「実はですねえ。この近くにすごい墓地があるんですよ。
ご存知です?」
「いや~、そりゃあ知りませんねえ。どこですか?」
「この墓地のちょっと下の辺りです。
そこには昔、佐藤榮作さんも墓参りに来られたらしいんですよ。」
「ええっ!佐藤榮作?!あの佐藤榮作ですか!」
「はい。」
山口県出身の総理大臣であります。
同じく総理大臣を務めた、昭和の妖怪
岸信介は、彼の実兄であります。
そして、曾祖父で萩藩士、明治になり島根県令を務めた
佐藤信寛は、松陰先生や木戸さん、
井上閣下、そして俊輔らとも深い親交があったようです。
さて、僕は、
白髪の紳士T氏に、そのすごい墓地を案内してもらいます。
「ここです。」
「えっ?この中ですか?」
そこは住宅地の中に取り残された、小高い山で、竹薮に覆われていました。
そして、この中がほんとすごいのです。
ほとんどの墓が藪に覆われ、墓地が枯葉に埋もれ、
今にも山に返ろうとしています。
「すごいでしょう、ここの墓地。」
「いや~、たまげました・・・。
僕はここに墓地があったとは知りませんでした・・・。」
僕は言葉を失いました。
まさかこんな所にこんなに沢山の古い墓があるとは・・・。
「う~む。僕も死んだらいずれこのようになってしまうんかのう・・・。
何か悲しいのう・・・。
じゃが、佐藤先生は一体、誰の墓に参りに来られたんじゃろうか・・・。
ほんとにこんな山の中に来ちゃったんかのう・・・。」
そんな疑問を抱きながら、しばらくこの墓地で呆然とする、
白髪の紳士T氏と僕でありました。