村上春樹「街とその不確かな壁」・・・統合失調スペクトラムとメタバース | santos008jpのブログ

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 私は映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を見る上で、ADHD(神経発達症群の一形態)とマルチバースへの若干の理解が有るとその世界観を読み解くことが容易になると述べた。今回、この小説に出てくる主人公達(少なくとも主人公を含めて3人=主人公・少女・少年)はADHDよりも重い疾患で有る統合失調スペクトラム症的な要素を持っていると理解した。3人は統合失調スペクトラム症の中でも妄想性障害(主人公と少女)と感情障害(少年)の違いは有るが、それらの人達が行くメタバース(=「壁に囲まれた世界」今回は、現実世界との連関が有るのでマルチバースでは無くメタバースとした)的世界と、精神の失調が深く関わっている。但し、主人公は日常生活に関しては普通に過ごす事が出来るので病名などは付かないで有ろう。

 

 さて、物語は、主人公が高校時代に出逢って熱愛する少女が語る・・・「私は、本当は自分の影であり、本当の自分は高い壁に囲まれた別の世界に居る」という言葉に基づき、愛する少女が突然居なくなってしまった喪失感から、その「高い壁に囲まれた世界」を求め、旅立つという物語だ。その「高い壁に囲まれた世界」は決して妄想では無く、「実在するメタバース」(言葉の矛盾は無視して欲しい)であろう。その意味では、主人公達を「精神病患者」と即断する事は間違いで有るが、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』同様に、その世界と関わりを持つ人間を統合失調スペクトラムの一形態と捉える事が理解を容易にする手立てだと「私は」思い、この本を読み進めて行った。勿論、それは作者の本意では無いかも知れない。ただ、この作品が一種の幻想小説であり、主人公達も幻想の世界の住人と思うことが本書の楽しみ方に適しているする読者がここに居有るという事だ。

 

 最後に、村上春樹さんの小説に欠かせないのは音楽で有る。「ノルウェーの森(この森と言う訳し方は間違いだと思うが・・・)」という曲名そのままの題名もあれば、「1Q84」ではヤナーチェックの「シンフォニエッタ」が物語の重要なキーとなる。私も、「1Q84」読んだときにはアマゾンでこのCDを取り寄せて時々聞きながら読み進んだ。この小説ではジャズである。主人公が訪れる喫茶店ではいつもジャズが流れている。「1Q84」の時代と違って私には強い味方のサブスクがある。小説の後半からは、ポール・デスモンドとジェリーマリガンで部屋を満たしながら読み進むことが出来た。村上さんの小説は究極のエンターテインメントである。何よりも、読んでいる時が楽しい!極論かも知れないが、読後、何が残ったかは重要では無い。何を感じながら読めたかに極まる。この小説は決して愉快なものでは無いが、色々な仕掛けを楽しめる一流のエンターテインメント有る事は確かだった。