フランソワ達一家は疲れていたのでしょう

三人とも熟睡していたのです

その時ドアをノックする音で両親が目ざめました

ドアを開けますと執事達が一礼をして室内に入って参りました

『ご主人様あと10分ぐらいでレンヌ駅に到着致しますので

降りる用意をお願い致します』

『それはありがとう すっかり熟睡していたよ フランソワ

起きなさい もう直ぐ着きますよぉ』

その言葉でフランソワは慌てて着替えを始めました

執事たちも大きなカバンの中に皆様の着替えを収納致しますと

後は停車を待つばかりでございます

汽車はレンヌ駅に静かに滑り込みました

執事達は大きなカバンを持ち先に降りる事に致しました

フランソワ達はその後を付いて行きます

駅舎の前は大勢の乗降客で混雑しておりました

馬車の停車場に参りますと管理人が来ておりました

フランソワを見つけた管理人は大声で

『お坊ちゃまぁお帰りなさいませ』と声を挙げました

$お姫様のお散歩日記
今日は荷物が多い事を見越して二頭立ての馬車で来ていた管理人は

急いでドアを開け 荷物の場所を執事達に伝え荷物が収まったところで

『レオノール様お帰りなさいませ お疲れでございましたでしょう』

と言いながら席に乗りました

執事達はまたこのまま次の汽車でリヨンへ戻る事になっておりました

三人はお礼を述べ執事達とここで別れる事になりました

フランソワは馬車の窓から執事達に何時までも手を振っておりました

見えなくなってやっと席に座りました

馬車に揺られながら夢のような一週間はあっと言う間に過ぎてしまい

一抹の淋しさを引きずりながら

フランソワは心地良い夢の中へと誘われて行きました

馬車は一路家路に向かって快調に走り続けました

野山の美しさはフランソワの帰りを待ち侘びていたような清々しい風景で

迎えてくれているようでございました

爽やかな風が心地良く吹きながら馬車の後から付いてくるようでございます

馬車は無事自宅の前で静かに停車致しました

フランソワはまだ夢の中でございました


翌朝フランソワはいつもの様に小鳥達のさえずりで目覚めました

一瞬御爺様の家かなと思いながら昨日帰宅した事を思い出し

急いで窓を開けました

そこにはたくさんの小鳥達が並んでフランソワを待っておりました

『お早う お久し振りだねぇ みんな元気でよかったね
 
ちょっと待ってね』と言って

パンを用意したフランソワは小さく小さくちぎりながらたくさん並べました

小鳥達はついばみながらフランソワが居なかった事が淋しかったと

ささやきながらしっかりとパンを食べております

いつもと変わらない朝の風景が懐かしく思われました

明日から学校が始まります

フランソワは学友達と逢える事をとても楽しみにしておりました

階下からはいつものように香ばしいパンの香りが漂って参りました

『釜出しだぁ』と叫んだフランソワは急いで下に降りて行きました

『パパ ママ お早うございますぅ』

『あらぁ 早かったのね 疲れているでしょうからもう少し寝ていればぁ』

『そうだよ フランソワ 今朝はパパが手伝うからね』

『久し振りのパンの香りがたまらなくて降りて来ちゃったよぉ』

『だったらお花の水遣りをしてくれないか』

『わかったぁ 直ぐにします』

フランソワは嬉しそうに鼻歌を歌いながら外へ出て行きました

外の爽やかな風がフランソワを取り巻いているようでございました

水車小屋に着いたフランソワは草木や花たちに話しながら

たくさんの水を上げました

大空を仰ぎながら雲の流れを見てフェラン山を眺めました
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フェラン山はいつもと同じ尖った一番高いお山でございました

あそこに伯父様がいらっしゃると思うだけで嬉しくなったフランソワで

ございました

真夜中にきっと天馬に乗って我が家の上を旋廻していたに違いないと

勝手に想像してはひとり大声で笑っておりました

里山の方達がパンを買うために段々と並びだしました

『フランソワお帰りなさい 』

『元気そうで安心したよぉ』

『おいしいパンが早く食べたかったよぉ』

皆様達が温かく迎えてくださいました

『皆様ありがとうございました』

フランソワは村人達に大きな声で心を込めて申しあげました

早朝の里山にもおいしそうなパンの香ばしい香りが立ち込めております

その時中からフランソワを呼ぶ母の声が聞こえました

急いで家の中に入ったフランソワは驚きました

そこには思いも付かない素敵なかわいいリボンが付いた透き通った

品物がたくさん並んでおりました

『ママ これはなんなの』

『これはね毎日パンを買いに来て下さる皆様にさしあげるための

リヨンのお土産のチョコレートよ』

『わぁ おいしそうですね 皆様喜ばれますよね』

『フランソワ 皆様がパンを買われた後で一つづつ差し上げて欲しいの』

『はい わかりました ママ』

『お願いねぇ 今から販売しますからドアを開けてね』

『はい』

フランソワは急いでドアを開けに行きました

『皆様お待たせいたしましたぁ』

大きな声を出しながら中に入って来たフランソワはプレゼントの前で

少し緊張しながらもにこやかに微笑んでお待ちしておりました

いつものように順番に並んだ皆様方は玄関ホールへ入って来られました

パンを買われた方がフランソワの前を通った時

フランソワはドキドキしながらもお客様にお声を掛けました

『リヨンのお土産です どうぞ』

『えっ それは申し訳ないわ ありがとうございます』

お客様たちは躊躇しながらも嬉しそうにお土産をフランソワから

受け取って下さりました

両親たちにもお声を掛けて行かれました

中にはお子様連れのお客様もいて大きな声で

『まぁ嬉しいわ リヨンにはまだ行った事がなかったの 

あそこのチョコレートはおいしいって聞いた事がありましたが

頂けるなんて嬉しいわぁ』

それを聞いたフランソワはとても嬉しくなりました

皆様がお帰りになってフランソワの前にはまだたくさんのお土産が

残っております
                                $お姫様のお散歩日記
『ママ まだたくさんお土産が残っているよ』

『それは今朝来られなかった方や夕方しか来られない方も

いらっしゃるのでその方たちの分ですよ』

里山のお客様達のお顔は全員知っているフランソワ達ですから

今朝来られなかった方の顔が浮んで参りました

明日から始まる学校へ行くのを楽しみにしていたフランソワは

自分の部屋に戻り明日持って行く授業の用意を何度も確認しながら

宿題とリヨンで描いたシュテ公園の大木の画と御爺様の湖にいる白鳥と

フラミンゴの風景画 黄色い花をつけたかわいい植物画の三点を

持って行こうと思いました

リヨンでの楽しかった日々を思い出しながらひとり思い出に浸るフランソワは

マリブル伯父様との再会を思い出し伯父様に抱かれた時のいつもの香りが

今でも五感に広がり永遠の懐かしい香りとなっていました



                                   ・・・つづく