岐路に立つ朝米関係/李柄輝 朝鮮新報より | かっちんブログ 「朝鮮学校情報・在日同胞情報・在日サッカー速報情報など発信」

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〈時代を視る 1〉岐路に立つ朝米関係/李柄輝

ハノイ・ノーディールの背景と展望

 

http://chosonsinbo.com/jp/2019/05/sinbo-j_190527-2/?fbclid=IwAR0WkiQ8J2T6YNOSMM3G0h9VQXhO9MaBYHbai-KU-9izxDOU-d72UpRoMbw

 

 

↑朝鮮新報より

 

 

 

ハノイ朝米首脳会談が合意なく終わる様子を国際メディアセンターで見守る取材陣(連合ニュース)

 

 

 

リビア方式の再台頭

ベトナムの首都・ハノイで開催された第2回朝米首脳会談(2月27~28日)は、大方の予想に反して「ノーディール」に終わった。米国は一括妥結のビッグディールを求め、同時行動による段階的アプローチを一貫して主張する朝鮮の立場との齟齬が際立つ結果となった。

2017年危機から世紀の首脳会談の実現にまで漕ぎ着けた朝米両国であるが、一連の情勢転換を支えたのは、核戦争を回避しようとする金正恩委員長とトランプ大統領の英断であった。双方とも外交手段によって問題解決に臨む以上、相手国に「満額回答」を求めるだけでは、外交の前提が崩れてしまう。

双方の主張に折り合いをつけて、向かうべきゴールをあらかじめ設定しておく一括妥結方式は、かつて朝鮮も6者会談において主張したことがあり、それ自体受け入れられないものではない。しかし、ハノイで金正恩委員長にトランプ大統領が手渡したとされる朝鮮語と英語の文書の中身は、朝鮮側に一方的な核放棄を迫る「リビア方式」そのものであった。

昨年の5月、ボルトン安全保障担当補佐官は、朝鮮の保有する核弾頭の米国への引き渡しと核およびICBM関連施設やプログラム、ひいては生物化学兵器の存在を既成事実化して、これらすべての完全廃棄を朝鮮側に迫った。朝鮮は強く反発し、史上初となる朝米首脳会談の開催が暗礁に乗り上げることになったが、トランプ大統領が首脳外交により問題解決を目指す方針を最終的に堅持したため、かろうじてシンガポール共同声明の発表に漕ぎ着けた。しかし、いったん後景に退いたかに見えた「リビア方式」の文脈は、米国内の保守強硬派の中に生き続け、ハノイ会談を機に再び鎌首をもたげはじめた。

共同声明からの逸脱

シンガポール共同声明(昨年6月12日)は、4項目で構成されるが、前文に「金正恩委員長とトランプ大統領は、新たな朝米関係の樹立が朝鮮半島と世界の平和と繁栄に寄与すると確認しつつ、相互の信頼醸成が朝鮮半島の非核化を促すと認めつつ、以下の通り声明する」と謳われている。この前文こそが共同声明に署名した両首脳の共通認識であり、朝米対話を規定する原則となる。

金正恩委員長は、朝鮮の核武装は交戦関係にある米国の核の脅威に対するリアクションであると説明してきた。事実、朝鮮戦争最中の1951年4月、マッカーサーにより原爆投下計画が浮上して以来、2006年に最初の核実験に成功するまで、朝鮮は米国の核兵器で半世紀以上におよんで威嚇され続けてきた、唯一の非核国家であった。

他方、1974年以来、終戦と平和協定締結を求める朝鮮の提案を拒み続けてきた米国であるが、朝鮮による核の兵器化が現実段階に入るに至り実現した朝米会談において、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)を求めてきた。だが、トランプ大統領は、昨年以来、朝鮮戦争の終結に幾度も言及しており、シンガポールにおいて朝米関係を新たな関係へと転換し、両国の信頼醸成の過程で平和と非核化を目指すという金正恩委員長との共通認識を世界に示した。

しかし、ハノイにおいてそこから逸脱した。信頼醸成ではなく経済封鎖レベルの強い制裁圧力をレバレッジとして、朝鮮に「リビア方式」の受け入れを迫る米国の提案は、国家間の妥協的営為としての外交にはそぐわない。

問われる米国の勇断

ハノイにおいて米国は、自国にとっての「満額回答」を朝鮮に求めたわけだが、非核化に関する朝鮮側の本来的要求は、すでに2016年7月6日の政府声明を通じて表明している。朝鮮は、自国を核武装へと至らせた米国の核の脅威として、朝鮮半島周辺に展開する核打撃手段や南朝鮮で核の使用権を握る米軍の存在を挙げ、その除去や撤収を求めている。

シンガポール共同声明以後、トランプ大統領の表明した米南合同軍事演習中止の決定さえも保守派の猛反発を呼び起こした状況において、ハノイ会談後の深夜の会見で李容浩外相が述べたとおり、朝鮮は、米国が軍事分野の措置を講じるには負担が大きいとの判断から寧辺核施設の永久廃棄への相応措置として2016年以後の民生部門に係る制裁の一部解除を求めた。

4月の最高人民会議において金正恩委員長は施政演説を行い、国内に向けて自力更生を呼びかけるとともに、米国に対してはハノイで示した提案以上の譲歩はあり得ず、年末まで米国の勇断を待つとの立場を示した。そして、施政演説後、金正恩委員長の活動において、新型兵器の性能実験や火力打撃訓練の視察など、軍事指導が再開された。

一方で米国は、朝鮮との対話を継続させる立場を示しているが、米本土に対する朝鮮の脅威を最重要課題と位置付けてきた、昨年来の外交の基軸に変化が表れつつある。次の大統領選挙を見据えて、トランプ政権の岩盤支持層であるラストベルトの白人労働者やキリスト教福音派に浸透しうる成果を求めて、中国との貿易交渉や反イラン・親イスラエルの中東政策に傾倒しつつある。

トランプ大統領は、朝鮮の核と弾道ミサイルが、米本土の脅威となりうる状況を招いたのは、オバマ政権の無作為であったと批判しながら、昨年来、朝鮮の核・ミサイル実験が止まったことを自らの外交成果として誇示してきた。実験中止措置は、国家核武力の完成を踏まえ、並進路線から経済集中路線へと舵を切った朝鮮労働党の決定とはいえ、米国との善意の対話を前提とした措置である。米国が圧力路線に拘泥し、現状維持を選択すれば、中止措置の解除も十分にありうる。

2017年危機へと時計の針を戻すことは、避けなければならない。幸いにも朝米双方が対話による事態の打開を模索している。ならば、新たな関係樹立と信頼醸成を謳ったシンガポール共同声明の趣旨に立ち返るべきであるが、交戦関係にある朝米間において、信頼は同時行動により積み上げていくほかない。信頼の程度に比例して、平和と非核化に向けた歩幅を徐々に広げていくのが現実的な道筋であろう。

朝米関係が岐路に立つ今、米国の勇断が問われている。

(朝鮮大学校文学歴史学部准教授)