昨日の朝日の朝刊.山中教授がiPS細胞の備蓄に取り組むと発表したとのこと.まあ,山中先生がひとりで決めたことじゃなくて,国家プロジェクトの一環なのでしょうけど:
要は,iPS細胞を各人から作製して分化させて医療に使おうとすると,時間がかかって,急ぎの場合に間に合わないので,あらかじめ多くの人に移植可能なiPS細胞を大量に用意する,という計画.
多くの人に移植可能,というのは,他人に移植しても抗原-抗体反応(免疫応答)を起こさない細胞の持ち主がいるということ.輸血なら普通の血液型のO型がこれに当たり,A,B,AB型に輸血可能(Rh+/-の一致は必要だけど)ですね.
iPS細胞の移植では,“日本人でもっとも多い白血球の型を持つボランティアの血液から作れば,日本人のうち約2割の人への移植に使える”,とこの記事には書かれていますが,これは意味不明です.記者が理解しないで書いたのでしょう.
“ある種の白血球型を持つ人からiPS細胞を作れば,この白血球型と免疫応答を生じない人に移植が可能である.とりあえず,最大の割合を占める2割の日本人に移植可能な白血球型のiPS細胞を備蓄する.”,という意味でしょうね.
白血球の型,とありますが,Wikiによるとこれは個人を識別する組織適合性抗原の種類のことであり,白血球に限らないとのこと.HLAと通常呼ばれます(human leucocyte antigen,の略で,白血球の名は一応残されている).で,このHLAはABO式のように簡単ではなく,第6染色体上のA,B,C,D座からなる遺伝子複合体の産物で,各座ごとに多数に分類され,組み合わせは数万通りになるそうです.
まあ,それでも(おそらく)その組み合わせの存在比には偏りがあり,ある種の組み合わせを持った人が多いので,それをターゲットにしてiPS細胞を作れば多くの人に移植が可能,ということですな,たぶん.
が,そのような移植可能なHLA型の日本人は数パーセントしかいないとのこと(http://ksj.blog.so-net.ne.jp/2012-12-27-1).どうもこれは,HLAホモと呼ばれるマイナーな群の人々の細胞を利用するということと思われます.
HLAホモとは,例えばABCというHLAの組み合わせを父と母の両方から受け継いでABC/ABCという型を持った人のことで,この人の細胞をヘテロのABC/abcの人に移植しても,免疫応答による拒否が起きにくい,という利点があります(http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/ketsueki_1225release_ips.pdf#search='iPS細胞+白血球+型').
よって,こういった少数派のホモの人のiPSを作っておけば,その何倍も存在するヘテロの人向けの備蓄が可能となります.
こういったHLAのデータを日本赤十字社と協力して集め,備蓄に本格的に取り組もう,というのが今回の山中先生の発表の主旨のようです.
以上,推測に推測を重ねた想像ですが,本当のところはどうなんでしょうね?