◆ チュノ~推奴~ 第1話#4 テギルの過去 ◆

 

『兄貴 あの夜から恥ずかしくて町を歩けない 死んだ方がマシだ!』

『死んでも恨みは消えまい』

『今さら仕方ない 虎の子を育てた俺たちがバカだったんだ』

『テギルが推奴(チュノ)師になったのは“オンニョン”という使用人を捜すためだ

分かるか?丙子(ピョンジャ)年のことだ…』

 

酒場で テギルにこっぴどくやられて恥をかかされた兄貴分がテギルの過去を語る

 

『清の兵士が テギルの屋敷にも侵入し オンニョンも連れていかれた』

 

その頃のテギルは今のようではなく 両班のお屋敷の甘やかされた か弱い御曹司

清の兵士を恐れて縁の下に隠れていた すると 兵士に連れ去られようとしていた

オンニョンが転んで 縁の下のテギルと目が合った

 

「テギル様!テギル様!助けてください テギル様!」

 

オンニョンは必死でテギルに助けを求めた

しかし テギルは出て行けなかった

 

大事な大事なオンニョンが連れ去られてしまう

意を決して やっとのことで テギルは縁の下から這い出た

 

『テギルは愚かな奴だよ オンニョンを助けようと 鎌を振り上げ…』

 

今のように 剣術や武術に長けているわけではない

ただオンニョンを助けたい一心で テギルは鎌を振り上げたのだ

 

「テギル様… テギル様!」

 

『2人とも 命だけは助かったものの それからは地獄だ』

そもそもこの時代に 使用人のために命をかけて闘うなどということはあり得ない

それが愛のためなら なおさら許されない時代なのだ


『息子を惑わせた使用人を 一家が許すはずがない

体罰を与えて売り飛ばそうとしたが…彼女の兄の クンノムが助けに来て

家に火をつけて逃げたんだ テギルは一瞬の間に親と家を失った 気の毒な話だ』

 

「オンニョン…」

 

火の海の中 兄に助け出され 逃げるオンニョンと出くわしたテギル

 

「兄さん やめて! テギル様 逃げて!」

 

愛するオンニョンを引きとめたかっただけのテギルだが

前に立ちはだかった姿は クンノムにとって もはや行く手を阻む 憎い両班でしか

なかったのだ

クンノムの振り下ろした鎌は テギルの額から頬へ 醜い傷をつくった

血を流し 倒れるテギル

兄によって連れ去られるオンニョン

 

『だからテギルは10年間も 必死でその女を追ってるんだ

捕まえて八つ裂きにするためにな』

『それが何なんです?』

『今から話すんだよ!狼の捕まえ方を知ってるか?槍を天に向けて地面に刺し

先端に鶏の血を塗るんだ 血の匂いを嗅いだ狼は 槍の先に塗られた血を

なめ始める 見ろ こんなふうにな 舌が裂けても気づかずに なめ続けるんだ

それが自分の血だとも気づかないままさ そして狼はお陀仏だ』

『……何の話?』

『マンドゥク 頭は考えるためにあるんだ 髪を結うためじゃない』

 

高尚な話をしたはずなのに 無学な子分達には少しも伝わらなかった

 

その頃 町中を必死で走るワンソン

女性のチョゴリの上衣だけを羽織っている

 

『どけ!』

 

今にも刺客が追いかけて来ているように 慌てふためいてひた走る

 

さらに ここはどこのお屋敷だろうか 何か祝い事が行われているようだ

 

『兄貴 テギル兄貴! 大変だ』

ワンソンは一目散にテギルの元へ走っていた

テギルは ワンソンの格好を見て どうせ夫ある身の奥方に手を出し その夫に

追いかけられているのだろうと…

『あとは任せて隠れてろ ひどいザマだな 追っ手は何人だ?』

『見つかったんだ…はぁ…はぁ…』

『何の話だ』

『オンニョンだよ!』

『……本当か?どこで見た?いつだ!!!』

 

どこかのお屋敷で行われている祝い事は…オンニョンの結婚式だった

 
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