京都・朝鮮学校に初の「保健室の先生」 12年前の「事件」契機に
在日コリアンの子どもたちが通う京都朝鮮初級学校に、2021年度から初めて「保健室の先生」が誕生した。公的支援が少なく財政難の朝鮮学校で、常勤の養護教諭を置くのは全国的にも異例という。背景には、12年前に起きたあの事件があった。
「頭が痛いの? 次の授業の間はここで休もうか」。京都市伏見区の校舎に設けられた「保健室」を訪れた女子児童に、養護教諭の曺元実(チョ・ウォンシル)さん(27)が優しく声を掛ける。児童が気軽に来られるよう、入り口の扉は開け放たれたままだ。
外国人学校の多くは学校教育法上、自動車教習所などと同じ各種学校とみなされ、保健室の設置を義務付ける学校保健安全法が適用されない。全国に約60校ある朝鮮学校は公的な助成が見送られている場合もあり、保健室の設置や養護教諭の配置など児童の保健教育は後回しにされることが多いのが実情だ。
京都朝鮮初級学校でも、前身の旧京都朝鮮第一初級学校(京都市南区)が1946年に開校した当時から保健室はなかった。体調を崩した子どもは図書室などに置かれたベッドで休み、けがの応急処置はクラス担任が授業を中断して施していた。文峯秀(ムン・ボンス)校長は「朝鮮学校で学んだ保護者や教員は『保健室』というものを知らず、必要性が認識されてこなかった」と明かす。
そんな空気を変えたのは09年12月、旧第一初級学校の前で「在日特権を許さない市民の会」(在特会)のメンバーら約10人が差別的な街宣活動をしたヘイトスピーチ事件だった。大音量のマイクで「朝鮮学校を日本からたたき出せ」「何が子どもじゃ、スパイの子やんけ」などの言動を繰り返した。
加害者は威力業務妨害罪などで有罪判決が確定し、民事訴訟では損害賠償も命じられたが、事件は子どもたちに深い傷を残した。一人でトイレに行けなくなったり、大きい音や声におびえるようになったりした。長男を通わせていた龍谷大の金尚均(キム・サンギュン)教授(刑法)が児童の精神面のケアの重要性を保護者や教員らに呼び掛けた。13年4月に伏見区の現校舎に移転した際に初めて保健室が作られた。
ただ、養護教諭の資格を持ち、民族教育への理解もある人材の確保は難しい。当初は常勤の教諭は置けなかった。府内の朝鮮学校などでつくる保健室運営協議会が15年に発足し、日本人を含むボランティアが月数回、各校を訪れて応急処置などを担った。ただ、時々来る先生では心を開きにくい面がある。常駐の養護教諭を探していた時、出会ったのが曺さんだった
↑続きはこちら