カナリヤさんの穏やかな話し方をフランソワはいつも素晴しいと

思っておりました

カナリヤさんのような話し方をしようとフランソワは学習して来たつもりで

ございましたがまだまだ勉強が足りないと気付かされました

『ではフランソワ様今夜私も参ります 宜しくお願い致します』

『えっ今夜来てくれるの 嬉しいなぁ 待ってます』

『では 失礼致しますフランソワ様』と言って空高く昇って行きました

その姿を追いながらフランソワはひらめきました

フランソワは管理人のおじさんに手伝って貰って森に中に

隠れ小屋を造ってもらっていたのです

ひとり陣地ですがたまにはおじさんやおばさんが来てはおやつの

差し入れをして下さるのです

それを思い出したフランソワは森に行く支度をして両親の了解を取り

陣地がある森へと急いで出掛けました

その陣地は別荘の近くにございますので必ず管理人のおばさんに

伝えてから行く事になっておりました

別荘の戸を開けて大声でおばさんを呼びましたが誰の声も

かえって来ませんでした

しばらく座っておりましたが待ちきれずにカバンからノートを出して

〈陣地へ行きます フランソワ〉と書きノートを置いてから

フランソワは嬉しくなって走り出しました$お姫様のお散歩日記

森の中には所々に木漏れ日が差し込み

フランソワはこの風景が大好きでした

陣地は大きな木の上にあり

その木は少し斜めになっていて

フランソワでも枝に掴まり

大きな木に乗り移り陣地に入るのです

その小屋は雨が降っても雨宿りが出来る優れもので

窓も一つあり丈夫に作ってもらっていますので

床には使わなくなった絨毯が敷かれていて小さな台もあり

そこで勉強も出来るようになっておりました

フランソワは陣地に入るとカバンを置いて窓から外の風景を眺めておりますと

遠くからざわざわとした音が聞こえて参りました

なんだろうと見ておりますとこちらに向かって歩いて来ている何かが

見えました

おばさんかもと大声で叫んでみたフランソワは驚きました

それは恐ろしいヒグマでした
$お姫様のお散歩日記
慌てて窓を閉めかんぬきをかけ出入り口のかんぬきも閉めました

外からは絶対開ける事は出来ないと思いながら身体が震え始めました

息をするのも怖いくらい部屋の真ん中でじっと立っておりました

その時咄嗟に部屋にはしごとスコップが置いてある事を思い出しました

フランソワはスコップを掴むと出入り口の方に眼を向けてじっと

たっております

もしヒグマが入って来たら戦おうと思ったのでした

静まり返った森の中に不気味な足音が聞こえて参ります

この陣地に向かっていると思ったフランソワは身構えました

隙間のない部屋は真っ暗闇の世界です

その時でした

突然小屋が揺れているのを感じました

木を引っかくようなガリガリとする音が聞こえだしました

フランソワは恐ろしさに固まってしまいました

心臓が今にも口から飛び出そうな勢いの鼓動は耳の中から脳裏を

駆け巡っております

スコップを持った両手は小刻みに震え必死に恐怖に耐えています

今か今かと待ち構えているフランソワは長い時間の経過におののきながら

おばさんに書いて来たノートを思い出し心の中で(早く来て 早く来て)と

叫んでおりました

その時です遠くからライフルのような銃の発射音が聞こえました

何度も何度も聞こえて参りました

そのうち発射音は消え静寂な時が訪れました

しばらくしてからやや遠くから『お坊ちゃま お坊ちゃまぁ』と言う

おじさんの声が森の中に響きました

フランソワは恐る恐る窓を少しだけ開け森の中を見渡しましたが

おじさんの姿は見えません

『おじさーん おじさーん陣地に居ますよぉ』

その言葉をしゃべるのが精一杯でございました

その声を聞きつけた知らない人が窓の下から『大丈夫だったかぁ』と

声を掛けてくださいました

『おーい 大丈夫だぞぉ』

『ありがとうよぉ メナリオット』

その声は管理人のおじさんでした

窓を全開したフランソワは大声で叫びました

『おじさーん おじさーん ここに居ますー』

フランソワはおじさんの姿を見ると大声で泣き出しました

走って来たおじさんは間髪居れずに『入口を開けておくれぇ』

その声で我にかえったフランソワは急いでかんぬきを外しました

おじさんと知らないおじさんが陣地に登ってきました

二人が入口から部屋に入るとフランソワはおじさんに抱きついて

大声で泣き出してしまいました

おじさんは優しく抱き締めながら『怖かっただろうなぁ よく頑張った』と

抱いてくださいました




                                


                                ・・・つづく