最近「男はつらいよ」にはまっている
毎晩見ては涙と鼻水をシャツの袖で拭って「ああいいねえ」ってひとりごちている
祖母の弟が、寅さんみたいな暮らしをしていた
年末になると決まって舞鶴あたりから蟹を送ってきてくれるのだが、会うのは1〜2年に一度くらいの頻度。口数少ないんだけど、会うといつも小遣いだと言って1万円札をくれたっけか
強面のおじさん、でもすごく優しくしてくれた
私が大学生の頃、西成警察署から連絡があった
木賃宿でおじさんが死んでいたのだそう
祖母と父が遺体を引き取りに行った
祖母の家で遺体と対面
袋に詰められて、冷凍庫で保管されていた遺体は木の枝みたいにガリガリだった
左の胸はボッコリ凹んでいて、苦悶の表情で目を見開いていた。
葬儀屋さんは慣れた手つきで死化粧をしていく
カチンコチンの手を「ゴリゴリ、ボキボキ」言わせながらほぐして胸の上で手を組ませて、見開いたまぶたを何度もなめすようにして閉じさせて…
私はこれを見届けるのが自分の責務だと口を真一文字に結んで一部始終を見ていた
おじさんの遺品はくたびれた腕時計と財布、そして黒い小さな手帳だった
黒い手帳には、鉛筆がきで「あいうえお かきくけこ…」と仮名が書かれていた
おじさん練習してたのかな、なんて思ってハッと気がついた
たぶん誰かに書いてもらったんだろう
おじさんは、貝塚の水間寺にあるお墓に眠る
50を過ぎて、おじさんの気持ちがだんだんわかってきた
そんな時にふとした縁で寅さんを見始めた
今日も涙と鼻水でシャツの袖をぐっしょりさせて、やっぱり寅さんやさくらさんはじめ車一家の暖かい人情にほだされる
週末は奈良井宿に行ってみよう