコデジェ):大罪を犯した者が 絶食し座り込み王の許しを乞う

家臣が行う席藁待罪(ソッコデジェ)を王の母である大妃(テビ)が行うとは

あってはならないことであった

母の前にひざまずき 必死に止める中宗(チュンジョン)王

経国大典に背くような息子を育ててしまったという貞顕(チョンヒョン)王后に

中宗(チュンジョン)王は 自らの信念を曲げるしかなかった

文定(ムンジョン)王后はチャングムを呼び 残念な結果を申し渡す

『子供の頃 男の子たちと野山で兎狩りをしました

母は止めましたが 私はなぜダメなのかと逆らいました』

『私もそうだった なぜ兄上は書堂(ソダン)に行けて 私はダメなのかと』

『殿下が主治医官の命令を下す前に 済州で私に医術を教えた師匠が

男の医員が病を治すと褒賞し 恩人になるけど

医女が病を治すと 一夜を共にすることで褒賞にしたそうです

だから固辞せず 医女も医術人であることを示せと』

 

ただ医術を極めたいだけなのに 自分のせいで不和が起きてしまうことが

チャングムには悲しく 身を隠して生きていきたいと思うのだった

ウンビをはじめ医女たちは チャングムの辛さを察し

大君(テグン)の世話を買って出た そのやさしさが嬉しいチャングムだった

ひとり 夜の内医院(ネイウォン)の医女部屋で考え事をするチャングム

昼間の疲れた足を揉むため 裸足をあらわにしていると

そこへ中宗(チュンジョン)王が…!

 

慌てて素足を隠すチャングム

やはり心配して内医院(ネイウォン)の前にやって来たミン・ジョンホは

大勢の女官と内侍(ネシ)の行列を見て 王の来訪を知る

中宗(チュンジョン)王は チャングムのために何もしてやれないと嘆く

その握りしめた拳で チャングムは心痛を察する

『殿下 春の夜です 散歩はいかがですか?』

促されるまま 夜の庭園を歩く中宗(チュンジョン)王

チャングムは半歩後ろを歩き その後には随行の行列が続く

『この前の冬は寒く 凍死した民も多い 冬が去り また春が訪れたか』

『冬を 悪くばかり思わないでください』

『なぜだ』

『冬が寒いと 麦がよく育つのです そうなれば 餓死する民が減ります

また 寒い冬なら患者は増えますが 残った3つの季節に患者が減ります』

『そうなのか』

『修練医女の頃 シン・イクピル師匠から初めて聞きました

よって 冬が寒いと 翌年は寒さによる患者を診る準備をし

暖かい冬なら疫病に備えろと』

『なるほど』

『自然が教えてくれることを学び 自然の中から強健になれと

早朝から裸足で山を登らされ 呼吸し 歩かされ 毎日文句を言いました』

『文句を言うとは しっかり教育したのに』

『では 殿下もなさってみませんか?』

『余がか?』

『はい 殿下』

中宗(チュンジョン)王は チャングムに言われるまま素足になった

『息を長く吐いてください …もっと長く吐いてください』

『……余にこれをさせるため 連れ出したのだな』

『申し訳ございません 毎日これをなさると 夜 よく眠れます』

『余があまり眠れぬことが なぜ分かった?』

『殿下はお話をなさる時 片手の拳を握られます

殿下の深いお心を察することは出来ませんが

それは肩に負担をかけ 首筋にまで負担をかけ 不安で寝付けなくなります

また肝臓にも侵入し 玉体を悪くします

以前 殿下の玉体を診脈した時 七情鬱結が積もっていました』

※七情鬱結:ストレス

『七情鬱結は 玉体や心をすべて害します

ですから 寝付けない時は無理に眠ろうとせず 散歩をなさってください

お悩みがありましたら押し殺そうとせず

信頼し 理解してくれる人に打ち明けてください 絵を描かれるのもよいです』

中宗王(チュンジョン)がチャングムの王命を取り下げると

今度は 王命に賛成したミン・ジョンホの弾劾を要求する上書が上がる

上書の山に またしても眠れぬ夜を迎える中宗(チュンジョン)王

信頼し 理解してくれる人とは…

文定(ムンジョン)王后のもとへ向かうが 何か違う気がして行き先を変える

側室のもとへ向かってみても やはり違うようだ

夜の庭園を歩き 信頼できる 理解してくれる人物を考えるのだった

翌朝 中宗(チュンジョン)王は チャングムとともに庭園を散歩する

『ある晩は 余の手で廃したシン氏が…

余が賜薬を下した敬嬪(キョンビン)や チョ・グァンジョが現れる』

『殿下 身に余るご同行です お止まりください』

『お前が言い出したろう』

『え?』

『信頼でき 理解してくれる人に打ち明けろと

探してみると それも簡単ではなかった

お前は 死ぬことになっても中殿(チュンジョン)の命令に従わず

余にも告げなかった お前を信じておる

余の言葉を 誰かに話すとは思えん』

『……』

『お前は 病人がいれば施療したい医女だから 余も施療したいはずだ

だから按じてくれるのだろう?』

王の言葉に納得し チャングムは庭園を歩きながら ただ聞き役に徹した

『王位は望まなかったが 余を担いだ者は見返りを求めた

従うしかなかった 人を殺し続ける王になった

ある晩は 悔いながら夜を徹し 憤怒で夜を徹した

だが余を苦しめたものは 自責だ

王の器ではなかったのだ 準備も出来ていなかった

王権を確立できず 功臣に操られている王だ

それが 常に拳を握り続ける理由であろう』

ひとしきり 中宗(チュンジョン)王が話し終えると チャングムは自分の話をする

奔放な子供の頃の話に 笑い出す中宗(チュンジョン)王

そして 自らの子供時代を語り出す

『兄上がいるから王位に就くとは思わず 狩りと武術に力を注いだ

宮外は楽しかった 天文や医術 音楽や絵をたしなむ者と交流し

天文を周遊する者について回った』

『それで「東国興地勝覧」を直されたのですね』

『古いものだから 合わぬものが多かったのだ』

『簡儀渾象の製造も』

※東国興地勝覧:人文地理書

※簡儀渾象:天文観測器

中宗(チュンジョン)王は気づいた

チャングムは 微笑みながら話を続ける

『女真族と倭寇の撃退にも 力を注がれました

霹靂砲の製造も』

※霹靂砲:海戦用の火器

『……そうかもしれんな』

『大君(テグン)の修練は逃げても 王としての修練は受けられました

民の立場から倭寇を阻み 広く使われる天文器具と本をお作りになられました

民は 簡儀渾象で1年の農事を行います

ある王は文治を行い ある王は水を強化し ある王は礼儀を強調しました

殿下は 燕山朝の疲弊した制度を すべて正しました

それだけで 殿下の偉業でございます

仕方なかった惨状について 殿下はご自身をお許しになるべきです

これからをお考えくださいませ

殿下の臣下として 医女として 忠心から申し上げるお願いでございます』

みるみる心が軽くなる中宗(チュンジョン)王

睦まじく…とも思える2人の姿に ミン・ジョンホは深刻な表情を見せる

さらにチャングムは 内侍府(ネシブ)長に細かな指示を出す

才談を聞かせる者を側に置き 眠る前には林檎の香りを用意し

鯖や鰯などの青魚を食卓にのせ 食欲が落ちたらトンチミや水キムチをと…

業務の報告をするミン・ジョンホに 中宗(チュンジョン)王は…

『しかしチャングムは実に聡明だ いつ知り合ったのだ?

中殿(チュンジョン)の密命の時か?』

『違います 水辣間(スラッカン)の女官だった頃からです

水辣間(スラッカン)の競い合いをする時に 食材をなくしたことがあり

内禁衛(ネグミ)の従事官(チョンサガン)だった私が 調べることになりまして』

『その時 初めて会ったのか?』

『違います 実は校書館で… しかし 初めて会ったのはもっと先で…』

ミン・ジョンホは 控えめながらも チャングムとの出会いを語る

密命を受け倭寇との争いで負傷し チャングムに助けられたと…

中宗(チュンジョン)王は 2人の縁の深さに驚きながらも

得意気な表情を見せ 楽しそうに笑う

『だが チャングムを知ったのは余の方が先のようだな

燕山君(ヨンサングン)が廃される前日だ

使いに来た幼な子がとても聡明であり 忘れられなかった

大妃(テビ)殿の尚宮が来ていた

パク・ウォンジョンが 子供に 余の誕生祝を運ばせた

我が家を訪ねれば 首を飛ばされてしまうからな

贈り主を知りたくて通したら… ハッハッハ…

隣にいた尚宮に いきなりひれ伏した

後から事情を聞き なぜそうしたか分かった』

チャングムが 毎朝 王と庭園を散歩することに

ミン・ジョンホは宮中の目があると注意する

貞顕(チョンヒョン)王后もまた 中宗(チュンジョン)王を諌める

医術の必要があるなら医官を呼ぶべきだと…

『それほど側に置きたいのなら 後宮にしてください』

『母上 誤解です! 心病を治すため…』

『心病ですと?!なぜ王が心病などに?!!!』

『……』

『チャングムを側に置きたいのでしょう?

だから後宮にすればよいのです!』

チャングムを後宮にすることなど 考えたこともない中宗(チュンジョン)王だった

しかし大妃(テビ)である貞顕(チョンヒョン)王后の言葉は影響力がある

内命婦(ネミョンブ)の問題であるため 王でも口出しは出来ない

中殿(チュンジョン)である文定(ムンジョン)王后が命ずれば決まってしまうのだ

病も回復し チャングムを担当医女にする命令も取り下げた

それでも会っている2人の関係を 中殿(チュンジョン)として察する必要がある

無下に拒めば 嫉妬とも取られかねないのだ

この噂は 最高尚宮(チェゴサングン)となったミン尚宮やチャンイ

淑媛(スグォン)ヨンセンや カン・ドック夫婦の耳にも伝わり 波紋を呼ぶ

カン・ドック夫婦は ミン・ジョンホと駆け落ちまでしようとしたのに

これは あってはならない事態だと慌てる

ドックの口から初めて2人の仲を知ったチャンイは 息も止まるほどに驚く

しかし どんなに波紋が広がろうと もはや誰にもどうすることも出来ないのだ

チャングムは それを承知で文定(ムンジョン)王后に謁見を求める

『私は医女です 医術を施したいのです

それ以外 考えておりません

その意志で 権力や地位を求めたことなどありません 気に入られようとも!』

『分かっておる お前の気持ちは分かるし お前の意志を信じている

殿下も 医術の助を得るためとおっしゃっていた

殿下にその気がないのだから どうにもならないはずだ』

中宗(チュンジョン)王は 思いもよらない事態に腹立たしく思っていたが

大妃(テビ)の言葉を思い起こしながら あらためて考え込み

いつもの庭園に チャングムを呼ぶ

チャングムは 思わぬ誤解を受けたことを 心から詫び

自分を活人署(ファリンソ)へ送り直してくれるようにと頼む

それが 王への答えになると…

『母上の誤解か?それだけか?』

『……』

『実は余も驚いた 母上に言われるまで気づかなかった』

大臣たちは 大妃(テビ)の提案を 名案だと絶賛する

もともと王の中にそういう気持ちがあったのだとまで言い始める

しかし ミン・ジョンホの弾劾は止めるべきではないという

王の心を乱し 綱紀を荒らした罪を問うと…!

チャングムを後宮にし ミン・ジョンホを処決すれば

すべてが一件落着するといい 上訴を始める

チャングムの苦悩を知った淑媛(スグォン)ヨンセンは 王に会い

どうか2人の想いが成就するようにと願い出る

心からチャングムの医術を欲している王であると信じてのことであったが

ミン・ジョンホとチャングムの関係を知り 中宗(チュンジョン)王は動揺していた

どちらが先にチャングムと出会ったのかを話し合い

自分が先だと得意気に話した自分を思い出す 中宗(チュンジョン)王だった

その夜…

中宗(チュンジョン)王は チャングムを大殿(テジョン)に呼ぶ

すでに後宮の話が出ていることから 互いに表情が硬くなる

『同副承旨(トンブスンジ)ミン・ジョンホを愛していると聞いた 本当か?』

単刀直入に切り出され チャングムは言葉を失う

厳しく見つめる中宗(チュンジョン)王の前で チャングムは涙ぐむ

『はい… 王様』

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