https://news.yahoo.co.jp/articles/f51820b413fa3a718917896c5908cbae7878ac8d?page=1
大統領の収監が珍しくない韓国で、文在寅が
「朴槿恵を恩赦」したい理由
記事抜粋
今年1月に懲役20年が確定した朴槿恵(パク・クネ)前大統領に、
文在寅(ムン・ジェイン)大統領が恩赦を与える可能性が浮上してきた。
その裏にある文大統領の“たくらみ”とは──。
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収監後に恩赦が与えられることもまた、珍しくはない。
今回はパク氏とともにイ・ミョンバク氏も恩赦の対象とされており、
文在寅政権が実施に踏み切るかが焦点となっている。
その背景には、保守派のパク氏と政治的に対立する革新派のムン大統領が、2022年3月に予定されている次期大統領選を見据え、
保守勢力を分裂させようとの政治的な思惑が浮かぶ。
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議論の口火を切ったのは、進歩系与党「共に民主党」の李洛淵
(イ・ナギョン)代表だった。次期大統領選の有力候補ともされる李代表は
今年の元旦、韓国メディアのインタビューで、朴氏と李氏の恩赦を
「適切な時期に(文大統領へ)申し立てる」と発言した。
李代表が文大統領の承諾なしに、そうした極めて敏感な問題に言及する
とは考えにくく、その発言は文大統領の意向と受け止められた。
ムン大統領は1月18日の年頭記者会見で
「(恩赦については)今は話す時期ではない。国民の共感が得られ
なければならない」と発言し、事態の鎮静化を図ったが、
李代表を通して世論の反応を見たというのが実際のところだろう。
韓国政界では
「まずパククネ氏に恩赦を与え、時期をずらして李氏にも恩赦を与える」
「日本の植民地統治に抵抗して起きた『三・一独立運動』の記念日に
合わせて3月に恩赦を与える」
といった説が乱れ飛んでおり、収まる気配はない。
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では、なぜ文大統領は保守派である朴氏と李氏に恩赦を与えようと
しているのだろうか。
まず考えられるのが、ムン大統領の支持率浮揚策だ。
就任直後は80%を超える高い水準にあり、その後も60%台で推移していた
ムン氏の支持率は住宅価格の高騰や検事総長の懲戒処分を巡る混乱
などをきっかけに急落。
今年1月の世論調査では、過去最低の37%に落ち込んでいる。
一方、パククネ氏とイ・ミョンバク氏の恩赦に対しては
世論調査で賛否が拮抗しており、実施することによって
保守や中道層からの支持を掘り起こせるとの期待がある。
さらに、恩赦によって野党の分裂を図ろうとする思惑もある。
2016年に朴氏の弾劾が国会で審議された際、保守系の政党が
賛成と反対に分裂した。
現在、保守系政党が合同して最大野党「国民の力」を結成しているが、
弾劾の賛否をめぐるしこりは党内に根強く残っている。
恩赦が行われた場合、保守系政党内の朴氏を支持し続けてきた勢力と、
弾劾に賛成票を投じた勢力との間で亀裂が生じることが予想され、
反ムン政権でまとまってきた野党の力をそぐ ことにつながるからだ。
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だが、恩赦という「政治カード」を切るリスクもある。
ムン氏の支持者には恩赦への抵抗が強く、批判が高まる可能性もある。
また1月、脱税や詐欺などの罪に問われていた側近らへ次々に恩赦を
与えて批判を浴びたように、恩赦を政治利用することへの視線は
厳しくなっている。
恩赦によって「国民融和」をアピールするという発想は、
もはや現代には通用しない過去の遺物となっているのかもしれない。
そうしたマイナス面を見据えながら、文大統領は恩赦というカードを
切るのだろうか。
文大統領の任期は1年半ほど。
再選制度はなく、次期大統領選に向けた候補者選びの駆け引きが
水面下で熱を帯びていくなか、「恩赦カード」の行方は喫緊の最重要課題
となっている。
Daisuke Sato