時は移ろいながら季節は美しい香りを運びこみ 時と共に成長を続ける

フランソワはいつの間にか11歳の朝を迎えておりました

伯父様との突然の逢瀬から4年ちょっとが経過し

フランソワとマリブル伯父様との男同士の約束事は今も継続中でございました

小学2年生だったフランソワは今では小学5年生となり九月の新学期には

新6年生になるのです

身長も伸び母親に近付こうとしておりました

家のパンの売れ行きが良く母だけでは対応出来なくなり

使用人も里山の方を3名採用し母親は日々頑張っておりました

外側には別棟の新しいお店も構え店名のなかったお店は

立派な《リヨンの香り》という看板もついております

今までは朝夕のみの販売でしたが今では朝7時から夕方5時までの

開店でフランスパン以外にもたくさんの種類が増えておりました

中でも母特製のチョコレートは大人気商品になっておりまして

レンヌから買いに来られるお客様も増えておりました

マリブル伯父様の提案でフランソワの家にあった水車小屋も

以前より大きくなり電気をたくさん造れるようになっておりました

伯父様が職人を呼んでくださり水車小屋を流れる川幅を山裾から拡張し

水量が増えて発電量も増加しパンの機械にも使える様にして下さったのでした

里山の方達にも水車小屋を自由に使えるようにしましたので

とうもろこしを粉にしたりオリーブの実を潰してバージンオイルを作ったりと

水車小屋は里山の楽しい集会所のようでございます$お姫様のお散歩日記

奇跡の再会からフランソワの家は

伯父様のお陰で大きく様変わりを致しました

しかしながら伯父様の来られる姿を誰も見る事はございませんでした

伯父様はいつも夜来られるからでございます

理由を知っているのはフランソワだけでございます

男同士の約束は今も守られフェラン山の内部の事や天馬の存在は

勿論心の中に堅くしまっておりました

今日はフランソワの11回目のお誕生日でございます

運の良い事に日曜日でもあり夕方からお誕生会が開かれる事に

なっておりました

グルノーブルにあるメラノ教会へ管理人のおじさんの馬車で家族と行き

神の御前で誕生日の感謝を致しました

午後2時頃にはリヨンの御爺様御婆様が来られるのを

フランソワは心待ちにしておりました

両親は忙しくお買い物を済ませ 馬車で待っていたおじさんと

フランソワと一緒にまたレンヌの我が家に帰って行きました

我が家に着いた時刻はまだ午前11時前でございました

二階へ上がったフランソワは勉強を始めておりました

階下からはいつの間にかいい香りが漂って参りました

その時部屋をノックし入って来たのは父親でございました

『フランソワ今日の誕生会にマリブル夫妻も来る事になっているんだよ 

今日は内輪でする事にし日頃お世話になっている管理人夫妻も呼んでいるんだよ 

それで良いかな

あっ 忘れるところだったよ 昼食の時間だよ』

『わぁ 嬉しい また伯父様にも会えるのですね ありがとうございます』
$お姫様のお散歩日記
それだけ告げると父親は下へ降りて行かれました

父を追いかけるようにフランソワも階下に降りて行きました

昼食はかわいらしい小さなパンがたくさんお皿に盛られ

各自のお皿には鴨のソティーに野菜の炒め物と紅茶が置かれておりました

三人が揃うと神に感謝をし食事が始まりました

フランソワは伯父様や御爺様達が態々来て下さる事に興奮しておりました

落ち着きのないフランソワに気付いた母親は静かに言いました

『フランソワ お食事の時は落ち着いて食べなさいね』

『ごめんなさい 伯父様達が来て下さる事が嬉しくなっちゃって』

『まぁ いいさ 今日は楽しい日だからなぁ フランソワ』

『はい ごめんなさい』

それから和やかな時間が流れフランソワはまた部屋へ戻りました

直ぐに部屋のカーテンを開けると口笛を吹き始めました

その音色に引かれて小鳥達が集まりだしました

窓辺にたくさんのパンを置いてフランソワは綺麗な音色を

生み出す素晴しい口笛で誰かを待っておりました

その時待ち遠しいカナリヤさんが飛んで来てくれました

朝来た時には何も言わなかったカナリヤさんが

『何か御用でしたか』とにこやかに囁きました

『今 父から聞きました 伯父様が今日来て下さるのですね』

『お聞きになられましたか それなら申しましょう グルノーブル駅から

馬車にお乗りになりこちらに向かわれる事になっております』

『まさか天馬の馬車で来られないでしょうねぇ』

『それは勿論でございます』

『でも汽車で来られるとはどの駅なのでしょうか』

『それはお応え出来ません 汽車にはお乗りになられません』

『そうなんだ やっぱり』

『フェラン王国は絶大です 滅多な事で見破られるような事はございません』

『それが不思議の王国の存在なのです』

『うんそれは理解しているよ 山の内部があのようになっていたとは

この世でないような錯覚さえ覚えたよ あれが化学の進歩なんだね

ぼくも将来は科学者になりたいと思っているんだよ これは内緒だよ』

『はい 勿論フランソワ様でしたら御立派な学者になられますわ』

フランソワがカナリヤさんと話しをしているうちに小鳥達は礼を言いながら

森に向かって飛んで行きました





                                 ・・・つづく