◆ チュノ~推奴~ 第15話#2 旅立ち ◆

炊事場のかまどの前で作業するオンニョン

その傍らには石堅(ソッキョン)王孫が座っている

そこへソン・テハが顔を出す

『炊事場に何のご用ですか?』

『なぜ石堅(ソッキョン)様をここに?』

『母親は子供のそばにいるべきですし

皆が旅立てば お世話するのは私だけです』

チョ先生とその部下は このオンニョンの行動を非難する

『石堅(ソッキョン)様は炊事場にいます』

『王孫に対して 実に無礼ではありませんか!』

『今日中にカタがつく 気に食わないが少し我慢しよう』

炊事場では…

『再会してすぐに 部下と別れるのは残念ですね』

『申し訳ない気持ちです それでも行かねばなりません』

『ご自身の意志がなければ意味がありません

風に流されていく雲と同じではありませんか

最初から進むべき道だと信じて 行ってきてください』

最後の会議が行われる

チョ先生が皆に対して訓示を述べる

『私の意向に従ってくれて感謝する 
皆で朝鮮の新しい未来を切り開こう

大業へと踏み出すにあたり 将帥の挨拶をお願いしたい』

『……』

『無言の伝言がよく伝わった 皆の者 出発の準備を!』

『ひと言申し上げます』

迷っていたソン・テハが 口を開く

『方法は違えど 志は同じゆえ従うべきだと考えましたが

手遅れになる前に お伝えしたい

我々の任務は 王ではなく世の中を変えることです』

『ソン将軍!』

ソン・テハの言葉に動揺する一同…!

『思い返せば それが昭顯世子(ソヒョンセジャ)の遺志でした』

『何を言い出すのだ?王を変えるなと?』

『変えるべきですが それを目標にすべきではない』

『語弊があるぞ』

『大業へ出征する将帥の言葉を遮ると?』

ようやく本来のソン・テハに戻ったようで ハンソム以下部下たちは安堵する

一方宮殿では…

『交易の禁止令を出せば 角の値段は跳ね上がります

国庫金を使ってでも十分な量を確保すべきです』

庭園で 朝鮮第16代王仁祖(インジョ)に進言しているのは

左議政(チャイジョン)イ・ギョンシク

『済州島で問題が生じたとか?』

『じきに報告書が届きます そうすれば詳細が分かるでしょう』

『どのくらいかかるのだ?』

『済州島からは遠路なので しばらくかかるかと』

深いため息をつく仁祖(インジョ)


『この先 あの子は苦労することになるだろう』

『朝廷で騒ぎにならぬよう努めます』

『体が冷える もう戻ろう』

イ・ギョンシクは執務室に戻ると 側近に…

『水牛の角を出すことを拒んでる者がいるそうだな』

『先代が商売を営み官職に就いた ホンという男です

その息子が商売上手で 噂を嗅ぎつけたようです』

『その件は任せる』

『一筋縄ではいきません』

『だからこそお前に任せるのだ』

『左相大監(チャサンテガム)なぜ済州島から報告書が届くと?』

『フッフッフ…年を取ると近くよりも遠くの方がよく見える』

『報告書を横取りして口を塞ぎましたが…大丈夫でしょうか?

もし殿下に知られたら?』

『すでにご存知だ』

『え?』

『驚くことはない』

『では 王命でしたか』

『王命は下されてない』

『どういうことですか?』

『私に聞くことではない 殿下の胸中を読み取るのだ 分かったな?』

雪景色の森の中で オッポクたちは標的を待っていた

“商売を営む ホンという者がいる

その息子は 民の生活に必要な物まで買い占めている

貧しい者の暮らしを さらに苦しめているのだ”

『クッポン 商人たちも殺さないといけないのか?』

『それがどうした?商人も職人も 俺たちより上の身分だ』

『近くの悪人が残ってるのに 遠くの人間まで殺せと?』

『何を気にしてるんだ?誰も殺さないよりいいだろ

お前は奴隷にしては立派だが 何でも考え過ぎだ』

その時 チョボクが通りすがり合図を送る

一瞬にして緊張するクッポン

『ひょ…標的が来るのか?く…来るんだな?』

『クッポン 焦らず落ち着いて深呼吸をしろ 標的は2人だけだ』

狙いをさだめ 見事に命中して喜ぶクッポン

しかし次の瞬間!オッポクとクッポンの背後から現れた両班(ヤンバン)…!

刀を突きつけられ絶体絶命となる…!

『水牛の角に関わる者が次々死んでいるが 犯人はお前らか?』

『まさかと思い身代わりを立てたのだ!誰の指図か言え』

『1人が死ねば 残りが白状するだろう』

チョ先生とソン・テハの話し合いの決着は まだつかずにいた

『今回は兵力を把握する程度で終わらせます

そのあと範囲を広げましょう 清や西域を見て回るのも1つの方法です

先生方は 国の百年の計を立てる方だ』

『挨拶が長いぞ』

『命令を下します 怪しまれないよう時間差で発つ

武官は先生と対になり道(ド)の境まで護衛を 1ヵ月以内に戻って来い』

『はい 将軍!』

誰もいなくなった宿で 男たちの帰りを待っているのはソルファ

苦手な裁縫までして テギルのために尽くす

そこへ フラフラになりながらテギルが帰ってくる

『あ!お兄さん』

『2人とも まだ戻ってないか?』

『うん…』

『いないんだ ひと晩中しらみつぶしに捜したがいなかった…痕跡も途絶えた』

それだけ言って倒れこむテギル

駆け寄ってソルファが支える

『横になった方がいいわ』

『なぜここにいる?自分の道を行け!俺はまた捜しに行く…

これから2人を捜さないと…もう一度…捜しに行く…』

気を失ったように眠りに落ちるテギル

ソルファは涙ぐみながら 意識のないテギルに話しかけた

『私はね お兄さんの服を作ってるの

針仕事をして 雑巾がけもしてる

一度くらい… 私のことを見てよ』

雪深い雑木林の中を歩いて行くのはオ補校(ポギョ)とチョン・ジホ

『ここで間違いないですか?』

『確かにここだ』

『墓も作らずに死体を捨てたんですか?』

『死に顔が土色だったから普通の死に方ではない

“疫病だから始末しろ”と急き立てられたら 捨てるしかないだろ』

ギロリと捕校(ポギョ)を睨むジホ

『処分したのは私じゃないぞ』

『それじゃ どうしてここに死体がないんですか?』

『雪が降る前に虎や犬が持ち去ったのかもしれない

僧侶が見つけて火葬したかもしれないぞ』

『チクショー 両班(ヤンバン)の手先になったせいで弟分を失った

生き恥をさらして仲間に顔向けできないぜ お前たち~すまない…』

遺体も見つからないまま 捨てたとされる場所に酒をまくジホ

『お前たちの兄貴が来たぞぉ この酒を飲んで安らかに成仏してくれ…

他の奴が兄貴なら 酒など振る舞ってくれないぞぉ ここに来る奴もいない!』

『ところで あの話は本当か?

左相大監(チャサンテガム)の娘婿が関わってたとか?』

『いい加減 舌が乾いてしまいますよ!何度言ったら分かるんですか?』

『本当なら大変なことだぞ』

『左議政(チャイジョン)の婿だろうが父親だろうが ただじゃおかない…』

『もちろん!私だって見過ごせない 補盗庁(ポドチョン)に行こう』

その手には乗らないという高笑いでジホが…

『昼間に酒を飲んで酔っ払えば 王様にも指図できると言いますが

いい度胸してるな…』

『その言葉遣いは何だ?私の言うことに従え!』

『俺はですね この雪のようにきれいで澄んだ心を持つ男です

自信があるなら連行してみてください』

『では連れて行こう 取り囲め!』

ジホに短刀を突き付けられても平然としていたのは

オ補校(ポギョ)が部下を引き連れて来ていたからだった

『ずる賢い人間が この世で一番タチが悪い どうぞ連行してくださいな』

いよいよテハたちが出発する時刻が迫る

『気をつけろよ 行き先は?』

『慶尚道(キョンサンド)経由で江原道(カンウォンド)に寄り

京畿(キョンギ)の境に行く お前は?』

『全羅道(チョルラド)と忠清道(チュンチョンド)を通り 京畿(キョンギ)に行く』

『遠路だから痩せられるぞ』

『この両班(ヤンバン)の服なら これは“貫録”だ』

『栄養不足で腹が出たくせに』

『何を言うんだ アハハハ…』

和気あいあいと別れの会話を楽しむ部下たち

そこへソン・テハが来る 隣には石堅(ソッキョン)王孫を抱いたオンニョンが…

『誰から出発だ?』

『私が最初に発ちます』

『民の暮らしぶりを見て学んで来い』

『承知しました』

オンニョンが…

『お餅を作ったので持って行ってください』

『餅なんて食べません』

不用意なハンソムの発言に 無言の圧力が…

『じ…実は好物なんです!お前たち餅だぞ 久しぶりの贅沢だ

お前は気絶寸前だろ?』

こうして次々に旅だって行く様子を 高台からファン・チョルンが見ている

一方テギルは チェ将軍とワンソンが夢に出てきて…

なぜか血糊が付いた刀を持っている自分をうらめしそうに睨む2人

うなされて 大声を上げて飛び起きるテギル…!

『お兄さん大丈夫?もう少し寝てたら?』

またどこかへ行こうとするテギルを引き止めるソルファ

そのソルファに向かって金を投げつけるテギル

『これは何?』

『行け もう俺についてくるな』

『全部やるわ 炊事も洗濯も何でもする 昨日は掃除もした

お兄さんの服も縫ったのよ 早く!』

『反物も買ったし旅費もやった もうやるものはない』

『お金が要ると言った?反物とかそんなもの必要ない』

『つべこべ言うな!!!!!おこぼれでも狙ってるのか?』

どこまでもソルファを置いて行こうとするテギル

ソルファは涙を流しながら後を追う…!

『お兄さん!』

『何だ』

『最低ね “何だ”なんて聞かれても 何も言えないわ

最初は行く所がなくてついてきたけど今は…好きだから一緒にいるのよ

でもそんな聞き方じゃ 好きだなんて言えない…私に質問しないで』

テギルは 流れるソルファの涙をそっと手で拭ってやった

しかし次の瞬間!その頬をしたたかに平手打ちする

驚きで声も出ないソルファ…

『どうかしてるぞ お前にやれる涙も情けもない やりたくてもな…

涙や情けなど枯れ果てた 1歩でも近づいたら…

のしをつけてサダンの前で捨ててやる 去れ…』

その時 ふと宿の軒先を見ると 手紙のようなものが置いてある

丸められた紙の中に チェ将軍とワンソンが身につけていたものが包んである

そして文面には…

“後を追えば死ぬ ソン・テハ”

テギルの視界には もうソルファはいない

ただソン・テハを追い チェ将軍とワンソンの消息を求めて走るのみ…!

部下たちが旅立ち 残されたテハはオンニョンと庭先で語らう

その様子を ファン・チョルンが窺っている

『部下に自分の愚かさを詫びました 模索しながら共に歩もうと伝えました』

『旦那様らしいお言葉ですね』

町の中を全力で駆け抜けていくテギルを 必死に追うソルファ

平手打ちされても 酷い言葉を浴びせられても ソルファにはテギルしかいない

テハとオンニョンの前に ハンソムが…

『皆 発ちました 俺は別行動で船に乗ります』

『そうか 次は私が発つ番だ』

『お気をつけて 兄貴…』

『1か月後に会おう』

ハンソムは 長い時を見守った石堅(ソッキョン)王孫をじっと見つめ

決心したように発って行った

テギルは チェ将軍の折れた槍が見つかった場所で

ワンソンが腕に巻いていた革紐を頭に巻き

チェ将軍が身につけていたかんざしを挿した

出会いの時の2人 ともに過ごした日々を思い返し戦いに向かう覚悟を決める

ハンソムも旅立ち テハが出発する番になった

『あの山寺の僧侶に言われましたよね

“大物になり大きな船を浮かべる相だ”と』

『“大きな船ほど奪おうとする人も多い”とも…』

『その言葉を忘れないで』

『すぐに戻ります 石堅(ソッキョン)様をお願いします 寂しくなります』

『急がないでください 時間がかかっても心配無用です

義理は最後まで守ります 抱いてあげて』

オンニョンから受け取り 石堅(ソッキョン)王孫を抱くテハ

テハを見上げて無邪気に笑う王孫の表情に 寂しさを紛らわす2人だった

テギルは 長い間捜し求めてきたオンニョンに別れを告げる

パン画伯が描いたオンニョンの似顔絵を 焚火にかざして燃やす…

思い出の中のオンニョンではなく この似顔絵を頼りに

全国を捜し求めただけの 自分の人生を燃やしたのかもしれない

オンニョンのために流す最後の涙を いつまでも拭い続けるテギルだった

 
☝ <ランキング参加中>

よろしければクリックお願いします