桜井ジャーナルさん 2024.03.30

米英との戦争を覚悟したと見られるロシアの情報機関トップが朝鮮を訪問した意味 

 

 ロシアのセルゲイ・ナルイシキンSVR(対外情報庁)長官は3月25日から27日にかけて朝鮮を訪問、同国の李昌大国家安全保衛相と会談したという。敵対国によるスパイ活動や破壊工作に対処する方策について協議したようだ。軍事的な緊張が東アジアで高まっている中、昨年9月11日に朝鮮の金正恩労働党委員長はEEF(東方経済フォーラム)へ出席するためにウラジオストクを訪問、ウラジミル・プーチン露大統領とも会談して関係の強化をアピールしている。

 



 

 こうした動きより先行して動いてきたのがアメリカ。東アジアでアメリカを中心にした軍事同盟を強化しつつあるのだ。

 

 最近ではフィリピンのフェルディナンド・マルコス・ジュニア(ボンボン・マルコス)を取り込み、JAPHUS(日本、フィリピン、アメリカ)を編成しているが、その前にアメリカはオーストラリア、インド、日本とクワドを、またオーストラリアやイギリスとAUKUSを組織、そこに緊張を高める仕掛けとして台湾が加わる。NATO(北大西洋条約機構)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は2020年6月にオーストラリア、ニュージーランド、韓国、日本をメンバーにするプロジェクト「NATO2030」を開始すると宣言した。しかし軍事同盟の中心はアメリカ、日本、韓国で編成されている三国同盟だろう。

 

 中国やロシアと経済的に強く結びついていた韓国を引き込む上で重要な役割を果たしたのは尹錫烈 ユン・ソンニョル 、윤석열 だ。2013年2月から韓国の大統領を務め、中国との関係を重要視、THAADの配備に難色を示していた朴槿恵を怪しげなスキャンダルで排除した。

 

 尹錫烈は文在寅政権でソウル中央地検の検事正になった人物。李明博元大統領や梁承泰元最高裁長官を含む保守派の主要人物を逮捕して文大統領の信頼を得て検事総長に就任、次期大統領候補と目されていた趙国法務部長官(当時)に対する捜査を開始した。英雄を演じ、大統領選挙で勝利するのだが、その後、尹の指揮で検察は民主党の李在明党首を収賄容疑で捜査している。大統領になった彼がアメリカに従属する政策を打ち出しているのは必然だろう。その尹大統領と日本政府は手を組んでいる

 

 アメリカの軍事戦略は国防総省系のシンクタンク​「RANDコーポレーション」の報告書​で説明されている。すでにアメリカはロシアの周辺にミサイル網や生物化学兵器の研究開発施設を張り巡らせているが、中国の周りにもミサイルを配備しはじめている。GBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲するというのだ。

 

 日本はこうしたミサイルを容易に配備できるのだが、「専守防衛」の建前と憲法第9条の制約がある。そこでアメリカはASCM(地上配備の対艦巡航ミサイル)の開発や配備で日本に協力することにし、ASCMを南西諸島に建設しつつある自衛隊の施設に配備する計画が作成されたとされている。

 

 こうした戦略に基づき、2016年には与那国島でミサイル発射施設を建設、19年には奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島。その間、2017年には朴槿恵政権がスキャンダルで機能不全になっていた韓国でTHAAD(終末高高度地域防衛)ミサイル・システムの機器が強引に運び込まれている。

 

 また、中国福建省の厦門から約10キロメートルの場所にある台湾の金門はアメリカにとって軍事的に重要な拠点。そこにはアメリカ陸軍の特殊部隊「グリーンベレー」が「軍事顧問」として常駐していることがここにきて判明した。中国に対する何らかの工作が始まっていたとしても驚かない。

 

 ​2022年10月には「日本政府が、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入を米政府に打診している」とする報道​があった。亜音速で飛行する巡航ミサイルを日本政府は購入する意向で、アメリカ政府も応じる姿勢を示しているというのだ。自力開発が難しいのか、事態の進展が予想外に早いのだろう。

 

 トマホークは核弾頭を搭載でる亜音速ミサイルで、地上を攻撃する場合の射程距離は1300キロメートルから2500キロメートルという。中国の内陸部にある軍事基地や生産拠点を先制攻撃できる。「専守防衛」の建前と憲法第9条の制約は無視されていると言えるだろう。

 

 そして昨年 2023年 2月、浜田靖一防衛大臣は2023年度に亜音速巡航ミサイル「トマホーク」を一括購入する契約を締結する方針だと語ったが、10月になると木原稔防衛相(当時)はアメリカ国防総省でロイド・オースチン国防長官と会談した際、アメリカ製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入時期を1年前倒しすることを決めたという。当初、2026年度から最新型を400機を購入するという計画だったが、25年度から旧来型を最大200機に変更するとされている。

 

 こうした好戦的な政策をアメリカで推進しているのはネオコン。1999年3月にNATO軍を利用してユーゴスラビアを先制攻撃して国を破壊、2008年8月には南オセチアをジョージア軍が奇襲攻撃したが、ロシア軍の反撃で惨敗している。

 

 ジョージアは2001年からイスラエルの軍事支援を受けていた。武器弾薬を含む軍事物資を提供するだけでなく、将兵を訓練している。後にアメリカの傭兵会社も教官を派遣した。事実上、イスラエル軍とアメリカ軍がロシア軍に負けたのだ。

 

 ウクライナではネオ・ナチを使い、2013年11月から14年2月にかけて暴力的なクーデターでビクトル・ヤヌコビッチ大統領の排除には成功したが、資源が豊かで穀倉地帯でもある東部、重要な軍港があるクリミアの制圧には失敗した。そこからアメリカ/NATOは内戦を始める。

 

 アメリカ/NATOは2014年から8年かけてクーデター体制の戦力を強化、その間に要塞線も築いた。そして本格的な軍事攻勢をかける直前、2022年2月24日にロシア軍はウクライナ軍に対する攻撃を開始、大きなダメージを与えた。月末の段階でウクライナ軍の敗北は決定的で、イスラエルやトルコを仲介役として停戦交渉が始まり、仮調印まで漕ぎ着けた。それを潰したのがアメリカとイギリスの支配層だ。

 

 それ以降も戦場でロシア軍と戦ったのはウクライナ軍だったが、武器弾薬を供給、情報を与え、作戦を指揮するのはアメリカ/NATOという状況になったのだが、それもここにきて限界に到達した。そこでロシアに対するテロ攻撃やNATO軍の投入が言われている。

 

 3月22日のクロッカス・シティ・ホールに対するテロ攻撃では襲撃グループの携帯電話を早い段階で回収できたこともあり、逃走経路だけでなく、支援システムや指揮系統も明らかにされつつある。3月26日にはロシアのFSB(連邦安全保障局)のアレクサンダー・ボルトニコフ長官はメディアに対し、クロッカスのテロ攻撃にはアメリカ、イギリス、ウクライナが関与していると語っている。アメリカとイギリスの名前を口にしたということは、アメリカやイギリスとの戦争をロシアは覚悟したのだと考えられている。ナルイシキンの朝鮮訪問はそうした流れの中での出来事だ。