ニューメキシコの平坦なデザートエリア(乾燥地帯)を歩いていた時の事。



朝から4時間ぐらい歩いて疲れたので少し休憩。そしてまた歩き始めたところ。


いきなり肩にチクリ!


と蜂に刺されたような痛みを感じた。

(※今まで蜂に刺された事はない)


とっさに肩を振り払ったが、さらに2、3発やられた。気がした。


たまらずパックパックを投げ下ろして、必死に服をはたいた。


けど辺りに蜂の姿はない。


不思議に思いながら足元に転がった自分のバックパックを見ると、なんと大量の赤黒い蟻が動きまわっている。


こいつらの仕業か!


「蟻に噛まれるとそんなに痛いのか?」と思いながら、念入りに払い除け、再び歩き始めた。



2分後。


今度は足首にチクリ!!


見ると靴にも蟻たちがまとわり付いてる!

すぐに靴も靴下も脱ぎ捨てて、念入りに蟻を払い除けた。刺された部分はすでに赤く腫れあがっていて、その後数時間痛みが引かなかった。


のちに調べるとあの蟻は「ヒアリ」という危険な毒アリだった。

刺された人がアナフィラキシーショックを起こして死亡することもあるらしい。

俺は運が良かった。


思い返すと、朝の休憩のときに不自然な砂山に腰を下ろしていた。

このエリアでよく見かけたあの砂山は、ヒアリの蟻塚だったようだ。

蟻には悪い事したな。刺されて当然だ。


CDTでは様々な野生動物がいた。
特にニューメキシコでは、タランチュラ、ガラガラヘビ、コヨーテ、エルク、ボブキャットなど、日本ではまず見られない動物達に出会えた。

蟻塚🐜


タランチュラ


きみは蟻か?蜂か?蜘蛛か?


そしてCDTの旅は、ヒラリバーエリアを抜け、我々CDT-SOBOハイカーにとって最後の大きな町『シルバーシティ』に着いた。




ハイカー仲間とおそらく最後である賑やかな時間を過ごす


スーパーで最後の食糧を補給


自分はトレイルを歩く為にアメリカに来ているので、無駄に町でゆっくりする事を避けてきた。


てもこの町ではCDTハイカーと5人でモーテルをシェアして一泊、そして一軒貸しのゲストハウスをみんなでシェアしてもう一泊した。賑やかで楽しい時間だった。

みんな旅の終わりを意識していて、少し寂しい気持ちだった気がする。


この出来事は記事にする事をためらった。

読んだ方には軽蔑されるだろう。

しかし、CDTの旅で忘れられない、忘れてはならない出来事のひとつである。



歩き初めて約3ヶ月半の9月30日。

コロラド州からニューメキシコ州に入り最初の町「チャマ」で、食糧の買い出しをした時の事だ。


州境の看板。


チャマへ下りるトレイルヘッド


旅は終盤に差しかかっていたが、おれは節約に必死だった。円安が酷くて、この頃は1ドル=145円ぐらいだった。


天気の良い昼下がり、スーパーで次の町まで歩くためのギリギリ食糧を買い、店の外でパッキング(荷作り)をしようとしていた。

そこで買い忘れがある事に気づいた。


買った物を店内に持ち込むとややこしいだろうと思い、買い物袋は店外の目立たない所に置いて再び店内に戻った。


5分ぐらいで買い物を済ませ、さっきの買い物袋を取りに戻った。


しかしそこにはさっき買った食糧の袋は無かった。

(あれ?ここじゃなかったっけ??いやいやそんな訳は無い。たった5分前の事だ。)


辺りを探し回ったが見つからない。

ふと駐車場へ目を向けると3人組のホームレスの方たちがダベっていた。

なぜかたまにこっちを見ている。


その様子を見て、おれは思った。


(絶対こいつらだ。こいつら俺の大事な食糧を盗んだに違いない。)


おれはすぐに彼らに歩み寄り、食糧が無くなったんだが知らないかと訪ねた。

歩き旅の最中でとても大事な食糧であることも伝えた。

メキシコ系アメリカ人のようだ。独特なイントネーションで何を喋ってっいるのか良く聞きとれなかった。

とにかく知らないの一点張りで、そそくさとどっかへ行ってしまった。


おれは何としてでも食糧を取り返したい一心で彼らをつけた。

すると彼らは潰れたガソリンスタンドの敷地に入って行った。

隣の建物の影からこっそり様子を観察していると、各自バッグから食糧を出してまたダベりだした。

(よし。おれの食糧が出てきたら、すぐに突撃してやろう!)


しかし張り込む事10分、20分、待てど暮らせどおれのらしき食糧は出てこない。


(ダメだ、そろそろこの町を離れてトレイルに戻らないといけない。もう待ってられん!)


と思い、食糧の奪還はなかば諦めながら彼らの所へ向かった。そして

「あれからいろいろ探しけど、食糧は見つからないよ。あーあ、残念だ」

と、俺は嫌みたらしく言い放った。

そして失った食糧を買い直すべくスーパーに戻った。


店員さんが外で商品を運んでいたので、さっきの出来事を話した。


すると、、、


店員「あれ君のだったんだね。良かった。きっと誰かの忘れ物だろうと思ってサービスカウンターに預けたよ」




なんて事だ。やってしまった。



急いでサービスカウンターへ行き食糧を受け取り、潰れたガソリンスタンドへ戻った。

ホームレスの方たちはまだいた!


食糧が見つかった事を話し、疑ってしまった事を拙い英語で必死に謝罪した。


それに対して彼らは


「おお、良かったじゃないか。では、引き続き旅を楽しんでくれよ。」

笑顔でそう言っただけだった。


もし自分が逆の立場だったらどうしただろう。ふざけるなだろう。

怒鳴りあげていただろう。

七日尋ねて人を疑えとはこの事だ。


これまでお遍路、日本横断、PCTCDTの旅でたくさんの親切に触れ、助けられてきたじゃないか。

おれは何を学んだんだ!何をやってるんだ!


とぼとぼと歩きながら、トレイルヘッド(登山口)に戻るために町はずれでヒッチハイクをしていると日本車が止まってくれた。


これまたメキシコ系アメリカ人の方だった。


日本の事が好きとの事で、トレイルヘッドまでの車内ではいろいろな話しをしてくれた。

そして別れ際には

「大変な旅でしょうけど、必ず目標を達成してね。」

と応援していただき、20ドルもお小遣いまでいただいた。


優しさに触れ、ますます自分の弱さを痛感し、情けなくてやるせない気持ちでいっぱいだった。


コロラド州の南部、過酷なサンファンルートの入り口の町、「レイクシティ」に来た。

しばらく雨の予報なので天気の回復を待ち3日ほど待機し、遂にサンファンルートに突入した。

レイクシティの町で仲良くなったCTハイカーたちと共にトレイルに戻る。



さすがサンファン山脈、いきなり圧巻の景色


トレイル自体は恐れていたほどハードではなく、天気さえ良ければ問題ない。

見晴らしの良い稜線、切り立ったキャニオンや、湖を眺めながら気持ちよく歩ける。そもそもコロラド州はずっとアップダウンが厳しかったので、その延長と言った感じ。

自分はSOBO(北から南下するハイカー)の中では早い時期に歩いてる方だったが、サンファンルートを歩いた時期はすでにギリギリセーフだった。

あとで自分より1週間後に歩いてるハイカーの写真を見たら、すでに真っ白な雪の中を歩いていた。

自分の予想だが、運良くサンファンルートを歩けるハイカーは全体の半分もいないと思う。

多くのハイカー雪に行く手を阻まれ、「クリードカットオフ」ゆう迂回ルートを選択する事を余儀なくされる。


ある日の朝、全てがカチコチに凍りて撤収に手こずった


サンファンルートを抜けてニューメキシコに入った頃からまた天気が崩れだし、まさかの4日連続の雨天にあった。


秋のニューメキシコは雨期に入っていた。



このゲートは意味あるのか?笑


北部は標高が高い場所が多く気温が低い。冷たい雨の中のハイクはとても辛かった。

ぬかるんだダートロードは粘土質なとこが多く、常に靴が脱げそうなほど重い土がシューズに張り付いていた。


120kmほど南下し、「キューバ」を越えたあたりから砂漠地帯に入り、山、動物、植物、何もかもがガラッと変わった。同じ景色を長く歩いていると、環境の変化はとても嬉しい。

秋のニューメキシコは日中は気温の変動が激しい。晴れると日中は汗がぽたぽた落ちる暑さだが、早朝は氷点下まで気温が下がる過酷な環境だ。

10月末にゴールするまでずっとこの環境やった。軟弱者のおれはこの地域には絶対住めないだろうなと思った。






ニューメキシコ後半に入るとCDTのハイライトの一つ「ヒラリバーGila River」エリアに入る。

これはCDTオリジナルのルートでは無いのだが、切り立った美しいキャニオンを見上げながら60回ものもの川の渡渉をしながら谷底の川沿いを歩くスリリングなルートだ。多くのハイカーがこのルートを選択している。


しかし、自分がこのエリアに入る直前に仲の良いハイカーから

「今は増水がひどいから川沿いは歩けないよ」

との連絡があった。実際、連日の雨で川が増水していて、何度か恐ろしい渡渉を経験した。





川沿いを歩き続ける事は出来ず、途中のドックキャンプベルとゆう集落からはトレイルを離れて、

30マイルほどロードを歩いて先に進む羽目になった。


続く

約一年前の夜の事。

旧友Yから電話がかかってきた。


Y「お前、もう日本帰ってきとんか。おれ建築の営業を始めたけん、なんかあったらまた声かけるわ!」

私「おう、ぜんぜん期待せんと待っちょるわ。まぁ、また近々飲みに行こうな。」


酔い気味でいきなりかけてくるYの電話はだいたい長引くので、早めに切り上げた。



その3日後の1010日の夕方、今度は共通の友人Kからの電話。

いつも冷静なKが明らかに動揺している。


話しの内容はYの急逝だった。


すぐ友人数名が集まり、通夜の会場へ行った。


棺の中のYは今にも起き上がりそうな、穏やかな顔だった。

あまりにも突然の出来事であったが、彼と出会ってからの20年を思い返し、ありがとう。お疲れ様。と言った。


翌日、棺を担ぐYの幼馴染みたちの姿を、

僕はとても直視する事ができなかった。



出会いがあれば必ず別れがある。生まれた以上、いつかはみんないなくなる。

誰もそのタイミングは選べない。諸行は無常であり、当たり前の様にずっと続く事なんか絶対無い。

その限られた時間の間で何ができるんやろうか。

過去を懐かしんだって意味がない。

未来を悲観してもキリがない。

仕事でも遊びでも、やりたい事、行きたい所、があるなら行動に移していきたい。うまくいかなくても、人のせいにせず、自分の責任において。

今日が人生最後の日ぐらいの覚悟で人生を謳歌しないといけない。


その中で、いい仕事をする。

美味い料理を作れる。

オモロいことを言える。歌がうまい。。色んな方法があるが、何でもいい。

そうやって人を幸せにできる人が一番偉いと私は思う。

Yのように。


この事は今回CDTを歩くきっかけの一つでもあった。


破天荒やけど、友達思いやったY

苦労人やったY

今のおれらに、何を言ってるやろうか。


「ヒマやけん、誰かこっち来いよ!」


「中井は、また訳わからん事はじめたのー」


「羨ましいのぅ」


とゆう声が聞こえてきそうだ。






すご無沙汰しております。Trail name Gazelle です。


まったくブログを更新しない間に僕はズンズン歩みを進め、今はコロラド州の南の方、レイクシティーとゆうところに来て、

町のライブラリーで天気予報と睨めっこである。


モンタナ州はアップダウンがきつく、危険な川の渡渉あり、雪山あり、湿地帯では1000匹ぐらいの蚊に囲まれ気が狂いそうになったりする過酷なエリアだった。

危険な雪渓のトラバースあり






「 Blow down 」と呼ばれる倒木が行手を阻む


実はハイキングしながら釣りもしている。

キャンプファイヤーで焼くトラウトは最高のディナー!


ワイオミングに入ると、かの有名な「イエローストーン国立公園」エリアに入った。

途端にトレイルはフラットになった。イエローストーンは「間欠泉」と呼ばれる、定期的に地面から温泉が吹き出す摩訶不思議な自然現象があちこちで見られるエリアだ。硫黄の香りが漂っていて、無性にゆで卵が食いたくなったのは僕だけではないはず。



ワイオミングも中盤の「ウインドリバーセクション」に入ると標高が上がり、モンタナ州以上にアップダウンがきつくなった。それに引き換え、ため息の出るほどの絶景の連続やった。

特に「ナップサックコルセクション」「サーク・オブザ・タワー」とゆうセクションは、人によってはCDT1番のハイライトだと言うほど、素晴らしく壮大な景色だった。

ナップサックコルの最高地点。コルとは、日本語やとカールなんかな?




サークオブザタワーの山容


ウインドリバーセクションを抜けランダーとゆう町を越えると「ベイズンエリア」とゆう約280kmに渡るデザートエリアに入った。360度見渡す限り木も山も無く、青い空と一直線の地平線だけの荒野をひたすら歩いた。歩き初めは日本ではあり得ない景色と、体力的な楽さに「こりゃいいわ!」と思ったが、2日も歩くと単調過ぎる景色にうんざりした。

また、日陰が無い上に水がほとんどなく、牛のう◯こが浮かぶ沼の水を息を止めて飲む事もあった。このセクションをヒッチハイクでスキップするハイカーも多いようだ。

青空と地平線が果てしなく続く




コロラド州に入るとまた一気に標高が上がり、常に34000m

最高地点のGrays Peakに至っては、14,278 フィート (4352 m) !

グレイスピークからの朝焼け


マウンテンゴートの親子


過酷なアップダウンと、極端な昼夜の温度がハイカーを苦しめるが、それと引き換えに気持ちの良い稜線歩きが多く、素晴らしい展望がたくさんある。


また、町から町の間隔が23日と比較的近く、時には3日連続で違う町に立ち寄れる事もあった。食糧の調達は簡単だ。

が、物価が高い上に町ではバーやレストランで散財する危険があるので、非常に財布に厳しいセクションと言えるだろう。


アメリカで最高峰の町Leadville とゆう町。標高 10,152 フィート (3,094 m) に位置するこの町は、歴史ある建物が多く現役のレストランや服屋で残っていて、とても趣のある街並みだった。



バキバキに凍り付いたテントとsunrise🌅



僕のハイキングはとゆうと、これからCDT のハイライトの1つ、San Juan」(サンワン)ルートに入る。平均標高3500m以上の分水嶺を辿る過酷なルートだ。

このエリアはトレイル自体が過酷な上に、120マイル、約6日間補給ができない。

場合によってはクリードルートとゆう別の迂回ルートを選ぶ事もできるが、是が非でもサンワンルートを歩きたい。


だが天気予報を見るとこの先4日間雨の予報である。

さあ、どうしたものか。