おばさんは二階のチェックをし階下に戻りますとまだ寝ている

フランソワの顔を見つめて微笑みました

『もうそろそろお着きだわ』と独り言をつぶやきながら外へと向かいました

遠くから馬車の蹄の音が段々と近づいて参ります

急いで外の門まで走って行き真っ直ぐ伸びる道路を見つめておりました

坂道を登って来る馬車の音こそご主人様達のお車だと感じました

門から出てお待ちしていますとやはり思ったとおりのお懐かしい

ご主人様ご夫妻がお乗りになっている馬車でございました

頭を下げて馬車のお通りをやり過ごしますと慌てて走り出し

正面玄関へと向かいました

馬車はゆっくりと歩きながら玄関へ到着致しました

管理人が馬車から降りて丁寧に馬車のドアを開けました

中には久し振りのお元気そうなご主人様方がにこやかにお座りに

なられていらっしゃいました

直ぐに足踏み箱をドアの下に置き手を差し伸べてご主人様が降りられ

次に奥様が降りられました

『お疲れでございましょう お待ち申し上げておりました』

管理人夫妻は頭を下げてにこやかな面持ちでお迎え致しました

お二人は別荘の中へと入られフロアーにあるソファーへと

向かわれました

大きな窓側のソファーにお座りになったお二人は一瞬驚かれました

少し離れた南側のソファーに孫のフランソワが寝ているではございませんか

『フランソワはどこか具合が悪いのですか』

『いえぇ 遊び疲れたご様子で直ぐにお昼寝をされましてもうそろそろ

起きられるのではないでしょうか』

それをお聞きになった御婆様は寝ているフランソワの傍に行きひざまずいて

フランソワの寝息を聞いていらっしゃいました

安心されたのか微笑みながらお爺様にお話をしていらっしゃいました

その時聞きなれない馬の鳴き声が致しました

慌てて管理人は外へ出るとご主人様達の執事が今到着したようでございます

ふたりの執事は荷物を降ろすと駅馬車の馬主にお金を渡し駅馬車は

また今来た道を戻って行きました
$お姫様のお散歩日記
玄関に荷物を下ろした執事達はご主人様に挨拶を済ませ

二階のお部屋に荷物を運び二つの旅行カバンを開けると

なれた手つきで箪笥の中へとキチンと整理しながら

すべて綺麗に入れ終わりました

管理人は執事達を別の部屋へと案内し

くつろいで頂く事に致しました

ロビーの奥に行きますといつの間にかフランソワが起きていて

お爺様御婆様達に抱かれていらっしゃいました

『お坊ちゃま 起きられましたか』

『おじさんありがとうございました ぼく』

『お坊ちゃま走りすぎたのですね それで疲れて寝てしまったようですね』

フランソワはあの熊騒動のお話はしないほうが良いと気付かされました

お爺様達や両親が心配しすぎて森へ行っては行けないと言う筈ですから

思いとどまったフランソワは楽しそうにたくさんのお話をお爺様達に

面白おかしく話すものですからお爺様御婆様達は笑い通しでございました

そこへ丁度おばさんが入れたての紅茶を持って参りました

『お坊ちゃまのはこちらでございますよ』

『ありがとうございます』

『さぁ 頂きましょうね 楽しいわねぇ』

御婆様は嬉しくて仕方が無い様子でございます

しばらくしてからお二人は二階のご自分のお部屋で休まれる事になりました

フランソワはお二人をお見送りしていつものソファーに座りました

その時管理人のおじさんが来て小さな声で言いました

『今日熊にあった事は皆様には内緒に致しましょう 』

『はい ご迷惑を掛けてしまい命を助けてくださってありがとうございました』
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『お坊ちゃま あの小屋には女房がお坊ちゃまの為に

お菓子や甘いクッキーや飲み物をたくさん入れていたんですよ 

たまたま通りかかった熊がにおいに引き寄せられて

小屋へ登ろうとしたんだと思います

却ってお坊ちゃまに怖い思いをさせてしまい

申し訳ございませんでした』

『いいえ あれはぼくが悪いのです 

これからはひとりでは行きません』

『大丈夫ですよ 周りに高い塀を致しますので例え熊が来て塀をさわっても

大きな音が鳴るようにしておきますから安心してください
 
これは私と坊ちゃまとの内緒事に致しましょう』

『はい 約束致します』

それだけ言うと管理人は忙しそうにロビーから出て行かれました

フランソワはそのまま座り本を読み始めました

大きなお屋敷はいつの間にか静寂に包まれて行きました

今日は4月11日のフランソワのお誕生日でございます

フランソワの為に家族が全員集合するのです

幸せを実感しながらも本を読み続けておりました

窓からは涼しい風も嬉しそうな雰囲気で爽やかに入ってまいりました




                                ・・・つづく