◆新聞販売店の経営権をAからBへ移すことを引継ぎという。勿論現在の販売店主にとっては経営権を失うことであり、イコール生活権にかかわることであるから重大なことであるのは言うまでもない。全国には2万近くの新聞販売店があり、発行社の都合、販売店主の都合で昔から日々「引継ぎ」という事態が発生してきた。全国紙、地方紙、そして銘柄によってその事態はいろいろである。過日も論じたが、全国紙でもM系やS系のように発行社の立場が弱い傾向のところの「引継ぎ」は大変だと聞いてきた。その店を引継ぎ、経営しても儲からないからで、引継ぎたい人がいない為である。A系、Y系、N系は概して発行社のほうが販売店より立場(取引形態)が強い(かつては儲かっていた為、やりたい人が多かった)系統での「引継ぎ」はトラブルも少なくスムーズにいくケースが多いといわれてきた。

◆近年事態は急変している。新聞社が「新聞は天下の公器」といくら威張っても、新聞販売店は「商売=儲け」である。従って儲からなければ時間の問題で去っていく人が急増する。専売制を敷いている以上辞める人がでてもそこを空白にして配達をしないわけにはいかない。日本国内は個別配達サービス制であり、配達は商品の特性(新聞)であるため早朝(一部夕刻)短時間勝負。そのため配達順路という武器の獲得修練の必要もある。おいそれ素人が意欲だけで出来るものではない。魅力に加えてスキルも要求されるのである。そんな人を見つけなければいけない。これこそ新聞社販売担当員に要求される原則である。担当員の役目はこれと原価回にこそあるといっても過言ではない。近年、部数競争に明け暮れたため、本当の役目原則を忘れているのかもしれない。

◆A系、Y系、N系であっても昔からシェアの低い地方ではこの引継ぎに神経を使ってきた。後任者設定に苦労してきたからである。今、警鐘を鳴らすのは、この状態がシェアの低くないエリアにまで広がってきているということである。最近の引継ぎをみていると、止む無くからか、安易になのか「隣接店に統合、または区域分割廃店」という手法が目につく。昔からもその店の区域はシェア拡大のために「理由があって設定された」ものであることを忘れてはいけない。いわば「シェアが出て儲かる経営出来る」ための設定である。確かに環境は大きく変化しているのは認めるが、安易になっていないかという警鐘である。

◆「押し紙」、「折込入の急減」という大きな原因が古来からの日本の個別配達制ゆえの高い新聞普及に暗雲をかけようとしている。新聞の下流を受け持つ販売サイドは魅力を持ちかつスキルもある人材を得てこそその継続、発展がある。一方新聞社がその商品のあり方も含めビジネスモデルの変革を求められているのは事実。では販売店システムはどうするのか。安易な小手先の手法は「引継ぎが難しくなった」という事態を引き起こしたという現実にどう対応するのか。販売店側は実は声高らかに叫んでいるのに、発行社側の声は聞こえてこない。沈黙では対処出来ない現実。消費者に一番近い販売サイドの声が一番正しいことを知り、発言することを望む。

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