第159回国会 衆議院 憲法調査会 第6号 平成16年4月15日 | テキスト表示 | 国会会議録検索システム (ndl.go.jp)

 

前略

一たん日本に帰ってまいりまして、アメリカに一九七八年に参りまして二十二年間、正式には二〇〇〇年までアメリカに、最初はハーバード大学におりまして、それからジョージタウン大学、これはバイオエシックスの研究の世界的なセンターのあるところでございますけれども、そこに参りまして、そこで国際アジアバイオエシックス研究部というのを立ち上げたというわけでございます。  その間、一九八七年から、早稲田大学に初めてできました、百年を記念してつくり上げられました人間科学部というところで、世界でも最初のバイオエシックスの必修の講義を学部の学生並びに大学院の学生たちに行ってきたわけです。  私は、背景が法学、法律学、比較家族法学ということでございましたが、実はサイゴンにおりますときに、私の学生が一人で私のうちにあらわれまして、先生、日本から着いたばかりだけれども、今何を食べていますかと聞かれたわけですね。うちに引っ越してしばらくたったところでございましたけれども、エビとか魚とか海産物がベトナム料理は大変おいしいものですから、そういうものを食べている、お米も食べている、水も普通に飲んでいるということで言いましたら、学生が非常に私の顔を真剣な顔で見詰めまして、先生、エビとか魚とかそういうものを大量に食べると大変なことになりますよ、毎日エビを食べるというようなことはやめてくださいというようなことを言われました。そして、彼がかばんの底に隠していたドキュメントを見せてくれたわけですね。それが、実はその当時行われていた枯れ葉剤による、その中に含有されているダイオキシンの影響で生まれた赤ちゃんの写真だったわけです。  枯れ葉剤というのは、これはダイオキシンを含有しておりまして、大変な猛毒でありまして、これは当時言われていたことですが、ごく微量の、約八十五グラムぐらいダイオキシンがございますと、ニューヨークの市民が一挙に死んでしまうぐらいの効力を持つとされていた大変な劇薬でございまして、私は本当に驚きました。もうエビや何かを毎日食べた後なものですからちょっと遅いかなと思ったんですが、それから非常に慎重にして、水もろ過して煮沸してというような生活に入っていったわけです。 

 ろ過でダイオキシンが除去できるか怪しいですが これを契機に、私は、法律学の研究ということで、比較的社会とか文化とか家族関係とかということを中心にしておりました研究分野を、科学技術、特にそれに基づく兵器の悪用、誤用の問題と人間の生命の尊厳ということに焦点を合わせまして、そして、人権と科学技術の問題等を中心に研究を始めることにしたわけです。  つまり、一九七〇年代の初めにこの問題に取り組んでいったわけですけれども、その契機となったのは、私とベトナムの私の学生とのこの出会いでした。この学生は片手がございませんでしたが、後にその学生の友人から聞いたところによりますと、みずから手を傷つけて、そうして戦争に行かないことを、拒否したということでありましたけれども。  そういう状況の中で、私はサイゴンの街角で、アメリカ軍が放出した本を売っている本屋さんがありまして、そこの本屋さんで一冊買いました。その本のタイトルを今でもはっきりと覚えているんですけれども、それは「バイオロジカル・タイムボム」、生物学的時限爆弾という本なんですね。生物学的時限爆弾というその本の中に、既に一九七〇年代、これは六〇年代の終わりに書かれた本ですけれども、その中に、体外受精の問題とか死の問題、移植の問題とか、あるいはクローンの問題とか、そういうことが取り上げられておる。  これはゴールドン・テーラーという人が書いた本で、後にみすず書房から渡辺格という方が訳されて出していますけれども、その方の本なんですが、その一章を読んだとき、私は大変に驚いたんですね。それは、ジーンウオーズ、遺伝子戦争というチャプターがあったんですね。七〇年代の初めに、これからの生物化学兵器は特定の人種の遺伝子に働くような爆弾を開発することになるだろうということが書いてあったわけですね。大変に私はショックを受けまして、実はその遺伝子戦争のただ中に私はいたということを実感して、脂汗が出てきたといいますか、非常に衝撃を覚えたわけでございます。  この遺伝子戦争という、遺伝子というのは、先生方御存じのように、ジーンですね。それで、殺すというのはサイドと言うんですね。ジーンを殺す。これは英語ですけれども、ジェノサイドという言葉がございます。これは、通常ホロコーストと並べて一緒に使われます、いわば大量虐殺のことを言うわけですけれども、まさに遺伝子を殺す大量虐殺の中にいて、しかもそれは、その本に書かれてあったような特定の人種に対する遺伝子ではなくて、敵も味方もやっつけてしまう、遺伝子を攻撃する爆弾なわけですね。  ですので、アメリカでは、枯れ葉剤による被害を受けたということで集団訴訟が起きまして、ベテランズアドミニストレーション、これは復員軍人局ですけれども、そこでは、集団訴訟を受けて立って、そして、枯れ葉剤による戦傷の度合いに応じて損害賠償金を払っているという事態になりまして、つまりこれは、韓国の人にも、オーストラリアの人にも、当時ベトナムに従軍していた兵士の間にも、いろいろな被害を巻き起こし、がんの多発とか皮膚病とかあるいは出生障害、そういうことを巻き起こしている。  つまり、生物化学兵器というものは、敵、味方を超えて、実はさまざまな影響を長い世代にわたって及ぼす、これが一九七二年の私の体験でしたけれども、今から三年前 2001年 にベトナムを再訪しました。再び訪れたわけですが、そのときハノイの赤十字で私が見せられたビデオフィルムがございますが、それは、現在も遺伝的な障害を持った方がお生まれになっている、その数はほぼ十万人というふうに、当時、ハノイの赤十字の方から言われたわけでございます。ということは、ベトナム戦争が終わってから二十五年たってもまだ遺伝的な障害を持った方々が生まれているという大変に悲惨な事態。  果たして、私は、その私のベトナムの学生がうちに来たとき、それから二十年、三十年後のことを考えていたかというと、自分の身を守るためにそういうものは食べないということは誓ったんですが、ベトナムの学生が私に言ったように、これはアメリカによるジェノサイドですよと言ったそのことには、余り思い及ばなかったわけですね。  まさにそういう被害が及んでいるということを、つまり、科学技術の悪用、誤用ということが人間の生命に極めて長期にわたって大きな惨害、被害を及ぼすということをベトナムで体験したわけです。  今世紀は、前世紀から遺伝子の時代と言われておりまして、先生方御存じのように、今、世界的なスケールで、ヒューマン・ジーノム・プロジェクト、ヒトゲノム解析の研究が進み、そして、今から四年ぐらい前でございますけれども、クリントン大統領は、これは月へも到達する偉業に比べられる、あるいはそれ以上の大きないわば成果がヒトゲノム解析研究によって与えられる、人間の遺伝子の解析をベースにしたテーラードメディシンもできるかもしれないし、あるいは再生医療にもつながるかもしれないし、バラ色の未来がヒトゲノム解析の研究の結果得られるというふうにクリントン大統領は声明文の中で言っておりまして、そして、日本におきましても、ヒトゲノム解析研究の一端を担って研究が推進されてきていたという現状があるわけです。  しかし、よくよく考えてみますと、このことについてはほとんど指摘されていないことなのでございますけれども、私の、Iの「環境破壊—ジェノサイドの悲劇」の2のところでございますが、「ヒトゲノム解析プロジェクトとヒロシマ・ナガサキ」というふうに書いてあります。ヒトゲノム解析プロジェクトというのは、アメリカで始まったときにはエネルギー省が、つまり、現在、厚生省、特にその管轄のもとにありますNIH、ナショナル・インスティチュート・オブ・ヘルスという一大研究機関、ノーベル賞学者が何十人もいるという世界最大の医学研究機関の中のヒューマン・ジーノム・プロジェクトの研究所としてあるわけですが、これが最初に出てきたときには、NIHでも厚生省でもなくて、エネルギー省から出てきたんですね。  エネルギー省からなぜ出てきたかといいますと、ヒトゲノム計画とエネルギー省というのは普通結びつきませんが、これをさかのぼって考えてみますと、エネルギー省の前身は原子力委員会

その前身はABCCなんですね。アトミック・ボム・カジュアリティー・コミッションといいまして、これは、

広島と長崎に原子爆弾が投下されてからすぐ

 

 

遺伝子の専門家を広島と長崎に派遣して、それによって人間の遺伝子が、特に放射能によってどういうふうに変化したかという、放射能による遺伝子の変容を調べる、そういう科学研究技術プロジェクトがあったんですね。その膨大なデータ、つまり、広島と長崎の原爆のいわばサーバイバー、被爆者の方々の血液からとった遺伝的なデータをベースにして、これをベースにして何かできないかということを考え出したのがエネルギー省だったんですね。

 

 参考

 https://www.nikkei.com>article
2021/9/24 -mRNAワクチンは新型コロナウイルス感染症で初めて実現した。たった1年で完成したように見えるかもしれないが、実は30年に及ぶ開発の歴史がある。