■3.「犯人隠匿」の野川明輝県警本部長

 | 鹿児島で警官盗撮被疑事件の捜査を妨害

 | 内部告発の前県警生活安全部長逮捕は不当

 | メディアは警察リーク情報垂れ流しの猛省を

 | 「メディア改革」連載第153回

  └──── 浅野健一(アカデミックジャーナリスト)

 

◎ 「野川明輝本部長が不祥事を隠蔽しようとする姿にがく然とした。

県民の安全より自己保身を図る組織に絶望した。後輩にとって良い組織

になってもらいたかった」。

 職務上知り得た秘密を退職後に漏らしたとして、国家公務員法(守秘義

務)違反の疑いで5月31日に逮捕された前鹿児島県警生活安全部長の本田

尚志氏(60)が6月5日、鹿児島簡裁の勾留理由開示手続きで意見陳述した。

 

 元警察官が裁判所で県警トップの悪事を告発するのは極めて異例だ。

この事件は、東大法出身のキャリア官僚である野川本部長による犯人隠

匿被疑事件のはずだが、内部告発した本田氏が拘束されている。

 本部長の隠蔽を告発した側が強制捜査を受けているのは、捜査があべ

こべではないか。

 

 11日のTBSによると、野川本部長は11日の県議会で、「私が隠蔽を

意図して指示したことは一切ない」と改めて隠蔽を否定した。県議の一

人は、「一般人はすぐにテレビに出て、名前も報道されるのに警察だけ

守ってる」と指摘した。

https://news.yahoo.co.jp/articles/37d00c61962e281f6e83421df12cc56e82c7afac?page=1 

 また、本田氏が逮捕前、家宅捜索を受けている最中に自殺を図り、搬

送されていたことがわかったと報じた。本田氏は病院に搬送され、その

後、逮捕されたという。

https://news.yahoo.co.jp/articles/9ceb8fdd2c0beb6ba36598069adebd214346bc53 

 

◎ メディアは、本田氏が匿名で通報し、連絡先とした刑事部長(当時)

の住所と電話番号が記載され、個人情報を漏らしたなどと報じている

が、告発者が復讐を恐れて匿名を希望するのは当然。また、刑事部長の

連絡先は報道関係者なら誰でも知っている。

 

 本田氏の被疑事実は、札幌在住のライター小笠原淳氏に県警の不祥事

3件の概要、県警内部で閲覧される「刑事企画課だより」計2部を

送ったこと。

 そこには、「県内において、捜査書類の紛失・誤廃棄事案が多発して

います」などと記載されていた。

 小笠原氏が記事を書いている「北方ジャーナル」編集部に4月3日郵

便で送られたという。別の警察官が逮捕された情報漏洩事件の家宅捜索

捜査(4月8日)で押収したパソコンから、本田氏の告発文書を入手した

ようだが、捜査情報の目的外使用ではないか。

 

◎ HTB北海道が小笠原氏に取材し、6月10日に放送した。1枚目の

紙に「闇をあばいてください」と書いてあったという。本田氏は「県警

職員が行った犯罪行為を、野川明輝本部長が隠ぺいしようとした」と6

月5日の勾留理由開示裁判で主張した。

https://www.htb.co.jp/news/archives_26605.html 

 

 昨年12月に起きた枕崎署の巡査部長によるトイレ盗撮事件で警察官が

被疑者として逮捕されたのは5月。盗撮事件が本部長指揮の捜査と

なった際、野川本部長が「最後のチャンスをやろう」「泳がせよう」と

話し、本部長指揮の印鑑を押さなかったと主張している。

 

◎ 「AERA dot.」は6月9日<元警視正の“告発”内部資料送ら

れたジャーナリストが訴える「ずさん捜査」>という見出しで報じた。

 記事によると、小笠原氏は福岡県を本拠にする「ハンター」代表の中

願寺純則氏に情報を送っている。この記事では、もう一つの「情報漏洩

事件」との関係を伝えている。

https://news.yahoo.co.jp/articles/be7121df18122efdd78b6395f830256aff820b6b 

 

◎ HTBなどによると、本田氏の逮捕後の6月4日、県警から小笠原

氏に一度だけ電話があったが、返還を拒否した。強制捜査から逮捕まで

2カ月弱あったのに、その間連絡はなかった。

 小笠原氏は「現物の紙として中身を見たことがあるのは、差出人と私

だけ。誰もその現物を確認していないのに、なぜ逮捕できたのか」と指

摘。「公益通報の目的で送ってきたわけだから、これを犯罪にしていた

ら、公益通報を考えていた人は萎縮しますよね」と語った。

 

 小笠原氏の見解に賛同する。企業メディアは小笠原、中願寺両氏を仮

名にしている。

 この事件で思うのは、本田氏が遠い北海道の記者に通報したことだ。

鹿児島の記者に送らなかったのは、通報したらすぐに県警幹部に流れる

と思ったのではないか。

 

◎ この事件でもう一つ考えたいのは、警察幹部、捜査官から24時間、

キシャクラブの記者に流れ続ける捜査情報だ。

 職務上知り得た秘密を連日漏らしている。警察官の非公式ルートでの

情報提供は、公務員法違反だという指摘もある。

 日本では、「実名報道原則」の報道各社が、捜査官、弁護人の氏名を

報じない。

 検事の氏名も、逮捕状などを発付する裁判官の氏名も出さない。公人

仮名主義だ。また、警察官の不祥事はクラブで広報しないことが多い。

 鹿児島の一部テレビが、本田氏の弁護人の永里桂太郎弁護士を顕名報

道している。

https://news.yahoo.co.jp/articles/0fc3b15f0a6ecd777235b18960782119d80bc5e6 

 

 KYT鹿児島読売テレビは6日、永里氏が「本田さんは自分の正義の

ために行動されたと思っていて、非難されるべきは組織の方だという風

に思っているので、本田さんが勾留されるというのは不当だと思う」と

述べている。

 鹿児島地裁は本田氏の勾留を取り消すべきだ。

 本田氏が釈放され、記者会見で真実を話してほしい。