◆ チュノ~推奴~ 第6話#1 忠州(チュンジュ)へ ◆

 

地面に耳をつけて テハは音を聞き分ける

『戻ってくる』

テハは馬の手綱を解き 尻を叩き 無人のまま走らせた

 

『なぜ馬を…』

『馬を使うのは危険です こっちへ』

 

テハは オンニョンの手を引き 歩いて行く

 

『思惑通りになりました もう安心して逃げられます』

『追いかけて来るのでは?』

『ここで道が分かれます 追跡するのは難しいでしょう

付近の山中を捜して時間を無駄にするはず』

 

テハの策略を知らず 宿に引き返したテギルは テハと同様に地面に耳をつけ 音を

聞き 東と判断して馬を走らせる

 

『隠れて』

 

高台の岩場に隠れて テギルの追跡をやり過ごすテハ

 

『まだ危険ですか?』

『今は平気です』

『もう安全なんですね?』

『だまされたと気づけば私たちを捜しに戻るはず』

『“私たち”?私を追っているのでは?』

『そうです あなたを追っています そして私のことも』

『追われる覚えはないのでしょう?』

 

その頃 テギルは無人の馬を発見し ようやくだまされたことに気づく

 

『また逃げられたの?』

『鞍が冷たい 乗ってもなかった』

 

頭上高く花火を打ち上げるテギル

それに気づいて チェ将軍とワンソンが テギルのもとへと急ぐ

その合図の花火を テハとオンニョンも見ていた

 

『覚えがないのに なぜ追われていると?』

『逃げましょう』

『理由を話してください』

『山道では境界を越えましょう 奴らはすぐ戻ってきます』

 

何も話さないテハに オンニョンは苛立っていた

しかし テハの行動に従うしかなかった

 

『500両を逃がしたのに よく食えるな』

『まだ捕まえてないだけだ』

 

失態を認めないテギル

ソルファがサラッと言い放つ

 

『無理じゃない?』

『仕事の話に口を挟むな』

『私がいなきゃ今頃 長湖院(チャンホウォン)を越えてたわ』

 

チェ将軍が

 

『兵術にもたけてるな』

『兵術は関係ないだろ』

『さっきの手は兵書に載ってるものだ 既に2度も逃がした』

 

ワンソンが急きたてる

 

『すぐに追いかけよう 山へ行くのは確かだから手分けして捜せばいい』

『手分けしたってムダだ

朝鮮で奴と互角に戦えるのは俺だけだからな 奴の狙いを?』

 

ソルファが興味津々

 

『何?』

『口を挟むな 俺たちが奴の思惑にはまって周辺の捜索に時間を費やすことだ』

『だがここで逃がせば捕まえられない』

『奴の行先は2か所しかない あそこかその近く』

『どこだ?』

『分からん とにかく食え 腹ごしらえが先だ』

 

テギルに負けじと食べているソルファ

 

『女将さん おかわり』

『女なのによく食うな』

『“女”と言ったわね 下心が見え見えよ』

『しつけの悪い犬だ』

『何て?』

『今のままでは犬以下だ 静かにメシを食え 女将』

『はい 旦那様』

『少しいいか?この女を見たことは?』

 

ここでも オンニョンの絵を見せるテギル

 

『私は何も知りません どうかお助け下さい』

『胸にホクロのある女は見たか?』

『他人の胸のホクロなど分かりません』

『こいつの母親は売られて 父親は6歳の時に死んだ 似た話は?』

『そんなことは山ほど聞くので区別などつきません』

『そうか』

『失礼します』

 

テギルは オンニョンのことを尋ねたあとに ソルファの身の上話を覚えていて

ちゃんと女将に聞いてくれた

そんなテギルのことを ソルファは何だか複雑な表情で見つめる

言葉は乱暴だが 気遣いと思いやりに溢れているテギルだった

 

一方 山道を歩くテハとオンニョン

 

『お願いです 話してください 追われている理由を』

『追う者はいても 追われる身ではありません』

『聞き方を変えます 私たちを追っているのは一体誰なのですか?』

『推奴(チュノ)師です 私とあなたを追ってるのが同じ者かは分かりません』

『推奴(チュノ)師が私を追うはずありません … 奴婢じゃないわ』

『私も奴婢ではありません』

『追っ手が推奴(チュノ)師なら私は関係ありません あなたとは一緒に行けません』

 

オンニョンは 動揺を隠しきれぬまま テハのもとから走り去る

テハは 小さくため息をつき 一瞬のためらいのあと オンニョンを追いかける

 

『放してください』

『どちらへ?』

『どこだろうと私の勝手です』

『それなら忠州(チュンジュ)まで同行してください』

『できません』

『そうしてください』

『命の恩人でも 一緒には行けません』

『私の行先を知るあなたを1人には…』

『私が密告するとでも?』

『いいえ その前に奴らに捕まるでしょう そうなれば話さざるを得ない』

『捕まったとしても あなたのことは話しません』

『人の口はズルいものです 拷問されれば心は抵抗しても口は話すでしょう』

『…ならばお尋ねします 脱走した奴婢ですか?』

『…違います』

『本当ですか?』

『本当です』

 

見つめ合う2人

 

『私を疑うなら忠州(チュンジュ)まではご一緒します

ですがそれ以上は応じません』

『いいでしょう』

 
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