腕の痛みよりも恐怖に体が硬直している。
暗闇に少し目が慣れきた。
闇よりも更に黒い影が。浮かんでいるのが、なんとか見える。
1~2メートル位離れているだろうか・・・
自分の間合いの中に奴がいる。
以前やっていた空手の血が騒ぐ・・・
何かものかも、分からない奴にやられてたまるか?
素早く中段辺りに廻し蹴りを蹴りだした。
しかし手ごたえは全く無い・・・空を切ったようだ。
体が思いのほか緊張し思うように動かない。
それも当然だ、こんな状況になったのは初めてだ。
喧嘩もした事は無い。
スポーツとして空手をやっていただけだから。
だが、今はそんな事、言っている場合ではない。
もう一度蹴ってみるがやはり空を切るだけだった。
スッテップを刻み体をほぐしてみる。
影は、殆ど位置を変えていないようだ。
だんだん辺りの状況が見えるようになってきた。
体をほぐしたので、緊張もほぐれてきたようだ。
影の高さは2メートル以上はある。
形から想像して一番近い形は熊だろう。
しかしこんな都会の真ん中に熊が居る筈は無いが・・・
今度は更に一歩踏み出し頭辺りに渾身力を込めて跳び蹴りをした。
手ごたえがあった・・・壁を思いっきり蹴ったように足に激痛が走った。
つぅ・・・・
着地と同時に脇腹に痛みが・・・・
なにかバットのような物で叩かれたような痛みだ。
だが、このまま倒れてしまったらそれは、即、死を意味するだろう。
なんとか踏みとどまり、しゃがんだ状態から一気に拳を突き上げた。
人間なら、丁度、顎の辺りをアッパカットされた感じで、そのままコンクリートに頭から倒れこんでいるだろうが・・・
そのくらいの感覚が拳に残っている。
その直後・・・奴の影が小さくなっていくのが分かった。
逃げていったのだ。
ほっとした俺は、一週間後病院で目を覚ますまで昏睡状態で生死をさまよっていた。
脇腹を叩かれた為、内臓が破裂していた為だ。
今、考えても、あれが夢だったのか・・・現実だったのか・・・分からない。
ただ、拳に残った感覚だけは今も残っている・・・・・・・・・