◆ チュノ~推奴~ 第13話#3 夢 ◆
『何か分かったのか?』
『何が?』
『ソン・テハのことだ ワンソンが何か突きとめたらしい』
チェ将軍の問いかけに テギルは上の空だ
『2人とも何もつかんでないのか?
どんなに頑張っても 町のことじゃ俺にかないっこない ハッハハハ…』
『寝よう…』
『待てよ 俺の推理を聞いてもらわないと
昔 書院だった空き家があるが 男たちが急に集まり始めたそうだ』
ワンソンの推理に テギルが反応する
『明日確認するが 俺が奴を捕まえたら俺に100両くれよ いつ決行する?』
『ワンソン…』
『急にすごんで どうしたんだ?』
テギルの反応に チェ将軍もソルファも注目する
『金を何に使うんだ?』
『急に何だよ 俺は…秘密だが
仕事で驪州(ヨジュ)に行った時に 土地を見ておいたんだ
その土地を買って大きい宿を建てる 前の部屋は酒場にして裏部屋は賭場
その横の部屋には女が大勢いる』
ふくらむワンソンの妄想にチェ将軍は苦笑い テギルも笑い出す
『金さえあれば何でもできる 俺がどこまでできるか2人に見せてやるよ』
『お前らしい夢だな』
『兄貴よりはマシだろう』
『チェ将軍は?』
『夢と言うほどもない 食べて行けるほどの農地があればいい
子供が弓の練習をできれば なおいいが…』
『は!俺より欲張りだな 家の庭で弓だなんて ハハハ…』
『子供の弓だ』
『弓矢には変わりないだろ』
『チビ助は?』
『私?』
聞かれたソルファは サダンから再び救ってくれた時のテギルを思い出す
「元に戻ったな」
「最悪よ」
「行くぞ 来い」
「ひどいわ もっと早く来てよ…」
テギルに抱きついて泣きじゃくった時のことを思って ソルファは答えた
『私はただ…ステキな人と出会って愛されたいな
そしてお腹を空かさず暮らしたい』
『ハハハ…お前がか?身の程知らずだな サダンの分際で』
『ワンソン!言い過ぎだぞ』
『おい 待てよ』
ソルファの夢をけなすワンソンを テギルがたしなめる
目にいっぱいの涙をためて ソルファは外に出て行ってしまう
『最低な奴…』
『俺は事実を言っただけじゃないか』
『お前は間違ってる お前たちの夢は金で叶うだろ?だがチビ助のは…
一生かかっても叶わない』
『もういいよ 寝ようぜ』
テギルにお説教されたようで面白くないワンソン 寝転んではみるが…
『寝る?捕まえに行かないのか?』
『明日 太陽が昇るか分からない 明日のことは明日考えよう』
『前は“明日の日が昇る”と言ってたのに…
明日には必ず書院に行くんだぞ 500両の獲物が待ってるぜ ヘッヘヘヘ…』
急に悟りの僧のようなことを言うテギルを 訝しげに見つめるチェ将軍
細かいことは我関せずのワンソン
怒ったソルファはまだ外にいた
翌日…
テギルたちに気づかれたとは知らず オンニョンがテハの身支度を手伝う
『大人はいいとして 石堅(ソッキョン)様の食べ物がありません
おやつどころか おかずもないんです
お役人様 市場に行って何か買って来ます』
そんなオンニョンを 優しく抱き寄せるテハ
『“お役人様”はやめてくれ もう婚礼を挙げたんだから』
テギルたちは…
『兄貴 行かないのか?昨日からどうした?動こうともしない 行こうぜ!』
『何かあったのか?』
『出るぞ』
『もちろんだ あの書院に間違いない』
『帰るぞ』
『えっ?』
『何をしてる?漢陽(ハニャン)に戻ろう』
様子がおかしいテギル 出て行こうとするのをワンソンが止める
『待てよ 気は確かか?500両だぞ』
『ここにはいない』
『行って確かめないと分からないだろ?』
『俺が確かめた』
やはり変だと感じて チェ将軍が…
『テギル 何かあったのか?』
『何もない…』
さっさと出て行くテギルを ワンソンが追いかける
『一体 どうしたんだよ』
『何が?』
『なぜ急に漢陽(ハニャン)に戻るんだ?』
『うるさいぞ』
『長いこと推奴(チュノ)師をやってきて 俺たちに何が残った?
デカい仕事で儲けないで いつ儲けるんだよ!
“粟(あわ)千粒よりカボチャ1個”と言ったのは兄貴だぞ!』
『口のきき方に気をつけろ』
『今 手ぶらで引き返したら これからずっと一文無しだ
もういい!俺が捕まえて金は全部頂くからな!』
息巻くワンソンを殴りつけるテギル
『やめろと言ったらやめろ!!!』
『殴ったな?受けて立つぞ この際上下を決め直そうじゃないか』
テギルに殴りかかるワンソンだが かなうわけがない
『やめろ やめるんだ!』
『2人とも やめて!』
ワンソンにとどめを刺しそうなテギルを止めるチェ将軍
続いてワンソンも投げ飛ばす
『ワンソン!!!』
『どっちの味方だよ』
チェ将軍は 2人に武器を投げる
『どうせやるなら真剣勝負をしろ!』
『あ…朝ご飯は食べないの?』
『ソルファ!!!刀を取れ 出会いがケンカなら別れもケンカにしろ!』
『おい あんまりカッコつけるなよ うっとうしいぞ』
『兄貴 俺の金をよこせ』
テギルに詰め寄るワンソンを諌めるチェ将軍
『中に入ってろ』
『なんで俺に指図する?ここで別れてやるから俺の稼いだ分をよこせ!!!』
『ワンソン!!!』
ワンソンは 大声で叫びながらも部屋に入って行く
どうにも様子がおかしいテギルに話しかけるチェ将軍
『出よう』
『どこへ?』
『風に当たれ』
『ここにも風が吹いてるぞ』
そう言いながらも チェ将軍について行くテギル
ソルファが そわそわと後を追いかけた
『理由を教えてくれ』
『奴らはいない 場所を間違えた』
『もしや オンニョンを見たのか? 答えろ 見たのか?』
『見つけたら手ぶらで戻ってくるかよ 捕えるか殴ってる』
『なら なぜだ?』
『チェ将軍 推奴(チュノ)師を辞めよう』
『何を言う?』
『この仕事が好きか?』
『好きなわけない』
『だから辞めるんだよ もうウンザリだ
女を捜して朝鮮中をうろつくのは疲れた 奴隷の流す涙にも嫌気が差す
命を危険に晒して生きるのもご免だ』
『オンニョンに会ったんだな?』
『利川(イチョン)に農地を2万坪買ってある』
『何だと?』
『今 家も建ててる 農地の隣にチェ将軍の家 向かいに俺の家
往来の多い通りにはワンソンの宿も まだ支払いの途中だがな』
『そんな大金をどこで?』
『どこだと思う?稼ぎをくすねたんだ
お前らに任せたら 全部使い切ると思ったからな
一生 推奴(チュノ)師でいたくないだろ?
たとえ一日でもいいから 俺たちも手を伸ばして 人間らしく生きようぜ』
『本気だったのか』
『もちろんだ いいだろ』
川に向かって テギルは大声で叫ぶ
『家を手に入れ!土地を手に入れ!みんな一緒に暮らすぞぉーー!!!』
目に涙を浮かべて 小さくつぶやく
『オンニョンも…見つけて連れて来る いい考えだろ?』
『オンニョンは… 幸せそうだったか?』
何も答えず こぼれそうな涙をこらえて笑うテギル
チェ将軍は静かに言った
『もう 漢陽(ハニャン)に戻ろう』
2人の前に ついて来ていたソルファが…
『どうした?』
『これからは 私がついてきても“どうした”と聞かないで』
『先に行け』
『お前は?』
『チビ助を送らないと 金だけじゃ寂しいから反物を買ってやる』
『遅くなるなよ』
2人を残して チェ将軍は先に帰る
テギルはソルファを市場に連れ出した
『どこへ行くの?』
『黙ってついて来い』
『うん』
『どうした?文句を言わないのか?』
『だって おしとやかな女だもの』
『ハハハ…お前に反物を買ってやる』
『反物って私に?なぜ?』
『お前の母親を捜せないからだ』
『母さんは死んだわ 昔 旅芸人だったけど もう死んだ』
そんなソルファの頭を撫でるテギル
『じゃあ 買ってもらったことはないだろ?行くぞ』
いつになく優しいテギルに戸惑い立ち尽くすソルファ
『早く来いよ』
『う…うん!』
同じ時 市場で食材を選ぶオンニョン
ふと目に止まったのは…
反物を嬉しそうに選ぶソルファに付き添うテギルの姿
オンニョンの存在に気づき始め 今は疑いもなくその事実を知ったテギルだが
オンニョンは この時初めてテギルの存在を知ったのだ
兄クンノムが斬り殺し 自分は火の海の屋敷から逃げてきたのだ
テギルは死んだのだと思っていたオンニョンにとっては 衝撃だった
驚きという言葉では言い尽くせない衝撃に オンニョンは凍りつく
目の前に揺らめく反物が あの日 洗濯物の影に隠れて笑いかけてくれた
テギルの姿と重なった
似ている…のではない テギル本人だと…オンニョンには確信できた
フラフラと テギルの方へ歩いて行くオンニョン
テギルの視線が オンニョンを捉えた
愕然とするオンニョンの表情とは対照的に テギルは冷静だった
自分を見て驚いているオンニョンを 冷たく睨み付ける
オンニョンの目から ポロポロと涙がこぼれた…
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