フランソワ達は気付けばいつの間にか別荘の門扉の前に立っておりました

ベルを鳴らすと急いで管理人のおじさんが出て参りました

『お坊ちゃまお久し振りで御座います じいは楽しみにしておりました

皆様おはよう御座います どうぞ御入り下さいませ』

別荘に伺うことは伝えておりましたが時間は決めておりませんでしたので

高い鉄条門には鍵が掛けられておりました

以前は外の門扉はいつも開錠しておりましたが観光客が増えたために間違って

お店ではないのかと中に入る方も多くなり今では鍵を閉めてありました

三人は門の中に入り広大な芝生を歩き別荘に辿り着きました

歓待された三人は別荘のリビングへ行きそれぞれが好きな場所に座りました

『お坊ちゃま ここまで片方の杖だけで来られたのですか』

『そうです 

今では学校内は杖無しで

歩いておりますので

僕の右膝下の無いのを

知っているのはプールの部活動の人達だけですけど

初めて水泳パンツ姿を見た同期や先輩は驚いておりました

そしてそれよりも更に泳ぎが速い事の方がもっと驚いておりましたよ』

『作用で御座いますか フランスの小学部中等部 後期中等部では体育の

授業自体が無いので学友達は帰宅後サッカーや水泳やフェンシング等の

クラブチームに行くのが普通のようですよ 

僕は恵まれていて叔父様が作ってくださった自宅の屋根付き温水プールで

雨の日も雪の日も日課のように泳いでおりましたからいつの間にか

速く泳げるように成っていたのです

叔父様のお陰です 学友達は余の速さに驚いていましたが僕自身が

一番驚きましたよ』

『作用で御座いましたか 爺も大変嬉しゅう御座います 

裸になって陰口を言われた事は無かったのですか』

『プールをする学友達は総て医学部だけの部活ですので

誰も言う人はおりませんでした

他学部達と一緒ならばそういう事を言う人はいたかも知れませんが

時間が決められておりますので他学部の人達とは会う事はありませんからね

医学部の人達は皆優しく接してくれますし特別扱いはしませんので僕は

それが一番嬉しい事ですよ コーチも同じで学友達と一緒に怒られますから

ストレス解消にも成ってとっても嬉しい時間です』

フランソワの笑みを浮かべながら話す姿に両親も嬉しそうで御座いました

その時コーヒーの香りがリビングに広がりました

おばさんが温かいコーヒーとケーキを持ってリビングの中に入って来て

大きな大理石で造られたテーブルに

コーヒーとケーキを並べたのでした

『おじさんもおばさんも

御一緒に頂きましょうよ 

お二人の分もお持ちください』

『とんでも御座いません 

私共は御遠慮致します』

『フランソワの言う通りクリスさん達も御一緒に頂きましょう

その為に寄らせて頂いたのですから 遠慮はいりません』

『お父様の言う通りです 

僕がおじさんやおばさんにお逢いしたかったのですからご一緒にお願いします 

学校のお話をしますから』

『ありがとう存じます ではそうさせていただきます』

『アカネール 嬉しい事じゃないか すぐにお持ちさせていただきましょうよ』

『レオノール様 マリーエ様 フランソワ様お気遣いに感謝を申し上げます

ただ今持って参ります』

アカネールおばさまは本当に嬉しそうに小走りで退室して行きました

笑い声の響くリビングへ二人分の物を持参しテーブルの端に置いたところで

おじさんのとなりに着席致しました

フランソワの寄宿舎生活の話しに及んでいた中に入り嬉しそうに聞き入って

いたアカネールおばさんですが暫らくすると感激の余り涙が流れだしたのでした

それに気付いた母親がおばさんに向かって話しだしました

『アカネールさん いつもフランソワを小さい頃から面倒をお掛けしてしまい

ありがとう御座いました これからもフランソワの事ですから休暇には

入り浸りに成ると思いますので宜しくお願い致します』

『もったいないお話に恐縮で御座います 私共はジュベリア家にお仕えして

これほど幸せな事は御座いません お蔭様でお坊ちゃまを赤ちゃんの頃から

見させて頂き今では難関大学の医学部学生様に成られた事は非常に嬉しい

事で御座いました お小さい頃からお勉強にも熱心で遊びに来られた時でさえ

必ずお勉強道具は持参されいつも感心しておりました

今日は御成長された実感が涌いて参りましてつい涙が出てしまいました』

『おばさん 本等にありがとう御座いました 

これからも宜しくお願い致します』

『いやぁ 本当にありがとう御座います 

私らには子供がおりませんので孫のような気持ちでさせていただいています 

家族の温かさをいつも頂き感謝しております』

クリスおじさんも涙目になりながら嬉しそうな顔を見たフランソワは嬉しく

なり学校の話を続けました



                                ・・・つづく