当館では、今日から春蚕(はるご)の飼育が始まりました。

そして、同時にton-caraさんとの企画「繭をつくる〜桑摘みと養蚕のワークショップ」もスタートです。今日のワークショップの様子はton-caraさんのブログにアップされています。そちらもぜひご覧ください。このワークショップは、6/13の繭かきの日までずっと続きます。その間、単日の参加も受け付けておりますので、これからでもご興味ありましたらton-caraまでご連絡下さい。

 

 

 

 

 

 

さて、今回の飼育は、卵からふ化したばかりの1齢期から始めました。そのため、この写真の電気温床室を利用しています。これは群馬県で発明された(むろ)です。蚕は、孵化から3齢期の終わりまでを稚蚕(ちさん)といいます。この齢期の蚕は赤ちゃんですから、温度や湿度の管理をしっかりして面倒を見る必要があります。そうしないと、成長にバラツキが出たり、最悪は病気が発生し繭をつくる前に死んでしまうこともあるのです。ですから養蚕に関わる人たちは昔からいろんな工夫をしてきました。

 

いろんな飼育法が試されて行く中で、群馬県の場合は、個々で行っていた稚蚕飼育を地域の農家が共同出資して専門の建物を建て協力し合うようになります。そのような共同稚蚕飼育所は昭和30年代に多く建ちました。またもう一つの流れとして、当館の電気温床室のように個人で稚蚕飼育できるような商品というのも開発されました。これを利用する農家は飼育規模の大きいところです。大量に飼育する場合は稚蚕飼育を自分で行う方がコスト安なことと、作業にも融通が利いたようです。

 

その後、農家の共同稚蚕飼育も廃れ、製糸会社や農協などが経営する稚蚕飼育所に委託して2齢や3齢期まで飼育してもらうのが一般的になります。農家での稚蚕飼育の技術はどんどん廃れるわけですが、このことにより農家は稚蚕飼育の手間と設備投資が不要になり、参入がしやすくなった面もあったのでは。優良繭の生産についても昔より容易になっていると思います。稚蚕期の餌についても、生葉だと外部から病気を持ち込むリスクが高いため、より衛生的に管理できるよう粉末にした桑葉を練り込んだ人工飼料の研究開発が進みました。稚蚕飼育を委託するシステムや人工飼料の開発は将来性のある産業では当たり前の流れで、素晴らしい技術です。最近はこうした技術を駆使して、大規模な養蚕工場など明るいニュースもありますね。

 

とはいえ、日本の養蚕業の全体は先細りで、以上で述べたシステムの維持が難しくなっています。養蚕農家が減り、稚蚕飼育所が維持できなくなった地域では養蚕が終わっています。または、1戸でも続けたい農家は昔のように稚蚕飼育から自分で行わなければなりません。個人で養蚕を行う場合は、人工飼料を衛生的に扱うのは大変ですし、コスト高でもあることから、昔のように桑葉で稚蚕から飼育することになります。養蚕がない土地で個人で新たに養蚕を始める場合は、蚕種会社から個人で卵を購入し、稚蚕から育てることを考えなければなりません。

 

当館の場合は群馬県ですから危機感を持つ必要は今のところありません。県内に人工飼料を生産する施設がありますし、人工飼料で稚蚕育をすることは一般的です。なので、桑葉による稚蚕飼育の現場を知りたいという欲求が強く、2011年頃からは県内外に出向いてお話を伺い、設備や飼育を見学させていただき、その技術を少しずつ学んできました。その経験をワークショップでは、参加者の皆さんにご案内して行きます。

 

 

 

 

 

 

この写真は、本日2回目の給桑作業の様子です。

今年は桜の開花が早く、温暖で遅霜の害もなかったので桑の生育は良好です。このまま春蚕の初日を暖かに迎えられるものと思っていましたが、この数日雨が続き、今日は日中でも20度を切る肌寒さでした。お蚕さんのために室の中だけは27度を保っているので、わたしもこの中に入っていたい気分です。一昨年の晩秋にも稚蚕から自家飼育しましたが、その時はこの室がなかったので大きな蚕室全体を加温加湿していました。これはとても便利です。