ソファーにゆったりと腰を下ろしながらも時折涙を浮かべるマリーエを

レオノールは優しく抱き寄せておりました

何気ない会話を進めながら時間は午前二時を回っておりました

レオノールが静かに話し出しました

『今夜はゆっくりと休んで明日会えるフランソワの

為にも私達がしっかりしなければいけないと思うから今夜は全員

寝る事にしよう』

『そうですね 兄上今夜は寝る事に致しましょう』

驚いた事に箪笥の中にはそれぞれの新しい着替えが入っており

マリーエを驚かせました

『姉上様 勝手に執事に頼んでそろえさせました

ネグリジェも有ると思いますので遠慮なく着てください』

『ありがとうマリブルさま では遠慮なく使わせて頂きます』

『姉上様 もう一つ言いたい事がございます 私の事をこれから

マリブルと呼んでください お願い致します 

勿論妻のシュレーナも同じでございますよ』

『判りましたわ マリブル シュレーナ 本当に

ありがとうございました お休みなさいませ』

『おやすみなさいませ』

特別室の明りはフットライトだけにして4人は疲れていたせいでしょうか

いつの間にか静かに眠りの中へと滑り込んで行きました
$お姫様のお散歩日記

特別室のカーテンを全部閉めて寝てしまったレオノール達は

外から聞こえる小鳥達のさえずりさえも気付かず

まだ熟睡しておりました

太陽は大分高くなっておりました

執事達がそっとドアを開け夜食の片づけをし

朝食の用意をし始めました

朝食の香ばしいパンの香りで起きたのはマリーエでございます

パンの香りで反射神経が研ぎ澄まされていたマリーエは驚いて

起き出しました

その時には朝食の用意は総て出来上がっていたのでした

マリーエはそっとレオノールを起しました

『やぁ マリーエお早う』

その声に気付いたシュレーナとマリブルはおもむろに起き出しました

『皆様遅くなりました おはようございます』

『お早う もう朝の食事の用意が出来ているので頂こうかな』

『そうですね 頂きましょう』

4人はゆっくりと起きてしまった事に反省をしておりましたが

夕べ遅くなった時間を考えますと仕方がないと自分に言い聞かせながら

おいしそうな朝食を頂きました

朝食が終った頃に執事達が来て後片付けを手早く済ませベッドも

綺麗になおして行きました

『兄上 姉上様この度は私が駅まで連れて来た事でこんな大事故に

フランソワを遭わせてしまい何と言う言葉で謝れば良いのか言葉が

見つかりません 本当に・・・本当に申し訳なく・・・』

『マリブル これもフランソワに与えられた試練なのでしょう

きっとあの子は我々の元に戻ってくれると信じています

だからもう泣かないでおくれ マリブル それより着替えを先にする事だよ』

マリブルは兄に言われた事で少し心が落ち着いたようです

レオノール達は着替えを済ませ朝の歯磨きも終え椅子に座って

病院関係者の誰かは必ず来る事を期待しながら沈黙の中で待ちました

その時ドアをノックする音が致しました

『どうぞお入りくださいませ』

『お早うございます 良くお眠りになられましたか』

と笑顔の看護婦が入って参りました

『午前9時からの回診が始まりますがその前にご子息様の回診を先に

されるようでございます ご子息様は意識が戻られました 
$お姫様のお散歩日記
痛がってはいらっしゃいますが

今の所大丈夫だと思っておりますわ
 
遅くなりました 外科の婦長をさせて頂いておりま

すキャランヌと申します 宜しくお願い致します』

それだけ伝えると婦長キャランヌさんは

足早に部屋を出て行かれました

『フランソワの意識が戻ったようですから安心しました 兄上』

『そうだよなぁ 意識が戻ったのだからあとはフランソワの頑張りに

かけましょうかな』

『神のご加護に感謝申し上げます アーメン』

マリブルは消え入りそうな口調でつぶやきました

レオノールやマリブル達は婦長の言葉で涙が一気に溢れて参りました

あれだけ長い手術に耐えたフランソワの頑張りに皆が抑えていた感情が

急に緩んでしまったのでした

嬉し涙にくれるレオノール達と同じ様に隣に居たマリーエは

婦長の言葉で涙が止まりませんでした

フランソワに会える喜びに嬉し涙が止めどなく流れ声を出して泣く母親の

愛情深い涙なのではないでしょうか

しばらくしてから看護婦が部屋へ入って参りました

『今からご子息様に面会に参ります 室内に入りましたら手を消毒につけ

綺麗に洗って頂き手袋マスク 白衣を着て頂きます
 
免疫力が低下しておりますので面会時間は朝10分
 
お昼と夕方も同じ10分でございます しばらくの間は

守っていただきます では参りましょう まだ観察室から出られませんので

ご理解をお願い致します』



                                  

                                    ・・・つづく