◆在野に居ると景色がよく見える。業界に飛び込んで一番驚いたのが新聞販売の世界では、販売店と取引していただいているのに、発行本社の方が圧倒的に力が強いことだ。それを暗黙の裡に相互に認め合ってきたのは「新聞販売店はいい商売である」ということであろう。「いい商売=儲かる」の原則が働いていたのだ。それが2006年の折り込みピークを越え、リーマンショックによる日本経済の急激な冷え込みを経て、新聞販売のその原則が崩れかけている。残念ながら新聞販売店業を営む人達は高学歴ではない。どちらかといえばたたき上げの苦労人が多い。業界へのモチベーションは「苦労しても儲かる商売」だ。今年になってから、各系統で多発する「お金不足による自廃、仕事放棄」はそれを指し示めしている。現役時代、九州へ赴任したことがある。業界のことは東日本しか知らない小生はいち早く全店を訪店し、一番に各店の経営内容の把握に努めた。「儲かっているか」がその店存続の指標だと考えたからだ。厳しいと感じて最初に部会で指示したことは北陸時代と同じ「後任者リスト」を作ること。これがない限り安心して施策は打てない。残念ながら、他部、他社は「店主の場あたり的個人的設置」。少しでも科学的にしようとする試みだ。店主の質と量がすべてを決する、と言っても過言ではない。

◆かつて本社は販売店の近代化を求め、全店法人化を図った。これは一定の功を奏したが、完全には至っていない。その時、将来の販売網を考え、「取引制度の中に法人取引」を謳うべきだと進言したが、時期尚早と否定される。そして未だに取引相手は実質個人限定となっている(一部例外もあるらしいが)。過日、ある業界外の勉強会で「業界の外の人間、会社が新聞販売店経営を望んだとき、発行本社は認めるだろうか?」という質問を受けた。「非常に難しい」としか答えられなかった。新聞販売店の一番大切な責務は「配達と納金」。

その技術の慣れの難しさはあっても克服はできる。問題は取引制度にある。その上、発行社は販売店主の兼営ではなく、独立個人を望むという原則を変えていない。これを無理に続けているために、「商売=儲かる」という原則が崩れ始めた。本当の店主の声は今どうなっているのか。① 息子に継がせることを止める ② いい従業員を独立で出してくれ、といわれても代償金(お金)を持っている従業員はほとんどいない。(先月記述したように、給料が安く貯めることができない)③ 親店主がその従業員に代償金を用意、保障する能力がない(あってもこれからの新聞販売店経営では返済不可能と読むからしない)。

◆さらに環境は悪化している。新店、新法人の消費税免税問題である。この2年は大きい。ざっと部当たり月@200円免税が一般店より余裕。それに数年前までは、新店に早く経営部数と発行社も補助応援してきた。今年に入り、発行社も予算削減が目立ち、それもない。そして新法人の消費税免税も消えた。今は少なくなったが、意気揚々と販売店経営を目指した従業員が、チャンスは来たがよくよく現状の販売店の経営状況の話を聞いて断った人が出たとも聞く。

こうした本社から見た「後任者不足」は複合化、合配化を加速する。A社が実施した「販売店主転出奨励」。140店以上が対象となり主として近隣と合併、大きな店へと統合が進んだ。統合版地区が主体である以上地方紙との共同作業が考えられる。そしてほとんどの人が全国紙3紙、と地方紙を考える、だいぶわかりやすい状況にもなった。紙新聞の納金収入を確保しようと思えば、相互預合いをするほうが、妙な古くからの「専売・独立原則」よりも安心で補助もいらない(出せない)状況が優先されるのは当然であろう。何度も言うように、今は発行本社も販売店もその数が多すぎる。ウェブ時代の紙新聞右肩下がりが今後も続く。紙も折り込みもピーク時通りには存続しえない。淘汰があり「適者生存」原則がなければならない。

◆その淘汰に生き残る販売店にお願いする。この淘汰時期は古くからの業界の非常識を変更し、商売を飛躍させるチャンスである。

①「折り込みゼロでも経営できる店づくり」

1990年以降日本経済のバブルははじけたのに、折り込み収入はすぐにははじけず、2006年までそれがバブルだと認識せずに販売店を経営してきた。その余力は馬鹿げた「部数競争」に充当された。「利益を追求するための手段として読者(部数)がある」のに、試算表(店の経営バランスシート)を無視した行動をとってきたことを猛省、大修正をかけなければならない。あくまで経営の指針は「試算表」である。

②「拡材なし。お客様との取引をする店づくり」

古くて新しいテーマ「新聞販売になぜ契約や拡材が必要なのか」→「新新聞販売店方式」に移行する最大チャンス。

新聞を必要としない人に押し付けるために契約や拡材がある。それならまず「後届けシステム」にする。次にお客様に良質商品を斡旋する。但し物販はプロも多く我々は対抗しえない。我々の強みは物を届ける能力。商品(紙新聞)を買っていただけるお客様に「廉価で物を買っていただき、お届けする」方式はいかに。

◆漏れ耳にしたが、今新聞配達用のバイクが注文後2か月待ちという。日本経済の空洞化で工場が国内になくなっているせいだ。日本国の全ての経済活動が昔経営から脱皮を始めている。新聞業界は一部昔方式に固執している向きもあるが、全体経営が大きく変わる中では留まることは不可能である。ウェブ版問題では後発なのにiPadの威力を見ても馬鹿げた方式を考えているとも聞く。子供新聞は成功だ。一定の収入をもたらした。なのにウェブ版はなぜ一定程度売れる500円から極端に値下げする必要があるのか。500円で本社にとっても販売店にとっても益ある結果が予想されるのに。そしてお客様サイドに立った内容なのかを十分吟味する必要もある。本当に発行社のため取引していただいている販売店のためにと「責任を取る当事者意識を持っているか」改めて厳しく問いたい。

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