◆自由増減の保証

今回の震災で新聞販売店の経営は大きく痛んでしまった。発行本社の対応は即時の緊急対応であり、自身の経営への波及を考えてのこととはいえ目先の一時しのぎ、一部のエリアへの対応が中心となり、実は新聞社の経営の根幹となる首都圏の販売店への対処ができていない状況といえよう。特に4月は従業員のための賞与積み立て金の先払い(これはあくまで従業員に支払われるべき賞与金であり、新聞社が言い続けてきた店力強化には不可欠で不満の店も多い)や緊急貸し付け金で表向きの原価納金はクリアしたようだが、5月の従業員給与や月末の納金のめどは立っていない。誰もが日々注目している折り込みも徐々に回復傾向にあるとはいえ、首都圏では前年同月で75%といったところ。3月の60%よりはましだが、以前の経営水準にはほど遠い。年度末に至っても日本全体の経済の回復状況を勘案すると、折り込み入の前年比10%減は覚悟しなければならない。バランスシートを穴が開くほど見据えて、余分な経費支出を削減しているが、配達・集金を絶対確保するための従業員給与を守り、他の支出削減は難航している。営業は近代化したうえで、従業員にお任せする姿勢が不可欠で、それ以外の競争経費捻出は難しい。最大のネックは「近年販売店に仕入れ数を決める権限がないこと」即ち「部数を販売店が自分で決め、注文する=自由増減が保証されていないことである」。この当たり前だったシステムがいつの頃からや壊れてしまって久しい。この根幹ともいえる制度があれば、優秀な販売店は種々方法で体質を改善しうるし、これにより経営的健康体を取り戻しうる。発行本社にとっても重大なる入の原価が安定的に確保される。一時的に紙が減るかもしれないが「新聞社の自立経営」が実現できる。垂れ流し補助制度をやめることで経費見直しがなされ、商品の強化と余っている人材・経費の排除にもなる。結果「販売店の自立経営」が実現される。日本社会には「仕事をもらったから、その益の一部を返却・還元するのは当然といった」日本資本主義の悪弊(EX政・官・業の癒着)と同様の隠れた体質がある。この期こそがこういう体質改善のチャンスである。

◆無読に「紙」新聞を購入していただく営業

各地から新聞部数の漸減が続くとの悲鳴が聞こえる。特に無読の急増が原因との声は大きい。新聞側の勝手な部数競争が発火点であることは明白なのに、発行社が未だその非を正すことをせず、自社の益のことばかりに固執した結果、紙新聞離れを起こし、それにウェブの驚異的な進化が情報取得の手法転換を消費者にもたらしたためであろう。取材記者の統合による「新聞の統合」「共同配達」を進めるとしても、ある意味今回の大震災は「紙」新聞の良さ有効性を市民に改めて知らしめた効果もあった。避難者で人々が震災情報を求めて「紙」新聞を読む姿は日本人に相当な親しみをもって受け入れられていた。それはネット情報だけではなじまない日本人の姿である。新聞販売店はこれを見ている。そして配達先では「共生」を感じたことだろう。こんな時に競争ではないと。共に生きられないだろうかと。小生の原稿にも「合売」を望むのコメントが増えている。しかしたとえそれが進行しても新聞販売店が取り扱う商品が「紙」の新聞である以上、それ以外の商品との競争は続く。その第一が「紙」の新聞を取らない人たちにいかに取っていただくかの営業である。今回の危機に際し、従業員さんの給料を守り、雇用を継続しても、現行のシステムではその無読者へのお勧め営業は難しい。配達・集金それにカード業務、縛り業務と作業は増え続けており、仮眠の必要性から逃れられない以上、彼らだけにそこまで依頼することはできない。かといってそれ専門に外注を依頼するお金もないし、それをこなせるチームもない。某系統の「ハガキ作戦」とやらは消費者ダマシである。ハガキにアンケート応募した消費者は誰もセールスマンの訪問を望んでいるものではない。拡材の種類を変えた変則ダマシである。こんなのは無読者への営業ではない。そして「起こし」とか「縛り」とかばかりが作業となり、その作業の厳しさの増大(いつもは簡単に拡材ちら見せで契約できていたお客様もなかなか契約できなくなった)故に、新しいお客様が無く、結果当然漸減する。今はきっとその悪循環にあるのだろう。旧型(拡材)ではない手法で「販売店同士の共生」の上に「全体の購読率向上」の営業を即時実施に向かわせなければならない。こうした中、販売店にとって強敵の新聞販売モデルが登場した。世界一著名なNYタイムズが新しい新聞販売モデルを発表した。ラフに書くと、「いままで無料で公開していた新聞情報を全て有料化(一部のみ本数を制限して無料)、ただし紙の新聞(一ヶ月約3000円)読者は全て見られる」というもの。世界一影響力のある新聞のNYタイムズも今後の販売モデルである。これは間違いなく新聞販売スタイルへの大きな影響を持つことは間違いない。マードック以上の衝撃ととらえている。ある意味これもまた無読者への営業といえなくもない。ただ日本のような新聞販売店を流通に確立させたスタイルでは店マージンの店からは成立しずらい。二つの事例を書いてきたが、販売店が今後、正常な経営への回復を志向するなら「無読者への紙の新聞を取っていただく」営業への努力を緊急に高める必要がある



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