〖引き継ぎ時カードも紙も洗えていない〗

◆某社がまた無謀な部数の復活を叫んだらしいが、その是非・処世は読者にお願いする。ただこの業界の基本となるものが、今や失われているのではないかという事を危惧する。紙やカードに対する緊張感がないゆえに起こってきた問題なのだろう。販売店主にとって販売店を引き継ぐことは事業のスタートである。そこには販売店権益を買い取るため莫大なお金も要する。資金も人材も投入し、最も正常な状態でスタートさせなければならない。従来のスケジュールは紙の安定した月中、仮引き継ぎをし、後任として代償金対象となるものの受け取り・利益配分(備品等も含め)値段決めの打ち合わせを行う。そして一週間後正式にお金(代償金)の授受がなされ、新店主の経営・責任スタートとなる。従来であれば仮引き継ぎ時に受け取るものの最も大切なものは、カードと順路帳である。買うに値する有効カードか、お金がちゃんといただけるお客様かを一週間の間に確認しなければならない。そのため膨大な人数の子飼い従業員を投入して、一軒一軒ご挨拶確認の作業を行う。そして晴れて一週間後のお金の精算ということになる。大変だが当然の作業であった。

◆近年、新聞販売店の経営不振のため販売店主交代の引き継ぎが急増している。今年後半はもっと増えると思われる。しかし上記のようなきっちりとした引き継ぎがなされているという話を聞かない。現に何十人ものカード・紙洗いをする人間を同行した引き継ぎの話は聞かない。後任者一人を同行し「カード大丈夫ですよね。紙、値引きありませんよね」と前任・後任がなあなあ、立会う担当員もそれらを整理したくない(本当は知らないのでは)からなあなあ。お金で解決すればいい、との調子。近年一番怖いのは従業員のテンプラカード、切り取りの架空のお客様。後任者も一緒に乗り込む従業員も少なく、既存従業員をほとんど使うしかないため切り取り従業員を排除できない。こうして悪い従業員にも何も言えずいいなり。悪弊は修正もされず、永遠に継続する。これはカードでも紙でもない。経営とは無関係の「部」に固執した「形の取り繕い」でしかない。こんなものに喜んでいる冒頭の社もある。「この時しかない業界の非常識を修正する」チャンスを放棄しているとしか思えない。もっとも販売店主の給料が無くなった商売に莫大な代償金という投資をする人がいなくなったせいもある。従業員に夢が無くなってきていることが一番怖い。

〖拡材経費を超削減しなければならない〗

◆某店のバランスシートを穴の開くほど見ているが、店の将来を考えるとどうしても行きつく先は拡材の経費を大幅に削減しなければならないという点である。一般社会でも「新聞を取ったおまけにビールが付いていた」などというのは非常識であることは誰でもわかる。それが当たり前のように行われていること、何度も業者間で話をしてもやめられないことが非常識なのである。震災以降、折り込みスポンサーの経費削減と多媒体への切り替えによる新聞販売店の収入減は回復するどころか、低位へのシフトが続く。前年同月は常に90%前後。支出の非常識安定を断ち切るチャンスである。その大きな原因の一つは従業員側にもある。店・従業員・拡張員が自ら蒔き、お客様に教え込んだともいえる「おまけ拡材渡し」。多すぎると指摘すると「これだけ渡さないと縛れません」「相手はもっと使ってます」。言い訳以外の何物でもない。私はこう指摘する。「従業員の給与支払いを続けるか、拡材を大幅にカットするか。どちらかを選ばなければ店が立ち行かない。」では具体的にどうするのか。

◆① 3か月間の購入拡材(現読対策用パンフレット等も含む)の一覧表を作る。銘柄ごとに集計。個数、金額の一か月平均使用量を出す。

② 第一段階として合計金額が部当たり300円を上回る場合それ以下とする為、購入金額カット分を決める。

③ 完全移行期まで一か月を準備期間とし、現場での調整を促す。

従業員達との綿密な話し合いが不可欠だが、店の経営不振には彼らも皆気が付いている。加えてライバル店、対抗店も同じ状況であり、話し合いの大チャンス。みんな社に踊らされて店を失いたくない。区域ごとの共配への話し合いも可能。お客様も「新聞を取ると、ビールやお米をもらうということはおかしいと気づいているはずだし、持ってこなければ取らない、などとの言には後ろめたく思っている」。

  世の中では今、数学が人気だという。昔、数学が苦手なため理系をあきらめ、文系を選んだという人が数多くいたが(僕は逆)、その理由を聞いて納得した。種々の仕事に携わっていると、必ず難問に出くわす。解決法は「いかにして問題を解くか。似ている問題に置き換えよ。問題を単純化させる。シンプルの積み重ねである。」というもの。新聞業界は非常識を長く放置してきた。震災後、店の存亡が問われるようになってきた今こそ、象徴的非常識を解消するチャンスであるのは全系統同じ思いでいるはずだ。

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