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 中尾彬は今年に入ってから殆ど自宅で寝たきり状態だったという。調子の良い時にのみ取材を受けたり番組に出演(詳細不明)していたというけれども、今年になって急速に全身状態が悪くなり、5月15日に自宅で死亡した。81歳。公表された病名は「心不全」である。状態が急速に悪くなっても病院に搬送されなかったということは、既に病院に運んでも治療の方法がないことを本人も妻も知っていたからなのだろう。もちろん、世間に「本当の病名」を公表する義務はない。心不全‥‥誰だって死ぬときは心臓が止まるのだから、心不全という死因は間違いでは無いし嘘でも無い。

 しかし、81歳という年齢は「若い」。癌とか他の致命的な病気ではなく、もしも81歳という比較的若い年齢で心不全になったとしたら、そこには、「長年の飲酒」という名の「長年の毒物摂取」、による身体全体への悪影響があったと考えるのが自然である。

 

 長年の飲酒は大脳の萎縮をもたらす。

 老人性痴呆の中にはアルコールによる脳障害によるものも多いだろう。個人的な経験だけれども、高校時代の友人の母親が某病院に入院して、その病院の当直医を私が月に一二度していたことがある。大変酒の好きな母親で、私も大学生の頃、友人と彼女に誘われてススキノに飲みに行ったことが何度かあった。既に友人とも彼女とも付き合いが無くなってから30年以上経っていた。ある晩彼女が不穏状態であるということでナースに呼ばれて病棟に行ってみた。脳CTを見て言葉を失った、まるで頭の断面の半分ほどしか脳組織が占めていないのである、アルコールによる脳萎縮によって。もちろん、彼女との意思の疎通など不可能になっていて、生きながらにして既にこの世界から離れていってしまっていた。それでも、そうした状態で1年以上も入院してから彼女は亡くなった。

 

 長年の飲酒は肝臓障害をもたらす。

 肝硬変。それによる食道静脈瘤とその破裂による死。肝硬変による肝不全での死。それらはごくありふれた病気である、長年の大量飲酒者にとって。アルコール性肝炎の患者に肝臓癌が見つかることも、またありふれたことである。

 

 長年の飲酒は膵臓障害をもたらす。

 アルコール摂取による「急性膵炎」は、これもありふれた病気である。アルコールを飲み続けて、病院に行くほどではないような「軽度の急性膵炎を繰り返して」、慢性膵炎となり、そこからやがて膵癌となる、こともありふれたことである。

 というか、突然膵癌になったと思っている患者が多いだろうけれども、そこには長年の飲酒による膵臓へのダメージが積み重なった結果であることも多いはずである。

 少なくとも膵臓にとっては飲酒は害悪以外の何者でもない。

 

 長年の飲酒は心不全や筋肉障害をもたらす。

 長年の飲酒は痔疾や歯肉炎などをもたらす。

 長年の飲酒はうつ病などの精神障害をもたらす。最悪の場合は自死に繋がる。

 長年の飲酒はあらゆる癌を引き起こす確率を上げて、飲酒者を死へと近づける。

 

 つまり、アルコールは一利ぐらいはあるかもしれないけれども、それとは比較にならないほどの百害がある。最終的には死に繋がる。

 アルコールを飲まなくとも、人間は誰でもやがて死ぬことになっている。アルコールの力を借りてその「最終段階」を早める必要は、ない。

 生きていること楽しいと思うのなら、生きていることを楽しみたいと思うのなら、アルコールとは縁を切るべきなのだと私は思う。

 中尾彬の早過ぎる死は、それを教えてくれていると思う。

 

続く